ヒーロー基礎学、戦闘訓練終了後。
放課後の1-A教室では、切島や芦戸の呼びかけで、有志による反省会が行われていた。
「いやー、一戦目の爆豪もヤバかったけどさ、三戦目の
切島が快活に笑いながら、俺の肩を叩く。
「強かったけど……正直、ちょっと怖かったぜ?」
上鳴が少し引きつった笑いで同意する。
隣に座る八百万は、何も言わずにただ静かに俺を見つめていた。
通信機を捨て、仲間を無視して暴走した俺への、無言の追及だ。
「悪い。一度熱が入ると、周りが見えなくなるんだ。俺の悪い癖だ」
俺が素直に謝ると、教室の空気が少しだけ和らいだ。
そこで、上鳴が昼飯の時の話題を思い出したように身を乗り出してきた。
「なあ玩具、昼に個性のことを教えてくれてたろ。今日の訓練見て改めて気になったんだけどさ、結局どういう個性なん?」
その問いに、教室にいたメンバーの視線が集まる。
昼食時の食堂で一部には、俺の個性について大まかに話していた。
結局、時間の兼ね合いで大枠しか話せてなかったが、改めて俺は自分の個性について話すことにした。
「知ってるやつもいると思うが、俺の個性は『斬魄刀ガチャ』だ。
「こうして、聞くと結構特殊な個性だよなぁ」
上鳴から感嘆のつぶやきが漏れた。
俺を一呼吸おいて、再び口を開く。
「だが、ゲームと違って、引き当てた『当たり』をずっと持っておけるわけじゃない」
「えっ、どういうこと?」
芦戸が不思議そうに首をかしげる。
「俺の個性には致命的な欠陥が二つある。一つは、『消費期限』だ」
「食べ物みたい……」
麗日のつぶやきに肯定を返し、俺は言葉を続ける。
「まあ、似たようなもんだな。手に入れた魂石も、引き出した刀も、時間が経てば粒子になって消える。Nレアなら一月は持つが、ランクが上がるほど寿命は短くなる。Rレアなら一週間そこら。SRなら数時間、最高ランクのURに至っては数十分も保たないだろうな」
「数十分!? せっかく最強の刀を引いても、登下校の間に消えちゃうってこと!?」
芦戸が素っ頓狂な声を上げる。
「さらに、二つ目だ。顕現させた刀は、一度の戦闘が終わればその時点で消滅する。たとえ期限が残っていても、俺が戦いの一区切りをつけた瞬間に、強制的に消えるんだ」
俺の言葉に、教室にいたメンバーが「えぇっ!?」と一斉に声を上げた。
「使い捨てかよ! 勿体ねぇ……! せっかくお菓子作って当てた刀なのに、一回振ったら終わり!?」
上鳴が自分のことのように頭を抱える。
「安っぽくすんじゃねぇよ」
「いてっ……!」
俺は上鳴のデコを軽く押し、ツッコミを入れた。
お菓子作って魂石が手に入るのは事実だが、それだと急に斬魄刀が安っぽく見えてしまうだろ。
「非常にシビアなリソース管理が求められる個性ですわね。ちなみに、玩具さん。普段はどれくらいの在庫を抱えていらっしゃるの?」
八百万が、今度は『創造』の観点から興味深そうに身を乗り出す。
「今だと、Nレアが数十本とRレアが四本ってところだな」
「あら、結構お持ちですのね」
「俺的には少ねぇと思うんだがな」
俺の脳内インベントリには、『鬼灯丸』『崩山』『五形頭』『劈烏』といったNレアが並んでいる。
だが、これらがいくらあってもRレア一本の性能には大きく劣る。
唯一、刀・槍・三節棍・血止め薬と四役こなす『鬼灯丸』があるのが救いだった。
「Nレアなら、デイリーで石が手に入るから数十本は持ってる。だが、R以上はそうはいかないな」
理由として、デイリークエストは毎日5つほど出現し、報酬でN魂石が1つ手に入る。
つまり、毎日N魂石が5つ手に入る計算だ。
対して、Rはデイリーでは手に入らない。
週一で更新されるウィークリークエストで、ようやく手に入る。
ただし、手に入ってもR魂石1つだ。
ウィークリーは一週間で3つのクエストが出現する。
単純計算だと、一週間でRが3つ手に入る計算。
しかし、たまにN魂石のまとめとかが報酬になったりもする。
Nばかりでハズレかと思いきや、そうでもない。
N魂石を10個を消費すれば、N~SRがランダムで出る『通常ガチャ』を回せるからだ。
ガチャには2種類存在する。
通常ガチャとレアリティガチャ。
通常はN魂石を10個消費して、一回ガチャを引くことができる。
ラインナップはN~SRまでの完全ランダム。URは無しだ。
そして天井なし、最低保証なし。
前に10連回したときは、『R』一本、『N』九本という事もあった。
爆死である。
対して、レアリティガチャはレアリティに合った魂石を一つ消費することで、使用した魂石のレアリティにあった斬魄刀が出てくる。
夢があるのは断然、通常ガチャだ。
まあ、今の俺ではSR斬魄刀を引いても、一日で消えるがな。
「実戦では、今ある手札でどうにかするしかない個性だよ」
すると、それまで腕を組んで黙って聞いていた常闇が、低く、だがどこか熱を帯びた声で口を開いた。
「……玩具。お前が戦いの中で呟く、あの『言葉』は何だ?」
「言葉?」
「『神鎗』の時の『射殺せ』という言霊だ」
その言葉を聞いた上鳴が、補足するように瓠丸や厳霊丸について口にする。
「ああ、俺の時も「満たせ――『瓠丸』」とか、「穿て――『厳霊丸』」って言ってたよな」
上鳴が補足すると、常闇の目はいつになく鋭く光る。
いや、男心をくすぐる究極の設定に出会った少年のように輝いた。
「ほう!?」
常闇は瓠丸と厳霊丸の解号を聞いて、更に熱を帯びる。
「能力を発動するための……いわば、真名を呼ぶ儀式のようなものか!?」
わかる。わかるぞ。常闇。
斬魄刀ってカッコいいよな。解号ってオサレだよな。
そんな常闇の期待を答えるため、口を開いた。
「あれは『解号』って言ってな。斬魄刀の能力を引き出すためのスイッチみたいなもんだ。ちょうどいい、一本見せてやる 」
俺は亜空間からNレアの一振りを引き抜き、唱えた。
「延びろ――『鬼灯丸』!」
解号と共に、斬魄刀は槍状に変化する。
「おおおぉ……ッ!!」
常闇は歓喜のあまり、その場に立ち尽くしてガタガタと震えだした。
「嬉しそうだな……常闇」
上鳴は温かな目で、喜びを全身で表した常闇を見守る。
「『解号』……! なんという耽美なる響きだ……! 玩具、お前がこれまで引いた刀には、他にどのような銘がある? 言霊を教えてくれ!」
「おいおい、常闇。お前興奮しすぎだって!」
上鳴がツッコミを入れるが、他のメンバーも「たしかに気になる!」と興味津々だ。
「玩具、その『斬魄刀』って、全部で何種類くらいあるの?」
耳郎が呆れた様子で、常闇をスルーして尋ねてくる。
斬魄刀は数が多い。
それをいちいち説明するのは面倒だな、と思い、俺は体内の霊力をこねくり回す。
脳内のガチャリストを、外側へ投影できないかと、霊力を巡らせる。
「ああ、いけそうだわ」
次の瞬間、俺の前に半透明のホログラムが出現した。
「うわっ、なにこれ!」
「なんと、現代的な!」
「ホログラムかしら?」
芦戸、飯田、蛙吹が驚く中、俺はガチャのラインナップを表示した。
※ ※ ※
【UR ――ウルトラレア】
・鏡花水月:五感を支配する完全催眠。
・流刃若火:炎熱系最強。全てを焼き尽くす圧倒的火力。
・一文字:触れたものの「名」を奪い、力を無効化する。
・花天狂骨:子供の遊びを現実にし、ルールを強制する。
・餓樂廻廊:卍解に匹敵する威力の生物30体を召喚。
・逆撫:特殊な匂いで敵の視覚情報を上下左右反転させる。
・雀蜂:二撃決殺。同じ箇所に二度当てれば即死。
【SR――スーパーレア】
・斬月:巨大な斬撃を飛ばす。
・風死:鎖で繋がれた二振りの鎌。再生能力。
・野晒:あらゆるものを両断する巨大な斧。
・瑠璃色孔雀:相手の霊圧を根こそぎ奪う初見殺し。
・千本桜:無数の刃の破片で死角なく攻撃・防御を担う。
・紅姫:盾、爆発、縛りなど多彩な万能型。
・氷輪丸:氷雪系最強。天候すら支配する水と氷の竜。
・疋殺地蔵:四肢を麻痺させる猛毒。
・金沙羅:音を操り、幻覚を見せる。
・侘助:斬った対象の重さを倍にする。
・金毘迦:直視できないほどの強烈な発光攻撃。
・厳霊丸:レイピア状の刀身から雷を放つ。
・天譴:自身の動きに連動した巨大な腕を具現化。
・艶羅鏡典:他の斬魄刀のコピー。
・袖白雪:絶対零度の凍結。
【R ――レア】
・神鎗:伸縮自在の刀身。その長さは刀百本分。
・双魚理:相手の術を吸収し、軌道を変えて跳ね返す。
・捩花:水流を操る三叉の槍。
・清虫:超音波による失神や、無数の刃の乱射。
・灰猫:刀身を灰に変え、灰に触れた箇所を斬る。
・蛇尾丸:遠近両用の蛇腹剣。
・飛梅:刀身から火の玉を飛ばす遠距離特化。
・天狗丸:巨大な刺付きの火炎棍棒。
・断風:斬った太刀筋を炸裂させる。
・土鯰:地面を叩いて土やコンクリートを操る。
・剡月:刀身に炎を纏う。代償を払い、炎を巨大化させる。
・瓠丸:敵を癒やすことでダメージを蓄積、後に放射する。
【N ――ノーマル】
・鬼灯丸:槍、三節棍に変化。
・崩山:巨大な羽子板状に変化。風を纏う。
・五形頭:鎖付きの刺付き鉄球に変化。
・劈烏:無数の手裏剣状の刃を飛ばす。
※ ※ ※
「なんか行けたわ」
「これ、どういう原理なん?」
「さぁ? よくわからん」
麗日が疑問を口にする。
しかし、俺にもどういう原理なのかは不明。
俺的には霊力と思しきものを操って、なんかできただけだ。
斬魄刀のガチャや、斬魄刀の解放以外にも色々と応用ができたりするんだろうか。
自身のものながら、よくわからない個性だ。
「炎熱系最強ってなんだよ! めっちゃ気になるぜ!」
切島がワクワクした様子で笑う。
「夢がある個性ね」
蛙吹もラインナップに視線を釘付けにしながら、そう呟いた。
教室中が「次は何を引くんだ?」「この斬魄刀はどんな解号なんだ!?」と盛り上がる。
俺は苦笑いしながらそれらに答え、ふとホログラムの最上位に鎮座する『UR』見上げる。
――いつか、これを実践で使う日が来るのかね。
その時が、俺を『死神』ではなく『ヒーロー』にする瞬間であればいいな。
賑やかなクラスメイトの声を聞きながら、俺はそう願わずにはいられなかった。