過去に語ったシズが逃げ出した喰種捜査官とは?
逃げた。
逃げた。
逃げた。
全力で足を動かした。何も考えず、このアビドス市街を駆け回る。
そうして辿り着いた場所は、見知らぬ袋小路だった。
此処ならば見つかる事もない。赫眼となった自分の瞳も、見られる事は無いだろう。
——腹が減った。
「うるさい!!」
自分の腹を殴りつける。鈍い痛みが走るが構わず殴り続ける。
「うるさい………良い加減にしろよぉ……!」
思った以上に情け無い声が出てしまった。
けれど、いくら殴っても、殴っても、殴り続けても、頭の中で
——腹が減った。
「もう嫌なんだよ……生きてる奴を食い殺すのなんて沢山だ!!」
フラッシュバックする、嘗ての記憶。
食欲耐えきれずに食い殺した……友達だった彼。
どれだけ時間が経とうとも、忘れられぬ深い傷。
——
「はぁ、はぁ。」
もうダメだ。空腹で意識が真っ黒に染まって行く。
「————————」
意識が闇に堕ちる最中、誰かの声が聞こえた気がした。
————————?
口一杯に広がる心地よい味に脳が支配される。
——美味しい!
あれ、僕は何をしてたんだっけ……まぁ、どうでも良いか。今はただ、この口の中のモノを深く味わいたい。
そうだ、テレビでやってたっけ。食べ物はよく噛まないと消化に悪いって。
——あれ?
なんでだろう。食べたく無いって考えてた様な気がする。それはダメだって言ってた気がする。
なんでダメだったっけ?
なんで食べたく無いんだっけ?
ドン。
ふわりと背中から倒れ込む。
ああ、そうだ。思い出した。なんで食べたくなかったのか——
「……どうしてこんな事をしたのかな。シズくん。」
真っ赤に濡れた肩、此方を睨む瞳は猜疑心に満ちていた。
——傷つけたく無い人を、傷つけてしまうからだ。
睨むホシノにシズは幼子の様に蹲る。
「ああ、僕は何て事を……ごめんなさい………ごめんなさい。」
「シズくん?」
ホシノはその姿に困惑して声を掛ける。しかしシズには届かない。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」
その余りに異様な姿にホシノは猜疑心すら忘れてシズに近づく。
「そっか——そうだったんだ。僕は、生きてちゃいけない存在だったんだ。」
背中から飛び出した猛禽類を思わせる翼。それは赫子だ。神喰シズという喰種の持つ、最強の攻撃手段。
それを彼は、壁に向かって突き刺して、ビルの壁面を登って行く。
「待って!シズくん!!?」
手を伸ばしても僅かに届かず、神喰シズはビルの立ち並ぶ暗い街へと姿を消した。
嘗て、その喰種は独りだった。
他者との共存など望むべくも無く、関わり合う全てに敵対した。
その牙は、
共食い、捜査官殺し。何より凄まじかったのはその食欲である。
多くを殺し、多くを喰らった。いつしか彼は鷹の面を被っている事から『夜鷹』と呼ばれ、恐れられた。
その果てに、彼はある男と戦う事になった。
——最強の喰種捜査官、有馬貴将である。
彼との戦いは熾烈を極めた。
複数のクインケを使い熟す有馬貴将。
片や神喰シズが使うのは鷹の羽の様な羽赫。
経験や戦闘技術をとっても、凄まじい彼我の戦力差。普通に考えても逃げ一択だったろうが、彼は数分間、有馬と渡り合った。
赫子で羽を飛ばして牽制し、接近されれば持ち前の身体能力と直感だけで、次々と攻撃を避けて行く。当然、無傷とはいかない物の戦闘続行可能な軽微なダメージに抑えていた。
しかし、流石のシズも戦っている内に気づいた。
——こいつは戦って良い相手じゃ無い。
羽赫の喰種は総じて消耗が激しく、長期戦には不向きとされる。
最も、共食いを繰り返していた彼はその弱点を克服しつつあったが、シズもそれは変わらなかった。
——逃げるか?いや、逃げ切れるか?
シズは気づく。そう言えば茶髪の男がいた筈。奴に攻撃すればもしかしたら……
そう考えたが早い。シズは赫子から弾幕を展開して茶髪の男を狙う。案の定、有馬は男を守る為クインケを展開する。
その隙に自身は逃走経路を確認してすぐに身を翻した。
——逃げるだけなら分がある筈だ。
その考えは事実、正しいのだろう。捜査官と喰種の戦いで、何故喰種が逃げ切る事が多いのか。それは圧倒的な身体能力故だ。乗用車とスポーツカーが競争している様なモノ。
だが相手が悪い。
有馬は自身の持つクインケ『ナルカミ』から電撃を放つ。
それに気付き、シズは回避しようとするが、一歩遅れた。
——足を持ってかれた!
片足が切り裂かれ、そのまま倒れ——無かった。
「うぉああ!!」
赫子を壁に突き立てて登って行く。その間、有馬も攻撃を放つが皮一枚で回避して、最後は壁面を登り切り、夜の街へと消えていった。
当時シズは、一人の人間の友人がいた。当初は餌としか考えていなかったが、話して行く内に食事では無く、友情を感じて行く様になった。
しかし、有馬との戦闘で傷だらけになった彼には、早急に栄養が必要だった。
「シズ!?どうしたのその怪我!!」
不幸な事に、その場にいたのは友人である少年——
「はぁ、はぁ、はぁ、がぁあああああああああああ!!」
シズは堪えきれず喰らった。食い散らかして、食欲を満たして漸く気付く。
「あぁぁあ……あああぁぁあぁあああぁぁぁああああああああああああああああ!!」
シズの慟哭が路地裏に満ちる。
「僕は何て事を!!ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
呪詛の様に只々謝罪を口にする。
僅かに残った肉片を抱えて、滂沱の涙を流した。
——失ったモノは返ってこない。
どれだけ後悔をしても。
どれだけ悲しみに暮れても。
故に『夜鷹』は姿を消した。
そうして新たに『
自殺者の人間ばかりを喰らい、他の喰種と縄張り争いもせず、喰種捜査官からは逃げ出す臆病者として、その名を僅かな範囲で広めた。
まあ、予想されてたかと思いますが有馬貴将がシズを殺しかけた人です。
当時大量に人を食らっていたのと喰種も多数殺害したのも確認されて、そこに有馬から逃げ出した実力を加味してSSレート位には収まったんじゃ無いですかね……
僕の書いてる作品は全て「面白そう!」って思った事を行き当たりばったりで書き、途中で設定追加したりしてるので、僕自身何処に行き着くのか分からなくなってます。
そんな稚拙な文章でも楽しんで頂けたなら幸いです♪