『死に戻り』しまくって助けたヒロインが、記憶を引き継いでいたので全員病んだ 作:水葉わいん/わいん。
「――『全員選ぶ』っていうのも、アリなんですよ?」
花恋の囁き声は……鼓膜を甘美に溶かし、脳の中を甘く蹂躙していった。
「ッ……そ、そんな不誠実なこと……していいはず無――」
「――していいに決まってるじゃないですか! センパイはあんなに頑張ったんですよ? それくらいのご褒美……あってもいいと思いません?」
花恋は悪魔のように誘惑してくる。
それは、どうしようもないほど魅力的で……気を抜けば頷いてしまいそうだった。
「……も、もし、俺が心の底から3人全員を好きになったら……考えるよ」
「もう、センパイは真面目ですねぇ……」
花恋はからかうように言うと――
「――まあ、そこも好きなんですけどね……?」
吐息が混じった声で囁いた。
「っ……か、花恋……」
「あはは、センパイ、顔真っ赤じゃないですかー! かーわいーっ!」
「くッ……」
俺は思わず顔を隠した。
不意打ちで『好き』とか可愛いとか……ズルすぎるんだよ。
そのせいで俺はいっつも揶揄われてばかりだ。
花恋がそういうことばかりするなら……俺だって――
「……せ、せんぱい? どうしたんですか? 黙っちゃて……え、えっと……ごめんな――きゃっ?!」
俺は花恋の肩に両手を付けると――そのまま、押し倒した。
「なあ、花恋……俺だって一応……年頃の男なんだぞ?」
「っ……は、ひ」
花恋の顔は目隠しのせいで見えない。
けれど……きっと顔を真っ赤に染めているのではないのだろうか。
「……そういえば、着ている服を当てるゲーム……だったよな?」
「え……? は、はい、そうですけど……」
「そうか……じゃあ、好き勝手触っても良いんだよな」
「ふぇ?」
気の抜けた声を漏らす花恋を無視し、俺は適当に花恋の体に手を伸ばした。
そこは柔らかくありながらも、弾力があり、円柱型の部位……太ももだった。
「へぇ、ここは太もも? 冬なのに生足なんだな」
「っ……せ、センパイ、それ以上、上を触ると――ひゃあ?!」
「す、スカートの中に手、入って……!? せ、センパイ! 止まって……!」
いやぁー、何も聞こえないなぁ。
どうやら、耳も悪くなってしまったみたいだ。
俺は、その後も花恋の体の至る所を触っていると……流石に耐えきれなくなったのか、花恋は俺を押し返して逃げていった。
「せ、センパイにこんな一面があったなんて……」
「い、いや別に誰に対してもするわけじゃないぞ?! 今回は流石に花恋がやりすぎだったから……」
「そ、そうですか……誰に対してもするわけじゃない……ふ、ふぅん……」
花恋は少し嬉しそうに声のトーンを上げていた。
「それはそうと……! センパイ、私が着ている服はわかりましたか? 私は月乃ちゃんみたいに優しくないのでヒントはあげませんよ?」
「うーん……」
正直な話、太ももに集中していたせいで全然わからなかったのだが……花恋がミニスカを着ているということは、わかった。
生地が薄い。
少しふわふわしている。
俺でも名前を知っている。
ミニスカ。
……なんだ?
恐らく露出が高い服なのだろうけど……思いつかないな。
「わからないな……」
「――じゃあ、ユウ。あたしが特大ヒント、出してあげようか?」
背後から雪那が、そう言ってきた。
「い、良いのか?」
「まあね。もうこれ以上、あたしたちのことを触ってもわからなそうだし? でも、代わりに……条件が1個、あるかな」
「……な、なんだ?」
俺が恐る恐る訊くと、雪那は耳元で囁くように言った。
「――来年のクリスマスの夜、あたしにくれない?」
と。
「……来年? それは……どうして?」
「ユウ、今年だったら絶対に断るでしょ?」
「まあ……それはな。でも、だからといって来年?」
「ふふっ、だって――」
雪那は一拍置くと、甘く蕩けるような囁き声で――
「――あたし、来年までに絶対にユウを惚れさせるつもりだから」
そう言った。
「勿論、来年のクリスマスまでに惚れてなかったら、この話は無しでいいよ? でも……惚れてたら……その時はよろしくね?」
「ッ……あ、ああ」
あまりに自信満々すぎる言葉で、俺は頷くしか無かった。
ギャルの自信……恐るべし。
「そ、それで、ヒントってなんだ?」
「んー、そうだなぁ……ヒントは、この季節、かな?」
「季節……?」
今は当然、冬だ。
冬に着る服……となると、防寒具?
でも、それにしては生地が薄いよな……。
……いや、そうか、そういうことか!
注目すべきは――
「――クリスマス……! つまり、サンタか?」
「ふふっ、せいかーい! ユウ、目隠し外していいよ?」
俺は恐る恐る、目隠しを外した。
――次の瞬間、視界に入ったのは……ミニスカートのサンタ衣装に身を包んだ三人だった。
「「「――メリー・クリスマス!!!」」」
「っ……!!!」
「ねえ、ユウ、プレゼントは何かわかる?」
「なんだ……?」
「ふふっ、それはね?」
三人は目を合わせると――
「「「私(あたし)たち……っ!!!」」」
月乃は、手を胸の前で組み、恥ずかしげにモジモジしながら――
花恋は、手を後ろで組み、満面の笑みを浮かべながら――
雪那は、手を胸に当てて、挑発的な笑みを浮かべながら――
三人は一斉に言った。
それは値段のつけられない……世界最高のプレゼントだった。
「三人とも……」
「ふふっ、センパイ、このプレゼントを受け取るかどうかは、今、決めなくてもいいですよ? けど……このプレゼントは受け取られるまで、センパイに付き纏いますからね? 覚悟しておいてくださいよ?」
「そうだよ? ユウ。それに受け取ったら……返品不可だからね?」
「二人の言うとおりです。私を……私達を絶対にユウさんに選ばせてみせますから……!」
三人は覚悟が籠もった瞳で、それぞれ言葉を紡いだ。
プレゼントは目が眩むほどに美しくて魅力的で……今すぐにでも全部、受け取りたくなった。
けれど……返品不可で唯一無二のプレゼントだ。
俺は誠実でありたい。
だから……
「心の底から好きだと言えるその日まで……取り置きしても、いいだろうか」
すると、三人は頷いた。
しかし、花恋は「でも」と付け加える。
「でも……取り置きなんですから、絶対にいつか取りに来てくださいよ?」
「ああ、勿論……! 絶対に取りに行くよ……!!!」
三人以外を好きになるなんて、絶対に選択肢として、あり得なかった。
「ふふっ、なら文句はありません!」
すると、花恋だけではなく、他の二人も満面の笑みを浮かべた。
その日は……一生、思い出に残る最高のクリスマスだった。
それから……あっという間に時は流れていった。
俺はリハビリをしながら日々、過ごしていき……4ヶ月後。
ついに退院を果たすことができた。
そして、今日――
桜舞い、ほのかに温かな風が吹く4月。
「――ようやく……また、学校に通えるのか……!」
俺は校門の前で笑みをこぼした。