『死に戻り』しまくって助けたヒロインが、記憶を引き継いでいたので全員病んだ   作:水葉わいん/わいん。

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第17話 真実のちノート

 

 

 

 待ち合わせ場所に指定されたのは、人気の少ないカフェだった。

 

 私はそこで待っていると……黒いコートを来て、フードを目深に被った人物がやってきた。

 

「初めまして、夜桜花恋さん」

 

 声は、少し幼なげのある女性のものだった。

 

「えっと……どうして、私の名前を知ってるんですか?」

 

「……それは、貴方がゲームのキャラクターであり、私がプレイヤーだったからです」

 

「ゲーム? プレイヤー? ……どういうことですか?」

 

 私が質問すると、彼女は丁寧に教えてくれた。

 

 この世界がギャルゲーと呼ばれるジャンルのゲームの世界であること。

 私たちがその世界のヒロインであること。

 

 そして。

 

 ――私たちは『ヒロイン全員死亡エンド』というものに巻き込まれていたこと。

 

「つまり……ユウさんは、『ヒロイン全員死亡エンド』を知った上で、貴方たちを助けようとした……というわけです」

 

 コートを着た女は、淡々と言った。

 

 嘘……じゃあ……センパイは……私たちが死ぬ運命であることを知っていて、純粋な善意から助けようとしてくれていた……?

 

 嘘だ、そんなのあり得ない。

 あり得たら……私のせっかくの希望が……。

 

「……それと、一つ、貴方に共有したいものがあります」

 

「な、なんですか?」

 

 コートを着た女は、無言でカバンから一冊のノートを取り出した。

 

 ノートの表紙には、『化学』という文字が、二重線で消されていた。

 おそらく、学校の授業で使っていたのだろう。

 

 問題はここからだ。

 表紙には、『化学』の上から――『()()()()()()()』と書かれていた。

 

「……死に戻り……ノート?」

 

 嫌な予感がした。

 

「はい。大体、予想はついているかもしれませんが――これは、ユウさんが自身が経験した死に戻りに関する内容を記録したノートです」

 

「う、嘘……死に戻りしたら、世界はリセットされるから、記録なんて……できないはずじゃ……」

 

「私にも理由はよくわかりません。けれど、私は最近、道でこれを拾ったんです」

 

「道……で……」

 

「話を聞く限り、これを書いたのはユウさんで間違いないようですね。内容に関しては私は全部スキャンして保存したので、原本は貴方にあげます」

 

 そう言って、彼女は私にノートをくれた。

 

 ……この中に……センパイの真意が全て……書かれているのだ。

 

 私はコートを着た女と別れた後……自室で、ゆっくりと『死に戻りノート』を読み出した。

 

 

 

 

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

 

 

「……うっ……お……おえ……」

 

 ノートを読み終えた直後

 

 何度も何度も、ゴミ箱に吐いた。

 胃の中が空っぽになっても……吐き気が止まらなかった。

 

 気持ち悪い。

 なに……これ……?

 

 センパイは……

 私の願った通り、センパイには善意以外の理由があった。

 けれど。

 

 ――そんなこと、どうでもよくなるくらいに残酷すぎる……。

 

 センパイは……運命に抗って私たちを救うことを強いられていた。

 そして、何度も死ぬ痛みを……孤独を、味わって……そして。

 

 ――壊れた……。

 

 ループ1000回目以降の記録はなかった。

 ……つまり、そこでセンパイの精神は完全に崩壊し、記憶を失ったのだろう。

 

「あ……ああああああああああああああ。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 

 センパイが、こんなに苦しんでいたなんて……知らなかった。

 

 私は血が出るんじゃないかってくらい、爪を腕に突き立てた。

 

 センパイがこんなに苦しんでいる間に――

 

「私は全部諦めて……何もせずに、助けられるのを待っているだけ……だった……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 やっぱり、私は罪人だ。

 いくら償っても、償い切れない罪を犯した……最低の罪人。

 

 なのに……やっぱり、センパイのことは好きで……。

 

「私は……どうしたらいいの……?」

 

 わかんない。

 私は何日も家に引きこもって、苦しみ続けた。

 

 腕の傷は増え続けて、家のゴミ箱は吐瀉物だらけになって……鏡に映った私の顔はゾンビのようだった。

 

 そんなある日。

 

 メールが届いた。

 

『花恋ちゃん、大丈夫? ユウさんが凄く心配してるよ?』

 

 月乃ちゃんからのメールだ。

 センパイは記憶を失っているから、こんな私のことも心配してるのか……。

 

 ――久しぶりにセンパイに会おう。

 そう思った。

 

 センパイだって、私に『ヒロイン全員死亡エンド』について質問されて、困惑しているはずだ。

 

 それに……何よりも、大好きなセンパイに会って気分転換をしたかった。

 

 

 ――◇――◇――◇――

 

 

【ユウside】

 

「……そっか。そういう……ことか」

 

 花恋の行動の矛盾は……俺への恋慕と罪悪感によって生まれたものだったのだ。

 

 花恋は、苦しそうに話を続ける。

 

「私がセンパイに告白した時……センパイから返事を聞かなかったですよね?」

 

「ああ、そういえば……」

 

 俺の脳裏にあの時の花恋のセリフがよぎった。

 ――『私は本気です。でも……まだ、答えを聞く覚悟がないだけです……』

 

「私が、告白の返事を聞きたくなかったのは……覚悟がなかったからじゃないんです。あの時の私が――センパイと付き合う資格がなかったからなんです」

 

 ……そういうことか。

 

 全ての疑問が、解消された。

 花恋の今までの不可解な行動の裏には、そういう理由があったのか……。

 

 俺に相談できなかったのも納得できる。

 好きな人に、こんな相談……普通の精神をしていたら出来るわけない。

 

 俺は、花恋の右腕に触れると……優しく撫でた。

 

「……ごめんな。ずっと、気がつけなくて」

 

「ッ……?! な、なんでセンパイが謝るんですか……?! 元はといえば、センパイに恋愛感情を抱いてしまった私が悪いんです……」

 

 花恋は、下唇を噛んで――

 

「ほんと……なんでセンパイのことを好きになっちゃったんでしょうね……」

 

 消えそうな声で、苦しそうに呟いた。

 

 俺は、それが見ていられなくって……

 

「――花恋」

 

「な、なんですか……?」

 

「花恋は……全てを知った俺に罪を裁いてもらった上で……告白したいんだよな?」

 

「はい。そうですけど……」

 

 花恋は不思議そうに首を傾げたあと……何かに気が付いたように目を見開いた。

 

「まさか、センパイ……! だ、ダメです。そんなの絶対にダメです! あんな記憶、絶対に思い出しちゃいけません……ッ!」

 

 花恋は俺の肩を掴んで、何度も叫んだ。

 

 けれど、俺はまっすぐ花恋の瞳を見つめて、口を開く。

 

「花恋……俺も、そろそろ知るべきだと思ってたんだよ。過去に何があったのか、ヒロイン全員死亡エンドの裏には、何があったのか……」

 

「い、嫌……! 私は絶対にそんなの許しませんからね……!? 記憶を取り戻したら……センパイ……壊れちゃう……」

 

 花恋は動揺のせいで瞳の焦点が合っていなかった。

 

 そんなに、俺が失った記憶は酷いものだったのか……。

 

「でもな、花恋。……このまま、記憶を失ったままでいても……いつか、望まなくても記憶を取り戻す日が来ると思うんだ」

 

「それは……どうしてですか?」

 

「俺はさ……最近、よく同じ夢を見るんだよ。俺たち四人が車に轢かれるっていう……夢を」

 

「ッ……!? う、嘘……」

 

 俺だって、薄々気が付いている。

 あの夢が、ただの夢じゃないって。

 

 ――もしかしたら、過去に本当に起きたことなんじゃないかって。

 

「どうせいつか、思い出すことになるんだとしたら――俺は今、このタイミングで真実を知りたい」

 

「せん……ぱい……」

 

「だから、さっき言ってた『ノート』を見せてくれないか? そこには……俺が記憶を失った時の経験が記されてるんだろ……?」

 

「そうですけど……あれをセンパイに読ませたら……センパイ、壊れちゃいますよ」

 

「わかってる。でも、俺は当事者として知らなきゃいけないんだ」

 

 俺が何度もお願いすると……花恋は真剣な表情で悩み出した。

 

 そして、長考の末、花恋は――

 

「……わかりました。センパイが……そこまで望むんだったら……『ノート』を渡しましょう」

 

 諦めたように、そう言った。

 

「ありがとう、花恋……!」

 

「で、でも……もしも、センパイがおかしくなりそうな雰囲気があったら、すぐに取り上げますからね?」

 

「わかった。俺も覚悟はしてるけど……もしもの時は頼んだよ」

 

「じゃあ……ノートを取り出しますね」

 

 花恋は、鞄の中から一冊のノートを取り出した。

 

 そのノートの表紙には『化学』という文字が書かれていたが、二重線で消されていた。

 

 代わりに……その文字の上から――『()()()()()()()』と書かれていた。

 

「死に戻り……ノート……」

 

 その言葉に、脳が激しく警鐘を鳴らしていた。

 けれど……俺は知らなきゃいけないのだ。

 

 パンドラの箱を開ける……とは、まさにこのことだろう。

 

 俺は深呼吸を挟み、覚悟を決めると……ノートを読み始めた。

 

 

 

 

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