蒸気が、地面すれすれを這う。
鼻の奥に鉄の匂いが刺さる。
視界の端で、ドヴェルグのハンマーが赤く脈を打っている。熱が強まるたび、ゴーグルの縁が曇る。だが視線は逸れない。俺の足幅、肩の落とし方、刃の返し。全部、測られている。
ナギナタを握る。
柄が掌に食い込む。重い。だが、逃げない重さだ。
ドヴェルグが踏み込む。
足裏が舗装を踏み抜き、砂が跳ねる。ハンマーが振り下ろされる軌道が、空気を裂く。
真正面。
刃を立てる。
衝突。
衝撃が腕を駆け上がり、肩を叩き、背中を震わせる。
火花が弾け、装甲の縁が白く光る。熱が走る。
押される。
だが、退かない。
刃をわずかに傾ける。衝撃の向きをずらす。真正面の圧を、斜めに逃がす。
ハンマーが地面を削り、舗装が砕ける。
間合いが生まれる。
踏み込む。
ナギナタを横へ振り抜く。
刃が弧を描き、ドヴェルグの胴を叩く。
鈍い音。
だが、倒れない。
ドヴェルグは受け止め、そのまま体重を預けてくる。
腕力ではなく、重さで押す。地面に根を張るみたいに動かない。
「……重ぇな」
「それが武器だ」
低い声。
ハンマーが横薙ぎに返る。
受ける。
衝撃で視界が揺れる。足が半歩、滑る。
その瞬間、ドヴェルグが距離を詰める。
捕まえて潰す動き。
俺は柄尻を地面に打ち付けた。
反動で刃を跳ね上げる。ハンマーの柄へ絡め、軌道を逸らす。
押し合い。
近い。
ゴーグルの奥に、自分が映る。
熱が増す。
ハンマーが赤熱し、空気が震える。
「溶けるぞ」
「溶ける前に終わらせる」
息が荒い。
だが、目は逸らさない。
ドヴェルグが体重を乗せる。
足が沈む。腕が軋む。
そのとき、わずかにゴーグルが曇った。
蒸気が濃い。
呼吸が重い。
今だ。
柄をひねる。
ハンマーの軌道を外へ流す。
ナギナタを半回転。
外から内へ、刃を滑らせる。
装甲の継ぎ目を打つ。
浅い。だが、削れた。
ドヴェルグが踏み直す。
最後の一撃を振り上げる。
真正面。
俺は刃を立てる。
だが、今度は受けるだけじゃない。
足を深く踏み込む。
腰を落とす。肩を前へ。
戦国の紋が胸で脈打つ。
旗の音が、耳の奥で鳴る。
「……決める」
ベルトに触れる。
『マズル・チャージ!』
低く、重い音声が響く。
胸部の刻印核が赤金に光る。
ナギナタの刃へ熱が走る。
『フラグメント・ドライブ!』
刃が振動する。
地面の砂が、刃の周囲で跳ねる。
ドヴェルグが踏み込む。
ハンマーが振り下ろされる。
俺は半歩、内へ入る。
間合いを殺す。
刃を、下から上へ。
『エルダー・スマッシュ!』
音声と同時に、全身の重さを刃へ乗せる。
衝突。
だが、今度は押し返す。
刃がハンマーを弾き上げ、そのまま胸部の中心へ叩き込まれる。
刻印核が砕ける音。
赤熱していた装甲がひび割れ、蒸気が噴き出す。
ドヴェルグの身体が揺れ、膝が沈む。
ハンマーが落ちる。
俺は刃を向けたまま、動かない。
蒸気が薄れていく。
ドヴェルグが低く笑う。
「……上等だ」
変身が解ける。
土村賢造がそこに立つ。
息は荒い。だが、悔しさはない。
ポケットから一枚、取り出す。
獣の紋様。
ビーストのワールドシール。
「持ってけ」
刃を下ろす。
受け取る。
手の中で、鼓動のような熱が跳ねる。
「……いいのか」
「データは取れた。次が楽しみだ」
豪快に笑い、背を向ける。
蒸気の匂いだけを残して去っていく。
俺はその場に立ち尽くす。
どっと疲れが押し寄せる。
膝が震える。
戦国のワールドシールに触れる。
乾いた旗の音。
砂の匂い。
遠くに、着物の背が見えた気がした。
振り向かない。
それでも、分かる。
懐かしい。
「……そうか」
小さく息を吐く。
これは勝利の高揚じゃない。
約束の残り火だ。