『死に戻り』しまくって助けたヒロインが、記憶を引き継いでいたので全員病んだ   作:水葉わいん/わいん。

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第8話 耳かきのち曇り

 

 

【雪那side】

 

 

「あ……ああああああああ……全部……私が……ユウを壊した……」

 

 私は、絶望に染まった表情で呟いた。

 

 全てを思い出したのだ。

 

 幾星霜、ユウが自分たちを身を挺して守ろうとして――死んでいったことを。

 自分たちは、見ていることしかできなかったことを。

 ユウが……精神を壊し、死に戻りの記憶全てを忘れていることを。

 

「……ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 私は、ただひたすらに謝ることしかできなかった。

 

 其れは、どれだけ償っても償いきれない罪。

 

 だって、壊れた精神は――二度と戻ってこないのだから。

 

「せめて……私にできることは……なんでもしなきゃ」

 

 ユウが面倒に感じること、全部、代わりにやろう。

 何でも良い。

 ご飯だって食べさせてあげる。

 体だって洗ってあげる。

 お仕事? お金? 人間関係?

 ――全部、あたしがどうにかしてみせるよ。

 

 せめて、それぐらいしなきゃ――罪悪感に押し潰されて死んでしまいそうだった。

 

『――俺の足の一本くらい、みんなの未来に比べりゃ大したものじゃないんだから~』

 

 目を覚ました時、ユウはそう言っていた。

 ――なぜ私が、あの発言に嫌悪感を覚えたのか。

 

 それは――ユウがそう言っていることこそが、大丈夫じゃない証だからだ。

 精神を壊して記憶を失ってなきゃ……あんな発言できない……。

 

「ユウは……もう壊れてる……あたしが……壊した……」

 

 何度も死んでも、貴方は諦めなかった。

 心を壊しても、輝いていた瞳から光を消しても、心を壊しても――あたし達を救おうとし続けた。

 

 結果――ユウは、酷いストレスに耐えられず、記憶を失った。

 

「あたしの……せいで……」

 

 どれだけ捧げても、どれだけ尽くしても、どれだけ謝っても――消え去ることのない罪。

 

 だから――できる限り、償わせて欲しい。

 

「――って、こんな姿、ユウは見たくないだろうし、我慢しなきゃ」

 

 あたしは、自分の頬を軽く叩く。

 

 ユウは、あたしたちに幸せに生きてもらうことを望んでいる。

 表情を曇らせずに、明るい顔をすることを望んでいる。

 

 なら――演じなきゃ。

 

 明るくて、元気で、まるで物語のヒロインみたいな姿にならなきゃ。

 例えば……さっきのあたしみたいな。

 

 勿論、この程度で罪を完全に償えるとは思えない。

 でも……これくらいしなきゃ、償ったことにすら、ならない。

 

 だって――あたしは、他の二人よりも、ユウに償わきゃいけないことが多いのだから。

 

 

 ――◇――◇――◇――

 

 

 

 

 

 これは少し前の話。

 

 ――卒業写真を見た時に、『こんな人居たなぁ』って思い出すくらいの人。

 

 それがユウへの元々の印象だった。

 ユウは、休み時間には大体、机に突っ伏して寝ており、誰かと喋っている様子を殆ど見たことがない。

 いわゆる……陰キャというやつだ。

 

 あたしは、そんなユウを内心で少し馬鹿にしていた。

 

「ねえ、あんた、もうちょっと人と話したらどうなの?」

 

 一度、あたしはユウにそう言ってみたことがある。

 面白おかしさと……それと、人と話さないのが『クラスメイトと打ち解ける方法がわからないから』とかであれば、あたしが手を貸してあげようと思ったのだ。

 しかし――

 

「……嫌だな。俺にとっては、こっちの方が幸せなんだよ」

 

 返ってきたのは、そんな言葉だった。

 友達と話すよりも、1人で突っ伏して寝てるのが幸せ?

 意味がわからなかった。

 

 あたしは内心、苛立ちながら、その場を後にした。

 

 その後は、ユウが寝ているのを見る度に内心、馬鹿にするようになってしまった。

 

 そして、その日も、ユウが安らかな寝顔をして寝ているので――

 

「あんたさ、また寝てるわけ?w」

 

 あたしは、ずっと寝ているユウに対して半笑いで言った。

 

「ほら、もういい加減起きなよって。どんだけ眠んのさw、コアラかって……!」

 

「……」

 

 まだ寝ているユウに、あたしは言葉を浴びせ続ける。

 

「ねえ、本当はもう起きてるんじゃないの? どうせ、あたしの言葉も本当は聞こえてるのに、面倒臭いから寝たフリしてるんでしょw」

 

「……」

 

 それでも、ユウは瞼をピクリとも動かさない。

 

「……マジで、いい加減、起きなよ。何回、声かけてると思うの?」

 

「……」

 

「……ねえ……ほんとに、そろそろ起きてよ」

 

 あたしは、ユウに視線を再び向けた。

 

 ユウはまだ寝ていた。

 ――真っ白な病室の中で。

 ――真っ白なベッドの上で。

 ――右足を痛々しく包帯に巻かれながら。

 ――点滴の針を腕に刺して。

 

 全てをやりきったような、安心しきった表情で――寝ていた。

 

 あたしは、フラフラとおぼつかない足取りでユウに近づいていくが――途中で力が抜けて、地面に膝をついてしまった。

 そして、涙で歪む視界の中、再び、同じ言葉を口にする。

 

「ユウ……起きてよ……全部、謝るから……お願いだから……目を、覚ましてよ……」

 

 あたしは、縋るようにユウの手に触れた。

 

「心の中で、ユウのことを見下しててごめんなさい。ユウのことを哀れだって思っててごめんなさい……本当は違かった。貴方は、誰よりも勇敢で強かった。酷いことをしたはずのあたしを助けるほど……優しかった……」

 

 涙が頬を伝い、ユウの手の甲に滴り落ちた。

 

「でも……あたしは、貴方が苦しんでいる時に、何も出来なかった……何度、あなたが死んでも、精神が壊れていっても……あたしは、何も出来なかった……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 あたしは、ユウの手を握ろうとした。

 けれど……手が震えて、結局、ユウの手はあたしの手から零れ落ちた。

 

 ――それはまるで、あたしが必要ないのだと、言われているようだった。

 

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

 

 謝罪の言葉が頭の中を無限に埋め尽くしていった。

 

 その日の記憶は、それ以降、ない。

 多分……家に帰って、ユウが起きてくれることを願って、お守りを握りながら、部屋に引きこもっていたんだと思う。

 

 ――だからこそ、さっき、ユウがあたしのことを必要としてくれたのは、凄く嬉しかった。

 

 でも、今、少しあたしには心配していることがある。

 それは、月乃ちゃんだ。

 あの子が記憶を取り戻した時……どうなるだろうか。

 

「月乃ちゃん……あとで、連絡しようかな……」

 

 あの子は凄く真面目な子だ。

 だからこそ――罪悪感に押しつぶされて、死んでいても、おかしくない。

 

 

 

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