巡海レンジャー(自称) 今日もスウォームを狩り歩く 作:内モツ
次話から原作部分に入ります、お楽しみに
銀河アーカイブ:無人惑星「PX-404」
【惑星PX-404】
スターピースカンパニーの版図外に位置する、乾燥した岩石惑星。資源価値は皆無であり、かつてスウォームの小規模な巣が形成された形跡がある。現在では「銀河の吹き溜まり」として、不法入国者や密輸業者が追跡を逃れるための一時的な隠れ家として利用されることがある。
【サバイバル・ガイド:オムニックとの遭遇】
「もし無人惑星で、カボチャを被った黒衣のオムニックに出会ったら、迷わず感謝の言葉を述べなさい。彼はあなたの命を救うか、あるいはあなたの目の前で周囲を灰にするかのどちらかだ」
「……三百九、三百十。駆除、完了。一匹残らず、消去。完璧」
無人惑星PX-404。見渡す限りの赤茶けた岩場と、吹き荒れる砂嵐。
その地表に口を開けた巨大な洞窟の中で、サムウェインは火薬庫仕掛けの武器を無造作に振った。刃に付着したスウォームの体液が、遠心力で岩壁に叩きつけられ、ジュッという音を立てて蒸発する。
「上映時間、まで、余裕、あり。シネマ号、帰還。即、上映。ココア、飲む。……ふかふか、布団、恋しい。至福」
ガシュ、ガシュッ――。
武器の変形機構を軽く叩き、大斧を収納する。
銃身が折り畳まれ、金属のパーツが複雑に噛み合う音が、静まり返った洞窟内に反響した。
彼は満足げに黒衣を翻し、船へと戻ろうとした。だが、その一歩を踏み出す寸前、彼の高感度センサーが一つの不協和音を拾い上げた。
ピピッ……ピピッ……ピピッ……。
「…………?」
サムウェインの電子眼が、カボチャの奥で細められる。
「遭難信号。微弱。……距離、八百。方位、北西。……無人惑星、誰? 密輸業者? 犯罪者? 愉快犯?」
彼はしばし、その場に立ち尽くした。
思考回路が、二つの選択肢を天秤にかける。
選択肢A: 無視して帰る。新作ホラー映画の冒頭五分を逃さない。
選択肢B: 信号源に向かう。博識学会員(自称)としての倫理観、および「人死にがなければ平和」という信条の遂行。
「面倒……非常に、面倒。……しかし、放置。倫理的、NG。博識学会、追放者、なれど。最低限、救助。……迅速、遂行。映画、優先」
彼は深く重いため息を吐き出すと(人工肺が吐き出す冷却蒸気だが)、足早に信号の主へと向かった。
◇◇◇
砂嵐の向こう、鋭く切り立った岩場に突き刺さるようにして、一隻の小型宇宙船が横たわっていた。
船体は焦げ、片翼は根元から折れ曲がっている。エンジンからは黒煙が上がり、周囲には焼けた金属の臭いが立ち込めていた。
「生存者、一名。バイタル、低下。……だが、まだ、動いてる」
サムウェインは無理やりひしゃげたハッチをこじ開け、船内へと侵入した。
薄暗い操縦席で、一人の若い男が血の気の失せた顔で壁にもたれかかっている。
「た……助かった……のか……? あなたは……」
男は焦点の合わない目で、目の前に現れた「カボチャ頭の怪人」を見上げた。普通なら悲鳴を上げるような光景だが、死の淵にいる彼にとって、それは救いの天使に見えたのかもしれない。
「巡海レンジャー(自称)。スウォーム駆除、専門。……貴殿、不運。遭難者、救助義務……一応、遂行」
サムウェインは男の脈を機械的に測定し、スキャンを完了させる。
「軽傷。内臓、無事。……恐怖、による。ショック、大。……死なぬ。安心、推奨」
「あ、ありがとう……。でも、船が……エンジンが逝っちまったんだ。このままじゃ……」
「修理、可能。私、昔。博識学会……少し、所属。機械、得意。……秀才、自称、可能」
男が驚愕に目を見開いた。「博識学会!?」
「昔話。今、関係なし。……レンジャー、今の職。爆破、専門」
サムウェインは腰のポーチから、無骨な工具をいくつか取り出した。
そして、剥き出しになった回路の中へ、躊躇なく手を突っ込む。
彼の動きは、精密な時計職人のようでありながら、どこか「強引に動かせばいい」という土木作業員特有の荒っぽさが同居していた。
バチッ! バチバチッ!!
火花が散り、サムウェインの手元で電圧が暴れる。
だが、彼は熱を気にする様子もなく、断線した箇所を自分の指先から流れるエネルギーで一時的にバイパスした。
「システム、再構築。……燃料ライン、直結。……主機、再起動、試行」
――ゴォォォォォ……!
死んでいた宇宙船が、低く唸りを上げた。計器に明かりが戻り、生命維持装置のファンが回り始める。
「す……すごい……! 本当に、動いた……!」
男は震える声で歓喜の声を上げた。
しかし、サムウェインは褒め言葉を待つこともなく、手際よく工具を片付けると、早々にハッチへと向かった。
「礼、不要。……上映時間、まで、残り十分。一秒、惜しい。急ぐ」
「え……? 上映、映画……?」
「重要。人生、映画。……他人の生、より。自分の、娯楽。これ、真理」
サムウェインは振り返ることなく、砂嵐の中へと消えていった。
◇◇◇
「……死ななかった。幸運。……上映、間に合う。幸運、二乗」
砂塵の中を、サムウェインは軽快なステップで突き進んでいた。
彼の背後では、修理されたばかりの小型船が不安定な光を放ちながら地表を離れ、宇宙へと帰還していく。
一方、救われた男は、上昇するコックピットの中で震えていた。
カボチャの男が去り際に残した言葉。そして、彼が修理の際に「博識学会」という名を口にしたこと。
男はふと、操縦席の計器の下に、救助者が落としていった「一片の紙屑」が挟まっているのに気づいた。
それは、どこかの惑星で配られていた映画のチラシだった。
その裏側には、殴り書きのようなメモが残されている。
『知恵の星神ヌースへ。通信テスト1442回目。フェロモン通信による全知的生命体のリンク……失敗。スキャラカバズが来た。星が消えた。私はゴミだ。いや、私はネブロデスだ』
「……なんだ、これ……?」
男は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
あのカボチャの騎士は、確かに自分の命を救った。博識学会の英知(に見える修理技術)で船を直した。
だが、その内側にある精神は、宇宙の塵よりも粉々に砕け、何かの「バグ」によってかろうじて形を保っているのではないか――。
男が抱いたその懸念は、正しい。
だが、その「狂気」を銀河の誰よりも愛でている存在がいることに、男は一生気づくことはないだろう。
◇◇◇
「……帰還。シネマ号、我が城。……掃除、完了。救助、完了」
サムウェインは、ようやく愛船「シネマ号」のハッチを閉めた。
船内には、タラサで手に入れたグレイディのフィルムや、色褪せたポスターたちが彼を待っている。
彼は手慣れた動作でカボチャの兜の表面に付いた砂を払い、ココアの準備を始めた。
濃厚な甘みが、乾燥した金属の喉を通る(感覚を脳内エミュレートする)瞬間を夢見て。
「上映開始、まで、あと一分。……完璧。私、タイムマネジメント、天才」
映写機にフィルムを装填し、カチカチという心地よい回転音が船内に響き渡る。
照明が落ち、暗闇の中でスクリーンの端が白く光り始めた、その時だった。
――buuuuuu~……。
「…………」
サムウェインの動きが、完全に停止した。
センサーが感知したのは、地表の洞窟に隠れていた、あるいは「救難信号の音」に惹かれて集まってきたスウォームの生き残り――その増殖個体たちだった。
奴らはシネマ号の外装を、その強靭な顎でガリガリと削り始めていた。
「上映……開始……十秒前」
ガリッ、ギィィィィィ――。
船体が軋む。スウォーム特有の、あの不快な羽音が換気口を通じて船内にまで漏れ聞こえてくる。
「…………」
サムウェインは無言で、手にしたココアのカップをテーブルに置いた。
置く際に、少しだけ指先が震えていたのは、恐怖からではない。
沸点を超えた「怒り」と、アッハが彼に注ぎ込んでいる「過剰なまでの虚数エネルギー」のせいだ。
「スウォーム。君たち、学習能力、ゼロ。……あるいは、私、舐められてる?」
彼は再び、煤けた黒衣を纏い、仕掛け武器を掴み取った。
武器の変形機構を鳴らすその音は、もはや怒号に近い。
「上映妨害、三度目。……仏の顔も、三度。……カボチャの顔、一度で、アウト」
彼はハッチへと歩き出す。
その足取りは、先ほど遭難者を救いに行った時よりも、数倍も力強く、殺意に満ちていた。
「焦土作戦、三度目。上映、また中断。……だが、次、ない。……惑星ごと、消去、検討。……一匹残れば、百匹、千匹。……一匹も、残さぬ」
ガッ!!!
ハッチが開くと同時に、外に群がっていたスウォームたちが一斉に飛びかかってくる。
だが、サムウェインの「火薬庫」の銃口は、すでに至近距離で火花を散らしていた。
「上映……無期限延期。……皆殺し、開始」
暗い無人惑星の地表で、爆炎の華が次々と咲き乱れる。
それは宇宙の誰にも知られない、孤独で喜劇的な戦いの続きだった。
いつか彼が「本当の自分」に気づく日が来るのか、あるいは「本物のヌース」が彼を見向きもせずに通り過ぎるのか。
それすらも、アッハの「上映リスト」の1ページに過ぎない。
✧✧✧✧✧サムウェイン(炎 知恵)
所属 巡海レンジャー
キャラクター詳細
頭にカボチャを被った「巡海レンジャー」を自称するオムニック。
博識学会に所属していたようだがとある”やらかし”により追放。現在はスウォームを狩りながら放浪の旅を続けている。
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