性格無改造の禪院扇さんに、できる限りいい空気を吸わせようと試みる社会実験的な話 作:ひさなぽぴー
禪院家に女として転生した。これだけ聞くと、呪術廻戦という作品を知っている人は大体「あっ(察し」となり、盛大に同情してくれることだろう。
しかも父親が、ドブカス直哉くんよりもなおカス極まる扇のオジさんとなれば、悲惨度はうなぎのぼり。二十四時間テレビでドキュメンタリーになるレベルというものである。
ただ、前世で死ぬ直前までブラック企業に勤めていた身からすると、禪院家ですらまだマシというか……。
確かに男尊女卑がエグい禪院家で女、というのは境遇としては悪い。直哉とか、三歩後ろを歩かれへん女は死んだらええとか、フェミニズムこじらせたやつが聞いたら発狂しそうなこと公言してるもんな。
直哉ほどじゃないにせよ、禪院家全体にそういう風潮があるのは事実である。女であるというだけで、スタートラインに立てない家なんだよな。
しかし禪院家は、同時に実力主義を旨とする呪術界御三家でもある。転生特典のおかげで、呪力はもちろん生得術式まで持っていることが生まれる前から確定している身としては、殴り倒せてしまうのであればある程度はどうとでもなる、という点でブラック企業よりはマシだと言えてしまうんだよなぁ。
基準が低い? ごもっとも。
とはいえ、ここで「俺が禪院家の悪習をぶっ飛ばして大改革してやるぜ!」と思えるほど、俺の志は高くない。そういう熱は、ブラック企業に勤めている間に擦り切れてしまった。素直に面倒です。
非術師を守るために呪霊と戦おう、という使命感も特に湧かない。素直に、面倒です。
原作に介入して、渋谷事変などの大事件で発生する人的被害を減らそう、なんて気概もない。素直に……! 面倒ですから……!
ただ、そんな俺でも二度目の死はできるだけ引き延ばしたい。今度こそは天寿を全うしたい。
だから最低限、真希に禪院家を滅ぼされるのは阻止したいなと思うわけだけど……極力面倒じゃない方法でなんとかしたいなぁ、と思ってしまうのが俺である。基本的に怠惰な人間なのだ、俺は。
というわけで、俺は今世の父である禪院扇に目をつけた。
え、扇を真人間にする? いやだよそんな七面倒くさいこと。
あのどうしようもないカス・オブ・ザ・カスを矯正するなら、それこそ赤ん坊の頃から絡まないと無理に決まってる。
それか、オラッ催眠とか。既に三十代のオッサンの性格を変えるなんて、無理に決まってるだろ。
そうじゃなくて、俺が狙ってるのは扇の圧倒的強化だ。
原作では散々自分は強い、自分が当主になれなかったのは子供の出来が悪かったからだ、なんてカスの自己弁護をしてた扇である。その夢叶えてやろうじゃないかって話さ。
俺が転生特典としてもらった術式なら、それができるはずなのだ。できるだけ楽をして成長できるように、と願ったものだから。
というわけで、俺は扇にめっちゃ強くなってもらって、いい空気を吸ってもらおうと思う。
それで、渋谷事変をゴジョセンに変わって平定してもらって、死滅回游なんて起こさずに、悠々自適の生活をのんべんだらりと過ごすのだ。
渋谷事変で、両面宿儺と扇に相打ちになってもらうのがベストかな。そうすればあと腐れない。
それで宇宙人が来る直前くらいに、寿命で死ぬ。それができたなら、完璧な第二の人生と言えるだろう。
もちろん色々と運が絡むだろうし、敵として立ちふさがる両面宿儺や羂索は強敵だ。何もかもが目論見通りになることはないだろう。
それでも、とりあえずやってみようと思う。趣味と実益を兼ねた、およそ30年に及ぶ長期計画だ。
大丈夫。ベストを踏めなくても、なんならベターでなくとも、案外人生なんとかなる。そう自分に言い聞かせる手腕だけは、それなりに自信があるから。
***
俺と扇のファーストコンタクトは、生後一週間が経ってからだった。
この間、俺は「男の子に生んであげられなくてごめんね……」と謝罪を繰り返しながら、さめざめと泣くマッマと四六時中一緒、という比較的地獄な環境にいた。
最初はなんだこのやべー母親はと思っていたが、夫……つまり父親の名前が扇と聞いて完璧に理解したよね。
そして先述の結論に達するまでに約一日半。そこから扇に出会うまで、とりあえずやることもないから呪力操作の練習をずーっとしてたわけよ。
で、遠方の任務に当たっていたらしい扇が戻ってきて、最初に放った言葉がこれ。
「……女、か。まったく、使えんやつだ……」
この世で一番かわいい生き物筆頭候補こと、ふくふくもちもちな赤ん坊を見て、こんなんですからね。さすが禪院のダメな煮凝りだと思ったよね。
顔に浮かんでいるのは本気の失望と軽蔑だったし、本当にこいつどうしようもねぇなって。
もちろんマッマは謝罪をしようとするけど、扇は見向きもしない。まっとうな子供を産めなかった女と話すことなど何もない、って態度だった。
これに対して、思うところがないとは言えない。いくらなんでもかわいそうだと思うくらいには、まだ俺にも人の心はある。
だからこそ、生後一週間の中でも最高の出来と自負できるくらいの呪力を放つことができたわけだし。負の感情によって生じる呪力を操作する上で、怒りもまた重要なファクターって改めて実感したよね。
「……呪力? まさか? ゼロ歳で?」
そしてそんな俺の呪力を見て、扇は驚いた顔を見せて硬直した。呪術の名門、禪院の宗家に生まれ育った扇としても、これは普通ではないからだろう。
だからこそ、彼がそれまでの不機嫌さを少しだけ収め、かすかに好奇心をにじませた目を向けてきたとき、俺は心の中で喝采を上げた。
(フィィィーーッシュ!!)
そう、俺はこのとき、かなりテンションを上げていた。ぶっちゃけて言えば、ワクワクしていた。
だってここからこのどうしようもない男を、いかに強くしていかに気持ちよく無双させてやるのか。どこまでやれるのか。育成ゲームにおけるある種の縛りプレイみたいな、そういう難題に挑む高揚感に酔っていたから。
何を隠そう、育成ゲーは色々と好きでやりこんでた口でね。特にポケモンとかね……ふふふ。
対戦向けの育成はもちろん、縛りプレイで本編をクリアしたりとか、そっち方面のやりこみもしていたことがあるくらいだ。
社会人になってブラック企業勤めになってからはろくにできていなかったが、昔取った杵柄とはよく言ったものだと思う。
まあ人間に対してそういう見方をしてしまう俺は、イカれたやつだとは思う。逆にだからこそ、呪術師として生きることに忌避感とかがなかったんだろうな、とも思う。
「……間違いない、確かに呪力だ。しかもこれは……ふむ……なるほど……そういうことか……」
何がそういうことなのかはさっぱりわからないが、扇は俺の立ち上る呪力を見て何かしら納得したらしい。
顎に手を当てて、いかにも思慮深い人間ですとでも言いたげなポーズと共にかすかに頷いた彼は、それまでの態度を一転させてマッマの肩に手を置いた。
怯えて身体を震わせるマッマ。扇のこれまでの所業を考えれば、そらそうよってなもんである。
「先ほどの言は……少し過ぎたな。無事に生んだ功は認めよう」
次に出てきた扇のセリフに、無量空処を食らったみたいにぽかんとするマッマ。これもまたそらそうよ、である。
ただ、これまで色々と虐げられてきただろうマッマにとっては、これは救いだったようだ。理解が及んだ途端にぎこちなく笑みを浮かべながらも、「ありがとうございます」と弾んだ声と共に頭を下げたから。
とはいえ、そんな中でも扇が見ているのはマッマではない。彼の視線は俺にまっすぐ注がれており、それ以外のことはまったく眼中にない様子。そういうとこやぞお前。
どうせ今も、「とりあえず胎としては使えそう」とか考えてるんだろ?
「立派に育てよ……」
精一杯の柔らかい声を出そうとしてるんだろうけど、「立派に(術式に目覚めて)育てよ」ってことでしょう?
でも使えない術式だったり、術式に目覚められなかったら、即座にゴミ扱いするんでしょう? 目が冷たいままだもんな。
そのくせ計画通り、って顔してるのは草なんよ。気が早すぎるんだわ。
まったく、悪い意味でこうもわかりやすい人間もそうそういないだろう。ま、そのほうが踊ってもらう側としてはやりやすいけどね。
(待ってろよ。間違いなく大当たりの術式だから楽しみにしてるといいぜ)
まだ口がろくに動かせないので、心の中でそう声をかけた俺の目には。
まさにその術式による画面が浮かび上がっていた。
***
俺が転生特典として冥府の女神、イザナミノミコトに願ったのは、彼女が主催しているあの世での異能力バトルトーナメントで用いられていた、メニュー画面である。視界の中に空中投影のような画面を展開し、それを操作することで様々な効果を得るというものだ。
出場者には生前の行いに応じた徳ポイントとでも言うべきポイントが与えられ、それを好きなように使って自身を強化できた。
強化の範囲は本当に様々。試合用に渡された異能力だけでなく、身体能力や技術、あるいは知識すらも獲得することができた。なんなら、メニュー画面の中には「購入」なんて枠もあり、色んな道具を手に入れることすらできた。
個数制限はあれど、インベントリまであったからな。本当にゲームみたいなシステムだった。
……メッセージ機能だけは、まあ、うんって感じだけどそれはさておき。
元来怠惰な俺は、これを見て「これがあれば大して努力なんてしなくても勝ち組一直線やんけ!」と直感。優勝してもらう特典はこれしかないと確信したわけだ。
まあ、結局俺は優勝なんてできず、それどころか予選敗退だったわけだが。
それでも予選敗退者にも救済措置はあり、なんとかおこぼれで転生特典を頂戴したというわけである。
ただし、俺が望んだ特典は必ずしも望み通りの形ではない。本当であれば、世界の枠外から問答無用で行使可能な、文字通りのチートを望んでいたのだが……死後の世界で渡されていたあのメニュー機能は死後の世界専用らしく、転生先の世界に存在する異能力の枠に収まる形にダウングレードされている。
この世界は呪術廻戦であるため、それが俺の生得術式と言うことになる。術式であるため、たとえば領域展開後は焼き切れてしばらく使えなくなるし、天逆鉾でぶっ刺されても使えなくなるわけだな。
しかしダウングレードされてもなお、破格の能力であることは間違いない。何せ限界を無視して能力を付与できるんだ。本来であれば血がにじむような訓練を重ねてようやく習得できるものを、数回指でタップするだけで手に入れられるなんて、破格以外の何物でもないだろう。
術式名は管制呪法。己のすべてを呪術的に、管理・制御する呪いである。
ただし、諸々に割り振るポイントはあの世の頃と違い、徳ではなくある種の経験値だ。イザナミノミコト曰く、魂に蓄積される積み重ねであるそれに指向性を与え、最高効率で心身に還元する。それがこの能力の本質であるらしい。名前含めて、
適当な言葉を考えるのが面倒だから、この「魂への蓄積」を今後はシンプルに経験値と呼ぶが……そういう背景があるので、人生二度目である俺は、生まれながらにしてある程度の経験値が既に溜まった状態でスタートしている。
とはいえ、今この瞬間にステを伸ばすのはナシだ。ある程度のところまでは訓練で後天的に上げられるんだから、そうじゃない部分を伸ばすのに使うべきだろう。
後天的に伸ばすことのできない、才能そのもの。そういうところが狙い目だ。
たとえば反転術式の才能なんかは、どんなに努力してもそうそう得られるものではない。この辺りから取り掛かるべきだろう。
それはもちろん回復のためということもあるが、一番の理由は俺の術式を反転させたときにどうなるかの推測が立っていたからでもある。
管制呪法は先にも述べた通り、己のすべてを呪術的に管理・制御する呪いだ。ではこれを逆転させるとどうなる?
俺は他のすべてを、呪術的に管理・制御する呪いになると解釈した。俺がそう決めた。
そして事実、術式はそのように稼働した。言ってみれば、術式反転の拡張術式とでも言ったところか。
俺が扇を強化してあげよう、って言ってるのも、こうなるんじゃないかと推測していたことが理由だな。
原作だとマジで直哉の言う通り「パッとせぇへん」以外の何物でもなかった扇だが、この術式の恩恵を受けられれば、ハイパー禪院扇も夢ではない……はず!
まあとはいえ、最低でも一、二年は表に出さないつもりだ。あの世で使っていた頃との違いがどれくらいあるか、まだ把握しきれていないんだよな。
だからその辺りの感覚をつかめるまでは、ただの赤ん坊をしていようと思ってる。試してみたいことも色々あるし、何より経験値を獲得するのに最も効率がいいのは何なのかを調べておきたい。
いやあ、どこかにはぐれメタル的なやついないかな? ぜひとも呪霊にいてほしいところだ。
***
それからおよそ三年半後。赤ん坊から幼児に成長した俺は、そろそろいいだろうと判断して術式が発現したと報告した。
これにマッマが大喜びしたのは言うまでもない。しかし扇としても、待ち望んでいた瞬間だろう。何せ報告して、一時間と経たずに扇に自室に呼び出されたからな。
いよいよここからが正念場だ……と思いながら、禪院家の教育通りに折り目正しく男を立てる形で声をかけ、中に入る。
扇は部屋の奥で待ち構えていた。それとなく観察したけど、全体的に殺風景と言うか……趣味とか特に何もない、つまらない人間の部屋って印象だ。東堂が見たら唾棄するんじゃないですかこれ。
「……座れ」
「はい、父さま」
言葉少なな扇に促されて畳の上に座る。もちろん正座だ。
「聞いている。術式が出たそうだな。是か非か……是であれば、どのような術式だ?」
目が完全に商品を値踏みする商人なんよ。間違っても親が子にする目じゃねぇ。
だけど俺は生まれてからというもの、この男に気持ちよく無双してもらうために従順な娘であり続けた。今回もそうするのみである。
「はい、父さま! わたしの術式は、対象の呪力を起点に自分や他人を強化するものみたいです。ええと、潜在能力を引き出す、というのがもう少し正確かと思います」
子供らしい舌足らずな、しかし大人顔負けの語彙で話す俺に、扇が驚くことはない。こいつに対しては普段から、喋り自体は猫をかぶっていないからな。
最初は俺も、もっと子供らしく演技しようかなと思っていたんだ。だけどこの男、子供のことを意思疎通のできない獣か何かと思っているのか、子供っぽく振る舞いながら近づいたり声をかけたりするだけで機嫌悪くするんだよ。
扇が機嫌が悪いと、マッマはもちろん周りの使用人たち(俺が最低限使える駒と認識したからか、きちんと配置されるようになった)がビクついて空気悪くなるからさ。めんどくせぇってなって、すぐに普通にしゃべるようにしたんだわ。
これに対して「うちの子は天才だ!」みたいなリアクションは、主人公が転生者ななろう小説にありがちだけど、扇は一味違う。
どこまでも自分中心なこいつのリアクションは、「さすが、私の子供ともなればこれくらい早く育つのだな」だった。親バカっていうか、シンプルにバカ親かなって……。
「……潜在能力を……引き出す、だと……?」
低い声が投げかけられる。目が細まった。疑念と興味がないまぜになった感じだ。
その頭の中では、色んな思考が巡っているんだろう。それくらいは思い至ってもらわないと困る。
「……それは、どれほどの効果が見込める? 答えよ」
「対象にしたものによって変わります。今までわたしが会ったことのある人だと、父さまが一番たくさん引き出せるみたいです!」
俺の答えに、扇が「ほう……」と言いながら口元を隠しつつ顎を撫でさする。口元が明らかに緩んでいたのが見えたから、隠そうとしたんだろうな。
そりゃまあ、禪院家の落伍者として人生をスタートさせ、兄という相伝の術式の持ち主の後塵を常に拝してきた扇にしてみれば琴線に触れる言葉だったろうさ。
ただ、一応これはお世辞でもなんでもない。これまでの三年半ほどの間で、俺が見ることができた人間で最も能力に経験値を振れるのは扇だ。
もちろん嘘は言っていないだけ、の詭弁だけどな。
まず、自分自身を除外している点。これは当然で、自分が自分に出会うことは基本的にあり得ないからな。
それから、普段俺の周りには非戦闘員の使用人しかいない。禪院家においては何段も立場が低い彼女たちに、経験値がたまる機会なんてそうそうないということだ。
そして最後に、他人の保有経験値を見るには、一定範囲まで対象に近づく必要がある。禪院家で低く見られる女の子供に、そこまで積極的に近づこうという男はいないというわけだ。
これらを踏まえて、俺は扇が喜びそうな言葉を選んだ。ここに、さらに後押しを入れる。
「術式が発現したとき、まず試しに自分を強化してみました。昨夜のことです」
言いながら、手のひらを上に向けて呪力を操作する。昨日と比べて、明らかに呪力操作の精度が上がっている。
扇は昨日の俺の状態を知らないが、少なくともこれが三歳児にできるレベルではないことは理解できるだろう。
なんなら、扇自身の操作精度に肉薄するレベルだということもわかったようだ。目をかっぴらいて俺を凝視している。
プライドが傷ついたか? 安心しろよ、すぐに引き離させてやるから。もう少しだけ説明を聞いてくれよな。
「あれから一日近く経っていますが……ご覧の通り、まだ強化は続いています。……これ、一度強化したらずっと続くのです」
「永続……だと……? バカな……!?」
扇が驚くのも無理はない。呪術界に能力強化……バフ技は数あれど、永続するバフ技はそうそうないのだから。
一応、該当するものがないわけではない。
「し、縛りは? それほどの強化、縛りでもなければ到底あり得ぬ!」
扇が詰め寄ってきた通り、縛りがそれだ。
しかし縛りは、何かを犠牲にする代わりに他のものを強化するもの。見合った何かを差し出さなければ、得られるものではない。それが呪術界の常識だ。
今日まではな。
俺の術式はそんなリスクはない。この術式でしか使えないコストである経験値を消費するだけ。たったそれだけで、永遠の強化が果たされる。
「
否定と、続く説明を聞いた扇は、硬直した。なんなら十秒近く、彼は固まっていたと思う。
しかしそれ以上が経つと、わたしの術式がいかに規格外かを理解できたのだろう。そんな玉とも言えるものが、自らの手に転がり込んできたことも。
扇の顔が歪んだ。黒い欲望が全身からにじみ出る。
完全に悪役の顔だ。予期せぬ幸運に恵まれて、鼻息を荒くしている小物系の。
彼はそうして、しばらく小さく笑っていた。きっと今、彼の頭の中では栄光へ続くロードが一瞬にして構築されていることだろう。
いいだろ? 今まで現実逃避でしかなかったそれが、実現するんだぜ。俺さえいればな。
「……よく。よくぞ、生まれてきてくれた。私は嬉しいぞ……!」
ひとしきり頭の中での妄想が終わったのか、扇は表情を元に戻してそう言った。い、今さら感すげぇ~~。
しかも、表情戻しきれていない。口元が歪んでるぜ扇さんよぉ。
しかし俺はそれを指摘しない。むしろその背中を全力でプッシュする。
倍プッシュだ……! お前がほしいのはこの言葉だろう!?
「わたし、父さまのお役に立てますか?」
「ああ、もちろんだとも! 期待しているぞ、我が娘よ」
チョロいですわ。
「はいっ、わたしがんばります!」
今さら父親面して頭をなでてくる(マッマに比べてヘッタクソ!)扇に笑顔を返す。
これに対して、扇は何かに気づいたように少しだけ目を開いた。それから顎に手を当てて考え込みながら、次の言葉を口にする。
「そうだ、お前にきちんと名をつけてやらねばならんな。ふむ……」
生まれてから三年以上経ってるのに名前つけてなかったのかと思った皆さん、あなたたちの感情の動きはとても正しい。
けど扇だぜ? 大して役に立たない女の子供に、自分から進んで名前つけるわけないじゃんね。原作でも、真希たちの名前はたぶん自分でつけたもんじゃないと思うよ。
ただ幼児とはいえ、意思疎通できる存在に名前がないのは不便だ。だからマッマたちは仮の名前でずっと俺を呼んでいたから、真希たちの場合はそれがそのまま定着したんだと思う。
しかし俺は、扇にとって超有用な術式を持って生まれた。これにより、扇の中で俺の株価が全面ストップ高となり、自ら名前を付けてもいい存在になったのだろうなぁ。
ただこいつ、ネーミングセンスあるんだろうか。げろしゃぶとかフーミンは嫌だな……なんて思いながら内心戦々恐々としていた俺は、次の瞬間腋に両手を入れられ、高い高いをされることになった。
「よし……
そう言いながら俺を掲げる扇の顔に、慈愛の色は相変わらずなかった。
ただ、扇にしてはなかなかいい名前じゃないかとは思った。だから俺は、比較的素直にうんと頷く。
「篝……はい、わたし篝です! ありがとうございます、父さま!」
「うむ、精進するのだぞ。お前の力、私の……いや、禪院のために使うのだ」
私っていいかけたなコイツ!? ちょっとくらい隠す努力をしろ! 本当にお前、そういうとこやぞ!!
***
マッマが名付けてくれていた名前は、幼名ということで処理されました。役所への届け出とかどうなってるんだろうな。なんとでもなるんだろうか。なるんだろうなぁ。
そして翌日から、三歳の子供に課すにはなかなかハードな訓練と教育が施されるようになった。一般教養の範囲で言えば、小学校高学年レベルの話が普通にどんどん出てくるし、戦闘訓練も平気で呪力を使った殴り合いだから、どう考えても未就学児にしていい教育ではない。
しかし俺は普通の子供ではないから、これについていける。前世で培った学力はお勉強を最低限に圧縮してくれたし、あの世のバトルトーナメントで習得した各種技能は転生してからも残っているから、戦闘訓練にも食らいつけていけている。
戦闘訓練でなんて特に多く時間が割かれていて、おかげでしばらくは退屈しなさそうである。良くも悪くも。
しかもこの戦闘訓練、常に扇がマンツーマンで指導してくれるという素晴らしい環境だ。おかげで色々と勉強になっている。
……と、ならねぇのが扇クォリティである。
こいつ、教えるのもほんっとうにヘタクソ! 見て覚えろか、ただ問答無用で殴る蹴るをされるだけって言うんだから、教育とか特訓ってレベルじゃねぇぞ!
それでなんでだよと思って術式でステータス見てみたら、教導スキルのレベルが驚異のゼロでしたからね。しかも全然上がる気配がないっていう。
これまでの経験上、ちゃんと目的意識を持ってあれこれ試行錯誤したりしていれば、スキルレベル1には比較的簡単に上がるのに。そこから上がるとなると、試行回数やある程度センスも必要になってくるから2以上に上がりづらいのはわかるんだが……扇ェ……。
これは要するに、扇に本心から全力で指導しようという気概がないということに他ならない。そういう態度でやっていても、経験値はたまらないのだ。
そんなだから、原作でもパッとしないって言われるんやぞ。仕方ないからこっそり教導スキル上げてやったよ。
こらえ性のない扇は溜まった経験値をすぐに使ってしまうから、こんなところで無駄な経験値を消費したくなかったが、こればっかりは仕方なかった。
だって俺のためにならないんだもん。経験値って何かしら学んだり身に着けたりしたものの余りであったり、端数であったりが魂に蓄積するものだから、ためにならないことを延々やってたって稼ぎにならないんだよ。
俺の経験値稼ぎのためにも、扇の教導スキルを上げるのはどうしても必要だった。必要だったけど、釈然としないものはあるよねって……。
ともあれそんな日々なんだが、扇自身の育成はそれなりに順調と言える。ステ振りにしろスキル上げにしろ、RPGなんかと同じく限界値に近づけば近づくほどに必要な量が増えていく仕様だから、扇の育成が順調というのは裏を返せば、それまで能力が低かったということの証明なんですけどね。
それに気づかず、ぐんぐん成長していく自分を評して「やはり私は誰よりも才能があるのだ……!」と得意げにしていたお前はお笑い種だったぜ。禪院の女としての教育をばっちり受けてる俺は、もちろんそんなこと口が裂けても言わないが。
しかも何が面白いって、扇のステータス平均的に低かったからね。まんべんなく色んなことができる、と言えば聞こえはいいが、要するに器用貧乏である。
HD2D以前のサマルトリアの王子かな? そりゃあ「パッとせぇへん」って評価になりますわ。
ちなみにそんな扇の育成方針は、扇の意向が優先されるので俺は基本ノータッチ。
しかし基礎身体能力と呪力総量を基本に、呪力操作それも反転術式も絡めて伸ばしていく方針は、俺の考えと一致している。
結局のところ呪術というのは、フィジカルがモノを言う。ゴリラ廻戦とはよく言ったもので、最後に頼れるのは肉体なのだ。
ここに反転術式による自己再生が入れば、それだけで上位数パーセントの強者になれる。この辺りのことは、さすがの扇も承知していたということだろう。
術式を伸ばすのも悪いわけではないが……呪術廻戦における術式はヒロアカの個性なんかと同じく、当人の解釈をどう広げるかなところがある。出力を伸ばす意義はもちろんあるが、解釈を広げてやれることを増やすほうが効果は大きいし、そういう内心の話はさすがにチートのメニュー画面でも範囲外なので……。
あ、俺自身の育成方針は呪力操作を中心に高めつつ、結界術にも多めに経験値を振ることにしている。呪力操作については反転術式のアウトプットができるようになりたいからで、結界術については領域展開に繋げるためだ。
結界術は他にも、空性結界をはじめとした色んなことに利用できる。覚えておいて損はないスキルだから、優先度が高いというわけだ。身体能力は、子供のうちに上げてもな……とも思ってるしね。
***
経験値がたまる仕組みは、何かしら学んだり身に着けたりしたものの余りであったり、端数であったりが魂に蓄積していくことによる。前に言った通りだ。
だが実は、これ以外にもう一つ経験値を得る方法がある。それは他の命を殺すことだ。
そうすれば、その命が持っていた経験値の何割かが手に入る。そしてこの割合は、同族相手を殺したときに最も高くなる。
というわけで、実のところ最も効果的な経験値稼ぎは大量殺人をやることだったりする。ただそれは、さすがの禪院家でもタブーである。
ただ、我々呪術師は殺しても誰からも咎められない……それどころか、礼賛されるし奨励されている相手がいる。呪霊だ。
呪霊は元々、人間の負の感情から生まれるもの。つまりその存在の何割かは、人間が絡んでいる。
だからなのか、呪霊を祓って得られる経験値は結構多い。人間の次くらいに多いから、マジで呪霊と言う存在自体がはぐれメタルみたいなもんというか。いやあそこまで劇的には得られないんですけどね。
そんなわけで、扇は以前にも増して積極的に任務に出るようになった。能力が上がったから、今まではなんやかんやで避けていた強い相手も下せるようになり、それによって自信をつけた彼はきちんと任務に取り組むようになり……という好循環である。本人はただ楽して強くなりたいだけなんですけどね。
理由はどうあれ扇が率先してやるようになったことで、素直に称賛を受ける機会が増えている。そういう意味でも好循環は始まっており、今までずっとちょっとキレてる感じだった扇の心にも、少し余裕ができてきたように見える。
ただ、扇の本質が改善されるほどでもない。何せ扇のやつ、六歳の幼女を呪霊退治に普通に連れ出すからな。無茶ぶりもいいところである。
いやさ、確かに俺への詰め込み教育は六歳で大体終わったよ。前世の記憶とチート術式のおかげでつつがなく終わったさ。
だけど戦闘力の強化はまだまだだ。直接的な攻撃力にかなり背中を向けるビルドを組んでいるから、戦闘になると毎回死を覚悟するような状況に放り込まれるんだぞ。扇はそれを見ているだけだ。相変わらず教えるのがヘタクソ!
なんならまったく見てないときもある。この辺りの呪霊全部祓っとけよ、俺はあっちやってるから、みたいなことがちょくちょくあったの、マジでふざけんなって感じですよ。
呪術師が単独で任務するのが許されるの、二級からでしょうが! こちとら無級やぞ!
いや確かに、四級や三級程度の呪霊なら、大人の精神年齢+チート術式による強化が乗ってる俺がてこずることはないよ。でもさすがに一級の呪霊はまだ無理なんだわ!
これをあの男、わざとやるからタチが悪い。なーにが「お前ならできる」だよ。限度ってものがあるんだよ! 父親に従順で素直な娘を演じてるから、はいって言ったけどさぁ!
おかげで死にかけたわ! 誰がどう考えたって、六歳の子供にやらせることじゃねぇからなマジで!
このせいで費用対効果があんまりよろしくない購入システムを使わされたの、わりと結構根に持ってるからな俺!
今回は一回こっきりの使い捨てって縛り設けて割り引いたけど、それでも高かったんだからなルール〇レイカー!
ただ、扇の「よくやった、それでこそ我が娘よ」という言葉が普通に嬉しかったのは、認めたくないが事実である。
いや……前世のブラック企業の上司ども、何をやっても一切褒めてくれなかったからさ……。それに比べたら、一応褒めてくれるだけ扇のがマシっていうか……。
世の中上には上があるとはよく言ったもんだが、下には下もあるのだなぁとね……思うなどしたよね……。
……言ってて悲しくなってきた。この話やめよっか。
話を戻すんだけど、そんなわけで俺は扇の任務にくっついて、あちこちに出向いている。
ちょうど呪霊が大量発生していることもあって、経験値がどんどんたまっていくのは見ていて気持ちがいい。ついでにあちこちから感謝されたりお礼の品をもらったりして、なお気分がいいっていう。
そんなことを思う辺り、俺もきちんと扇の娘だなって気もするが、それはなるべく考えないようにしてる。
え、なんで呪霊が大量発生してるかって? 1995年だからって言えばわかってくれる?
そう、阪神大震災と地下鉄サリン事件が起きた年である。
これのおかげで呪霊の大量発生が日本全国、特に関西と関東それぞれで起こっていてね……。この影響はもちろん地方にも波及したから、結局全国規模の大騒動の真っ最中なのよ。それこそ猫の手も借りたい状況なんだわ。猫の代わりに六歳児の手を借りたのが扇ってわけだな。
いやもう、本当に忙しかったよこの一年間。修行と経験値稼ぎのためとはいえ、日本各地を北へ南へ、西へ東へ移動しまくりながら各地の呪霊を祓うばかりの旅である。
さながらサイコロの旅並みにあっちこっちへ振り回される、全日本呪霊退治行脚だった。
マジで前世のブラック企業勤め並みの激務だった。もう二度としたくない。
だって三日のうちに京都から東京、次いで福岡、かーらーの香川なんて移動がザラだからね。マジでどうかしてる。
大泉洋さんはすげぇよ。飛行機使っててもしんどいのに、バスと電車だけなんだもん。
たぶん何かしらの術式持ってるんだと思う。またしても何も知らされてないのはそういう縛りなんじゃないかな。
***
まあ二度とやりたくないとは言ったものの、正直経験値的にめちゃくちゃおいしかったのは否定できないのが悔しいところである。
これまで経験したことのない戦闘をたくさんこなしたからか、経験値の溜まり方エグくってさ。
おまけに俺の術式、術式反転させたらさらに無法ということが発覚してしまってね。この調子で行けば俺、本編前の0編の時点で最強になれるんじゃないかな。
いやさ? 俺の管制呪法って自分や相手の経験値をステータスやスキルにして付与できる、ってやつだったじゃん?
それが元はあの世でのトーナメントで使われていたもので、ステ強化以外にもインベントリや購入、メッセージが使えるって話もしたと思うんだが。
これを……購入という機能を逆転させたら、どうなると思います?
そうだね、売却だね。
おわかりいただけるだろうか。俺はなにがしかを売却すると、経験値が手に入るのである。誰がどう見てもこんなんチートと言えるだろう。
もちろん売却したものはこの世から消滅するし、レートの差からぼろ儲けと言えるほどではないが……売却できる価値のあるものなんて、そこらへんにあふれてるわけよ。そりゃあやるでしょ。売却。
ということで、約一年に渡る過酷な呪霊狩りwith売却祭りの果てに、俺は反転術式と結界術のスキルが爆上がりした。
どちらもスキルマックスではないものの、ひとまず反転術式のほうは目指していたアウトプットおよび他人の回復ができるようになった。今は結界術のほうにリソースを注いでいるところだ。
ただし、他人を回復できるようになったことはまだ伏せている。知っているのは俺と扇だけだ。
これを知った扇、嬉々として直毘人に自慢しに行こうとしたもんだから慌てて止めたよ。初めてレベルでカチキレられたけど、ここは譲るつもりはなかった。
何せ反転のアウトプット使いとか、希少すぎる。原作に出てきた使い手が、全編通しても三人しかいないというレア度なのだ。
そんな使い手の女と来れば、男尊女卑が激しい禪院家のことである。飼い殺しにして治療だけする機械みたいな扱いを受けかねない。あとは子供を産むだけの胎か。
七歳でそんな立場に押し込まれるのは、さすがにごめん被る。俺は確かに怠惰で面倒ごとは嫌いだが、たった一つのことだけを延々とやり続けられるほど強靭な精神はしてないんよ。それならまだ、命の危険はあっても呪霊退治のほうがギリマシっていう。
もちろんそんなことを言っても扇が納得するはずがないので、俺という存在の身柄が半ば禪院家の共有財産になりかねないという危惧を表明した上で、もっといい案を提案する。
すなわち、反転術式使い量産計画である。
俺の管制呪法を使えば、反転術式の習得も他者へのアウトプット習得もさほど難しくはない。それはまさに俺が証明したばかりだ。
経験値を稼ぐ手間はあるし、それで呪霊退治をする場合は相応に命の危険が伴うが、それでもたいていの人が反転術式の才能を持たないことを考えれば、リスクを飲み込む価値はある。
「そうやって反転術式使いを増やしてやれば、安全第一で拠点に待機させるよりも前線に送り込んで治療させるのもできるようになります。これを主導したとなれば、きっと大手柄ですよ!」
俺はそう説明する。理を感じたのか、扇も顎に手を当てて考えている。
もう一押しだ。このうえで、俺は感情にも訴える。明確なメリットを提示した上で、理屈と感情、両方から攻められて堕ちろ!
「それに、そうすれば私はフリーになれるでしょう? それで、ずっと父さまのお傍で父さまをお支えするのです!」
喰らえ、必殺! 私大きくなったらパパと結婚するの!
「……仕方のないやつめ。だが悪くない策だ」
堕ちたな……。フッ、チョロいもんだぜ。
とはいえ、実際のところ別に俺のかわいらしさに陥落したわけではないだろう。どこまでもカスなのが禪院扇という人間だ。
「ちょうどいい、お前の
こんな案をさらっと出してくるんだもんな。お前はそういうやつだよ。
「いい案だと思います!」
それに対して、こう言うしかない俺も同じ穴のムジナだろうけど。
***
原作において、禪院扇には二人しか子供がいない。双子の真希と真依である。
彼女たちの生年は2002年だ。ところが俺の生年は1989年であり、また双子でもなんでもない。この点は、明らかに原作と異なっている。
扇の兄である直毘人が直哉以外にも多くの子供をもうけていることを考えれば、扇が早くに子供を作ろうと考えるのはおかしくないとは思う。
原作でそれをしていなかったのは、直毘人と同じことをするのを嫌ったのか、それとも自分の子種に自信がなかったのか……。あるいは、試みたものの流産か何かで生まれてこなかったか。
その辺りの理由はわからないが、ともかく俺は原作には明確に存在しない扇の子供になる。
だがそんな俺が、初の子供であるにもかかわらず出来がバチクソによかったこともあってか、この世界の扇は己の血にかなり自信を持っている。
そのため、俺の術式が判明したあとも定期的に子供を作っており、俺は既に弟と妹が一人ずついる。
ただ、この世界には「呪術師は才能が八割」という表現がある。ある種の格言であるが、これは間違いではない。
実際呪術師の数はかなり少なく、術式持ちとなるとその数はもっと減る。
これは代々呪術を扱い続けてきた御三家の生まれであっても、似たようなものだ。一般人よりは呪力持ちが生まれる確率が高いかな、くらいである。
だから俺の弟妹たちも、正直生まれ持っての才能はパッとしない。一応どちらも呪力を持っているが、二人とも生まれてすぐに術式がないことは確定している。
俺の術式はステ振りやスキル獲得の過程で、ステータスも見ることができるからな。生まれたての赤ん坊の時点で術式の有無がわかるのだ。
当然、扇の関心はほぼ俺が独占している。術式の有無だけでも大差があるのに、俺の出来がよく、従順で、何より扇を高みに導く存在であるからそれは必然と言えるだろう。
そんな扇であるから、彼視点で使い道のない子供など関心が薄く、いつでも使い潰せる駒でしかない。俺の出した案に、すぐ使おうと言い出したのはそういうわけだ。
これに賛同する俺を見たら、きっと脹相ならブチ切れるんだろうな。性別は違っても、弟妹たちの見本になるのが一番最初に生まれたものの責務だろうと説教でもされるだろうか。
それに対してある程度は同意するのだが、いかんせんそれは面倒だと考えてしまうのが俺なのだなぁ。
なんというか、要するに俺は他人にあまり興味がないんだろう。どうでもいい、と思ってしまう。
それが生まれついてのものなのか、ブラック企業で心をすり減らした結果なのかはわからないが……いずれにしても、俺もドブカスの一員ってわけだ。
ただし、そんな俺だからこそと言うべきか。義務ないしは職務として割り振られたことに対しては、面倒だと思いつつもこなそうとする習性も併せ持っている。
だから扇から、弟と妹を反転術式使いとして育て上げろと指示されれば、俺は彼のイエスマンとして粛々と従うのみなのである。
それはそれとして、ふざけんなよコイツ全部俺に押し付けやがった! という不満はありますねぇ!
いや本当、ふざけんなよ。俺が子供としてあり得ない理性を見せていたせいもあるんだろうけど、にしてももうちょっと親としての責任をだな!?
え? お前もだろ? 全力でお姉ちゃんを遂行しろ??(空耳
わかったよもう!! アンタの出番は二十年近く先なんだから、ちょっと黙っててくれないか!(空耳
***
時は流れて、西暦2000年。直毘人と扇の兄であり、禪院家第25代当主が亡くなった。1999年に発生した呪霊の大量発生の任務で致命傷を負い、治療のかいなく……という形だ。
この時点では、まだ反転術式使い量産計画は軌道に乗っていなかったから、禪院家に反転のアウトプットで治療ができる人間が俺しかおらず。その俺も扇の指示で治療に当たらなかったから、亡くなるのも当然と言えた。
彼だけでなく、2000年は呪術界全体が疲弊した状態でスタートしている。禪院家の戦力も削れており、躯倶留隊は半壊状態。その上位組織である灯も数人が命を落としたという惨状である。
これは1999年、世間を騒がせたノストラダムスの大予言のせいだ。あれのせいで、1999年特に前半は呪霊の数が半端なかったからね。
テレビ全盛の時代ってこともあってか、多くの人間が世界滅亡に怯えちゃっててもう
余りに多くの人間がこの予言に怯えていたからか、呪力の巡りすごかったよ。何せ同じ特級呪霊が、短時間でリポップしてやがったからね。マジでやってられなかった。
こんなのに忙殺されてたら、夏油が非術師絶滅させるわ……ってなる気持ちもわからなくはない。25代当主が亡くなったのも過労で判断力が落ちてたのが原因らしいし、やはり労働は悪い文明……!
「ようやく死んだか……。フッ、次は私だ」
なお25代目の訃報を聞いた、扇の第一声がこちらです。うーん、カス!
その思惑は盛大に外れ、26代目には普通に直毘人が就任して大荒れするというオチまで含め、完璧である。お前はそういうやつだよなって……。
扇はこの選定理由を、1999年の呪霊祭りで特級呪霊を倒す手柄を立てられなかったからだと考えた。原作だと色々と足りてなくて、娘二人に当たり散らすというドブカスっぷりだったけど、この世界だと彼の考えもあながち間違いとは言えない。
何せ1999年の呪霊祭りでは、直毘人が特級呪霊を2回倒しているのだ。それも単独で。
リポップした同じ呪霊ではあったものの、これは明確に手柄と言えるし、次期当主レースにおける加点になったことは疑いようがない。
対する扇は、運がなかったようで特級呪霊には当たっていない。倒した呪霊の数で言えば扇も直毘人もさして変わらないのだが、やはり特級というのは注目を集めるというわけだ。
ただ俺に言わせれば、日ごろから家中の人間とコミュを取り、なんやかんやと根回しをしていた直毘人が当主になるのは当然でしょって話である。
扇はそこら辺を疎かにしすぎなんだよな。要するに独りよがりなのだ。
確かに禪院家は強さ第一の実力主義だけど、強さが拮抗していた場合はそれ以外の諸々が評価点になるのは当たり前なのだ。それが人間ってもんだからね。
そこら辺がわかってないからお前はいつまで経っても禪院扇なんだよなぁ……と思いつつ、俺は扇を励ます。そして改善点を指摘したのだが。
「父さま。直毘人おじさんが当主になったのは、おじさんを推す人が多かったからみたいです。ある程度、下々の連中とも交流したほうがいいのかも……」
「この私に、あの連中に頭を下げろと言うか!? 術式も持たず、呪霊一匹とて一人で満足に祓えん連中に!? 知ったような口を利くな!!」
扇、キレた!!
なんでそうなるんや……と思いつつ、俺は素直に引っぱたかれる。去年の呪霊祭りで稼げたおかげで防御力とかそこら辺にもある程度経験値を振ってあるから、ほぼノーダメではあったけど。
本当にさぁ……お前ってやつはさぁ……という心境である。
しかしここで退いては、扇にいい気分で宿儺と戦って相打ちになってもらうという俺の計画に支障をきたす可能性がある。多少ぶん殴られるくらいどうってことないから、ここはどうにかして意見を翻してもらわねば。
「父さまの仰る通りです。おじさんと同じことをする必要はないとわたしも思います。父さまは父さまの方法で、父さまの手足になる部下を持てばいいんです。前にお話しした、反転術式使いを増やす計画……もう少し踏み込んで、術師を増やすというのはどうでしょう?」
俺が言っているのは、結局のところシンパを作れという話だ。だが俺がいる以上、扇には直毘人と同じ手段を採る必要がない。
何せ俺の管制呪法は、様々な能力を強化できる。それは「呪力を認識する力」も例外ではない。
つまり俺は、一般人を呪術師に変えることができる。管制呪法が対象に取るのは呪力を持っている存在であり、一般人でも呪力は多少なりとも持っているからな。
おまけに俺の術式で強化の時に使うのは、呪力ではなく魂にくっついている経験値だ。大抵の人間は生きる過程で何かしらの経験値を獲得しているものだから、リソースにも困らない。
だからそこら辺の一般人の近くでメニューを開き、呪力のスキルツリー解放をタップしてやればあら不思議。その人は立派に呪術師というわけである。
これで呪力操作に特化した成長をさせてやれば、その人物は反転術式が使えるようになる。さらに伸ばしてやれば、アウトプットと回復もだ。
「なので、人間未満のやつらを人間に引き上げてやるんです。そうすればみんな人間にしてくれた父さまに忠誠を誓うでしょうし、禪院家の底上げに貢献した父さまは、家中における発言力も増すというわけです!」
禪院家の思想にどっぷりつかっている扇が喜びそうな言い回しをかましつつ、俺は扇を正面から見つめる。そうだろう? という意味を込めて。
怒りのあまり肩で息をしていた扇はこれを聞き、それまでの暴れっぷりが嘘のように黙り込んだ。静かな室内で、彼の荒い呼吸の音が響く。
やがて考えがまとまったのか、扇は深い深い息をついた。
「……まったく、随分とわかった口を利くようになったではないか。だが確かに、その理屈は通っている。猿どもを人間に引き上げてやる……か。クックック……ああ、なかなかに面白い」
そうして歯をむき出しにして笑う。目はギラついていて、野心を隠そうともしない顔である。
「そして私には、そのための
「はい、父さま。わたしはそのための道具です。存分にわたしをお使いください、父さま」
続けられた問いかけに、俺は一も二もなく頷く。
扇はこれに、満足そうに頷いた。
「よく言った。それでこそ私の娘だ。……すまなかったな、篝。痛くはないか」
「ありがとうございます、父さま。わたしは大丈夫です。鍛えていただいていますから」
そうして扇は、相変わらずヘタクソな手つきで俺の頭を撫でたのだった。
***
1999年の呪霊祭りにおいて、当時7歳の弟と5歳の妹も戦闘に参加していた。もちろん二人は普通の子供だから、付き添いは必須だったが。
俺や扇が呪霊を弱らせて、二人がとどめを刺すという形で二人にも経験値を稼いでもらったのだ。
これまでに受けていた鍛錬や学習で稼いでいた経験値と合わせて、二人は近いうちに反転術式のアウトプットで他人を回復できるようになる見込みだった。
そうなったら、二人を禪院家の医療担当として差し出し家に対する貢献とする予定だ。
これに加えて、扇は禪院家で不遇をかこっていたものたちを取り込むよう動き始めた。禪院家に生まれながらろくに呪力を持たなかった人間の中から、色々と吹き込むには都合がいい子供を選び出し、俺の術式で呪力を取得させる。
それまで人間未満の扱いだった子供たちは、一応人間という扱いに格上げされることをみんな一様に喜んだ。喜んで、それを主導した扇を救世主のように崇めるのだ。
完全に洗脳とかそういうタイプのやり口である。縛りでこれらのことは一切他言できなくしている辺り、最悪に近いんじゃないだろうか。
彼らからの尊敬と忠誠心に気をよくした扇は、直毘人の当主就任で荒れていたのが嘘のように生き生きとしていた。
やりがいのある仕事が見つかったとかそういうんじゃなく、アレな手段で得ている子供たちからの尊敬に喜んでいる辺り、本当にそういうところだぞと思う。
とはいえ、彼らはまだ子供。現時点での発言権など一切ないため、直毘人は一切波乱のないまま原作同様第26代当主となった。
その就任を祝う席で、俺は正式に禪院家全体へお披露目された。これまで扇に色んな任務に連れ回されていたため、半ば周知は済んだも同然ではあったが、あくまで正式にはここになる。
これと同時に俺は特別2級術師に認定され、禪院家の2軍とも言うべき灯に配属された。まあ配属されているだけで、扇と行動することのほうが多いが。
弱冠11歳でこの扱いは異例であるが、ここは実力こそ正義の禪院家。1995年、1999年の呪霊祭りを扇と一緒とはいえ乗り切った俺の能力が認められた形となる。
なお当主お披露目会で、新当主の直毘人と同じ部屋に入ることを許された女は俺だけである。おかげで周りからの視線が痛かった。
中でも一番の熱視線を向けてくれていたのは、直哉である。でしょうねって感じだ。
何せ彼はまだ、特別2級術師になっていない。階級で言うと、今は俺のほうが上なのだ。
しかし直哉は、この時点で既に呪術の才能を認められた天才の一人。五条悟が天才すぎただけで、直哉も上澄み中の上澄みなのは間違いなく、それは家中のものも多くが認める事実だ。
その上で、もう呪力を持たない人間がいると聞いて「どんな惨めな顔しとんのやろ」と煽りに行く、天性のドブカスが直哉である。
幼くともそのカスっぷりは既になかなかのものになっており、見下している女が自分より上の立場にいることを疎み、お披露目後の宴が落ち着いてきた頃に絡んできた。
めんどくせぇなーと思いつつも、女の立場としては直哉を立てるように対応しようとしたのだが、誰もこのやり取りを止めてくれなかった。なんならみんな、成り行きを見守っていたまである。
そもそも新当主の直毘人も止める気配がない以上、これはある意味で禪院家の次世代を見定めようという儀式なのかもしれない。
扇に至っては、「同年代で我が娘に勝てるものは、一人とておらんだろう」などと火に油を注ぐ真似をする始末。当然直哉は激おこである。
しかも扇ときたら、俺に対して「遠慮はいらん。私が許そう。思いっきりやりなさい」とまで言う始末。
俺は禪院の女として、直哉を立てながらほどほどに殴られておこうと思っていたのに。おかげで直哉と真っ向から決闘する羽目になってしまった。
どうせお前あれだろ、自分の娘が兄の息子を下せば、それだけ兄を中心に周りへマウントが取れるからこの状況に持ち込んだんだろ?
あんなすごい子供をもうけた自分はすごいのだと、そう言いたいんだろう?
本当にふざけんなと言いたい。言いたいが、やれと言われたからにはやるしかない。
ええ、やってやりましたよ。開き直ってボッコボコによぉ。
確かに直哉の投射呪法は、使いこなせれば強力な術式だ。特にスピードに優れるが、それだけでなく手数や威力も申し分ない。触れるだけで1秒フリーズさせるという絡め手もできる。
しかしそれも、使いこなせればの話だ。現時点の直哉はまだ10歳の子供。クセの強い術式の理解はまだまだ中途で、どうやら一応視認できる速度までしかまだ出せないようだった。
何より、速度に感覚が慣れていないためか、十全に効果を使うためにはある程度の距離が必要らしく、いちいち距離を取って来る。
それに対して俺は、展開範囲内に入ってきた呪力を自動で迎撃するという御三家秘伝の技、落花の情で対抗した。これによって直哉はほとんど何もできないまま、逆に俺は術式を使うこともなく、完封してしまった。
まあ俺は攻撃力にはまだあまりステを振っていないから、ボッコボコとは言っても大ケガに至るような殴り方はしていないのだが。
それでもそれなりのダメージになっただろうし、何より女相手に手も足も出なかったことがよっぽどショックだったのか、直哉はこの日最後まで呆然としていた。
なお扇はこの結末に対して非常に満足げであり、腕を組んで直毘人にドヤ顔を向けるというアホなことをしていた。
まあ当の直毘人が、直哉の鼻っ柱を叩き折ってくれたことに感謝する気配を漂わせていたので、すぐに機嫌悪くしたんだけど。本当にそういうところだぞ禪院扇ィ。
そしてこの日以降、俺は顔を合わせるたびに直哉にケンカを売られるようになる。そのたびに返り討ちにしているんだが、扇に直哉をボコしたことを報告するとその日一日扇の機嫌がいいので、しばらくは扇の機嫌を取るネタには困らなさそうだ。その点だけはありがたいと思ってる。
***
そういえば、だが。俺が灯に所属したということは、俺が術式を持っていると認められたということでもある。術式がないと入れない部隊だからな。
しかし、俺の術式は偽装されている。自他の能力を極めて低いコストで永遠に強化できるなんて、あまりにもヤバい劇物だからな。
俺はそれを知られることで面倒ごとに巻き込まれたくない。扇もこの力は独占したい。そんなわけで、偽装は二人の合意のもと入念に行われた。
表向きの俺の術式は、変換術式としている。物質を分解し、違うものに作り替える。そういうことになっている。
構築術式に似ているが、あちらが呪力というほぼ無からものを作り出すのに対して、こちらはあくまで他のものから作り替えるという体だ。
材料が必要ないという点では構築術式に利があるが、構築術式には燃費がクソ悪いというかなり大きい欠点がある。変換術式はそのメリットデメリットを抑えた廉価版、という感じで受け止められたようだった。
もちろんこれはお察しの通り、購入と売却をそれっぽく繕った話だ。しかし表向きとするにはおあつらえ向きだろう?
レートの問題で割に合いにくいため雑魚術式扱いではあるが、術式は術式だ。武器を始め、道具をその場で用意できるというのも使いようだしな。
何より、デメリットが大きくて使い道に困る呪具をノーコストで処分できる、というのはそれなりに意義がある。なんならそれを元手に使い道のある呪具に作り替える(実際は下取りみたいな感じだが)というのも、この業界ではかなり有用だろう。
ただ購入と売却のことは、扇にも話していない。あくまで作り替えているのだと伝えており、その作り替える先も普通の物品からじゃせいぜい普通の武器類程度しかできない、としてある。
いやぁ、言うわけにはいかんでしょ。神話に出てくる道具や、漫画アニメ、ゲームに出てくるアイテムまで買えるなんてことは。
術式にダウングレードされる前、つまりあの世の時点でこの機能はこうだったので、ここはマジで元のままなのだ。ぶっちゃけこれも相当なチートだよな。
そんなのが扇に知れた日には、そりゃもうとんでもないものを買わされるに決まってる。
しかも購入の場合、俺の経験値でしか決済ができない。いくら売却によって経験値を確保できるとはいえ、他人の経験値を使うのとはわけが違う。秘匿するのは当然と言えよう。
ちなみにインベントリの存在も秘匿しており、俺はここに虎の子のアイテムをいくつかストックしている。
たとえば、エリクサーとかね。やっぱ一つで完全回復できるアイテムは常備しとかないと。俺は今度こそ寿命をまっとうしたいのだ。
もちろん戦闘用の切り札もある。それこそルール〇レイカーとか。
高額すぎるから一回だけの使い切り用しか買えてないけど、それでも一回すべての術式を解除できるのはやっぱ破格がすぎるからね。仕方ないね。
この辺のを買ってなければ、成人前には閉じない領域まで行けたかもしれないけど、転ばぬ先の杖って言うしね。備えあれば憂いなし、こういうのは大事でしょうよ。
***
2002年。真希と真依が生まれた。
俺やその間の兄妹がいるにもかかわらず、原作通り生まれるのか……と思われるかもしれないが、二人を産んだのは俺を産んだマッマではない。
じゃあ誰が、というとマッマのおつきの人である。禪院家的には大した呪力を持たないため、女中をするしかない無能な女という扱いだが。
自分に忠実な人間を増やす計画を始めてからというもの、扇は何人かの女中に種をまいている。
俺のように大当たりの子供が生まれればそれでよし。そうでなくとも、一度冷遇したあとに俺の術式で最低限呪術師としての体裁を整えてやれば、使いやすい駒になるという算段である。
この過程で手がついたのがマッマの女中であった、というわけだ。この人が、原作と同じ人かどうかは不明である。
どっちかはわからない。しかし生まれた年、一卵性双生児という境遇、そして与えられた名前は同じでも、この世界の真希と真依は恐らく原作の二人とは違う人物だ。
何せ俺の術式で二人のステータスを確認すると、そこにはあるはずの天与呪縛がなかったのだから。
いやあ、マジでびっくりしたよね。本当にめっちゃ驚いた。普段から演技をし続けてるんだけど、この時ばかりは素がデカかったもの。
驚きはそれだけにとどまらない。何せ真希にも術式があったから。
彼女に有ったのは、真依と同じ構築術式。一卵性の双子というなら確かにそれは納得ではあるんだけど、原作でのイメージが強くて驚かざるを得なかったよね。
とはいえ、原作と違うからと言ってどうということはない。そう思ったら落ち着いた。
いやだって、確かに彼女たちは……特に真希は原作においてそれなりに重要なファクターではあるものの、その重要度は主人公である虎杖には及ばない。それぞれのエピソードにおける貢献度だけで言えば、東堂のほうが高いまであると思う。
何より、真希が天与呪縛を持っていないというなら、原作で起きた禪院家大虐殺が起こる可能性はかなり低くなるはず。俺も禪院なので、そういうのはなくしたいし、なくならないにしても可能性を下げておきたい。
なお、そんな二人を見た扇の第一声はこちらです。
「双子だと……!? ふざけるな! 双子が凶兆と知らぬとは言わせんぞ! なんということをしてくれたのだ!」
はい、案の定です。本当……本当にこいつはもう……!
しかし俺の調査で、二人に生得術式があることを知るや、こう来る。
「何かに使える……か……? 呪力総量次第では……ふむ……」
完全に打算でしか子供を見ていないそのありよう、誉れ低い。
並んですやすやと眠る赤ちゃんに対してしていい目じゃないのよ。氷だってもうちょっと温度あるよ。
「私が直に育てる必要性を感じぬ。ゆえに篝、この二人はお前に預けることとしよう。お前の術式であれば、うまく使えるように仕上げられるはずだ。無駄は削ぎ、禪院家の……ひいては私の役に立つ形に整えてみせろ」
ど、ドブカスゥゥ~~!!
面倒くさいのと、呪術界の凶兆双子と直接触れ合うのが嫌ってのとで、全部俺に丸投げってことかよォ!?
本当にお前ってやつは最悪だよな! まるで成長していない!
お前みたいなやつは、凶兆に中途半端な距離の取り方して結局巻き込まれて死ぬって決まってんだよ! お前の存在自体が死亡フラグみたいなもんなんだからな!
……はあ。なんて心の中であれこれ言ってもしょうがない。俺はこの扇に宿儺をなんとかしてもらうために強くすると決めたんだ。ここまで来たなら一蓮托生だ。やってやるよコンチクショウ!
「かしこまりました! 父さまのために、この子たちを一流の呪術師にしてみせますっ!」
だから俺はいつものように、愛想よくにぱっと笑って扇に従うのである。
……どういうビルド組もうかな。せっかく降ってわいた育成の機会だ、原作以上のキャラとして育て上げてみたいもんだな。
なぁに、既に扇という高難易度キャラで縛りプレイをしてるんだ。今さら二人増えたところで大して変わらないし、なんなら赤ん坊のころから育成に関われるなら、もっといい具合に仕上げられるかもしれない。
というか、違う方向性で育てるほうがいいかな? いっそ縛りを一切かけず、自重なしで強くしてみるか? だとすると、最適な育成方法は……。
とここまで考えたところで、扇に言われてすぐにそんなことを考えていた自分に気づいて自嘲する。けれど、同時に俺はこういう人間だったなと思い返しもした。
そして改めて思う。やっぱり育成ゲーは面白いなって。
***
真希と真依の育成を引き受けておよそ3年。この間に何度も思ったことは、一卵性双生児ヤベェなってことだ。
凶兆のジンクスがマジだったのかって? いや違う、そういうマイナス方面の話じゃない。
……いやごめん訂正。マイナス方面の話がないわけじゃない。それは認めざるを得ない。
一番わかりやすいところで行くと、一卵性双生児を相手に縛りを結ぶ場合だ。片方と結んだとしても、もう片方と勝手に同じ縛りが結ばれるのだ。
これは原作でも言われていた通り、一卵性双生児が呪術的に同一人物とみなされるからだ。まったく同じ人物と結んだ縛りなのだから、同じ内容になるに決まっていると、そういう話だな。
他にも同じ人間とみなされるから、呪術的に二人は同じ方向を見ている必要がある。原作の真希真依がそうであったように、違う方向を見ていると要素が反発しあってひどく小さくまとまってしまう。
これらのことから、呪術世界における一卵性双生児に求められるのは、フィクションの双子にありがちなシンクロしまくる双子たることだろう。そうすれば、両者の要素が足を引っ張り合う可能性はかなり低くなる。
ただ、原作の真希真依は一卵性でありながらそこまで類似性は強くなかった。見た目は似ていたが、呪術的に重要な性格面はかなり違ったのだ。
この世界でも性格の違いは明らかだ。真希はかなり活動的で、屋外に出て身体を動かすことが好きなお転婆だ。言葉遣いも荒いため、マッマをはじめ禪院の女である俺も言動の矯正を試みているのだが、改善の兆しは見えない。
対する真依は内向的で、家の中で本を読んだりおままごとをしたりするのが好きなお嬢様だ。言動はおしとやかで禪院家的価値観からすると受けがいいが、競争心などの呪術師に必要な気概に全体的に欠けている。
このため、既に呪術的な意味での二人の足の引っ張り合いは発生してしまっている。両者の見ている方向がまるで違うため、訓練をしてもなかなかステータスが伸びないのだ。まいったね、どうも。
デメリットはまだある。原作と違いこの世界では真希には天与呪縛がないから問題になる問題なのだが……この二人、なんと呪力総量が共用になっているのだ。
要するに、どちらかが何かしらの形で呪力を使うと、もう片方の呪力も消費される。これはかなり痛い。マジで痛い。
何せ二人の術式は、燃費が最悪な構築術式なのだ。一回の使用でもかなりの呪力を使うのに、共用ってのは本当にひどい話やで。
ただここまでデメリットばかり言ってきたが、実はメリットのほうが多い。少なくとも俺はそう感じてる。
たとえば方向性の違いによるデバフだが、逆に二人が揃って同じ方向を見たときのバフはすさまじい。完全にやりたいこと、思っていることが一致していると、二倍どころではない結果を生み出すのだ。
長所と短所は裏返し、ってことだな。このため俺は、できるだけ二人が同じように同じことをやりたいと思うような環境を用意することに腐心している。
メリットはまだある。二人で一つの呪力を用いるからか、呪力総量自体はかなり多いのだ。
どれくらい多いかと言うと、我が家の長男、次女が同じ年齢だったときの軽く五倍くらいはある。俺と比べても、ゆうに二倍近く。これは俺が見たことのある人間の中では最大である。
これほどの呪力が天与呪縛で縛られれば、そりゃあとんでもない強化が入るだろうなぁ。
最後に、特大のメリット。俺の管制呪法を使うときにのみ発揮される、そういうメリットだ。それも複数ある。
まず一つ。俺が管制呪法で真希と真依どちらかに強化を施すと、もう片方も同様の強化が勝手に入る。
これは最初に言った、一卵性双生児は呪術的に同一人物とみなされるからだ。同一人物なんだから、強化も同じように乗るというわけだな。
俺も目を疑ったさ。真希に強化を施して、じゃあ真依も……と思ってステータス開いたら、既に強化済みだったときの心境を表す言葉を俺は思いつかないんだぜ。
そのくせ、彼女たちは呪術的に同一人物であるためか、経験値の消費は一人分だ。二つ目のメリットである。そうだね、無法だね。
だが無法はまだある。同じ理屈で、経験値の蓄積は常時二倍なのだ。
一つの魂を二人で使っているのだから、当然と言えば当然なんだろうが……さすがにふざけんなって言いかけたよね。
この結果、管制呪法を絡めた強化効率が尋常じゃない。二倍の二倍って感じで成長するものだから、こんなのどう育てたって強くなるに決まってるじゃんって感じなのだ。
これらのことから、俺が定めた双子の育成方針は、まず何はともあれ呪力消費のロスを抑えることだった。次いで呪力総量の強化。
この二つをカンストさせれば、たとえ呪力が共用でも継戦能力は確保できるだろうと思ってな。六眼によってロスがほぼなく、呪力総量が非常に多い五条悟は実質呪力切れがないとまで言われていたからな。そこまではいかなくとも、近いところを目指したい。
ただ、二人の育成に取れる時間はあまり多くない。3年の間に俺は特別1級呪術師に昇格しており、所属も炳に移っているのだ。女だてらに任務に駆り出されることが多く、外泊することも珍しくなくなってきている。
このため仕方なく、扇式の育成術を取らざるを得なかった。要するに、未就学児に呪霊退治をさせる形である。
扇と同じやり方をすることに思うところはかなりあるのだが、効率を突き詰めるとこうせざるを得なかった。俺の教導スキルは扇より高いし、効率は扇がやるよりはいいと信じたいところだ。
結果として、双子からの心象はかなりいい。干支で言えば一回り以上歳の離れた姉妹だからか、純粋に慕ってくれているのだ。
真希は主に強さに、真依は主に教養にと、目の付け所は違う。しかし身近なすごい人に向ける憧れ、尊敬の視線は素直に気持ちいい。
これなら原作のような禪院家全滅にはならないんじゃないかなあと思う反面、こういうことで気分良くなる俺はやっぱ扇の子なんだろうなぁとも思ってしまうよね。
人間ならこれくらいの心の動きは当たり前だと思ってはいるが、扇のアレっぷりを見てるとね……。素直には受け入れづらいよねって……。
***
そんなある日のこと。俺は扇共々、当主の直毘人に呼び出された。
二人で何事かと思いながら参上したところ、告げられたのはこんなお話。
「え、高専に入学? もう新年度が始まってから、一か月以上経っておりますが」
意図が分からず、俺は首を傾げる。扇に至っては不満しかないですって感じで、むすくれた顔をしている。
扇ほどではないにせよ、俺もちょっと不満がある。呪術に関するアレコレは、既に15年間に叩き込まれているのだ。今さら高専で学ぶことがあるとは思えない。
俺に限らず、御三家の人間は自宅で呪術に関するイロハを学ぶから、通う意義がほとんどない。あそこはどちらかと言えば、一般出身の人間が行くことを想定されているはずなのだ。
だからぶっちゃけ、時間の無駄だと思う。そんなことをしているなら、真希たちの育成に時間を使いたい。
扇の心境も似たようなものあろう。まあ扇の場合、俺と行動する機会が減るとその分強化の機会も減るからというのもありそうだが。
「五条家の坊が東京高専に入学してな」
そんな俺たちの不満を抑え込むように、直毘人はそう言った。
言われてああそういえば、と思う。2006年が舞台の懐玉・玉折編で五条たちが2年生だったってことは、確かに今年は彼らが入学した年になるのか。
今まで意識していなかったけど、俺って五条たちとタメなんだなぁ。でもそれが、どうして俺も高専に行く理由になるんだ?
「呪術界全体が驚かされたものよ。あの五条家の子息が、しかも六眼と無下限の抱き合わせが、今さら高専に行く必要がどこに? とな。それも、このことは誰も知らされておらんかったから余計だ」
説明をする直毘人だが、合間合間で酒を飲むのを挟むのはやめてほしい。禪院家の中ではまともなほうに分類されるってことは知っているが、だとしても一般常識の範囲で語るとこの人も立派な人でなしだよな。
「五条家の思惑ははっきりとはわからん。あるいはないかもしれん。だがそこは正直、どうでもよい。わしが気にしておるのは一つ……高専には年に一度、両校同士で競い合う場があるということよ」
続けられた説明に、俺は納得した。つまり、こういうことか。
「姉妹校交流会で、五条悟と戦えということでしょうか?」
「察しがいいな。そうだ」
俺の確信めいた問いかけに、直毘人はにやりと笑って是を返してきた。
そうだろうなとは思ったが、本当にそうだったか……。やめれやそんなクソゲー投げつけてくるの……!
ほら、扇も抗議してくれよ! そんなことのためだけに、掌中の玉たる俺を4年間高専に通わせるなんて非効率的なこと……お、扇さん? そのしたり顔は一体!?
「……なるほど、そういうことか」
ど、どういうことだってばよ扇!? なんでそんなに乗り気な顔してるんだってばよ!?
「ああ。篝が抜きんでた才を持っておることは、わしも認めるところ。同年代でこやつに敵うものなどおらんだろう。ゆえに、よ」
「この機会に慶長時代の借りを返そうということだな、直毘人?」
ファッ!?
「その通り。例年姉妹校交流会は、初日団体戦、2日目個人戦と決まっておるからな。そこで篝を五条の坊と当たるようにするわけだ」
や……やめろや! 嫌だよ五条悟とのタイマンバトルなんて! そんなクソゲーやりたくない!
ぶっちゃけ覚醒前の今なら勝てるとは思ってるけど、だとしても、だとしてもだよ!
勝ったら俺の母体としての価値が高騰しまくって男が言い寄って来るだろうし、負けたら負けたで扇はじめとした禪院家の面々がうるさくするでしょ!?
どっちに転んでも絶対に面倒くさいやつじゃんそれ!!
いやじゃいやじゃ! そんなクソゲーやりとうない!!
俺は! 面倒なことが!! 大っ嫌いなんだよ!!!
「ふ……ふふ、っふ……いいだろう。そういうことであれば、私も手を貸そうではないか」
扇ィーーッッ!!
そうだよなぁ虚栄心と自己愛の塊なお前は賛成するよなぁ!
「篝、よいな。この父に代わり、五条の跡継ぎに目にものを見せてやるのだ」
うるせぇ~~~~! 知らねぇ~~~~!!
なんでよりにもよって俺の名誉をかけた戦いがお前の名代って扱いにならなきゃいけないんだァ!! せめて禪院家の名代にしとけよそこはさぁ!!
直毘人もにやにやしながら酒をあおってないで、弟の不敬を咎めるなんなりさぁ!?
「はい、父さま。ご当主様。五条悟と戦い、これを下すこと。確かに拝命いたしました」
ああでも、今まで積み上げてきた俺の業績が、これに否と唱えさせてくれないのである。
俺は恭しく言上仕ると、深く頭を下げたのだった。
***
そんなわけで、俺は約一か月遅れで呪術高専京都校へ入学した。
とはいえ、原作でも虎杖や乙骨が時季外れの入学をしていたように、高専においては遅れて入学すること自体は珍しくない。御三家の人間が、となると非常に珍しいというだけだ。
そして俺の同級生になったのは、その辺りのことは承知しつつも、下手に藪をつつかないだけの理性と前情報を持つ呪術界出身の人間ばかりだったので、細かい追及は誰からも受けなかった。
あれこれと事情をほじくり返されるのは面倒だったから、そこは素直にありがたい。
ありがたいんだが、呪術界出身ということは逆に、御三家たる禪院家の威光がはっきり通用するということもであるわけで。
結果として、俺の同級生は全員が俺の取り巻きみたいになってしまった。全員と言っても二人しかいないんだが、どっちも女だったということもあるかもしれない。
廊下の真ん中を歩く俺。その一歩後ろで左右を固めるそこそこ名家の女の子二人。そんな三人を、上級生ですら避けて道を譲る。
こんなんどう見ても、乙女ゲーに出てくる悪役令嬢そのものである。笑う。
「篝様、ありがとうございます。篝様が任務を引率してくださるなら百人力です!」
「ええ! 同じ1級でも、正直先生より篝様のほうがお強いですものね!」
「お二人とも? もちろん何かのときは手を貸しますが、これはお二人の任務なのですから、わたしを当てにしすぎないでくださいね?」
「はい、もちろんです!」
「篝様のお手を煩わせることなく、呪霊を祓ってみせますわ!」
俺の言葉にキャッキャしながら楽しそうに言うJKが二人。どうしてこうなった。
メニュー画面を開いて二人のデータを見る。そこには、「心酔」というステータスがはっきりと表示されていた。
状態異常の表示機能は元からあった。何かあれば色んな表示が出てくるのである。たとえば酩酊とか疲労とか、毒とか……そういうやつだな。
マイナスに限らず、黒閃が出たときなんかにもゾーンと表示されるなど、プラス方面の変化も表示される。これにより、俺はより細かく相手の状態を確認できるわけだ。
じゃあ心酔ってどういうステータス? となるわけだが、まあ基本的には言葉通りだ。ある物事に心を奪われて熱中していること、あるいはある人物を心から尊敬し感服していることですね。
その対象が俺である。本当、どうしてこうなった。
いや理由はわかるんだよ。禪院家に対して下手なことができないということはもちろんだけど、入学してすぐに見せた俺の戦闘力の高さと、その後の任務で俺に命を助けられたこと、俺の指導でぐんぐん上達したことで、二人の脳はこんがり焼けてしまったのだ。
まあどうしてこうなったと言いつつも、俺も元男だ。JKにちやほやされるのは嬉しいので、この環境が嫌というわけじゃない。
俺の本質が面倒くさがりと言うことを察してか、積極的に俺のお世話であったり部屋の片づけだったりをしてくれるのもありがたい。
入浴時もあれこれとしてくれるのも楽でいい。その際に軽くスキンシップもあったりなんかして、JKライフとしては相当潤っていると言っていい。
ただ、上級生の女の子ですら俺にこういう風に近づいてくるものだから、野郎どもが女の分際で女を侍らせてんじゃねぇよみたいな視線を向けてくるのがね。面倒くさいんですわ。京都校って文字通り京都にあるからか、保守派しかいねぇんだよな。
俺自身、禪院の血によるものなのか女としては長身。かつ切れ長の精悍な顔という、いかにも女ウケしそうな身体に育ったせいもあるんだろうが……。
ちょっと男子ィ、そこはもうちょっと自分を磨いて自分から女の子にアプローチかけようとか、そういう建設的な行動しなさいよね。力じゃ俺に敵わないからって、陰口だのなんだの……女より女々しいとは思わんのかね。
ちなみに、一部の男(生徒か教師か、はたまた所属している呪術師あるいは窓かはわからない)が禪院家にこの状況をチクったらしいが、「女を力づくで手籠めにできないヘタレが囀ってんじゃねぇぞ、失せな!(意訳)」という返答だったそうです。残当。
そして後日、扇から「お前は嫁には出さん。婿はこちらで探すゆえ、男とは距離を取っておきなさい」と連絡が来た。
しょうがねぇな~! 宗家かつ幹部かつ実父の扇がそう言うんじゃな~~!
しょうがないから俺、野郎とか基本触れ合わず、女の子たちとキャッキャウフフしておきますわ!
まあそこに、面倒じゃない範囲でという前提がつく辺り、俺もだいぶカスだなという自覚はある。
あと腐れない身体だけの関係のほうがマシじゃね? って思ってしまうのよね。恋愛って悪いものじゃないけど、めんどくさくはあるよねって……。
***
いやじゃいやじゃと言っても、時間は過ぎていく。
というわけで2005年9月。毎年恒例、呪術高専姉妹校交流会がやってきた。
本来このイベントは2,3年生が主体のものだ。1年生はその学年が少ないときに数合わせで投入されることになっているため、基本的に参加できないことになっている。
しかし今回の交流会においては、禪院家からの根回しでどちらの学校も1年生が一人入る余地ができるようになっているらしい。
そして1年生には、双方ともに規格外の戦力が一人ずつ存在する。五条悟と俺だ。
当然、勝つためには最高戦力を投入するに決まっている……ということで、俺たちの対戦カードは組まれるように仕組まれているというわけだ。
ただ、今年の開催地は東京校だ。遠征する側は基本的に交流会に参加するメンバーのみが来ることになっているため、俺の取り巻きである同級生たちはお留守番だ。お土産買ってくるからねって約束して出てきたよ。
まあ俺の周りは上級生のお姉さま方が固めてくれてるから、普段とさほど状況は変わらないんだけど。
そんなことで迎えた交流会。毎年団体戦の初日と個人戦の2日目からなるわけだけど、今年の団体戦は双方5人ずつを選出してのチーム戦。一人ずつ特定の距離を走り継ぐ、ただし道中は妨害もありな上に、呪霊もどんどん襲いかかって来るという障害物リレーだった。
区間があとになればなるほど距離が延び、出てくる呪霊の数や質が上がる。
おまけに各区間につき一つお題が設定されていて、それをこなしてからじゃないと走破とはみなされないルールまである。なかなかエグいやつが来たな……というのが正直なところだ。
難易度高い……高くない? とは思ったけど、あの五条悟が参加するなら難易度は上げざるを得ないよなぁとも思う。
ついでに俺もいるわけだから、まあそういうことなんでしょう。
ということで始まった障害物リレーだけど、案の定と言うべきか、俺と五条はどちらも最終区間の走者としてエントリーされていた。
で、最終区間のスタート位置でスタンバることになったわけだけど……いやぁ、この時期の五条悟、マジでクソガキっすね。開口一番、禪院家に対するヘイトスピーチが全開なんだもん。
これは今までの両家の関係の悪さが原因だろうし、俺が六眼対策として事前に購入しておいた探知阻害の指輪を着けているからってのもあるんだろうけど、それはそれとして煽りまくるのは性格悪いよね。扇が聞いたらブチギレ不可避ですよ。
ま、俺は禪院家に対して思うところはあんまりないから、そういう安い挑発に乗ることはないけどね。弱い犬ほどよく吠えるよねって返したくらいだ。
もちろん一触即発になったわけだけど、内心ではわりと戦々恐々だったよ。だって五条悟のステータス、高すぎて草だもん。
大量の経験値をつぎ込んだ俺と、強化なしの五条のステの合計値がほぼ同じってどういうことなんですかね? 才能の差を感じる……!
もちろん得意な分野不得意な分野というものはあって、一概に比べられるものでもないんだけど……にしてもこれはなぁ。これで五条自身に蓄積している経験値が大量にあるわけで、本当にまあ天才ってやつはよぉ。
やってらんねぇぜと内心でため息をつくものの、戦わないわけにはいかない。ここで戦わなかったとしても、個人戦で戦うことになるのは間違いないしさ。
大丈夫、やりようはある。俺が持っていて、五条悟がまだ持ってないスキルもあるしね。
というわけで、始まった障害物リレー最終区間。俺たちに与えられたお題は、対戦相手を戦闘不能にすることだった。露骨すぎて禪院家どんだけ圧力かけたのってなったよね。
どっちにしても五条側もやる気満々だったから、開始地点からほぼ進むことなく戦闘に移行した。
結果を言うと、俺は勝った。ほとんどの攻撃が無限に阻まれて届かなかったから、ボッコボコにされたけど。
それでも俺には反転術式がある。蒼も何発か受けたけど、直撃は避けたから、すぐに完治させている。俺の呪力総量と呪力操作、効率はかなり仕上がっているので、そこまでしても継戦に問題はなかった。
最終的には、レース会場にあったありとあらゆるものを経験値に変換して購入した、黒縄を使って拘束することに成功。思いっきり亀甲縛りにして、猿轡も噛ませて無力化してやったぜ。
その状態の五条を引きずってゴールに向かったのだが、さすがは五条悟。力づくで拘束を破ろうとしてきたので、俺は少し余った経験値を使って購入したどこ〇もドア(使い捨て)でゴールに直行した。
あのまま連れて走っていたら、恐らく途中で復帰されて第二ラウンドが始まっていたと思う。あれこれ言われる前に、さっさと勝負を決めた俺の判断は正しかったと自負しているぜ。
刃物を使わず黒縄で制圧したのは、下手に傷を与えると覚醒して反転術式を覚えられる可能性があったからだな。パパ黒の轍は踏みたくないから、この判断も正しいと思ってる。まあ時系列的には、まだパパ黒と戦ってないけどさ。
いやー、領域展開が使えたらこんなことしなくて済んだんだろうけどね。でも高専に行くことになったのは急だったから、習得に間に合わなかったんだよなぁ。
でもがんばった甲斐はあったかな。負けたことに愕然とする五条の顔は見ものだったし、それを思いっきり煽りに行く夏油、家入、歌姫の姿も見れたからな。特に歌姫の爆笑っぷりたるやね。
ただ五条から「おもしれー女」認定を受けてしまった件だけは、明確にマイナスだ。めんどくさくて敵わん。
なんか俺、扇に直哉に五条と、夢小説の主人公みたいなことしてるな……と思ったのはここだけの話。
ちなみにその五条、「明日の個人戦は覚悟しとけよ! ぜってー泣かせてやるからな!」と言っていましたが、俺と五条の戦いで東京高専の敷地の大半が更地になったため、二人とも個人戦では出禁を食らいました。
オーバーリアクションで「なんでだよ!!」って叫ぶ五条に対して、俺が内心ほっとしてたのは言うまでもない。
***
交流会を終えて京都に戻り、実家に一旦帰省した俺を待っていたのは大喜びの扇だった。
「よくやったぞ篝! お前は私の自慢の娘だ!」
そうやって褒めちぎられ、ご褒美だと俺の好きなものばかりが並ぶ食事会が開かれ、おまけに忌庫から好きな特級呪具を持っていけと大盤振る舞いされる始末。
マジで下にも置かない扱いだが、扇が抜きんでているだけで家中からの扱いはおおむね似たようなものだった。マジで慶長時代の五条家とのいざこざを、今日までずっとひきずってたんだなって感じのリアクションばかりで、さすがに戸惑ってしまった。
だって真っ向から勝ったわけじゃないし。ルールがあったから勝てたようなもので、そんな誇るものでもないだろうに。
これは直哉も同じ意見だったようで、「そんなんでアッチ側に立ったなんて勘違いするんやないぞ!」って人差し指を突きつけられた。ワイトもそう思いますって返したら、猫が宇宙背負ったような顔してたけど。
五条家にほえ面を書かせてやったぞと浮かれまくる家中で冷静だったのは、あとはせいぜい当主の直毘人くらいだろうか。
彼の場合、冷静過ぎて「来年も頼んだ」って笑顔で肩ポンしてきたくらいだ。勘弁してつかあさい……とは言えず、精一杯頑張りますと返すのが限界だった。胃が痛い。
久々に家に帰ってきた俺に、揃って抱き着いてきた真希と真依だけが癒しだった。その日は双子に両脇を挟まれて、小の字になって寝た。
ただ、この件で禪院家における俺の立場は不動のものになったらしい。それぞれが内心でどう思っているかはわからないものの、誰もが表向きは最低限繕って最上級幹部扱いしてくるようになったのだ。六眼と無下限の抱き合わせに、ルールありとはいえ勝つのはそれだけ大きいってことなんだろう。
これに伴って俺の母体としての価値も上がりまくっているわけだが、逆にここまで価値が上がると適当な男をあてがうわけにもいかないらしい。嫁に出すなど論外であり、俺の婿選びは難航しているようだ。
どうやら、元々俺の相手としてどうだろうかと考えていた男たちから、軒並み辞退が相次いでいるんだとか。
なんでそんなことに……と思って聞いてみたら、五条悟に勝てるようなやつと結婚したら使えない子供が生まれたときに
かくなる上は、使い道になる一般出身の男を禪院家に迎えてやる形が一番無難だろうか、と話し合われているようだが、そこに俺の意思はない。いかに功績を上げても、所詮女は意見を通すのが難しいということなんだろうな。
まあ放っておいたら俺に結婚する気はないわけで、そういう意味では直毘人たちの判断は間違っていない。
ちなみに、俺の相手になれそうで能力も上澄みな一般出身の男ということで、一度夏油に話を回してみようかとなったらしい。しかしどういう采配か、呪術総監部からアカンやでって通達が来てボツになったとかなんとか。
……それ、羂索のインターセプトだったりしない? やだなぁ、不穏だなぁ。
まあとはいえ、そんなわけで当面は男と結婚する必要はないようで、そこは気が楽だ。向こう二年間は交流会で五条とやりあってもらうつもりだと直毘人が明言したこともあり、少なくともそれが終わるまではのんびりやっていけることだろう。
「篝、来年の交流会は京都だな。私も見に行く、必ずや五条の小僧に屈辱を味わわせてやるのだぞ」
それはそれとして、来年に向けてウキウキで皮算用している扇は過去一レベルで鬱陶しかったです。
いい空気を吸わせてやろうと決めたのは俺だけど、それでも嫌なプレッシャーかけないでくれ……! 来年の五条は覚醒済みなはずで、最高にしんどい戦いになるのがほぼ確定してるんだからよ……!!
思いついてはいたものの、書けなかったネタ
・敵対者のステータスを剥奪する術式反転(無法)
・管制呪法で呪霊を育成する
・育成した呪霊に心酔ステをつけた上で、自前の空性結界に入れてポケモンみたいに扱う
・あの世での記憶および経験値の仕組み上、魂を知覚している
・魂を知覚しているので理子ちゃん転生体を見つけられる(空港にいたということはまだ輪廻は巡ってないだろうけど、そこは独自解釈)
・理子ちゃん転生体は呪霊でもいいかもしれない。上記の呪霊育成と絡めるとおいしそう
・呪法内の購入システムは、あくまでその名の通りの所有権の変更であるため、特級呪物にかかっている「周囲に害を及ぼさない代わりに破壊できない」という縛りを貫通する
・あの世の死神様に売却される宿儺の指
・主人公の策略により渋谷入りした扇、パパ黒と遭遇して絶叫。その後さらに漏瑚、宿儺と連続エンカウントする羽目になる
・扇の術式は炎ではなく、炎っぽいのはそういう呪力特性
・炎の呪力特性により、漏瑚の天敵になる扇
・同上により、宿儺のフーガを受け付けない扇
・結果的に善戦し、宿儺と相打ちになる・・・かも?
・「楽しかったぜぇ! お前との親娘ごっこ!」(普通に感動の別れになるルートとどっちがいいでしょうねぇ)
ちなみに本編中で真希と真依にしゃべらせてないのは、二人の育ちが原作と違うことにより、どういう影響が出ているかを明示するのを避けたためです。
禪院の思想にどっぷりつかってる真希真依も面白そうではある、しかしおおむね原作に近い思想のほうが馴染みはあるしやりやすいし・・・んまあ、どうせダイジェスト風味の短編だしぼかすかぁ! って流れ。
似たような理由で、高専京都で女の子たちとどういう関係になっているかもぼかしてます。
GLタグつけてないものの、その辺りがどうなのかは読者の皆さんの解釈次第。
どちらもありうる・・・そんだけだ。