仮面ライダートラヴァース   作:ボルメテウスさん

41 / 50
結界の縁、或いは観測の終わり

 結界は、音を食っていた。

 

 風の流れはある。だが葉擦れの気配がない。

 空気は動いているのに、世界が止まっている。

 

「……嫌な感じだな、これ」

 

 旅坂透は低く呟いた。軽口はあるが、声の奥に余裕はない。

 視界の端で、空間が“折れている”。

 

 目に見える歪みではない。

 だが、確かにそこに“境界”がある。

 

「逃げ道、全部潰されてる」

 

 三枝が言う。

 震えているが、目は逸らしていない。

 

「正解だ。閉じられている」

 

 久遠寺朔也は、視線を動かさず答えた。

 彼の瞳は、既に戦闘ではなく“盤面”を見ている。

 

 その瞬間。

 

 黒と白が、揺れた。

 

 陰陽エコー。

 それは人の形をしていない。だが“意味”としてそこに立っている。

 

 符が空中に浮かび、線ではなく“関係”として結ばれる。

 

「――行く」

 

 短く、炎鳥宮が踏み込んだ。

 

 バンガルの脚が地面を抉る。

 最短距離。最短動作。最短殺意。

 

 だが。

 

 刃が届く直前、空間が反転した。

 

「……っ」

 

 斬撃は“逸れた”のではない。

 “返された”。

 

 熱が、逆流する。

 

 宮が後退する。浅い。だが確実に“通っていない”。

 

「相克……か」

 

 朔也が呟く。

 だが、その言葉は解答ではない。

 

 理解はしている。

 だが、触れない。

 

「透!」

 

「分かってる!」

 

 トラヴァースが前に出る。

 

 シジルドライバーに手をかける動作は、迷いがない。

 

『ファンタジー』

 

 剣が展開される。

 

 赤と黒。

 旅人のマントが揺れる。

 

「――いいね。分かりやすい方が助かる」

 

 軽く笑う。

 だが、その目は完全に戦場のものだ。

 

 踏み込む。

 

 観る。

 

 受ける。

 

 そして――折る。

 

 斬撃が結界に触れる。

 

 だが。

 

 同じだ。

 

 力は流され、別の位置へ逸らされる。

 

「……チッ」

 

 透が舌打ちする。

 これは“強い”ではない。

 

 “通らない”構造だ。

 

「……おかしい」

 

 三枝が、ぽつりと呟いた。

 

 誰も反応しない。

 だが彼は続ける。

 

「線じゃない。これ……止まってる場所がある」

 

 朔也の瞳が、僅かに揺れた。

 

「……何?」

 

「全部繋がってるわけじゃない。

 “ここ”で止まってる」

 

 指差した先。

 空間の一点。

 

 何もない。

 だが――

 

「……固定点」

 

 朔也が、理解する。

 

 だが。

 

 理解しただけでは、意味がない。

 

 彼は、それを知っている。

 

「久遠寺」

 

 宮が言う。

 

「見えてるなら、使え」

 

 短い言葉。

 だが、それは命令ではない。

 

 選択の強制だ。

 

 朔也は、目を閉じる。

 

 見えている。

 

 分かっている。

 

 だが、それを“動かす”ことは――

 

 資格がない。

 

 そう思っていた。

 

 だが。

 

「……違うな」

 

 静かに、呟く。

 

 それは否定ではない。

 

 更新だ。

 

「資格じゃない。これは――責任だ」

 

 手が、ドライバーに伸びる。

 

『オンミョウ』

 

 音声は静かだった。

 

 だが、空気が変わる。

 

 白と黒が重なり、剥がれ、巡る。

 

 紙が舞う。

 

 鳥の形を取る。

 

 式神。

 

 それは“飛ぶ”のではない。

 

 なぞる。

 

「……そこか」

 

 朔也が言う。

 

 式神が、結界の縁を滑る。

 

 見えていたものが、触れるものに変わる。

 

「透」

 

「あいよ」

 

 短い返答。

 

「通す。三秒」

 

「十分だ」

 

 透が笑う。

 

 式神が札を運ぶ。

 

 結界の“結び目”に触れる。

 

 相克が、ずれる。

 

 流れが、歪む。

 

「今だ!」

 

 透が踏み込む。

 

 ドラゴンマズルを叩く。

 

『マズル・チャージ!』

 

 熱が走る。

 

『ドラゴン・ブースト!』

 

 出力が跳ね上がる。

 

「――これで、終わりだ!」

 

 跳ぶ。

 

 一瞬、空中で静止する。

 

 そして――落とす。

 

『レリック・ライダーキック!』

 

 衝撃。

 

 今度は、返らない。

 

 竜の顎が、空間ごと噛み砕く。

 

 沈黙。

 

 結界が、崩れる。

 

 音が戻る。

 

 風が流れる。

 

「……終わりか」

 

 宮が言う。

 

 短く、確認だけ。

 

「終わったな」

 

 透が答える。

 

 軽い声だ。だが、息は荒い。

 

「久遠寺」

 

 三枝が呼ぶ。

 

 朔也は振り返る。

 

「止まらなくていいんだな」

 

 その言葉に、朔也は少しだけ考え。

 

「……ああ」

 

 短く答えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。