広場の空気が、ゆっくりと冷えていくのを肌が先に感じ取った。
さきほどまで撤退したはずのエコーの気配が消えるどころか、むしろ濃く沈んでいき、通りの奥から金属同士が擦れる低い音がゆっくりと近づいてくる。
人の気配が減り、広場には俺たちと鎧の影だけが残る。
「……戻ってきたな」
狼牙が低く呟く。
その声には焦りはないが、肩の力がわずかに落ちているのが分かる。
警戒している。
通りの奥で鎧の列がゆっくりと割れる。
その中央から現れた影は、先ほどまでのミニオンとは明らかに格が違っていた。
重厚な甲冑が胸から肩へと重なり、その中心では家紋のような刻印核が青白く光っている。
歩みは遅い。
だが、その一歩ごとに周囲のミニオンが自然と位置を整え、隊列の密度がじわりと増していく。
空気が圧される。
「……あれが中核だ」
狼牙が言う。
「ゲートナイト」
その名が落ちた瞬間、甲冑の腕がゆっくり持ち上がった。
次の瞬間、周囲のミニオンが一斉に踏み込む。
隊列が閉じる。
「三枝、下がれ!」
叫びながら腰のドライバーに手を伸ばす。
『シール・セット!ビースト!』
電子音が低く唸り、装甲が身体を覆い、筋肉が瞬間的に熱を帯びていく。
視界が鋭く研ぎ澄まされる。
踏み込む。
最前列のミニオンの胸を爪で叩き割り、そのまま体重を乗せて二体目を蹴り飛ばすが、背後から突き出された槍衾が退路を削り取る。
数が多い。
狼牙が横から滑り込み、トンファーで槍を弾き飛ばす。
「押し込まれるぞ」
短い警告。
その声と同時に、ゲートナイトが前へ出る。
重い斬撃。
腕で受けた瞬間、衝撃が骨の奥まで響き、装甲の内側で筋肉が強く軋む。
重い。
そのまま二撃目が振り下ろされる。
後退する。
足元のアスファルトが、鈍く軋む。
狼牙が割り込む。
トンファーで刃を流し、素早く足払いを仕掛けるが、ゲートナイトは体勢を崩さず、そのまま盾のような腕で押し返してくる。
力が違う。
ミニオンの列が、再び前へ出る。
完全な包囲だ。
「透!」
三枝の声が背後から響く。
視線を向ける余裕はない。
獣の勘が警告を鳴らす。
前だ。
踏み込む。
真正面から、ゲートナイトへ突っ込む。
爪を振り抜く。
甲冑が火花を散らす。
だが浅い。
ゲートナイトが反撃する。
重い横薙ぎ。
身体をひねって回避し、そのまま膝裏へ蹴りを叩き込むが、装甲の硬さが衝撃を吸収する。
効かない。
狼牙が横から跳ぶ。
トンファーが首元を狙う。
だがゲートナイトの刃が先に動き、狼牙の腕を弾き飛ばす。
鈍い音。
狼牙が着地する。
「硬いな」
息が荒い。
ミニオンが迫る。
数歩下がりながら、俺は足裏の感触を研ぎ澄ます。
獣の感覚が教える。
力だけでは崩れない。
なら。
速度だ。
踏み込む。
右から回り込み、爪を甲冑の継ぎ目へ叩き込む。
火花が散る。
ゲートナイトが振り返る。
その瞬間、狼牙が背後から膝裏を蹴る。
体勢がわずかに崩れる。
そこだ。
爪を振り抜く。
装甲が軋む。
刻印核が、わずかに光る。
ミニオンが前へ出る。
隊列が閉じる。
だが、もう止まらない。
獣の力で押す。
狼牙が横へ滑り、トンファーでミニオンの槍を弾く。
三枝の声が遠くで響く。
「押せ!今崩れてる!」
息を吐く。
拳を握る。
そして、もう一度踏み込んだ。