この素晴らしい世界に滅却師の王を!   作:sk20100626

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第1話 転生

「……なんだ、この白い部屋は。俺は確か、残業帰りの道で……」

 

目の前には、豪華な装飾が施された椅子に座り、優雅に紅茶を啜る一人の美女がいた。 水色の髪、どこか浮世離れした美貌。しかし、その口から出た言葉は、およそ神々しさとは無縁なものだった。

 

「あ、やっと気づいた? 改めて歓迎するわ。若くして死んじゃった哀れな日本人さん! 私はまぁ、あなたたちの世界でいう神様ね!死後の世界を導く女神よ」

 

俺の名前は佐藤継嗣(さとうけいじ)。平凡なサラリーマンだったはずだ。 自称神は、俺がトラックに撥ねられた(正確には、撥ねられたと勘違いしてショック死したらしい。あまりに情けないので記憶から消したいが)経緯をゲラゲラ笑いながら説明した。

 

「で、そんな貴方に朗報よ! このまま天国に行くのもいいけど、今、異世界が魔王のせいで大変なの。そこに、好きな能力を一つだけ持って転生させてあげてもいいわよ。どう? 悪い話じゃないでしょ?」

 

「好きな能力……?」

 

提示されたリストには、『魔剣・グラム』『不死身の肉体』『超魔力』といった、いかにもなチート能力が並んでいる。 だが、俺の脳裏にはある「力」が強烈に浮かんでいた。 生前、唯一の趣味だった漫画『BLEACH』。そのラスボスが持っていた、理不尽の極致とも言えるあの力が。

 

「……決めた。俺が欲しいのは、『全知全能(ジ・オールマイティ)』だ」

 

神の手が止まった。 「……ジ・オール……何? 何それ、知らないわよ。そんな剣あったかしら?」

 

「剣じゃない。能力だ。未来のすべてを見通し、その未来を書き換える力。そして、知った能力では俺を傷つけられなくなる……そういう概念的な力だ」

 

「えぇー……何それ、設定盛りすぎじゃない? 調整が面倒そうだけど……まあいいわ。私の権限で、その『全知全能』とかいうやつ、貴方の魂に刻んであげる。ただし、最初から全開だと貴方の脳が焼き切れるから、最初は『未来視』から段階的に解放されるようにしておくわね。感謝しなさい!」

 

神が魔法陣を展開する。 足元が光り輝き、体が浮き上がる感覚。

 

「あ、言い忘れてたけど! 魔王を倒すまで帰れないからね! 頑張ってよね、引きこもりニート予備軍さん!」

 

「俺は社畜だ、働いてたっつーの……!」

 

言い返そうとした瞬間、視界が真っ白に染まった。 同時に、俺の「瞳」の奥が、焼けるように熱くなった。

 

次に目を開けたとき、俺は中世ヨーロッパのような街並みの中に立っていた。 活気ある市場の声、馬車の音、そして漂ってくる煮込み料理の匂い。

 

「本当に、来ちまったのか……」

 

ふと、意識を集中してみる。 すると、視界が奇妙に二重、三重に重なり始めた。

 

(なんだ、これ……?)

 

数秒後の未来が、視覚情報として流れ込んでくる。 右側の路地から、子供が追いかけっこをして飛び出してくる。 左側の露店で、おじさんがリンゴを落とす。 そして、俺のすぐ後ろを歩いている男が、俺の財布を狙って手を伸ばしてくる――。

 

「……おっと」

 

俺は振り返りもせず、背後の男の手首を掴んだ。 「うわっ!? ……な、なんだよ、いきなり!」 「財布は諦めろ。三秒後にあっちから衛兵が来るぞ」

 

「はぁ? 何言って――」

 

三、二、一。 「おい! そこで何をしている!」 角から鎧を着た衛兵が現れ、男は顔を青くして逃げ出していった。

 

これが『全知全能』。まだ「視る」ことしかできないようだが、それでもこの世界の人間からすれば神の御業に等しい。

 

俺はそのまま、冒険者ギルドへと足を運んだ。 まずは拠点と金が必要だ。

 

ギルドの扉を開けると、中は騒がしい連中で溢れていた。 カウンターへ向かい、受付嬢に登録を申し出る。

 

「はい、冒険者カードの発行ですね。では、この水晶に手をかざして、貴方の適性を測らせてください」

 

俺は言われるままに手を置いた。 神が言っていた「段階的な解放」。今の俺のステータスはどうなっているのか。

 

「えーと……筋力、体力、魔力……。数値はどれも平均的ですね。……あれ? スキルの項目が……」

 

受付嬢のルナさんが首を傾げた。 カードには、通常なら習得している魔法や技が記載されるはずだ。 だが、俺のカードに刻まれたのは、たった一行。

 

【固有スキル:】

 

「聞いたことがないスキルですね……。でも、ステータスは普通ですし、まずは一般職の『冒険者』からのスタートになります。頑張ってくださいね!」

 

「ああ、ありがとう」

 

カードを受け取り、ギルドの喧騒を眺める。 すると、また「未来」が視えた。

 

ギルドの入り口から、青い髪の女と、情けない顔をした少年が入ってくる未来だ。

 

「……ったく、女神の私がなんでこんな目に! カズマ、アンタがもっとしっかりしてれば……!」 「うるせえよ! そもそもお前がついてくるのが悪いんだろ!」

 

予知通り、扉が勢いよく開いた。 二人は俺の横を通り過ぎ、必死な様子で受付へと向かっていく。

 

(……カズマ、と言ったか。あいつの未来は……)

 

ふと、あの少年の未来を視ようとした瞬間。 俺の視界が、パチパチとノイズが走るように暗転した。 無数の可能性が枝分かれし、どれもが爆発したり、借金を背負ったり、カエルに飲み込まれたりと、あまりに混沌としていて収束しない。

 

「……なんだ、あのパーティは。未来が確定しないのか?」

 

俺は小さく息を吐いた。 どうやらこの世界は、俺が知っている漫画の理屈だけでは通らないらしい。 だが、それもいい。

 

「すべてを見通せるなら、攻略本を読んでいるようなものだ。……まずは、この『未確定な未来』を楽しませてもらうか」

 

俺は腰の安物の剣を直し、ギルドを後にした。 全知全能の力を持つ男の、あまりにチートで、それでいて波乱万丈な異世界生活が始まった。

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