まあ文章力低くてシリアスになってないカモですが楽しんで頂けると嬉しいです♪
「最近シズさん来ないな。」
セリカが窓の外を眺めながら、唇を尖らせて呟く。
「何か大きな仕事が入ったから遠出するって言ってたけど、いつになったら終わるんだろう。」
アヤネはコーヒーを淹れてセリカに差し出す。
「ありがとう……熱っ。」
熱さに驚いて舌を出す。少しして息を吹きかけて冷ましてから飲んだ。
数分間、コーヒーを嗜んだ後、カップをテーブルに置き、再び窓の外を眺め出す。
「早く帰ってこないかしら……。」
セリカの眺める空は気が重くなる様な、分厚い雲に覆われていた。
——腹が減った。
いよいよ食料が尽きそうだ。
誰もいない路地裏で一口サイズの人肉を口に含みながら何とか飢えを堪える。
キヴォトスは広い。アビドスから比較的に近場にあるブラックマーケットの貧民街ですら、不自然な程死体が少ない。だからゲヘナまで来たと言うのに、知らない土地では死体すら見つけるのに一苦労する。
平和な日本という国ですら自殺者や事故死があったので、食料には困らなかった。
しかしこのキヴォトスの地は不自然な程死体が少ない。
まるで誰かが意図的に死体を持ち去っているかの様な——
「すみません。少々お時間よろしいですか?」
「————!!?」
驚いてバッと振り返る。其処に立っている男を睨みつける。
「誰だ……お前は?」
黒一色——顔に当たる部分に、銃弾でも撃ち込まれた様な丸い穴が空いていて、其処を中心に罅が走っている。穴からは光と、黒い炎の様なモノが揺らめいている。
「ふむ……そうですね。名前などは持ち合わせていませんが、黒服とでもお呼び下さい。存外、この呼び名が気に入っていましてね。」
黒服——そう名乗った人物は感情の読めぬ声色でそう呟いた。
「それで、その黒服さんが一体何の用?」
「一つ、取引をしようと思いましてね……貴方にとっても悪く無い提案なのですが。」
胡散臭い。
こういう自分の手の内を晒さない存在と言うのは兎に角厄介だ。自分の利益を求めて取引に応じた筈なのに、気付けば自分が搾取されている事態に陥ることが多い。
話を聞くまでも無く、断ろう。そう思い、口を開こうとするが——
「応じてくれるのなら、貴方の学校の借金を半額、こちらで負担して差し上げましょう。」
「——何だって?」
何故、アビドス高校の事を知っている?
「クックック……それだけではありません。貴方が困っているであろう食料の問題も、私ならばクリア出来ます。」
こいつ、何処まで知っている。
もう良い、殺してしまおう。こいつの言う事成す事信用できない。こう言う奴が主導権を握っていると碌な事にならない。
「話をする気はもう無いよ……それじゃあ、サクッと死んでくれ。」
バサリと、音を立てて背中を突き破って生えてくる。まるで猛禽類の翼の様な見た目のそれは、僕が敵を確実に屠ると決めた時しか出さない。
「おやおや、せっかちですねぇ。もう少し会話を楽しんでもよろしいのでは無いですか?」
「お前の様な奴は腐るほど見てきた。一見対等な取引に見せかけて、最後には全てを奪っていく。そんなやつの話など無駄の極みだ。」
赫子から攻撃を飛ばす。それだけで大抵の奴なら決着がつく。今回も呆気ない最期だったなと、そう思っていた。
——しかし
「素晴らしい!貴方の攻撃には、やはり『神秘』が篭っている。」
「何だと?」
防がれてしまった。
普段より威力が上がっている。それは周囲の破壊痕を見れば分かる。
しかし黒服の男だけは、見えない壁に阻まれているかの様に攻撃が届かなかった。
「ヒトを食らう事で、その身に神秘を宿している……実に興味深い。
ですが、どうやら嫌われてしまった様ですので今回は此処まで。興味がありましたら是非此方まで御一報ください。
それでは——。」
瞬間、凄まじい閃光に目を閉じてしまう。
反射で前方に攻撃をするが、手応えは無かった。
目が徐々に見える様になって辺りを見渡したが、黒服の男の姿は消えていた。
「ちっ、逃げられた。」
無駄に体力だけを消耗してしまった。
「真っ黒な名刺だな。」
足元に落ちていた黒い名刺には、連絡先が載っている。連絡する気は無いが、何故か取っておいた方が良いと思い、ポケットにしまった。
「くそ、無駄に体力だけを消耗してしまった。」
今日はもう帰ろう。
「ああ、本当に…………腹が減ったな。」
腹が減った。
何も考える気力が湧かない。今にも倒れてしまいそうだ。
「あれ、どしたのこんな所で。」
少女の声が背後から聞こえた。
——やめろ。
「………………………。」
「どしたの?黙り込んじゃって。」
話しかけるな。それ以上近付くな。僕から離れろ。そう言いたいのに声が出ない。
否、出せない。ちょっとでも気を抜いたら僕は彼女を——
「大丈夫?」
いつもの様に覗き込む顔。そこに刻まれた表情は、僕を心配する様な、そんな表情だった。
「あ——。」
小さな……けれど僕に取ってはとても大きな衝撃が走った。
覆水盆に返らず——その言葉を何処か他人事の様に感じながら、僕は気がつけば赫子を出して少女の腕を切り飛ばした。
「え————?」
唖然とした表情を浮かべた少女の顔が、苦痛に歪んで行くのが見えた。
しかし、僕はそんな表情の変化を気にする事なく、切り飛ばした腕を拾い上げ、その腕に噛みついた。
ブチブチ
筋を噛み切ると、心地よい味が口いっぱいに広がっていく。
そして気づいた。自分がしてしまった事の重大さに。
「違う、何で…こんな筈じゃ………違う………………違う違うちがうちがう!!」
血があんなに出ている。
『美味しそう』
「違う!!!」
そう否定したいのに、涎が次々と溢れてくる。
一度口にしてしまった甘美な味は、一瞬にして理性の鎖を断ち切り、食欲——本能の赴くまま喰らい尽くそうとした。
ズガガガガガガガ!!
足元に放たれた銃弾に阻まれて思わず足を止めた。
「一体————何をしているのかしら!?」
頭上……ビルの上から少女が落ちて来た。
腰についた翼を広げて、幻想的なまでに美しいその少女は、似合わぬ無骨な機関銃を携えて、紫紺の瞳を妖しく光らせて此方を見つめている。
間違いない。彼女はゲヘナの絶対守護者——空崎ヒナ、その人だ。
有難い。強者の放つ威圧感が僕の理性を呼び起こしてくれた。
「————!!」
背を向けて駆け出す。銃撃は展開していた赫子にあたって僕の体に傷がつく事は無かった。
何処かも分からぬ地域まで走って、走って、走り抜いた。体力も限界で、息も絶え絶えに壁に寄りかかる。
「クソが……クソがクソがクソがクソがクソがああああああああ!!!!」
壁に頭を叩きつける。しかし壁が砕けるだけで、傷がつくどころか痛みさえ感じない。
傷つけたい訳じゃ無かった!食べたかった訳じゃ無い!!
「僕はあんな屑共と一緒じゃ無い……。」
膝を抱えて蹲る。
どうすれば良いのか分からない。
けれど、僅かに満ち足りた腹は、自分がしでかした事を物語っている。
——そうか。僕はこんなに弱かったのか——
いくらカッコつけようとも、いくら自分は違うと否定しても、逃れられない決定的な事実。
それは——
「僕は
人のフリをしたって、根本が変わる訳じゃ無い。
そんな当たり前のことを何で分からなかったのだろうか。
此処まで読んで頂きありがとうございます!