禪院直哉 再誕録   作:ナムルパス

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第10話 クランクイン・デッド、あるいは双子の二重露光

渋谷事変の終結から数日。日本は羂索が放った数百万の呪霊と、突如として覚醒した受肉体・術師たちが殺し合う、巨大な「スタジオ」へと変貌していた。

俺は、羂索との裏契約に基づき、東京第1結界(コロニー)の特等席――新宿の超高層ビルの屋上にいた。

「……あーあ。どいつもこいつも、演技がうるさいねん。ただ殺し合うだけなら、そこらの害獣と変わらんやろ」

眼下では、覚醒したばかりの現代術師たちが、泣き叫びながら術式を暴発させている。

俺は手にした呪具のタブレット(禪院家の情報網と羂索の術式をリンクさせた特注品)で、プレイヤーリストをスクロールする。

「……いた。……真希、真依。……お前ら、仲良く同じ結界に入ったんやな。……ええよ、その方が『編集』しやすいわ」

俺は指先をパチンと鳴らした。

「領域展延・オーバーサンプリング」。

俺の周囲の空間が、120fpsの超高解像度で再構成される。俺はビルの屋上から虚空へ踏み出し、重力をハックした「不連続な歩行」で、彼女たちの元へと滑空した。

 

東京第1結界。瓦礫の山となった住宅街で、真希と真依は追い詰められていた。

彼女たちの前に立ち塞がっているのは、禪院家から送り込まれた「扇」――彼女たちの実の父親だ。

「……落ちこぼれが。一族の面汚しが、この混乱に乗じて生き残ろうなどと、片腹痛いわ」

扇の刀が、呪力の炎を纏って真希を切り裂く。

真希は呪具を杖代わりに立ち上がるが、その身体は既に限界を超えていた。隣で倒れている真依を守るために、彼女の心は折れかけている。

そこに、俺は「天からの照明」と共に降り立った。

「……おーお。実の娘を公開処刑か? 扇、お前の演出はいつも湿っぽくて敵わんわ。……もっと、こう、現代的な『カタルシス』を見せてくれよ」

俺の登場に、扇の表情が歪む。

「……直哉か。当主の座に居座り、羂索と通じているという噂は真実だったようだな。……この出来損ないどもは、私がここで処分する。邪魔立てはさせんぞ」

「……邪魔? 違うわ。……僕は『監修』に来たんや。……扇、お前の役はここで終わり。……お前の『古い殺陣』、もう見飽きたわ」

俺は一瞬で扇の背後に回り込み、彼のうなじに領域展延を纏った手刀を添えた。

「――『フレーム・デリート』」

扇が振り返るよりも早く、彼の存在を構成する「時間のコマ」を強引に間引く。扇の首が、不自然な角度で地面に落ちた。絶叫すら許さない、音速を超えた静止画の断裂。

「……さて。……余計なエキストラはいなくなったで、真希、真依」

 

真希は、血に塗れた目で俺を見上げた。

「……直哉……。今度は、私を殺しに来たの?」

「……殺す? まさか。……真希、お前はまだ『未完成』や。……お前の中に残っている、その『呪い(真依)』。……それがある限り、お前は一生、甚爾くんの影を追うだけの偽物で終わる」

俺は、意識を失いかけている真依の髪を、乱暴に掴み上げた。

「……真依。聞こえてるか? ……お前、真希を愛してるんやろ? ……なら、最後くらい『ええ仕事』しろや。……お前が生きている1秒ごとに、真希の才能が1コマずつ死んでいってるんやで」

真依が、微かに目を開けた。彼女の瞳には、俺への憎しみと、それ以上の、真希への深い慈しみがあった。

「……分かってるわよ……。直哉、あんた……本当に、最低の……人間ね……」

真依が、最後の呪力を振り絞って立ち上がる。

彼女の術式「構築術式」。命を削り、無から有を作り出す。

「……真希……。……全部……持っていくから。……あんたは……独りで……最強に……なりなさい……」

真依の身体が、淡い光に包まれていく。

彼女が構築しようとしているのは、この世の理を超えた「一振りの剣」。

そして、自分自身の「消滅」。

「……あは、最高や! そのライティング! その台詞! ……これこそが、僕の見たかった『真希・覚醒』のプロローグや!」

 

真依の身体が粒子となって消え、真希の手の中に、漆黒の太刀が残された。

その瞬間、俺を供給し続けていた「縛り」が、かつてない轟音を立てて崩壊し、再構築された。

『本来自分を殺すはずの天敵が、完全に完成した』。

その対価として俺に流れ込む呪力は、もはや「特級」という枠に収まらない、事象そのものを書き換えるほどの奔流となった。

同時に、目の前に立つ真希から、全ての呪力が消失した。

呪力という名の「ノイズ」が消え、彼女は世界の因果から解き放たれた「透明な怪物」へと進化した。

「……あ、あはははは! 凄い……凄いぞ真希! お前の解像度、今なら無限(8K)すら超えてるわ!」

真希は、何も言わず、ただ太刀を構えた。

その瞳には、もはや憎しみすら映っていない。ただ「眼前の不純物を排除する」という、純粋な機能美だけが宿っている。

「……さぁ、来いよ真希! ……僕という『監督』を殺して、お前の物語を完結させてみろ!」

 

真希が動く。

投射呪法の「24fps」ですら捉えられない、不連続な超速。

彼女は俺の展開する領域展延の膜を、バターのように容易く斬り裂いて肉薄する。

俺は血を吐きながら、自分の術式をフル稼働させた。

「――領域展開:『万象極彩・映写回廊』!!」

俺の領域が展開されるが、呪力を持たない真希は、領域の「必中効果」の対象にならない。彼女は俺の映画館の中を、一人の「観客」として、そして「破壊者」として闊歩する。

「……はは、完璧や。……領域すら無視して、僕の『フレーム』を物理的に壊しに来るんか!」

真希の太刀が、俺の胸を深く切り裂いた。

痛みではない。最高の作品が完成したという歓喜が、俺の脳を焼き切る。

「……真希。……お前、最高の役者になったなぁ。……これでお前の『第1章』は完結や」

俺は崩れ落ちながらも、彼女の美しい、あまりにも美しい「殺意の造形」を、その六眼すら持たない瞳に焼き付けた。

「……死滅回游、第38テイク。……メインヒロインの覚醒により、撮影は一時中断。……次は、お前が『宿儺』という巨悪をどう斬るか……。あの世の特等席で、編集しながら待ってるわ」

俺の身体が、真希の斬撃によって「24の破片」へと解体されていく。

最速のクズ、禪院直哉。

彼は自らが作り上げた「最高傑作」の手によって、自らの人生という映画に、この上なく華やかな「THE END」を刻んだ。

……はずだった。

「……あは。……でも、エンドロールの後に『Cパート(続編)』があるのが、最近のトレンドやろ?」

真っ暗な闇の中で、俺の「編集権」は、まだ死んでいなかった。

 

 

 

 

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