『死に戻り』しまくって助けたヒロインが、記憶を引き継いでいたので全員病んだ   作:水葉わいん/わいん。

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第13話 謎のち晴れのち……???

 

 

 

 

「え……? 今、なんて……言ったんだ?」

 

 俺は、自分の耳を疑わざるを得なかった。

 だって……花恋はギャルゲーに関しては知らないはずだろ……?!

 

 それについて知っているのは俺だけのはず……。

 

「あれ? 聞こえませんでしたか? 『()()()()()()()()()()()』って言ったんですよ。センパイ、この言葉について何か知ってませんか?」

 

「っ……」

 

 聞き間違いではなかった。

 

()()()()()()()()()()()』と、はっきり聞こえた。聞こえてしまった。

 

 なんで……花恋が、その言葉を知ってる?

 

 疑問は大量に浮かんだ。

 しかし、今は一旦、花恋の問いに答えなければ……!

 

()()()()()()()()()()()? なんだそれ、ゲームの用語か何かか?」

 

 俺は、本気でしらばっくれることにした。

 

「……ふぅん、そうですか……センパイはこの単語について知らないんですね……」

 

 花恋は顎に手を当てて、しばらく何かを考えると――

 

「なるほど……ありがとうございます! なら、今言ったことは忘れてくださいっ! えへへ、変なこと聞いちゃいましたね……」

 

「そ、そうか……」

 

「というわけで、私はここら辺で失礼しますね? やらなきゃいけないことを思い出したので……!」

 

 花恋は、それだけ告げると、どこかへ走り去っていった。

 

 ……一体、何が起こってるんだ?

 

 訳がわからない。

 俺はギャルゲーに関して誰にも話していない。

 

 なのに、その言葉を知っているということは――

 

 

 ――俺以外にも、転生者がいる?

 

 

 

 ――◇――◇――◇――

 

 

 それからというもの、花恋が病院にやってくる頻度はめっきり減った。

 

 他の二人に聞いてみると、花恋は学校には来ておらず、連絡も殆どつながらないらしい。

 

 そのため、どうして花恋が今、どうしているのかは二人にもわからないとのことだった。

 

「――へっくしゅんっ!」

 

 俺は、勢いよくクシャミをした。

 すると、隣にいた月乃が心配そうな眼差しでこちらを見つめてきた。

 

「ユウさん、大丈夫ですか?」

 

「うーん……ちょっと風邪ひいたっぽいかも……」

 

 月乃の家に向かうときに、薄着で行ったからだろうか?

 流石に薄着で12月の寒さは風邪引くか……。

 

「風邪ですか……ユウさん、ちょっと失礼しますね」

 

 月乃は、俺のおでこに手を伸ばし、数秒、優しく触れた。

 

「……うん。ちょっと熱っぽいですね……私、看護師さんに頼んで体温計もらってきますね」

 

 その後、体温計で測ってみたところ……体温計は37.5度を示した。

 

「この感じだと風邪ですね……でも、どうしてでしょうか?」

 

 月乃はしばらく考えると……ハッと何かに気が付いたように口に手を当てた。

 

「も、もしかして……私の家に来た時に……だって、ユウさんは寒い中、薄着で2時間もかけて私の家に来たんですよね……あ……」

 

「あ、あー……」

 

 どうやら、月乃は完全に気づいてしまったようだ。

 

 彼女は絶望に染まった表情をすると、「ごめんなさい」と消えそうな声で呟いた。

 

「私のせいで……ユウさんに無理させちゃって……」

 

「い、いや! いいんだよ! あれは俺が勝手にやったことだからさ? だから、月乃は気に病む必要ないからな?!」

 

「……そうは言っても、私のせいであることは確かです……本当に私……ユウさんに、迷惑かけてばかりで……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 月乃は、暗い瞳でブツブツとつぶやく。

 

 ううっ……そんなに悲しまれると胃が痛い……。

 

 し、仕方がない。

 あまり気は向かないが、この前の約束を引き合いに出そう。

 

「つ、月乃? 暗い表情はできるだけしないっていうのはどうした?」

 

「あっ……でも、今回に関しては私が本当に悪いですから……こんな時まで明るい表情なんてしていたら、サイコパスですよ……」

 

「そうなのかもしれないけど……じゃ、じゃあさ! 罪悪感を感じてるのなら、看病してくれないか? 実は俺、少し寒くてさ……」

 

「看病……そっか、そうですよね」

 

 月乃は、深呼吸を挟むと元の表情に戻った。

 

 良かった。

 月乃はあれ以降、ある程度は、気持ちをコントロールできるようになっていた。

 

「それで……寒いという事は、私がユウさんのことを温めればいいんですよね」

 

「え……? ま、まあな。でも、毛布を持ってきてくれるとかで――」

 

「――じゃあ……はいっ」

 

 俺が最後まで言い切る前に、月乃は俺の背後に回ると――抱きしめてきた。

 

 月乃の腕が俺をガッチリとホールドしているせいで、彼女の温もりが全方位から包み込んできた。

 

 それに……背中からは、マシュマロのようなふわふわと柔らかな感触さえ感じる。

 

 

「あ、あのぉ……つ、月乃さん? そ、そういうわけじゃないんだけど……」

 

「違うのですか? ユウさんは、抱きしめられるのと、お胸が好きだって、花恋ちゃんから聞いたので……両方を感じられるようにしてみたのですが……」

 

 か、花恋……っ!?

 なんてことを月乃に教え込んでるんだよ……ッ!

 

「た、確かに好きだけど……今じゃないというか……さ? 俺は毛布をかけてくれるとかで良かったんだよ」

 

「そ、そうでしたか……すみません、勘違いしてしまいました」

 

 月乃は、悲しそうに俯くと、俺から離れる。

 うっ……なんか、良心が痛い。

 

 そうだよな、月乃は善意でやってくれてるんだよな……。

 

「い、いや……やっぱり、こっちの方がいいな! うん!」

 

「――え?」

 

「こっちの方が温かくて安心するから、むしろ、もっとやって欲しいんだ。……いいか?」

 

「……! はい!」

 

 月乃は、俺の背後にもう一度回ると、さらに強く抱きしめてきた。

 

 やっぱり、こっちの方が温まるな。

 体も……そして、心も。

 

 花恋のあの言葉を聞いてからというもの……様々な可能性が脳裏をよぎってしまっており、最近は少し張り詰めていた。

 

 花恋に関しても、不思議な点が多すぎる。

 正直……彼女の考えは全く読めないのだ。

 

 だからこそ……ただただ俺を想って尽くしてくれる月乃は、癒しだった。

 

「ユウさん、瞼が落ちかけていますよ?」

 

「そ、そうか……?」

 

 気がつけば、眠気が襲ってきており、瞼が何度も落ちかけていた。

 

 まるで……温かな深海の中にいるような感覚だ。

 

「寝ちゃっても、大丈夫ですからね。ユウさんは……十分、頑張っているんですから」

 

「……ああ」

 

 気がつけば、暖かな眠気は全身を満たしていて……。

 

 俺の意識は、まどろみに沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウさん、大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ……俺、寝てたのか」

 

 目を覚ますと……そこには、心配そうに俺を見つめる月乃の姿があった。

 

「1時間ぐらいですかね? 幸せそうに寝てましたよ」

 

「そ、そっか……ちょっと恥ずかしいな」

 

「ふふっ、ユウさんの寝顔、凄く可愛かったです。許されるのなら、写真を撮りたいくらいには」

 

「や、やめてくれよ?!」

 

 本当に勘弁してくれ……。

 

 すると、俺は月乃がお盆のようなものを持っていることに気がついた。

 お盆の上には幾つかの皿が乗っており、一つは湯気を出していた。

 

「えっと……月乃? それは……?」

 

「ん? ……ああ、これですか? これはお粥ですよ」

 

 そう言って、月乃はお盆をベッドの隣の机に置いた。

 

「看護師さんに、ユウさんが風邪っぽいって言ったら、用意してくれたんです」

 

「へえ……! そりゃあ、嬉しいな」

 

 丁度、少しお腹が減っていたのだ。

 

 俺が皿に手を伸ばそうとすると……何故か月乃が皿を持ち上げた。

 そして、彼女はお粥をスプーンで掬い上げて――

 

「ユウさん……はい。あーん」

 

 俺の口の前まで、スプーンを寄せてきた。

 

「……え?」

 

「ん? どうかしましたか? ……あっ、そっか……私、失念していました」

 

 月乃は、しまったという顔をすると、スプーンを彼女の口元まで持っていき――

 

「ふー、ふー……はいっ、どうぞ」

 

 息を吹きかけてお粥を冷まして、再び俺の口元まで持ってきた。

 

「ほら、あーん……あれ? 食べないんですか?」

 

「い、いや、食べないも何も……俺、別に自分で食べられるぞ……?!」

 

「……? ユウさんの手間をできる限り減らすために、食べさせてあげようとしているのですが……ダメなんでしょうか?」

 

 月乃は、小さく首を傾げた。

 どうやら、純粋な善意でやってくれているらしい。

 

「い、いやぁ……で、でも……」

 

 俺は、差し出されたお粥と、月乃の顔を交互に見る。

 

 ここで断ったら月乃、悲しむよな……。

 それに償うチャンスを取り上げることにもなるし……また表情を曇らせてもおかしくないし……。

 

「……わ、わかった。月乃、ありがとうな。お言葉に甘えて、食べさせてもらうよ」

 

「……! そうですか! でしたら良かったです!」

 

 俺は、意を決して、お粥を口に入れた。

 

 すると、トロリとした粥の舌触りと同時に、微かな出汁の味がしてきた。

 

「美味しい……」

 

「本当ですか……! なら、良かったです。では……ふー、ふー」

 

 月乃は、再びお粥をあーんしてくる。

 

 それに対して、俺は無心で口に入れ続けた。

 

 

 

「ふぅ……美味しかったよ、月乃」

 

「ふふっ、そう言ってもらえると嬉しいです……! 実は、このお粥、私が病院のキッチンをお借りして、私が作ったものなんですよね」

 

「そ、そうなのか!?」

 

「はい! ですから、喜んでもらえて凄く嬉しいです」

 

 月乃は心底嬉しそうに、はにかんだ。

 

「そっか……作ってくれて、ありがとうな。外食以外で、人の手料理を食べるのは久しぶりで……良かったよ」

 

 転生してからというもの、人の手料理を食べる機会なんて一度もなかったからなぁ。

 

「そうなんですか? じゃあ、最後に食べたのは……いつなんでしょうか?」

 

「うーん、最後に食べた人の手料理は……前世で死んだ日、母親が作ってくれた朝ごはんだなぁ」

 

「へえ……」

 

 そういえば、母親……か。

 

 言われてみて思い出したが、元気にしてるかなぁ。

 俺の死から立ち直ってくれていると……嬉しいのだけどな。

 

 俺は、母親の元気そうな顔を頭に浮かべた。

 ――否、そうしようとした。

 

「……ああ、そっか」

 

 俺の手から、ゆっくりと力が抜けていく。

 

 今更になって、ようやく気がついたのだ。

 俺は――

 

「……両親の顔と名前すら、思い出せないのか……」

 

 少しずつ、記憶は戻ってきていた。

 だからこそ……何の記憶を失っているのか……わかるようになってきていた。

 

 俺は……両親に関する大抵の情報の記憶を、失っていたのだ。

 

「あっ……あう……あ……」

 

 その時、隣から嗚咽が聞こえてきた。

 

 視線を移すと――そこには、消えてしまいそうなほど苦しげな表情で、強く爪を手のひらに突き立てている月乃の姿があった。

 

「ごめんなさい……私のせいで……私たちを助けたせいで……ユウさんは……記憶を……ごめんなさい、ごめんなさい……本当に……ごめん、なさい」

 

 月乃は涙を溢していた。

 同時に、爪で切られた手から血が溢れ出していく。

 

 やってしまった。

 

 折角、月乃が元気になってくれていたのに……これじゃあ、振り出しに戻ってしまうじゃないか……!

 

「月乃、大丈夫だから。これは月乃のせいじゃない……何があろうと、選択したのは俺だからさ」

 

 俺は、必死に月乃を宥めて……何とか、泣き止ませることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日。

 病室に一人の来訪者が来た。

 

「――せーんぱい! お久しぶりです!」

 

 それは――ずっと音信不通だった花恋だった。

 

「今日はセンパイに教えてあげようと思いまして……!」

 

「……? 教えるって……何を?」

 

 花恋は、底抜けに明るい笑顔を浮かべると――

 

「そんなの勿論――『ヒロイン全員死亡エンド』について、私が知っている理由ですよ」

 

 

 

 

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