蒸気の匂いが、まだ残っている。
商店街の舗装に、赤く焼けた跡が点々と残っていた。
その中央に立つ土村賢造――ドヴェルグは、肩を鳴らしながらハンマーを持ち上げる。ゴーグルの奥の目が、透をじっと測っていた。
「さっきの糸、いい動きしてたな」
笑う声は豪快だ。
けれど、視線は優しくない。完全に“解析者”。
「ありがとよ。褒められても、溶かされちゃ意味ねぇけどな」
透は軽く返す。
指先に残る糸の感触を確かめる。まだ使える。だが、さっき焼かれた断面が脳裏に残っている。
ドヴェルグが一歩踏み込む。
重い。地面が沈む。
透は反射で糸を走らせる。街灯から路面へ、斜めに引き絞る。
だが――。
ハンマーが赤く染まった。
熱が、音を立てる。
糸が触れた瞬間、じゅ、と嫌な匂いが立ちのぼる。
張力が消えた。
「……やっぱ相性最悪だな」
透が小さく息を吐く。
ドヴェルグは止まらない。
受ける。耐える。捕まえて潰す。
ハンマーが振り下ろされる。
横へ跳ぶ。衝撃が背中を押す。
視界の端で舗装が砕ける。
「逃げ足は悪くねぇ。だがな」
低い声。
次の一歩が速い。
ミステリーの視界に線は見える。
踏み込み、振り抜き、戻す。その流れは読める。
読めるのに――止められない。
重量差。
透は糸を張り直す。
今度は絡め取る。足首へ。肘へ。
だが、ドヴェルグはわざと踏む。
熱が走る。
糸が、溶ける。
「悪ぃな。熱いのは得意なんだ」
笑う。
けれど、目は観察を続けている。
透の呼吸。
ベルトの発光。
体重移動。
“読まれている”。
ハンマーが迫る。
受けるしかない。
腕を交差し、衝撃を逃がす。
鈍い痛みが骨を揺らす。
「……っ、いてぇな」
飄々とした声を保つ。
だが、足が半歩遅れる。
次の一撃で捕まる。
透の視線が、腰へ落ちた。
戦国のワールドシール。
指先が触れる。
ひやり、とした感触。
その奥に、乾いた旗の音。
風が鳴る。
誰かの背が遠くに見えた気がした。
「……借りるぞ」
低く、吐く。
シールを装填する。
『シール・セット! 戦国!』
空気が変わる。
ミステリーの線が消え、代わりに重みが足元へ落ちる。
装甲が重なり、肩が広がる。胸部に家紋が灯る。
『トランス・スタート! シジル・コンパイル! 戦国フォーム!』
旗が、鳴る。
透はゆっくりと構える。
シジルゲッターがナギナタへ変形し、柄を握る手に確かな重みが宿る。
ドヴェルグのハンマーが振り上がる。
今度は、退かない。
踏み込む。
刃とハンマーがぶつかる。
衝撃が、真っ直ぐに伝わる。
だが、弾かれない。
受け止める。
足が沈む。
地面に亀裂が走る。
透の目が、静かに細まる。
「……付き合ってやるよ」
ナギナタを流し、柄尻で押し返す。
リーチ差が生まれる。
ドヴェルグの口元が、わずかに吊り上がった。
「いいな、それだ」
蒸気が再び上がる。
重い一合目が、始まる。