巡海レンジャー(自称) 今日もスウォームを狩り歩く 作:内モツ
駄文注意
追記
二相楽園の諸々でストーリーを書き直すことになったので現在大規模改修を行っています(現在投稿済みの回の改修は大体完了しました)
私は巡海レンジャー(自称)
【スウォーム】
「繁殖」の星神タイズルスの子孫であり、大昔に宇宙を滅ぼしかけたコズミック害虫である。 本能のままに文明を貪り、知恵を用いず【■■■■スラング】のように大量の子孫を生み続ける。 特定の種ではなく、タイズルスの祝福を受けた全ての虫とその子孫の総称であり、カブトムシのような種もいれば、クワガタのような大顎を持つ種も存在する。 知性や統率はなく、ただ繁殖と拡散を繰り返す群体として宇宙に蔓延っており、タイズルスが殞落した後もなお、その脅威は衰えず未だに文明を糧に増殖を続けている。
【虚構歴史学者の注釈】
「しかし、本当に恐ろしいのは蟲ではない。その羽音を聞きすぎて、自らの正気すら火薬で焼き飛ばした『何か』が、銀河の片隅で笑っていることだ」
◇◇◇
「一匹、二匹……五匹」
暗い。粘つくような湿気と、焦げたタンパク質の臭いが充満する洞窟の奥で、その男は数字を数えていた。
「八匹……。小型、三十一。全滅……? いや、不確定」
男の名はサムウェイン。自らを「巡海レンジャー」と称する放浪者であり、その正体は煤けた黒衣を纏うオムニックだ。
彼の頭部は奇妙だった。常に被っているカボチャ型の兜は、ハロウィンの仮装のような滑稽さを持っていたが、その表面には無数の傷と、爆発の熱で焼けた痕が刻まれている。
「スウォーム。群体。一匹残れば、百匹。百匹残れば、星の終焉。……絶滅、推奨」
カボチャの奥、電子眼が赤黒く明滅する。
彼が手にしているのは、洗練された光線銃でもなければ、高周波の振動刃でもない。それは「火薬庫」と呼ばれた狂気的な設計思想に基づく、前時代的で暴力的な武器であった。
ブウゥゥゥ、ブウゥゥゥ――。
闇の向こうから、神経を逆撫でするような羽音が近づいてくる。
壁の隙間、岩の裏、天井の裂け目。あらゆる場所から、カブトムシのような硬質な甲殻と、強靭な大角を持つ「幼蟄虫」たちが溢れ出してきた。
サムウェインは静かに、武器のグリップを強く握りしめた。
カチリ、ギチギチッ……。
内部の歯車が噛み合い、装填された爆薬が圧縮される。熱を帯びた蒸気が排気孔から噴き出し、カボチャの男を白煙の中に包み込む。
「上映時間、まで、あと三時間。……無駄。退屈。嫌い。ゆえに、焦土作戦、実行」
「ヒャ、ヒャハハハ!」と、どこかから高い笑い声が聞こえたような気がしたが、サムウェインは気に留めない。彼にとって、この世で唯一の真実は「爆破して、斬って、消し飛ばせば、大抵の生命体は死ぬ」という自身の設計思想だけだった。
「逆誕生日、今日IS命日」
ドンッ!!
銃身が爆発したかのような轟音が、洞窟の岩盤を揺らした。
弾丸ではない。爆薬の爆風そのものを指向性の衝撃波として放つその一撃は、最前列の幼蟄虫たちを文字通り「粉砕」し、緑色の体液を壁一面にぶちまけた。
続いて、彼は武器のレバーを引く。
*ガキィン!*という金属音と共に、銃身が二つに割れ、そこから巨大な斧の刃が飛び出した。変形機構の勢いそのものを回転力に変え、サムウェインは黒衣を翻して旋回する。
「粉砕。切断。消滅。……以上、完了」
爆炎が洞窟内を真っ赤に照らし出し、飛び散った幼蟄虫の破片が火の粉となって舞う。
数システム時間に及ぶ「掃除」の始まりだった。
◇◇◇
激闘を終え、サムウェインは自身の宇宙船「シネマ号」へと帰還していた。
この船は、スターピースカンパニーの旧型輸送船を勝手に改造したものだが、内部は外観のボロさからは想像もつかないほど「趣味」に特化している。
壁一面に貼られた、色褪せた古い映画のポスター。
棚に並んだ、出所不明の「甘味」のストック。
そして中央に鎮座する、骨董品とも呼べるアナログな映写機。
「疲労、蓄積。……報酬、希望。ココア、糖分、二倍」
サムウェインは重い鎧を軋ませながら、お気に入りの椅子に座った。カボチャの兜は外さない。というより、彼にとってはこの兜こそが「自分」であった。
彼は古いポットから、ドロリとした濃厚なココアをカップに注ぐ。
電子回路に味覚があるのかは不明だが、彼はその「行為」をこよなく愛していた。
「照明、落とせ。上映、開始」
パチパチと乾いた音を立てて、映写機が光を放つ。
スクリーンに映し出されたのは、百年前のB級ホラー映画だ。幽霊に追いかけられる若者たちが、悲鳴を上げながら逃げ惑う。
「……恐怖、不合理。逃走、非効率。……でも、良い。安心、する」
ココアのカップを口元へ運ぶが、カボチャの甲殻が邪魔をして、コツンと乾いた音を立てるだけだ。それでも彼は満足げに、微かな電子音で鼻歌を歌っていた。
彼が信じている過去――博識学会の研究者「ネブロデス」としての罪。
星系一つを滅ぼし、スキャラカバズを呼び寄せてしまったという「最悪の汚点」。
その贖罪のために、彼はこうして一人、孤独に蟲を狩り続けている……はずだった。
「私、大罪人。ネブロデス。ヌース、見てる? ……見てない。退屈、させてる。申し訳ない」
彼は自嘲気味に呟く。
だが、その視線の先にあるはずの「知恵の星神」は、彼のことなど一瞥もしていない。
代わりに、そのシネマ号の天井裏で、あるいは影の中で、目に見えない「笑い」が渦巻いていることに、彼は気づかない。
「……おや?」
ふと、映写機の映像にノイズが走った。
それと同時に、船内のセンサーが、聞き覚えのある、忌まわしい周波数を検知する。
ブウゥゥゥ、ブウゥゥゥ――。
「……上映、中断。敵襲。……上映禁止。最悪」
サムウェインの赤い電子眼が、殺意の色を深めた。
◇◇◇
「上映中断、遺憾。……スウォーム、不法侵入。死罪、確定」
サムウェインは、愛おしそうに眺めていたスクリーンの電源を叩き切った。
船外カメラが映し出すのは、漆黒の宇宙空間を埋め尽くす、銀色の羽ばたき。洞窟から逃げ延びた数匹が、分裂を繰り返したらしい。その数は、すでに数百に膨れ上がっていた。
「一匹残れば、百匹。放置、不可。……外装、損傷、覚悟。焦土、展開」
彼は船外ハッチに手をかけ、一気に開放した。
瞬間、大気が吸い出される轟音と共に、カボチャの騎士は宇宙の闇へと躍り出た。黒衣が重力から解き放たれて翻り、耐火性の繊維が星明かりを弾く。
通常、生身の生命体であれば即死する真空。だが、彼は機械だ。肺はなく、血の代わりに熱を帯びたオイルが全身を巡っている。
ブウゥゥゥゥ!
音のない宇宙で、振動だけが彼の装甲を通じて伝わってくる。
先頭の真蟄虫が、大角を向けて突進してきた。
「迎撃、開始」
サムウェインは火薬庫仕込みの武器を構えた。
真空において火薬は本来燃焼しない。だが、彼の武器はそんな物理法則をあざ笑うかのように、内蔵された酸素供給装置と「■■」の加護によって、猛烈な火花を撒き散らす。
ドォォォォン!!
無音の爆発。衝撃波が真空を伝わり、先頭の数匹を内側から破裂させる。
続いて、彼は武器の変形レバーを極限まで引き絞った。
ガキィィィンッ!
斧刃が赤熱し、小型の推進噴射口が起動する。
それは「土木作業」における岩盤粉砕用の機構を、戦闘用に強引に転用したものだ。サムウェインは噴射の反動を利用して、真蟄虫の群れのど真ん中へと突っ込んだ。
「回転。切断。消滅。……皆殺し、推奨」
赤熱した刃が、蟲たちの硬質な甲殻をバターのように切り裂いていく。
真蟄虫の体液が宇宙に散り、凍り付いて結晶となって漂う。
サムウェインの戦い方は、洗練とは無縁だ。泥臭く、暴力的で、ただ「そこに動くものがなくなるまで」破壊を繰り返す。
彼がかつて信じていた、博識学会のエリートとしての矜持。
それさえも、今の破壊の衝動の中では心地よいノイズに過ぎなかった。
◇◇◇
数時間後、宇宙船の周囲には静寂が戻っていた。
浮遊する蟲の死骸を蹴り飛ばしながら、サムウェインは船内へと戻る。
「……駆除、完了。疲労、極限。ココア、再加熱」
彼はふらつく足取りで、再び椅子に深く腰掛けた。
カボチャの兜に付着した蟲の液を、布切れで雑に拭う。その動作は、どこか壊れかけた古い機械のように不規則だ。
彼の脳裏に、一つの記憶が再生される。
それは「博識学会最悪の汚点」――ネブロデスが星系を滅ぼした瞬間の光景。
巨大な蟲「スキャラカバズ」が、太陽を飲み込まんとするほどの巨体で現れたあの悪夢。
「私、罪人……。償い、終わらない。……ヌース、いつ、許す?」
サムウェインは、誰もいない船内でそう問いかける。
しかし、その問いに答える知恵の星神は存在しない。
なぜなら、彼が「ネブロデス」であるという事実は、完全なバグだからだ。
かつて、ある惑星のゴミ捨て場に、一台の「土木作業用ロボット」が打ち捨てられていた。
過酷な労働で回路は焼き切れ、頭部は失われ、代わりに見繕ったカボチャの模型を被せられていた無様なスクラップ。
その横で、捨てられた古いテレビが、偶然にも「ネブロデスの追放」を報じるニュースを流し続けていた。
壊れたロボットの演算回路は、そのニュースを「自分の記憶」として上書きした。
自分はゴミ捨て場に隠れているネブロデスだ。
自分の過ちで星を滅ぼしたのだ。
だから、直して、戦わなければならない――。
彼は自分の身体を、ゴミ捨て場のガラクタで修理した。
仕掛け武器も、耐火性の黒衣も、すべては「そうであるはずだ」という妄想の産物だった。
「……クスクス」
船内の隅、影が不自然に揺れた。
「いつまでも愚かでいてね。サムウェイン」
その声は、彼の受像器には届かない。
次元の隙間から、赤い仮面をつけた影が、彼を指差して笑っている。
「愉悦」の星神、アッハ。
この宇宙で最も気まぐれな神は、ゴミ捨て場で「自分を大罪人だと思い込んだ壊れロボット」を見つけ、そのあまりの滑稽さに、思わず一瞥をくれた。
その瞬間、ただのスクラップだった彼は「運命の行人」へと昇華された。
彼が物理法則を無視した爆発を引き起こせるのも、真空で火薬を燃やせるのも、すべてはアッハが「その方が面白いから」と力を貸しているに過ぎない。
「……上映、再開」
サムウェインは再び映写機を回す。
止まっていたホラー映画が動き出し、叫び声が船内に響く。
彼は自分が「道化」であることに気づかぬまま、自称・巡海レンジャーとしての孤独な旅を続ける。
「甘味、不足。……次の星、購入、希望。二次元ホース、未払い、許さない」
カボチャの騎士は、暗い画面を見つめながら、静かに次の「駆除」の計画を練り始める。
銀河のどこかで、アッハの笑い声が、星々の瞬きに混じって響き続けていた。
そういえば花火ちゃんが配布されるらしいですね
やったね!デーさん!労働環境改善だ!