サイバー。
その姿へ変わったシジルゼッターを、ゆっくりと持ち上げる。歩幅は小さい。急ぐ必要はない。視界の端でHUDが静かに点灯し、床へ一本の青いラインが伸びた。
「まさか、そのシールにも適合出来るとは、驚きですよ!」
ラブズリーの声は甘い。だが鎌の先端は迷いなくこちらを捉えている。恐怖のオーラが波のように広がり、足先がわずかに重くなる。消えたわけじゃない。ただ——扱い方を知っただけだ。
迫る刃。
HUDが赤く弾け、予測軌道が一瞬だけ浮かぶ。
「……そこだな」
引き金を引く。
エネルギー弾は鎌そのものではなく、振り抜く“先”へ。衝突音が鈍く響き、ラブズリーの体勢が崩れた。間髪入れず、腹部の刻印核へ連射。装甲が火花を散らし、彼の足が半歩下がる。
「っ!?」
「恐怖は確かに、身体を止める」
銃身を回しながら歩く。
HUDの危険度はまだ黄色。完全には消えていない。
「なら、止まる前に動けばいい」
言葉に、ラブズリーの瞳が揺れた。理解できない理屈に触れた時の表情。鎌が再び振り上がる。
シジルゼッターをくるりと回す。
腰のマズルを装填。
「ここで終わらせる」
『マズルチャージ!』
「……っ」
『マズルチャージ!』
同時に響く音声。空気が止まる。互いに一歩も動かないまま、武器の内部で光が脈打った。
『ドラゴンチャージ!』『グリズリーチャージ!』
ラブズリーが先に動く。
鎌から解き放たれた巨大な斬撃が廊下を裂いた。床が波打ち、視界の端が歪む。ギリギリまで引き寄せる。HUDが白へ変わる。
半歩だけ横へ。
斬撃が背後を削り取る。同時に引き金を引いた。銃口から解き放たれた青い龍が直線を描き、空間の歪みを突き破る。
「っ!」
命中。
装甲を貫き、ラブズリーの身体が宙へ跳ね上がる。
「がぁっ!?」
着地の衝撃が遅れて届く。HUDの数値がゆっくりと青へ戻り、警告音が消えた。
鎌が床へ落ちる。蜂蜜色の装甲がひび割れ、ベルトからホラー・ワールドシールが弾け飛んだ。反射的に手を伸ばすと、それは掌へ収まる。
「……くそ、俺は……理想の世界に行く。まだ終わらせない」
ラブズリーの姿が霧のように揺らぎ、消える。
残ったのは静まり返った廊下と、薄く漂う恐怖の残り香だけ。
HUDが一つずつ消灯する。
マントの質感が重さを取り戻し、呼吸の音が戻ってきた。
「……ふぅ」
仮面の奥で息を吐く。
青い光が解け、装甲が粒子へと崩れ落ちる。
——変身解除。
膝にわずかな重さが戻った。
それでも、立っていられる。
まだ、この世界で戦える。