戦場の死神と呼ばれた元傭兵の俺、ハメられて貴族令嬢の護衛になる   作:嵐山田

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第一話

「ガハハハハハッ、おいおい! ここにはクソ雑魚しか居ねぇなぁ?」

 

 もう何度目になるのか、数えるのも面倒になるほどの国境沿いでの局地戦。

 だが、この男が傭兵として加わってからは、その戦闘はもう虫と兵器の戦いのようだった。

 

 その巨躯と同じくらい大きな戦斧を振り回し、残酷に、無惨に敵兵を蹴散らす。

 彼が駆けた道に残るのは、見るに堪えない骨や肉片の数々、まさに一騎当千の活躍だ。

 

 その姿は敵から見れば悪鬼羅刹、味方が見れば戦闘狂、そして自称は殺戮者。

 自他ともに認めるその男は名をセルセトと言った。

 

「ひぃぃぃっ! 撤退! 撤退〜!」

 

「おいおい! 仮にもここは戦場だぞ? そんな甘えた判断が通用するわけ……」

 

 戦場での甘えた判断、それ即ち死だ。

 俺は迷わず追撃をかけようとする。

 

「セルセト! 追撃の必要は無い。余計な遺恨はさらなる争いを産むだけだ」

 

 だが、俺の追撃はすんでのところで叫び止められた。

 

「……チッ、ここで全員殺しちまえばその争いは無くならなくとも、小さくなるとは思うんだがな」

 

「そう上手くは行かないかもしれんだろう?」

 

「はいはい、お堅い騎士様はさすが、最悪を考えるのがお得意なようで」

 

 悪態をつく俺に指示をしてくるこいつはレイル。

 この国で騎士をやっている堅物野郎だ。

 一部隊を任せられるほどの結構な実力とカリスマがあるようで、騎士とはあまり馬が合わない傭兵連中からも意外と慕われていたりする。

 

「……これで隣国との争いは一段落するだろう。どうだ? お前も騎士にならないか?」

 

 そんなレイルだが、俺の悪態には全く触れず、自分の話したいことだけをひたすらに話して来るのが特徴でもある。

 だからこそ、騎士と傭兵と言う立場の違いがあっても取っ付きやすいのかもしれない。

 

「勘弁してくれ。平民上がりの傭兵にお堅い騎士様はどう考えても不向きだろうが」

 

 俺にとってはいい迷惑なのだが。

 

「そうか……まあ、気が向いたら来いよ。入隊試験と訓練、倍にしてやるから」

 

 こいつは何を言ってるんだ?

 お堅い騎士様は脳が正常に機能していないらしい。

 何をどう思えばそのスカウトが通じると思うのか。

 

「訳わかんねぇよ……じゃあな、俺は金と戦場以外に縛られるつもりはねぇんだ」

 

 そんな脳内訓練バカな騎士様に別れを告げて、俺は今日も戦場を後にした。

 

 

 

 

 

「……おい、お前ら……」

 

 そうして手をひらひらとさせながら去っていくセルセトは、背後で屈強な男たちが何やら肩を寄せて話していたことには気が付かなかった。

 

 ◇◇◇

 

 今日の収入はいつもの倍以上の物だった。

 あれだけの戦闘でこの報酬とは……今回の依頼人は太っ腹だったな。

 酒場のカウンターにどっかりと座りながら、そんなことを考える。

 

「だが、レイルの言うことが本当ならもうこの国でも稼げそうにねぇな~。護衛とかさっぱりごめんだしよぉ……」

 

 街に戻ってから、一人で気分よく酔っていた俺は誰に話しかけるでもなく独り言ちる。

 金が入りたてで気分のいい俺の独り言は徐々に大きくなっていく。

 

「つっても隣国側じゃ、稼げてもさすがに死にそうだしなぁ……」

 

「おい兄ちゃん、仕事探してんのか?」

 

「あ?」

 

 すると、そんなバカでかい独り言を聞きつけてか、胡散臭そうなごろつきがわらわらと群がって来た。

 

「いい仕事があんだけどよ。どうだ? 一枚噛まないか?」

 

 まあ、暇だし聞いてやるくらいはいいだろうか?

 

「聞くだけ聞いてやるよ」

 

 酔いに任せて俺はそんな胡散臭い連中の話に乗ってみることにした。

 

 

 ――そして、翌日朝。

 

 

「んぁ? 俺ぁ……なんで、こんなところに?」

 

 俺は見知らぬ天井の下で目を覚ました。

 

「痛っ――ちょっと昨日は飲み過ぎたか?」

 

 鈍い頭痛が不快感を走らせる。

 さて、いったい本当にここはどこだ?

 

 だるい頭を押さえながら体を起こすと、そこは平民出身で、今でもただの傭兵の俺にはまるで相応しくない豪華な部屋だった。

 

「なんだ? 勢い任せに高級宿にでも泊まっちまったか? ……こんな宿に泊まるならせめて女の一人や二人……いや、窓がデカすぎるな」

 

 下らない思考。

 ただ、これだけ考えられれば、今回の二日酔いはそこまで酷くなさそうだ。

 

 とりあえず、状況確認もかねて部屋を出ようと扉に向かう。

 そして俺が扉に手をかけようとした瞬間、先に扉が開かれた。

 

「私の師ともあろう人が二時間も遅刻とはどういうことですかっ――って壁っ!?」

 

 勢いよく開かれた扉から小柄な少女が俺に激突してくる。

 

「……あぁ? なんだ? 嬢ちゃん?」

 

 見た感じ十二、三歳くらいだろうか?

 ……というか今、なんだかとてつもなく不穏なことを言わなかった口走っていたような……?

 

「あ、あなた!? なんてはしたない格好をされているんですかっ!!」

 

「あ? 別に大した恰好でもないだろ? というか嬢ちゃん、この宿の娘か何かか? なあ、俺昨日の記憶がすっぽり抜けてるんだが、ここはどこだ?」

 

 顔を両手で覆うように見せて、指の隙間からチラチラとこちらを見ている……ませた嬢ちゃんだな。

 そんなことを思いながら、嬢ちゃんの反応を待っていると――

 

「おっしゃっていることがよくわかりませんが……ここは我がレティシア家の本邸ですよ?」

 

「はぁ? 何を言って――」

 

 その名前を聞いた途端、昨晩の記憶がフラッシュバックした。

 

 ◇◇◇

 

 ――昨晩、酒場。

 

「で? なんなんだよ、そのいい仕事って」

 

「おいおい、待ってくれよ。せっかく酒場にいるんだし俺たちにも飲ませてくれなきゃなぁ?」

 

「チッ……おい、マスター! 樽だ! 樽で出してくれ!」

 

「あいよ」

 

「おお! 気前がいいねぇ」

 

 面倒なやり取りを一発で解決するために滅多に頼まれない樽酒を注文してやると、悪人面のごろつきどもはその悪い顔をさらに歪めて喜んでいた。

 

「んで?」

 

「そう急くなって。まあ、よく聞け? この仕事の職場は中々にスリルの有る戦場だ」

 

「ほう……」

 

 戦場、おそらく一般的な人間にはきっと恐ろしい場所なのだろう。

 だが、俺にはすごくなじみ深く、居心地の悪くない場所だ。

 その言葉だけで、俺の興味はワンランク上がった。

 

「だが、だからこそ報酬は格別だぜ?」

 

「ほうほう……」

 

 金、コイツが嫌いな奴はいないだろう。

 あればあるだけ良くて、なくても良いことはない。特に資産より現金が良い。

 その言葉に俺の興味はさらに上昇する。

 

「どうだ? 興味が出たか?」

 

「ああ、んで? 肝心の仕事内容は? 蛮族討伐か? 領地占領か? 金と戦場があるならやってやるぜ!」

 

「ハハッ! 話の早え兄ちゃんだ。とりあえず、飲もうぜ? 仕事場のレティシア領には今晩から行ってもらって構わねぇからよ。あ、ここに名前だけ頼めるか?」

 

「……? まあ、何でもいい。ほら、これでいいか? マスター! 肉だ! 肉を追加してくれ!」

 

 何かの紙に名前を書かされたが、気分のいい俺はそのことを気にも留めなかった。

 

「あいよ」

 

「「ガハハハッ」」

 

 金に戦場、酒に肉、酔いに酔った俺は文字通りの酒池肉林に興じた。

 

 ◇◇◇

 

「そういや、あのごろつき……」

 

 レティシア領とか何とか言っていた気がする。

 昨日は酒が回ったせいで金と戦場って言葉以外は耳に入っていなかったかもしれない。

 

「あの? 大丈夫ですか?」

 

 突然頭を押さえた俺を見て、少女が心配そうにこちらを覗き込んでくる。

 

「ああ……。大丈夫だ。それより、世話になっちまったみたいだな。どうにも、話に齟齬があったみたいでよ。一宿の礼として金は払う。じゃあな」

 

 冷静に考えてもここは俺の望んだ戦場ではない。

 適当に金を握らせてずらかるべきだ。

 フットワークの軽さも傭兵には重要項目だからな。

 

「ちょっと待ってください! それはお話が違います! 貴方は私の師になるという契約をすでに結ばれております! それに、この契約を反故にする場合違約金が発生しますわ!」

 

「違約……金? だと!?」

 

「はい! こちらを」

 

 少女は俺にきれいに丸められた紙を差し出して来た。

 そこには――

 

『王国騎士隊長レイルの下、傭兵セルセトをレティシア家息女の護衛兼剣術指南役に推薦する。

 これが受け入れられた場合には以下の契約を必ず履行せねばならない。

 ・レティシア家はセルセトに十分な報酬を支払うこと

 ・セルセトはレティシア家息女の護衛兼剣術指南役として毎日訓練をつけること

 ・この契約が果たされない場合、両者は違約金として大金貨百枚を推薦人に支払うこと』

 

 と言ったような内容がつらつらと書き連ねられていた。

 そして末尾にはご丁寧に俺のサインもついている。

 

「……レイル、あの野郎」

 

 そういえばあのむさ苦しいごろつきどもの顔も、今思えば何人かはレイルの隊で見たことがあったような気がする。

 それに違約金大金貨百枚って、どう考えてもこの契約書は冗談半分に書かれた物だろうに。

 あの野郎、何としても俺をこの国に引き留めるつもりか?

 

「どうですか? 大金貨百枚、お支払いの余地はありますか?」

 

 突然、貴族らしい振る舞いを見せつけてくる嬢ちゃん。

 ……大金貨百枚は流石に無理だろう。

 そこそこの貴族様だって命でもかかってなければ、おいそれと出せる金額ではないはずだ。

 

「はぁ……嬢ちゃん名前は?」

 

「イシス・レティシアですわ。これからよろしくお願いいたしますね」

 

 華麗な赤のドレスが映える。

 見事なカーテシーだ。

 貴族文化に疎い俺でも分かるレベルで堂に入っている。

 

 ……まだまだ気になることは多いが、とりあえず一泊分の働きぐらいはしてやるか。

 

「はいよ。よろしくなイシス嬢」

 

 俺の顔を見上げるお嬢様の頭に軽く手を乗せると、イシスは柔らかい笑みではにかんで見せた。

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