『死に戻り』しまくって助けたヒロインが、記憶を引き継いでいたので全員病んだ 作:水葉わいん/わいん。
「――センパイっ!!! こんにちは!」
お昼前。
元気な声と共に、花恋がお見舞いに来てくれた。
どうやら、今日は1人で来たらしい。
「あの……お怪我の方は、大丈夫ですか?」
花恋は、病室に入ってくるや否や、俺を心配する。
「あ、ああ! なんとか大丈夫だよ。流石に少し痛いけど、動かさなきゃ平気かな」
「そうですか……! 回復傾向なら、良かったです……!」
花恋は、ニコリと微笑んだ。
……あれ?
前みたいな、曇った顔じゃない……?!
もしかして、時間が経ったことで花恋の罪悪感も薄まってくれたのか?
であれば、幸いだ。
「――でも、そもそも怪我をしなければ、今頃、ユウ先輩は楽しい学校生活を送れていたんですよね……」
花恋は俯きながら、ぼそりと呟いた。
「え……?」
「……あっ! ご、ごめんなさい……つい、ネガティブなことを言っちゃいました……」
……どうやら、罪悪感が薄まった……というのは俺の勘違いだったようだ。
「花恋……何度も言うけど、悪いのは花恋じゃなくて、あの車の運転手なんだから、そこまで気にしなくていいんだぞ?」
「はい……なんで、センパイを見るとネガティブなことを言ってしまうのでしょうか……」
「花恋? どうかしたのか?」
「い、いえ! なんでもありませんよ! そうですね、センパイが気にしなくていいって言うなら、そこまで気にしないようにします!」
花恋は、小さくはにかんだ。
わかってくれたのなら、良かった。
その時、彼女が首からかけている十字架が付いたネックレスが揺れた。
でも……十字架は何故かボロボロだった。
「ああ、このペンダントが気になりますか?」
花恋は俺の視線に気づき、ペンダントを手に取る。
「あ、ああ……どうして、ボロボロなんだ?」
「えっと……これは……確か……」
花恋は、顎に手を当てて少し考えると――
「あれ……? どうして、ボロボロなんでしょうか?」
不思議そうに、首を傾げた。
「え……?」
「確かこれ、三日前に買ったばかりだったはずなんですけど……あれ? おかしいですね……なんで……こんなにボロボロに……」
花恋は決して、惚けている……という様子ではなかった。
心の底から理由がわからないようで、困惑した表情でペンダントをじっと見つめていた。
「私はただただ、このペンダントを握って祈っていただけなんですけどね……?」
「そ、それだけでボロボロになったのか……?!」
「はい……でも、思い返してみれば、私、
「ずっと?」
「はい……寝る前も寝ている間も起きた直後も着替えている間も朝ご飯を食べている間も歯を磨いている間も髪型を整えてる間も学校に登校している間も友達と話している間も授業を受けている間もお昼ごはんを食べている間も下校している間も、ずうっと、ずうっと十字架を握っていた気がするんです」
花恋は思い出したように、
「っ……」
それはつまり……四六時中、ずっと握っていた、ということじゃないか?
「あっ……でも、唯一、この十字架を握ってないタイミングがありましたね」
「へ、へえ……」
「ふふっ、それは――」
花恋は、ベッドに身を乗り出すと――ぎゅっと俺の右手を両手で包みこんで握ってきた。
まさか――
「――こうやって……ユウ先輩の手を握ってる時……です」
「っ……」
薄暗い感情に染まった瞳で、花恋は俺に微笑んでいた。
……どうやら俺は、勘違いをしていたらしい。
花恋は一番、3人の中で罪悪感を抱いていないと思っていたが……その逆だ。
彼女は、一番、気にしていないように見えて――1番、重く気にしている。
ゾワリと俺の背筋に冷や汗が走り、全身の肌が粟立った。
「ユウ先輩? どうかしましたか?」
「……いや、なんでもないよ」
「そうですか……」
すると、その時、ピコンとスマホの通知音が鳴った。
俺……ではなく、花恋の携帯からだ。
「……すみません、今日はこの後、お父さんに呼び出されているんでした」
「そ、そっか。じゃあ……お別れか」
「はい……! ユウ先輩、また明日、会いましょうっ!」
花恋は、最後ににこやかに微笑むと、病室から去っていった。
「――どうしたら……良いんだよ……」
急に静かになった病室で、俺は頭を抱えた。
花恋が、ここまで罪悪感を強く感じていたなんて……。
多分、三人の中でも飛び抜けているんじゃないか?
胃が痛え……。
本当に、どうしたものか……。
俺は頭を抱えるのであった。
――◇――◇――◇――
「――え、えっと……あたし……雪那だけど……今、いいかな」
数十分後。
入れ替わるように、雪那が部屋にやってきた。
「おう、入ってきてくれていいぞ!」
俺が返事すると、制服に身を包んだ雪那が病室に入ってきた。
「雪那……! お見舞いに来てくれて嬉しいよ」
そうして、俺は雪那を歓迎した。
――その時だった。
一瞬だけ、雪那の左手に
――そのお守りは、花恋が持っていた十字架のように、ボロボロだった。
まさか――
「……なあ、雪那、1つだけ訊いてもいいか?」
俺は、気がつけば、そう口にしていた。
「良いけど……どうしたの?」
「いやさ……そのお守り、なんで、そんなにボロボロなんだ……?」
俺は、雪那が握っているお守りに視線を向けながら、そう質問した。
「えっ……このお守り? ……本当だ、いつの間にかにボロボロに……」
雪那は、自分でも気づいていない様子だった。
「これで三個目なんだけどな……。ずっと握ってたら、ボロボロになっちゃったみたい」
「っ……そ、そっか……」
雪那は、ジロジロとお守りを見つめる。
お守りには、『足の守護』と書かれていた。
足専用のお守り……?
……雪那が足を悪くしたなんて話、聞いたことないし……十中八九、俺の為に手に入れたものだろう。
雪那は、お守りをギュッと握りしめると、仄暗い瞳で俺をじっと見つめて――
「私は……お医者さんじゃないし、ユウのために出来ることなんて、祈ることくらいしかないからさ。沢山祈ったんだよね。多分、一日うち、殆どの時間は祈ってたかな……?」
「っ……そ、そっか……」
雪那も花恋と同じかよぉ……!
俺に助けられただけだよな?
それだけ、普通、ここまで病むか?
俺は別に死んだわけではなく、足を骨折しただけで、ちゃんと生きてるぞ?
「え、えっと……俺の無事を祈ってくれたのは凄く嬉しいけど……流石に気にすぎじゃないか?」
「それは……無理だよ。だってユウは私たちのために何度も命を犠牲に……」
雪那はそこまで口にするが――突然、言葉を詰まらせた。
「……あれ? 私、今、何を言って……命を犠牲……? ユウは生きてるよね……?」
彼女は困惑した様子で、ぶつぶつと呟き出した。
「雪那? どうかしたのか?」
「……い、いや、なんでもないよ。うん、大丈夫、なんでもないから……」
「そうか……?」
花恋といい……なんか、様子が変だぞ?
二人とも、何かに混乱しているようだった。
「でも……なんだか私、ユウには沢山、償わなきゃいけない気がしているんだよね」
「そう……なのか? 悪いのは雪那たちじゃなくて、あの運転手なんだし……そこまで重く受け止めなくてもいいと思うけど……」
すると、雪那は首を横に振った。
「ううん、これは私がユウに償いたいの。……そうだなぁ……ユウ、何か、欲しいものはある? それか、あたしにして欲しいこととか」
「え……いや、特には……」
「…………………………そっか」
待て待て待て。
雪那さん? この世の終わりのような表情をしないでくれ……!!!
「え、ええっと……じゃあ! ゲームとか欲しいかも! ほら、入院生活って暇だからさ。ゲームの一つくらい、欲しいじゃん?」
「わかった……! ゲーム機ね。用意しておく!」
雪那は、満面の笑みでそう言ってくれた。
良かった……と安堵するのも束の間。
数十分後、最新の家庭用ゲーム機と、100は優に超えるであろう大量のゲームのカセットが届いた。
俺は忘れていたのだ。
彼女らが――社長令嬢であることを。
「ん……? なんだこれ……?」
俺は1枚の手紙を手に取る。
どうやら、ゲーム機と一緒に送られてきたらしい。
俺は手紙を開封すると……中には1枚の黒光りするクレジットカードが入っていた。
――『これで勝手に欲しいものを買っていいよ。支払いは全て私がしておくから』
という文言を添えて。
……こ、これ……どうしよ……。
「『命を犠牲に』……? なんで私、ユウが死んだと思ってたんだろう……? ユウは生きてるのに……」
雪那は、家に帰ってから、不思議そうに呟いた。
そして、思考を巡らせた――その時だった。
――違う、ユウは数えきれないほど死んだ。
頭の中に誰かの声が響いた。
次の瞬間――ユウが車に轢かれる情景が脳裏をよぎった。