『死に戻り』しまくって助けたヒロインが、記憶を引き継いでいたので全員病んだ 作:水葉わいん/わいん。
【月乃side】
『俺なんか気にせずに、普通の幸せを手にして普通に生きて欲しい』
私は、昨日、ユウさんが言っていた言葉を思い出した。
――次の瞬間、吐いた。
「けほっ、けほっ……」
薄暗い自室の中。
ゴミ箱に何度も吐く。
これで、今日、吐いたのは何回目だろうか。
……数え切れないな……。
ユウさんの言葉を聞いて……私は、まるで、罪を突きつけられているようだった。
例えるなら、事故で人を轢き殺してしまった運転手が、咽び泣く被害者の顔を見た時のような気分である。
だって――あの言葉は、ユウさんが壊れていることの証拠なのだ。
ユウさんが壊れているからこそ、生まれた言葉なのだ。
「……もしも、ユウさんが全ての記憶を取り戻した時……なんて言うのかな」
少なくとも、昨日と同じことを言うわけないだろう。
だって、私たちは彼にとって、幾ら自分が壊れても、苦しんでも助けてくれなかった傍観者なのだから。
私は、覚えていた。
いつかのループの時、ユウさんが私にだけ聞こえるくらいの声量で――
『――誰か……もう、俺を助けてくれ……』
と、呟いていたのを。
「あ……ああああああああ」
『誰か』の中には、私たちも含まれていたはずだ。
私たちは、助けを求められたのだ。
なのに――何もしてあげなかった。
そんな私たちに……彼は、何を思う?
憎悪? 軽蔑? はたまた――殺意?
どちらにしても、プラスの感情を抱くわけがないだろう。
ましてや――『普通に幸せになってほしい』なんて、親切に私たちの幸せを願うことは絶対に無いだろう。
「……なのに、『普通に幸せになってほしい』なんて言うことは……ユウさんが壊れている証拠……」
私が壊した。
運命によって、体を自由に動かすことを制限されていたのだから、仕方がない――ユウさんは、もしかしたらそう言うかもしれない。
けれど……ユウさんが運命を変えられた以上、私たちにも運命に抗う手段はあったはずだ。
なのに……私は、諦めて、ユウさんに頼り切って、心の中でただただ咽び泣き続けて……。
私は、最低だ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
幾ら謝っても、償える気なんてしない。
一度壊れた心は二度と完全には治らないのだ。
ユウさんはいつか、記憶を取り戻し……死ぬまで、トラウマで苦しむことになるだろう。
それを想像すると――
――死ぬほど、気持ち悪かった。
「もし……私が死ねば、ユウさんは……ちょっとくらい、心が軽くなるかな……」
私は、机の上の縄に手を伸ばす。
――が、すぐにやめた。
今のユウさんがそんなことを望まないことくらい、わかっていたから。
「……なら、償わなきゃ」
せめて、犯した罪の分だけ、償わなきゃ。
でも……どうやって?
私が、ユウさんに償えることって……何?
私は、部屋の中を見渡す。
部屋の床には、大量の折り鶴が散らばっていた。
踏み場がないのでは、と錯覚するほどだ。
数は恐らく……10万を優に超えるだろう。
「結局……私ができることなんて、これくらいしかない……」
しかし……これらは、病室に持って行こうとしたのだけれど、流石に多すぎて看護師さんに断られてしまったものだ。
結局、私の償いは空回りしてしまったのだ。
あと、私が彼に渡しせるものなんて……この体とお金だけだ。
でも……お金であれば他の二人も持っているし、私の体なんて、ユウさんは必要としないだろうな……。
結局、私にできることなんて、ないのだ。
償えることなんて、なかった。
その事実が、さらに酷く私を苦しめていた。
「……もう、私ができることなんて……」
死ぬことしか……ないんじゃ……。
私は、机の上の縄に再び、手を伸ばした。
――その時だった。
『――プルルルル』
電話が鳴った。
発信者は……雪那ちゃんだった。
私は、一瞬、迷うも、電話に出ると――
『――月乃、大丈夫か?』
聞こえてきたのは、ユウさんの声だった。