戦場の死神と呼ばれた元傭兵の俺、ハメられて貴族令嬢の護衛になる   作:嵐山田

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第十六話

 食事を運んできたユミアに一通りの状況説明をしたうえで、俺は昨晩の出来事の詳細を伝えるべく説明を始めた。

 もちろんユミアには、言う必要はないだろう! と強めの剣幕で言い寄られてしまったが、それに付いてはイシス嬢が「私が聞きたいのですわ」と言う鶴の一声でまとめてくれたおかげで面倒にはならずに済んだ。

 

「……ってなわけで、そのマクスフーがアラゴン家から頼まれていたのが精神を意のままに操る魔道具をイシス嬢に取り付けることだったって訳だ」

 

 どういう訳か、二人の五倍くらいは量がある夕食に手を付けながら、なるべく話が重たくならないように話していく。

 

「精神を意のままに操るなどと……外道どもめ!」

 

「聞くだけでも、気分の悪くなるような魔道具ですわね」

 

「ああ。だけどよ。これ……なんか引っかからねぇか?」

 

 俺の分だけはとても軽めの食事とは言えなかったが、傭兵出身の俺としては味より量だ。

 そして肉の最後の一切れを口に放り込みながら、俺はマクスフーからこの話を聞いたときに感じた違和感を共有する。

 

「引っかかる? 一体何がだ?」

 

 仮にも貴族相手に外道め! と吐き捨てたユミアは言葉をそのままに受け取り、嫌な顔をしているだけだったが……

 

「……っ!? もしかして……」

 

 口元に手を当ててお上品に食事をするイシス嬢は、何かに気が付いたと言うようにハッとした表情を見せる。

 

「ああ、多分イシス嬢の思っている通りだ」

 

 俺はそんなイシス嬢の表情肯定しながら、ユミアの方を向き直って続ける。

 

「ユミア、お前にだって分かるはずだぜ? レティシア家に仕えている人間は皆、優秀で真面目だ。騎士の連中は確かにイシス嬢に敵わないが、そこらの家の騎士よりはきっと強いし、訓練もそこそこ真面目にこなす。従者連中も気のいい奴らばかりで、俺みたいな傭兵上がりだってすぐに受け入れてくれた。そして、あいつらの中には確かにレティシア家への忠義と尊敬の念がある」

 

「……ああ、それは間違いないだろう。だが、それが何だと………………!」

 

 言いかけて言葉を止めるユミア。

 どうやら彼女も合点がいったようだ。

 

「そうだ。去年、イシス嬢を裏切った従者。そいつにだってそれは同じだったはず。ということはおそらく――」

 

「精神を意のままに操る魔道具の被害に遭ったのですわね」

「精神を意のままに操る魔道具とやらの被害に遭ったのか!」

 

 俺の言葉に続いた二人の声がシンクロする。

 

「ああ。その通りだろう。俺が昨日見た限りではその魔道具はバッジ型だった。そしてその中心には紫がかった水晶がついていた。マクスフーの話だと、そいつは子機でアラゴンの手元にあるであろう親機で起動状態が分かるらしい」

 

「今すぐ全員の服を改めさせよう!」

 

 俺が魔道具の特徴を言って聞かせるとユミアは即座に対応せんといきり立つ。

 だが、俺はそれを諫めた。

 

「それはいいが……少し落ち着けユミア。何も全員を調べる必要はない。調べるのは今日外に出た人間に絞って良いだろう。それより本番は明日だ。確実な情報共有に努めるべきだ」

 

「……ああ、そうか。そうだな。そうしよう」

 

 ユミアの頭に昇った血が引いていく様子が見て取れる。

 そうだ。俺たちが焦っても仕方がない。

 それに恐らく、現状では誰も被害には合っていないはずだ。

 

「セルセト、その魔道具への対策方法などはあるのでしょうか?」

 

 ユミアに比べれば随分と落ち着いた様子のイシス嬢が俺に聞いてくる。

 

「いや、今のところこれと言った手段はない。俺の手でも壊せないほどの強度のディアメント鉱石? だかが使われているらしいが……。触るだけでも危険な代物らしいから、今のところ外を飛んでいる野鳥にでも付け替えるくらいしか方法はない。……それも、引き延ばしにしかならない対処だけどな」

 

「セルセトの力でも……そうですか。ユミア、あなたは確認をお願いします。もしその魔道具らしきものがあればなるべく触れず、処理するように」

 

 俺の話を聞いて、少しだけ落胆した表情を見せながらも、落ち着いてユミアに指示を出すイシス嬢。

 

「かしこまりました」

 

 食事を中断し、颯爽と部屋を立ち去るユミアを見送りながら、俺は再びイシス嬢と向かい合った。

 

「悪いな。本当なら何の心配もなく、サクッと領地まで帰りたかったところなんだが……」

 

「いえ、セルセトが謝ることではありませんわ。元はと言えば私を狙ったものですから。ですが……ディアメント鉱石、ですか」

 

 気にしないでくださいと言いながら、イシス嬢は鉱石の名前を含みのある様子で呟く。

 

「何か、知ってるのか?」

 

「いえ、知っての通り、私もここ一年は領地に籠っておりましたから……ですが、聞いた限りでは確か産出元は王国東部だったかと……」

 

 王国東部……なるほどユミアが昔仕えていたという領地の方か。

 そう言えばユミアも鉱山問題云々で戦争に巻き込まれ、そうして敗走騎士として西部戦線に辿り着いたんだったか。

 

 もしかしたらそれと何か関係があるのかもしれない。

 鉱山開発だって、見つかったからと言ってすぐに大量の鉱物資源が手に入るわけではないだろう。

 国の事業やらには詳しくないが、そのくらいのことは俺にだって容易に想像がつく。

 あの時見つかった鉱山で産出するようになったのが、ディアメント鉱石である可能性は全く否定できない。

 

「あの様子、ユミアは知らない感じだったよな?」

 

「そうですわね。もちろんユミアを信頼していないわけではありませんが、変に動揺させたくありませんわ。産出地の話題などはなるべく控えることにしましょう」

 

「ああ、そうだな。それが良いだろう」

 

 無言で頷き合う俺たち。

 俺とイシス嬢の間でそんなやり取りが交わされたあと、しばらくすると肩で息をしたユミアが部屋に戻って来た。

 

「お嬢様……確認が終わりました。一先ず、当該の魔道具と思しき物は見つかりませんでした」

 

「そうですか。良かったですわ。ユミア、ありがとうございます。少し休んで下さい」

 

「はい。ありがとうございますお嬢様」

 

 ユミアはすぐに息を整えると自分用に紅茶を淹れ直し、軽くソファに腰かけて一息を吐く。

 短時間であの疲れよう……きっと全身どころか持ち物も全て改めて来たのだろう。

 この忠誠心には感服すら覚えるな。

 

 だが、予想通り魔道具は見つからなかったようで良かった。

 とは言え、安心ばかりもしていられない。

 マクスフーの話によれば、取り付けずとも触れているだけで危険な代物なのだ。

 明日の本番にどさくさに紛れて取り付けられ、イシス嬢を害してしまうことだって考えられる。

 それにしても、本当に悪趣味な代物だ。

 一体何が目的でそんなものを使っているのか?

 

「……そもそも、アラゴン家はどうしてこんな魔道具を使ってまでイシス嬢を狙ってんだ?」

 

 慣れない思考をまとめようとして、無意識のうちに思考が言葉となって俺の口から漏れ出た。

 

「そんなもの、お嬢様が可憐で、何よりその心根までお美しい方だからに決まっているだろう」

 

 何をバカなことを、とユミアは言うが、本当にそれだけだろうか?

 

 アラゴン家は公爵家だ。

 それもこの国にも二つしかない、公の爵位を冠する大貴族。

 貴族の考えることは分からないが、いくらイシス嬢が理想的だからと言って、精神を意のままに操る魔道具なんて言う危険な物まで使ってどうこうしようとするのだろうか?

 

「……」

 

 しかめっ面で思考を巡らす俺の正面でイシス嬢は神妙な面持ちを携えていた。

 

 ◇◇◇

 

 同日、深夜。

 俺の警戒範囲内にマクスフーの気配がかかった。

 どうやらしっかりと約束は果たすつもりらしい。

 

「ユミア、俺は少し出て来るぞ」

 

 昨日と同じようにイシス嬢とユミアと並んで横になっていた俺は言いながら立ち上がった。

 

「ああ、昨日言っていた件だな?」

 

 すると、だいぶ慣れたのか自然体のユミアが確認してくる。

 

「そうだ。イシス嬢のことは任せるぞ」

 

「フッ、誰に物を言っている。当然だ。貴様は何も気にせずに……いや、なるべく早く戻れ」

 

「……? ああ、じゃあ行ってくる」

 

 一瞬だけその視線がイシス嬢の方に揺れたユミアにそう言われて送り出されながら、俺は昨日マクスフーを詰めたあの物陰を目指して走り出した。

 

 

 

「よう。収穫はあったか?」

 

 目立たないように影の中を音を消して走り、辺りに俺とマクスフー以外がいないことを確認してから、何故か角の方に顔を向けてこちらに背を向けたままのマクスフーに声を掛けた。

 

「……あった。あったけどよお」

 

 すると、昨日とはまるで別人のように頬のこけたマクスフーがこちらを振り返る。

 

「うおっ……何だお前その顔……」

 

 元々不健康そうなやつではあったが、ここまでくるとさすがの俺も心配を通り越して引いてしまうほどだった。

 

「てめぇ、セルセト! 最悪だよ! なんてことに首を突っ込ませてくれてんだ!」

 

 すると、一歩引いた俺の肩に纏わりついてマクスフーが嘆く。

 深夜の路地裏でやばい顔のやばい男に絡みつかれるという最低最悪のシチュエーション。

 だが、そんなことなど気にした様子もないマクスフーは尚も続ける。

 

「どうやらアラゴン家はやべぇことを企ててるかもしれないんだよ! 明日のパーティに備えて王国騎士団の隊長までもうここに来てやがる」

 

「あ? 騎士隊長だと?」

 

「ああ。あの王国最強を謳われる騎士隊長レイルが来てやがるんだ!」

 

 マクスフーは言い切らないうちに何故か頭を抱えてうずくまる。

 

「レイルの野郎が来ているからって俺たちが気にすることはねぇだろ? お前は何をそんなに気にしてんだ?」

 

「お前、騎士隊長レイルがここいる意味、ほんとに分かってないのか?」

 

 信じられない、とでも言いたげな顔で俺を見上げるマクスフー。

 

「いや、そりゃ公爵家の成人パーティーなんだから王室としてもそれなりの人物を寄こすのは普通なんじゃないのか?」

 

「そりゃ、そうだけどよ……! そうじゃなくて、騎士隊長レイルが陰で何て呼ばれてるのか、ほんとに知らないのか?」

 

「陰? 知らねぇよ。俺は二つ名なんか興味ねぇしな」

 

「……はぁ、そういやそうだったな。戦場の殺戮者、悪鬼羅刹に死神さんよ! ケッ! これだから馬鹿みたいに強い奴らは嫌なんだ」

 

「おい? 死にてぇか?」

 

 戦場の殺戮者は少しだけ気に入っていたが、他の二つはもはや人間扱いされていないようだから気に入らない。

 

「ヒッ! じょ、冗談だろ。……それで、レイルの二つ名だけどな。……執行者、そう呼ばれてんだよ」

 

 俺が腰に下げたチャーム状態の斧に手を伸ばす仕草を見せれば、すぐに小さくなったマクスフーが話を戻してそう続けた。

 

「執行者? なんだそりゃ?」

 

「簡単な話だ。騎士隊長レイルは王室に逆らう人間には容赦しない。今までに反逆を企てたいくつもの貴族家が消されてる……今回のアラゴン家のパーティーにそんな執行者が駆り出されてるってことはだ」

 

「……何かあるとみて、間違いないと?」

 

「ああ。十中八九、アラゴン家は精神を意のままに操る魔道具やらを使って何かをするつもりだ。そしてそれは王室からレイルが派遣されるような重大事項つまり……王位を狙った何かの可能性が高い」

 

 少々話に飛躍を感じないでもないが、俺は元傭兵で今はただの護衛役。

 それに対して、コイツは現役の情報屋だ。

 警戒しておいて損はないだろう。

 

 それにやはり、精神を意のままに操る魔道具なんて代物を使おうとするのには相応の理由がありそうだということも分かった。

 あとは、それとイシス嬢がどんな関係にあるのか、だが……。

 

「……分かった。それで、他に何か分かったことはないのか?」

 

「……一つだけ、分かったことがある」

 

 思考を巡らせながら、念のため持ってきた金貨を一枚握り込ませながら聞いてみれば、顔つきを変えて幾分か健康そうになったマクスフーが神妙な面持ち告げてくる。

 

「アラゴン家はレティシア家の秘宝とやらを狙っているらしい」

 

「……レティシア家の秘宝?」

 

 その言葉を聞いた途端、俺の中で何かが繋がって行くような感覚があった。




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