『死に戻り』しまくって助けたヒロインが、記憶を引き継いでいたので全員病んだ   作:水葉わいん/わいん。

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第4話 膝枕のち曇り

 

 

 

 

「……ん、んっ……」

 

 温かい深海から水面へ浮上していくように、俺の意識は徐々に現実に戻って来る。

 

 どうやら、いつの間にかに、寝落ちしてしまっていたようだ。

 

「ん……?」

 

 その時……周りから、フローラル系の良い匂いがしていることに気づいた。

 それだけじゃない。

 俺の頭の下に、やけに温かくて柔らかなものがあるような……?

 

「――大丈夫ですか?」

 

 その時――()()()()、声がした。

 

 なんだ、と思って、見上げると――

 

 ――そこには、俺の顔を心配そうに覗く月乃の姿があった。

 もしかして、俺――

 

「――ひ、膝枕されてるのか?!」

 

 俺は慌てて飛び起きようとする。

 だが――月乃にガシッと両肩を掴まれた。

 

「ダメですよ、安静にしていなきゃ……!」

 

「え……いや、でも……」

 

 意識すればするほど、感覚は敏感になっていき、フローラルな良い匂いと太ももの柔らかな感触が、強調されていく。

 これは……なんというか、健全な男子高校生には刺激が強すぎる……!

 

 俺は、再び、起き上がろうとするも――

 

 ――次の瞬間、月乃は、瞳を不安で揺らし、彼女の目からは光が消えていく。

 

「……もしかして、私の膝枕じゃ、ダメでしたか? 全然柔らかくなくて痛かったですか?」

 

「い、いやいや! そんなわけないよ! こんな可愛い子から膝枕されたら、嬉しいに決まってるじゃん! ……でも、ちょっと恥ずかしかったというか……」

 

「そ、そういうことでしたか……! ごめんなさい、勘違いしてしまって……ッ!」

 

 月乃は、勢い良く頭を下げる。

 

「……ごめんなさい。私、今、凄く面倒臭かったですよね。彼女でもないのに、膝枕して、否定されたと思ったら、勝手に絶望して……ああああああ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 そして、彼女は絶望した表情で、謝罪を繰り返す。

 

 ……うん、これは……雪那よりも重症かもしれない。

 

「えっと……別に謝る必要はないよ? さっき言った通り、俺は嬉しかったわけだし……」

 

「……ありがとうございます。ユウさんはやっぱり、優しいですよね……」

 

 そう言って、俯く月乃。

 

 どうやら……逆効果だったらしい。

 

 昨日から疑問だったんだが、どうして俺がポジティブな発言をする度に、逆にみんなの表情が曇っていくのだろうか。

 ……わからん。

 

 一旦、そのことは忘れて、俺は気になっていたことを月乃に質問する。

 

「そういえば、どうして膝枕を?」

 

「すみません。ユウさんが、寝ている時に辛そうな表情をしているの気づきまして……何か、助けになれないかと思って、膝枕なんてしてしまいました」

 

「そういうことか……! 善意でやってくれたことなら、月乃が謝る必要なんて、無いよ」

 

 俺は、月乃に優しく微笑みかけた。

 

「そう……ですか」

 

 月乃は、うつむきながら、小さく相槌を打った。

 

 ……一旦、話題を逸らすか。

 

 すると、話題……というか、質問したいことは、すぐに見つかった。

 

「そういえば、なんだけどさ……俺の部屋がやけに豪華なのは……どうして?」

 

 俺は部屋を見渡しながら、そう言った。

 

 清潔な部屋。

 やけに気品を感じる看護師や医者。

 そして――窓から、綺麗な海が一望できるという好立地。

 

 入院したことのない俺でも、この病院が、随分と良い場所であることは流石にわかった。

 

「ああ、この病院ですか? 実は、会社のコネを使ったり、三人でお金を集めたりして、都内で最も良いサービスが受けられる病院を選んだんです。どうやら、有名な会社の社長や芸能人も御用達の病院らしいので、質は良いと思います」

 

「そ、そんな……! 別にそこまでしてもらわなくても良かったのに……ちなみに、入院費とかって……?」

 

「それは……ふふっ」

 

 月乃は、返事の代わりに、小さく笑い声を漏らした。

 ……うん、聞かないほうが良さそうだ。

 

「――でも、それ以外にも、色々とさせていただきましたよ」

 

「え?」

 

「例えば……お父様を脅して――じゃなくて、お願いして、大量の資金を提供してもらい、最上級の医療を施したり、病院の人たちに追加でお金を払って、ユウさんの治療を誰よりも優先してもらったり……」

 

 月乃は、暗い瞳を揺らしながら、仄かに微笑むと――

 

「それと――少し違法な薬を使ったり……」

 

「い、違法……?!」

 

「はい。とはいっても危ない薬物ではありませんよ? 適切に使う分には何ら害のない薬ですから」

 

「そ、そっか……」

 

 違法……。

 月乃は、俺を治療するために犯罪すら犯したっていうのか……?!

 

 ……く、狂ってる。

 

 普通、そこまでするか……? バレたら捕まったりするんじゃ……。

 

 月乃の言葉に、思わず顔が引きつってしまった。

 ――それが間違いだった。

 

「――ユウさん、どうして……顔を引きつらせているんですか?」

 

「あ……いや、これは……」

 

「でも、法を犯すくらいしなきゃ償えたことにすらならないんです……貴方の苦しみに比べたら、このくらい……ちっぽけなものだから……」

 

 月乃は、顔を上げた。

 

 月乃の表情は、怯えや焦燥、恐怖など様々な感情に染まっていた。

 なのに……口には薄く笑いを浮かべていたのだ。

 

 明らかに異常だった。

 

 人の真似をするロボットがエラーを起こしたら、きっと、こんな表情をするのだろう。

 

 そう思えるほどに、月乃は壊れていた。

 

「つ、月乃……一旦、落ち着いてくれ! 俺の苦しみに比べたらって……別に俺は足を怪我しただけだぞ? 法を犯すのは……やりすぎじゃないか?」

 

「……それは……」

 

 月乃は、ハッとした表情で数秒、考えると……

 

「そうかもしれません……どうして私、こんなに罪悪感を抱いてるんでしょうか……?」

 

 花恋や雪那と同じく――困惑するような表情を浮かべた。

 

 彼女は惚けるための演技をしているのではなく――心の底から困惑している様子だった。

 

 ……同じだ。

 花恋や雪那が見せた表情と、全く同じだ。

 

 なんだ? なんなんだ? 3人とも、どうしたのだろうか?

 

「月乃……大丈夫か?」

 

「……はい。すいません、私、取り乱してしまいました……」

 

「そっか。でも……元に戻ってくれたのなら、良かったよ」

 

 俺がそう言うと、月乃はうつむきながら――

 

「……ごめんなさい。今日は、これで帰ろうと思います」

 

 鞄を持って、慌てた足取りで病室から出ていった。

 

 月乃……。

 もしかしたら、三人の中で一番、重症なのは……彼女なのかもしれない。

 

 どうやら、俺は勘違いをしていたらしい。

 彼女らは、俺に恩と罪悪感を抱いているものの……俺はそれらは時間の経過と共に薄まり、いずれ無くなるものだった思っていた。

 

 ――でも、その考えは……甘かった。

 

 あの様子だと、何年経っても、何十年経っても……いや、一生、あのままな気がする。

 

 俺は……もっと本気で、3人の罪悪感を取り除かなければいけないのだ。

 

「……やるか」

 

 俺には彼女らから罪悪感を取り除く秘策があった。

 なるべく使いたくなかったが……こうなったら仕方がない。

 

 ――決めた。

 

 

「――明日……三人に俺が転生者であることを明かそう。そして、俺が足の怪我を重く捉えていないことを伝えるんだ」

 

 それしか、きっと……方法はない。

 

 俺は、ぎゅっと拳を握りしめると、決意した。

 

 

 

 

 

 ――しかし、それが3人が失っていた記憶を取り戻すキッカケになることを……俺はまだ知らなかった。

 

 

 

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