三つ滝の宿   作:小説練習家

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第5話

【単独調査】

ここにいても、言葉しか残らない。

 

黒川は玄関で立ち止まり、硝子越しに山を見た。

三つ滝は、何事もなかったかのように白を落としている。

 

「……行くか」

 

そう呟き、外へ出た。

 

立入禁止の札が下がる旧遊歩道へ向かう。

冬の朝の霜が、地面を薄く覆っていた。

 

──足跡は、残りやすい。

 

案の定、道の中央に人一人分の足跡が続いている。

歩幅はやや広め。

だが、途中で一度、乱れていた。

 

立ち止まった形跡。

 

黒川はその地点でしゃがみ込み、写真を一枚撮ってから周囲を見回した。

 

岩の割れ目に、何かが引っかかっている。

 

指先でつまみ上げると、

それは小さな黒い破片だった。

 

柔らかいが、布ではない。

水を吸わない素材。

 

人工物。

 

ナイロン製の繊維が、数本、絡まった状態で残っている。

 

黒川はハンカチに包み、ポケットにしまった。

ここで意味づけはしない。

 

証拠は、集まってから語り始める。

 

──

 

さらに下ると、滝壺近くの岩肌が目に入った。

 

同じ場所が、何度も擦られている。

落石でも、水流でも説明がつかない痕だ。

 

横方向。

 

「……誰かが、引きずったな」

 

独り言は、水音に消えた。

 

黒川は、それ以上、近づかなかった。

荒らすつもりはない。

 

それぞれは、まだ一本の線にはならない。

だが、同じ方向を向いている。

 

黒川は静かに息を吐いた。

 

──

 

夜になり、宿は再び静けさを取り戻していた。

 

黒川は部屋の灯りを落とし、卓の上に置いたノートパソコンを開く。

湯気の消えた湯呑みが、横で冷えていた。

 

検索窓に、短い言葉を打ち込む。

 

──それだけだった。

 

画面が切り替わり、いくつかの記事と写真が並ぶ。

専門用語が多い。

だが、黒川は説明文よりも、写真を一枚ずつ丁寧に見ていった。

 

角度。

水の流れ。

人の体勢。

 

スクロールする指が、ふと止まる。

 

「ふむ、なるほどな……」

 

声は、思ったより低く出た。

 

写真の中の人影と、

今日見た岩肌の削れ方が、頭の中で重なっていく。

 

──あの場所で、あの状態で、

ああいう痕が残る理由。

 

──そして、

 "戻ってこられた理由"。

 

黒川は、椅子の背にもたれた。

 

これまで、

不可能に見えていたものが、

ただ「やり方を知っているかどうか」に変わった。

 

時間の問題ではない。

体力の問題でもない。

 

「知識だな……」

 

黒川は、画面を閉じた。

 

これ以上、見る必要はない。

調べ続ければ、答えをそのまま書いてしまうだけだ。

 

窓の外では、滝の音が、相変わらず三つ重なって聞こえている。

 

黒川は立ち上がり、コートを手に取った。

 

明日、問いただすべき相手は、

もう決まっている。

 

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一つ目の行動で

 

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