亀更新になりますが楽しんで頂けると幸いです。
始まりは後悔と共に
幸福とは何なのだろうか。
辞書で言えば不自由や不満が無く、心が満ち足りている様。
満ち足りる事なんて、この世にあるのだろうか。
この世は不自由、不満に満ちている。
食欲を満たせば、その時だけは満たされるだろう。
しかし所詮は一過性のものでまた新たに食欲が生まれる。
生まれや環境、社会的身分の差においてすら、不自由が生まれ、不満が生まれる。
下に行けば行く程、不満は大きくなる。逆もまた然り。上に登れば登るほど大きくなっていく。
修羅の様に他者を見下す。
畜生の様に蹴落としあう。
餓鬼の如く貪り喰らう。
そうして果てに、地獄に至る。
この世は地獄だ。
多くの人間が犇めき合い、その大半は下らぬ事で争い続ける。
この世を――地獄を生み出しているのが、自分自身だと気付か無い。気付いてもやめない。
ならば……この世界に、本当の幸福など何処にあるのだろうか。
「やめろ……助け――!」
ロボットの頭が吹き飛ぶ。
両腕はダラリと力を失い、そのまま地面に崩れ落ちる。
「終わりました――カイザー理事」
『そうか、ご苦労。後はこちらで処理しよう。それにしても早いな。』
耳のインカムに指を当てて少年――神喰シズは答えた。
『どうだね。黒服などに付かず、私の所に来ないか?』
「遠慮しておきます。僕と彼の間にある『契約』は、破ればどんな不利益を被るのか分かりませんので。」
『フン、まあ良い。今後とも良い関係を築きたいものだ。』
「ええ、そうですね。」
そう言うと、通話は切れる。そして僅かに溜息を吐いてその場を後にした。
アビドス高等学校。
現在対策委員会の部室には、シャーレの先生が来ていた。
「そう言えば……ここに来る前に調べたんだけど、神喰シズって子は何処に居るの?」
「シズ先輩は……それが、行方が分からないんです。」
アヤネが悲しげに言う。
「行方不明?」
「そうなんですよ!全くもう!見つけたらお説教しないといけませんね!」
ノノミがプンプンと怒っている。
そんな中、ホシノだけは窓の外を見つめて言葉を発さない。
「……ホシノ、どうしたんだい?」
「うへ……何でも無いよ〜。おじさんちょっと外に出てるねぇ?」
そう言ってホシノは部室から出ていってしまった。
「……ホシノ先輩、何か知ってる。」
シロコがホシノが出ていった戸を見つめる。
「そうですね……シズくんが居なくなってから、9億程あった借金が半額にまで減った事と、何か関係があるのかも。」
「そっか……私も何か調べてみるよ。」
それを聞いた皆が騒めく。
「本当ですか!?」
「それなら是非お願いしたいです♪」
「任せて!シャーレの権限で調べられる限りやってみるよ!」
先生は一先ずシャーレに戻り情報収集を始めた。
『ねえ……シズって普段は何してるの?』
少女は問う。
『うるせぇ……お前には関係無い』
それを冷たく突き放した。何故彼女と関わっているのか?何故本能の赴くまま喰らわないのか?
理由は分からない。だが、彼女との時間はただひたすらに心地良かった。
『あ、ひっどーい!人が折角心配してやってんのに……あ、あったあった。はいこれ。』
彼女はガサゴソとカバンを漁り、弁当箱を取り出した。
『……何の真似だよ。』
『べっつにー?私からの恩返しって奴かな?』
『一回助けただけだろうが。そこまでして貰う筋合いは無いよ。』
そうだ……彼女との出会いは、男に襲われている所を助けたのがきっかけだった。
『そんな事、無いよ……私、あのままだったら何されてたか分からないし、シズが助けてくれたから、こうして無事にいられるんだよ。』
『はぁ…………好きにしろ。』
今思えば、突き放すべきだったのだろう。
しかし、突き放すには、あまりにも彼女との時間は楽しかった。
短い喰種としての人生の中で、確かな幸せと言うものを感じていたのだ。
目が覚めると、硬い寝台の上に寝かされていた。
「……夢、だったのか。」
懐かしく——そして、後悔に塗れた記憶。
僕は身を起こそうとして、凄まじい激痛に邪魔をされた。
実験に付き合った影響で、全身の細胞が悲鳴を上げているように感じる。
「おや?もう目が覚めたのですか。」
ああ、そう言えばこいつもいた。何か紙袋を持って、黒服は横に立っていた。
喰種の嗅覚が、袋の中身を嫌でも分からせる。
「黒服……何を持ってきた。」
「差し入れですよ。そろそろ限界でしょう?」
紙袋をを受け取り、中を見ると……血の滴る新鮮な肉が入っていた。
「では、差し入れも済んだ事ですし、私は退散するとしましょう。貴方の食事風景も、興味深いですが——」
俺は黒服を黙らせるべく羽赫から攻撃を放つ。その攻撃は、黒服の頬を掠める。
「——こうも威嚇されては、おちおち観察も出来ませんからね。」
そう言うと、奴は部屋から出て行った。
「……食うか。」
袋から取り出した肉を食べるのは、ひどく億劫だった。
食べたく無い。でも食べねば生きられない。
自分が心底嫌いになるのに、自死を選ぶ勇気すら無い。
——嗚呼、誰か僕の事を——
「——
こんな時でも、誰かに縋ってしまう自分が嫌いだ。
ここまで読んで頂きありがとうございます♪