鎧の列が再び動き出した瞬間、空気の温度が一段低く落ちた。
ゲートナイトを中心にした隊列がゆっくりと前進し、その歩幅に合わせてミニオンたちの槍が同時に持ち上がる。
整いすぎた動きは、まるで一つの巨大な生き物が呼吸しているかのようだった。
「透、前だ」
狼牙の低い声が横から届く。
俺は頷き、ビーストフォームの爪を握り直す。
装甲が身体に沿って締まり、筋肉が熱を帯び、足裏の感覚が地面の振動まで拾い上げる。
獣の勘が、敵の動きを教える。
踏み込む。
最前列のミニオンへ一直線に突っ込み、爪を振り抜いて胸部の装甲を叩き割ると、そのまま身体をひねって二体目の槍を回避する。
金属が空を裂く音が耳元をかすめる。
その背後から狼牙が滑り込む。
瑠璃色の装甲が低く沈み込み、トンファーモードの武器が槍の柄を弾き飛ばし、同時に膝裏へ鋭い蹴りを叩き込む。
鎧が崩れる。
二匹の獣が、隊列を裂く。
俺が正面から突き崩し、狼牙が側面を切り裂く。
動きが重なる。
ミニオンの槍衾が迫る。
俺が跳ぶ。
狼牙が滑る。
爪とトンファーが交差する。
一瞬で三体のミニオンが地面へ叩きつけられる。
だが。
ゲートナイトは動かない。
重い甲冑がゆっくりと腕を持ち上げ、巨大な刃が横薙ぎに振り抜かれる。
空気が裂ける。
咄嗟に後退する。
衝撃が地面を叩く。
アスファルトが砕ける。
「重いな」
狼牙が低く吐く。
ゲートナイトが前へ出る。
その瞬間、ミニオンたちが一斉に左右へ散り、隊列が再び整う。
守られている。
中央の刻印核。
あれが本体だ。
だが、近づけない。
槍衾が間合いを削り、ミニオンの壁が刻印核を隠す。
「透!」
三枝の声が広場の端から響く。
「そいつ、左肩の装甲が動くたびに遅れる!」
一瞬だけ思考が止まる。
狼牙が言う。
「関節のズレか」
視線を向けない。
気配だけで位置を取る。
ゲートナイトが踏み込む。
左腕が振り上がる。
遅れる。
そこだ。
「狼牙!」
声を飛ばす。
俺が正面から踏み込む。
ゲートナイトの刃を爪で受け止め、衝撃を身体ごと押し返す。
重い。
その瞬間、狼牙が横から滑り込む。
トンファーが左肩の関節へ叩き込まれる。
鈍い音。
装甲がわずかに沈む。
刻印核が露出する。
「今だ!」
三枝が叫ぶ。
跳ぶ。
俺が前から蹴り上げる。
狼牙が後ろから叩く。
衝撃が重なる。
刻印核が揺れる。
だが、完全には砕けない。
ゲートナイトが後退する。
ミニオンの列が再び閉じる。
狼牙が息を整えながら言う。
「あと一撃で崩れる」
俺は腰のドライバーに触れる。
そこには、ミステリーのワールドシールが残っている。
観測の力。
この状況を読むには最適だ。
だが。
狼牙がこちらを見る。
「……それを使えば勝てる」
短く言う。
俺は首を振る。
「違う」
ポケットからシールを外す。
ミステリーシール。
青く光る。
「これ、お前に預ける」
狼牙の目がわずかに細くなる。
「理由は」
「俺は獣で押す」
ゲートナイトが再び踏み込む。
ミニオンの槍が揃う。
狼牙がシールを受け取る。
「いい判断だ」
その声は低く、確かに笑っていた。
「なら、二匹で狩る」
俺は爪を構える。
狼牙がトンファーを回す。
隊列が迫る。
獣の呼吸が揃う。
そして。
二匹の獣が、同時に走った。
広場の空気が張り詰めていた。
撤退する気配を一切見せないゲートナイトは、青白く光る刻印核を胸の中央に抱えたまま、ゆっくりと刃を構え直している。
その背後にはミニオンたちが密集して並び、槍衾の壁を作ることで刻印核へ近づく経路を完全に塞いでいた。
逃げ場はない。
だが、突破口はある。
「狼牙、左を崩す」
俺は低く声を落とす。
狼牙はミステリーのワールドシールをドライバーへ装填した。
『シール・セット!ミステリー!』
電子音が広場に響き、瑠璃色の装甲の上に淡い光のラインが走る。
狼牙の視線がわずかに鋭くなる。
「……見える」
短く呟く。
その視線はゲートナイトではなく、周囲のミニオンの足運びを追っていた。
「隊列の連動が歪んでいる」
低い声が続く。
「中央を守るために、外側が遅れている」
三枝が叫ぶ。
「透、右から押せ!」
俺は頷く。
ビーストフォームの脚力を一気に解放し、アスファルトを蹴り砕く勢いで前へ飛び出す。
ミニオンの槍が同時に突き出される。
その隙間を縫う。
爪が一体目の装甲を裂き、回転の勢いを乗せた蹴りが二体目の膝を砕く。
隊列がわずかに揺れる。
狼牙が滑り込む。
ミステリーシールの力で動線を読み、槍の間を通り抜けてトンファーを振り抜く。
武器の軌道が正確に関節を叩き、三体のミニオンが同時に崩れ落ちる。
「右が空いた」
狼牙が言う。
ゲートナイトが刃を振り上げる。
重い。
その動きは人間の武器とは比較にならないほど重厚で、振り下ろされる瞬間に空気そのものが押し潰される。
俺は身体をひねって回避する。
刃が地面を叩く。
アスファルトが砕ける。
衝撃波が足元から伝わる。
狼牙が背後へ回る。
トンファーが刻印核を狙う。
だが、ミニオンが割り込む。
槍が振り抜かれる。
狼牙が身を沈めて回避する。
「壁が厚い」
短い言葉。
三枝の声が響く。
「透、左肩の関節!」
その瞬間、ゲートナイトの左腕が振り上がる。
ほんのわずかな遅れ。
そこだ。
俺は踏み込む。
ビーストフォームの脚力を最大まで解放し、身体ごと左肩の装甲へぶつかるように爪を叩き込む。
金属が軋む。
狼牙が同時に跳ぶ。
トンファーが同じ箇所へ叩き込まれる。
関節が沈む。
ゲートナイトの姿勢がわずかに崩れる。
刻印核が露出する。
「今だ!」
三枝の叫び。
狼牙がミステリーの視界で刻印核の軌道を読む。
「透、正面!」
その声に合わせる。
俺は地面を蹴る。
身体が跳ね上がる。
脚部の力をすべて集める。
『マズル・チャージ!ドラゴン・ブースト!』
腰のドラゴンマズルを叩く。
熱が走る。
脚部装甲が赤く輝く。
『レリック・ライダーキック!』
叫ぶ。
蹴りが刻印核へ叩き込まれる。
同時に狼牙がトンファーを振り抜く。
衝撃が重なる。
刻印核が砕ける。
青白い光が弾け、ゲートナイトの装甲が崩れ始める。
ミニオンの列が一斉に崩れる。
広場に、静寂が戻る。
変身を解く。
肩で息をする。
狼牙が静かにミステリーシールを外す。
「いい連携だった」
短く言う。
三枝がこちらへ駆け寄る。
「終わったのか」
俺は頷く。
砕けたゲートナイトの中心から、一枚のワールドシールがゆっくりと浮かび上がる。
戦利品だ。
それを拾い上げながら、俺は小さく息を吐いた。