遂にアビドスのあのキャラが……まぁバイトしてれば会う事も、ね?
まあ、何はともあれ楽しんで頂けると幸いです!
ゲヘナ風紀委員会、執務室。
その一番奥の席に腰を下ろして、書類を見ている少女こそ、ゲヘナ最強の風紀委員長として恐れられている空崎ヒナその人である。
「ふぅ……。」
軽いため息を吐いていると、横からスッとコーヒーが差し出された。
「お疲れ様です……そんなに悩まれて、どうしたんですか?」
風紀委員会行政官、天雨アコは資料を見ながら呟く。
ヒナはお礼を言い、コーヒーを一口飲んだ。
「新しく現れた『夜鷹』について考えてただけよ。」
「夜鷹…………ああ、最近現れた賞金稼ぎですか。」
アコは軽く資料を読み、夜鷹について把握する。
「えぇ…………武器すら使わず、徒手空拳のみで敵を制圧する姿は鬼神の如し、って噂が流れる程の強者が在野に埋もれていたなんてね。」
ヒナは、強者である夜鷹の情報がこれ迄の間に一切流れて来なかった事に引っかかりを覚えていた。
例えばミレニアムサイエンススクールの美甘ネルは、その強さは然ることながら、“C&C”のエージェントとして任務達成率100%の『約束された勝利の象徴』として他学園にその名を轟かせる。
ゲヘナと犬猿の仲であるトリニティ総合学園の剣崎ツルギは、トリニティにとっての風紀委員会である治安維持組織“正義実現委員会”の委員長としてヒナ同様、他学園にまで知れ渡っている。
そして……零落し、嘗ての栄華は今や見る影もないアビドスの地……そんな辺境で生まれた強者——小鳥遊ホシノは、情報部として活動していたヒナですら、要注意人物としてマークする程の実力を持っている。
大抵の場合、何某かの情報が残っている筈なのに、“夜鷹”にはそれが無い。まるで其処に何の前触れもなく現れたかの様な、不気味さがあった。
「一体何を企んでいるのかしら……。」
それが悪い事で無ければ良いのだが、とヒナは静かに窓の外を眺めた。
クチャクチャ。
夜鷹こと——神喰シズは、静かに食事に勤しんでいた。
アビドスにある無人の家での地下室にて、彼は食事をする。
ブラックマーケットの貧困している地域に行き、誰にも跡を付けられぬ様に、そして何を運んでいるのか分からぬ様、最大限注意を払いながら人一人入る位の大きな旅行カバンに死体を詰め、帰る。
時間は人の少ない時間帯——必然的に夜になる。日中は出来る限り動かず、夜中に食料になりそうな人間の選定を行う。そのついでに賞金稼ぎとして人間社会に溶け込める様に資金を調達しながら生活していた。
美味い、嫌だ、もっと食べたい、やめてしまいたい、まだ腹が減っている、吐き出してしまいそうな程苦しい。
食べたく無い。食べなきゃ生きて生きていけない。二律背反の葛藤を抱えながら、喰種としての本能のまま、骨すら残さず喰らい尽くした。
「…………ご馳走様でした。」
両手を合わせて、祈る。その行為に何の意味も無い事は知っている。けれど、喰らった者に対して、祈らずにはいられないのだ。
次は幸せに産まれてきます様に
次は平穏な生活ができます様に
——願わくば、次は
キヴォトスに来てから数ヶ月……
此処での生活にも漸く慣れて、殆ど前の世界と変わらない位には溶け込めているだろう。
「神喰さん!終わりそうですか?」
「僕の方はもうちょっとかな。」
キヴォトスに来てから、今やってるティッシュ配りのバイトや廃品回収、飲食店のスタッフ等、色々な短期のバイト先を転々としている。こうしていると嘗て、普通の人間の様に社会に溶け込んでいた頃を思い出す。
『行ってきます!良い子にして待ってるのよ。良いわね?シズ。』
『うん!いってらっしゃーい!』
「————————シズさん?」
「…………!ごめんセリカちゃん。呼んでた?」
「いえ、別に呼んではいないんですけど……なんか顔色悪いですよ?」
しまった。物思いに耽りすぎて、心配させてしまった。
「いやぁ……恥ずかしながら、今日はちょっと寝坊してしまって、朝ごはんを食べて無いからかも……コーヒーは飲んだんだけどね。」
「そうですか……あ、そうだ!シズさん、これどうぞ!」
「え?」
差し出されたのは、コンビニで売っているメロンパンだった。
「いやいや、頂けないよ。だってこれ、セリカちゃんのお昼ご飯じゃ無いか。」
「大丈夫です!私、こう見えて少食なので、ちょっと抜いた位だったら——」
くぅ、と可愛らしい音が聞こえた。セリカは顔を真っ赤にしてプルプルと体を震わせた。
僕はその様子にクスリと笑い、袋を空けてメロンパンを半分にした。
「一緒に食べよう。」
「…………はい。」
人間の食事は、喰種にとって栄養にならない。そもそも、人間と舌の作りが違うから、途轍もなく不味く感じる。そして、消化される前に吐き出さなければ体調が狂う。
しかし喰種捜査官を欺くには、食べねばならない状況になる事もある。
だから、喰種は皆、人間の食事を食べる練習をするのだ。食べ物は咀嚼しない。味わったフリをして飲み込む。飲み込んだ後は隙を見て吐き出す。
これが、人間社会に溶け込む為に求められるスキルだった。
「う〜ん、絶妙な甘さだね。」
数回咀嚼するフリをして飲み込む。ジャリジャリとした食感が砂を食べているかの様な感覚を覚え、鼻を突き抜ける青臭さは凄まじい。味はまるで粘土でも食べているみたいだ。
「そうなの!値段も大きさの割に高く無いから、これでこの値段ってすごい安く無いですか?」
「うん、そうだね。」
メロンパンを全て食べ終えて、両手を合わせて「ご馳走様でした……ちょっとお手洗い行ってくるね。」
「はい!」
そういって僕は、コンビニのトイレに入って行った。
「うぉぇ……。」
食べたモノを全て吐き出す。最初の頃は咽せたり、涙目になったりしたが、今はそうでも無い。
——慣れて仕舞えば、どうと言う事は無い。
思い出す。かつて人と共に生きてきた事を。
思い出す。初めて
思い出す——初めて自分の手で、ヒトを殺した時の事を。
世界は狂っている。殺し、殺され、恨み、恨まれ、排斥し、互いに否定し合う。
果てなき地獄の螺旋。
終わりなき悲しみの輪廻。
そしていつしか虚しさだけが、心に残った。
ほんの少しだけでも——
——せめて
——僕は、何を差し出しても構わない。
此処まで読んでくれてありがとうございます!
日常回多めで単調な文章だったかもですが楽しんで頂けたなら幸いです!