第10話
【最終章:違和感】
静けさが戻ったはずの宿で、黒川は一人、ホールの椅子に腰を下ろしていた。
事件は終わった。
犯人は連行され、警察も引き上げた。
理屈の上では、すべて解決している。
──それでも。
胸の奥に、砂粒のような違和感が残っていた。
理由は分からない。
ただ、何かが噛み合っていない。
ふと、玄関先でのやり取りが脳裏に蘇る。
「確認に向かいたいのですが、ゴンドラの運行が珍しく三十分ほど遅れていて、ここで待機しているところです」
警官が、腕時計を見ながらそう呟いた声。
──なぜ、遅れていたんだろうか。
機械トラブル。
自然環境の変化。
そう片付けられていたはずの出来事。
だが、黒川は思い出してしまう。
愛莉の、あの言葉を。
「松川さんが……
恵美のこと、ちょっと気になってたみたいで…」
「どうしてそう思いましたか」
「よく話しかけてたし、
今回の旅行も、恵美が行くって言ってから
決まった気がして……」
偶然だろうか。
さらに、もう一つ。
冗談めかして誰かが言った言葉。
「頭いいギルドマスターの俺が、この場所選んだんだからさ」
「最初からトリック考えてて、完全犯罪狙ってた……って線も、なくはないよね」
笑い混じりの声。
誰も、本気にはしなかった。
──本当に?
黒川は、ゆっくりと息を吐いた。
「……まさか、な」
そう呟いた声は、誰にも届かない。
だが、その否定は、どこか頼りなかった。
外では、ゴンドラの低い駆動音が、夜の山に溶けていく。
その音を聞きながら、黒川は思う。
あれは、本当に「遅れただけ」だったのか。
答えは、もう誰にも確かめようがない。
─────────[完]
1000文字しか投稿できないみたいで、文字数が足りないのでこちらに、【あとがき】を書かせて頂きます。ご了承ください(*ᵕ ᵕ)"
【あとがき】
本作を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
この物語は、別のアプリでは投稿しているのですが、ハーメルンでは、初めて投稿したミステリー小説です。構成や表現、伏線の張り方など、試行錯誤しながら一つひとつ書き進めてきました。至らない点や読みづらい部分もあったかと思いますが、それでもここまで読み進めていただけたことに、心から感謝しています。
少しでも印象に残る場面や、考えさせられる瞬間があったなら幸いです。もしよろしければ、レビューやご感想などで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります。
また別の物語でお会いできることを願っています。