『死に戻り』しまくって助けたヒロインが、記憶を引き継いでいたので全員病んだ   作:水葉わいん/わいん。

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第31話 甘々のち争い

 

 

 

「じゃあ、ユウさん、今度は私の番ですね?」

 

 月乃は机に身を乗り出すと、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「つ、月乃……?」

 

「私がユウさんに申し訳なく思っている間に、さっきから二人とも、ユウさんに『あーん』したり、してもらったり……ズルいですよ……! ……本当は私がユウさんにお弁当をわけてあげようと思っていたのに……」

 

 月乃は最後にボソリと呟くと、少し不機嫌そうに頬を膨らませた。

 

「あはは、ごめんごめん……つい暴走しちゃった……」

 

 雪菜は少し申し訳なさそうに苦笑いした。

 

「もう……! 二人に料理を教えてあげたのは誰だと思ってるんですか……!」

 

 プンスカと怒る月乃。

 

 そっか、月乃が二人に料理を教えたのか……。

 

 通りで料理が得意じゃない2人が料理を習得できたわけだ。

 月乃はゲーム内で料理が凄く得意なキャラとして有名なのだ。

 

「なあ、月乃……良かったら月乃のお弁当も少しだけ分けてくれないか?」

 

 俺は気が付けば、そうお願いしていた。

 

「え……は、はい! 勿論です……!」

 

 月乃は弁当箱から小さなハンバーグを箸で取り出す。

 そして――

 

「あ、あ〜ん……」

 

 顔を真っ赤に紅潮させながら、俺へ差し出してきた。

 

 なんというか……俺よりも照れてないか?

 

「つ、月乃? 別に無理して『あーん』しなくてもいいんだぞ……?」

 

「っ……べ、別に無理なんてしてません……! それよりも……ほら、ユウさんは私のハンバーグ、食べてくれないんですか?」

 

「あ、ああ、ごめんごめん……」

 

 俺は少しだけ躊躇ってから、月乃が差し出してきたハンバーグを口に入れる。

 

 すると、本来なら冷えているはずのハンバーグが何故か出来たてのように温かかった。

 

「うまっ……」

 

 そして、思わず言葉が漏れてしまうくらいに、それは別格に美味しかった。

 

「ふふっ、実は保温ができるお弁当を使ってみたんです……!」

 

「へぇ……! でも、それにしても美味いな……」

 

「ま、まあ、お料理は何年も続けてきましたので……!」

 

 月乃は、一拍挟むと、少し気恥ずかしそうに話し始めた。

 

「私の家は裕福でお料理をする必要なんてないのですが……お婆ちゃんから、いつか必要になるからお料理を教わっていたんです。そしたら、いつの間にかに趣味になっていて……」

 

「へぇ〜……!」

 

 それは、ゲームでは語られなかった内容だった。

 そんな理由があったのか……。

 

「でも……今思うと、実際にこうやってユウさんを喜ばせる役に立っているので、お料理をして良かったです……!」

 

 月乃は柔らかな笑みを浮かべた。

 

「――じゃあ、今度はユウさんの番ですよ?」

 

「へ?」

 

「雪那ちゃんと花恋ちゃんにしたんですから、私にも『あ〜ん』してくれますよね?」

 

 月乃は上目遣いで期待した瞳で俺を見つめてくる。

 その瞳は庇護欲をくすぐり、お願いを聞いてあげたいという気持ちに嫌でもなってしまった。

 

「……わ、わかったよ」

 

 俺は月乃から箸を借りると、ハンバーグを掴んで月乃の口の中に入れた。

 

 ああもう、やっぱりこれ、恥ずかしいな……。

 

 月乃はパクッとハンバーグを食べていくと……ペロリと口元を舐めて――

 

「ふふっ、美味しかったですよ」

 

 月乃は柔らかな笑みを浮かべて、そう言った。

 

 彼女は平然としているように見えるが……俺は、彼女の顔がリンゴのように真っ赤に染まっているのを見逃さなかった。

 月乃は俺の視線に気がついて、顔を両手で隠すが、もう遅い。

 

 俺は月乃のことを揶揄ってやろうと思ったが……

 

「(よく考えれば……あ〜んって恋人同士がするようなことだよな……? 顔が赤くなるのって普通じゃ……)」

 

 俺は自分がどれだけ恥ずかしいことをしたのか、理解してしまった。

 そうして、みるみるうちに俺の頬も熱を帯びていく。

 

 結局、二人揃って俺たちは顔を逸らしていた。

 

「あのぉ……二人とも、新婚さんか何かですか? 甘々な空気あふれまくってて、今、飲んでるブラックコーヒーが甘く感じるんですけど……?」

 

 花恋はブラックコーヒー片手に苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

 ――◇――◇――◇――

 

 教室に戻った後。

 俺がトイレに行った時だった。

 

「――おい、お前、ちょっと待てよ」

 

 トイレの入り口で誰かに声をかけられた。

 

 それは、聞き覚えのある声で振り返ってみると――

 

「……高崎?」

 

 そこにいたのは、染めたであろう茶髪で鋭い目つきをしたチャラそうな男――高崎だった。

 

「ふーん、俺の名前を覚えてるってことは何で引き止められたのか、わかるよな?」

 

「いや、わからないけど?」

 

「っ……お前っ、あんなにあからさまに見せつけておきながら、わからねえだと? ふざけてんのか……?」

 

「いやだって、わからないんだし……」

 

 見せつける……?

 ああ、もしかして――

 

「雪那と月乃と花恋のことか? ……ああ、そういうことか。嫉妬してるのか……?」

 

「ッ……! てめえッ……」

 

 高崎は俺に歩み寄ると、胸倉を掴んできた。

 どうやら、図星のようだ。

 

「黙って聞いてりゃ、ふざけたこと言いやがって……自分がどういう立場か、わかってるんだろうな?」

 

 高崎は俺の足に視線を移した。

 

 俺の足はまだ完全には回復していなかった。

 ある程度歩けるようになったとはいえ、未だに松葉杖は必要だし、蹴られたりしたら堪ったもんじゃない。

 

 しかし、ここはトイレの中だ。

 流石に暴力沙汰になれば、誰かが助けてくれるはずだが……

 

「(……クソ。全員、見て見ぬ振りかよ)」

 

 トイレにいる全員は目を逸らして、外へ歩き去っていく。

 

 期待するだけ無駄だったようだ。

 ……いや、誰かに期待しても無駄だってことくらい、死に戻りの時からわかってたことか。

 

 俺は深く息を吐くと、覚悟を決めた。

 

 

 

 

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