禪院直哉 再誕録   作:ナムルパス

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第11話 エンドロールの裏側、あるいは舞台監督の潜伏

真希の漆黒の刃が、俺の胸を深々と貫いた。

呪力を持たない彼女の攻撃は、俺の「術式」による防御を透過し、肉体の機能を物理的に破壊する。視界が急速にセピア色に染まり、心臓の鼓動が不規則なノイズ(ラグ)となって耳に響く。

「……あは……。……ホンマに、容赦ないなぁ……真希」

俺は血の泡を吹きながら、倒れ込む。

真希は冷徹な眼差しで俺を見下ろし、止めを刺すまでもなく「死」を確信して背を向けた。彼女にとって、俺はもはや「清算すべき過去の遺物」に過ぎなかった。

だが。

彼女が去り、周囲の気配が完全に消えた瞬間、俺は残された全呪力を脳の一点、**「領域」**の極小展開に注ぎ込んだ。

「……リテイク、や……。……死ぬシーンなんて、僕の美学に……反するわ」

俺は、真希が切り裂いた「肉体の欠損」という事実を、術式で無理やり**「無かったこと(フレームの削除)」**にした。

投射呪法で動く際、俺は24枚の静止画の連続体だ。ならば、そのうちの「致命傷を負った数コマ」だけを、過去の「無傷なコマ」で上書きし、現在の時間軸に無理やり合成(レンダリング)する。

内臓が軋み、細胞が悲鳴を上げる。これは治療ではない。**「壊れたデータを、無理やり前のバージョンに戻す」**という、文字通りの禁じ手だ。

「……げほっ! ……はぁ、はぁ。……あぶな。……解像度が1bitまで落ちるところやったわ」

俺はボロボロの身体を引きずり、瓦礫の影へと姿を隠した。

禪院直哉はここで一度「死んだ」。……表舞台のキャスト表からは、名前を消させてもらう。

 

死を偽装した俺が次に向かったのは、羂索が死滅回游のシステムを操作している「管理区域」だった。

彼は五条悟の封印を維持し、次なる「同化」の儀式に向けて準備を進めている。

「……おーお。忙しそうやなぁ、偽物君。……手伝ってあげようか?」

暗闇から現れた俺を見て、羂索は初めて動揺を見せた。

「……直哉くん。君は、真希に殺されたはずだが……」

「……あは。あれは『スタントマン』や。……羂索。お前の脚本、やっぱり面白くないわ。……お前は『混沌』が見たいんやろうけど、僕は『僕が主役のハッピーエンド』が見たいんよ」

俺は右手に**「領域展延」**を纏わせ、羂索が操作していた「結界の制御盤(呪霊による儀式場)」に手を突っ込んだ。

羂索が術式で防ごうとするが、俺は投射呪法でその「防御の発生」よりも早いフレームに指を滑り込ませる。

「――『術式展延・システムハック』」

俺は羂索の術式を中和するのではなく、その「通信プロトコル」を奪い取った。

死滅回游の全プレイヤーのデータ、ポイントの分配権、そして結界の開閉。

それらすべての「編集権」を、俺の脳内にある『投射呪法』の拡張領域へとダウンロードする。

「……な、何をしている……! 私の千年の成果を……!」

「千年? 古臭いんよ。……今は『デジタル』の時代や。……お前は、もう用済みや。……その『夏油君の身体』、僕がもっと有効活用したるわ」

俺は羂索の意識を、術式によって1/24秒のループ(永久リピート)に閉じ込めた。

彼は死んではいない。だが、俺が許可しない限り、次の「1秒」を迎えることはできない。

 

羂索を無力化し、死滅回游のシステムを裏から掌握した俺は、ひとり新宿のビル群を見下ろしていた。

そこでは、宿儺が伏黒の肉体を奪い、絶望の宴を始めようとしている。

「……さて。……役者は揃ったな。……五条君も、そろそろ『箱』から出してあげるわ」

俺は死滅回游のルールを書き換えた。

「五条悟の封印を解除するための、ポイントの強制消費」。

俺が羂索から奪った莫大なポイントを使い、獄門疆の「裏」を無理やりこじ開けるスクリプトを実行する。

空が割れ、最強の術師が帰還する。

だが、その五条ですら、今の俺が「生きている」ことには気づかない。

俺は自分の存在を、世界の「背景(背景レイヤー)」に設定し、誰の視界(六眼)にも映らないように加工したからだ。

「……五条君。……宿儺さん。……せいぜい派手にやり合えや。……その戦い、僕が一番ええ角度で『録画』しといたるから」

俺は、自分を殺しかけた真希の姿を、モニター越しに眺めた。

彼女は今、宿儺という巨大な悪に立ち向かおうとしている。

「……真希。……お前が最後の一撃を放つその瞬間。……僕が最高の『エフェクト』を足してやる。……お前が僕を殺したことを、一生後悔するくらいの、最高のエンディングにな」

 

 

物語は、原作の枠組みを超え、俺という「不純物」によって完全に歪められた。

五条と宿儺の決戦。その結末すら、俺の指先一つで、1/24秒の間にどうにでも書き換えられる。

俺はもはや、禪院家の当主でも、特級術師でもない。

この世界の「編集者」だ。

「……あは、あはははは! 最高や! 誰も知らない展開、誰も知らない結末! ……これこそが、僕の作りたかった『真・呪術廻戦』や!」

俺は真っ暗な部屋で、無数のモニター(情報の海)に囲まれながら、狂ったように笑い続けた。

画面の中では、最強たちが血を流し、少女が咆哮している。

俺はカメラ(呪力)を回し続ける。

この世界が、俺にとって「最高に面白い」作品であり続ける限り。

禪院直哉という名の監督は、エンドロールの裏側で、永遠にメガホンを取り続けるのだ。

「――さて。新シーズンを始めようか」

俺の指が、再びカチンコを鳴らした。

世界は一瞬静止し、そして俺の望む「最高画質」の未来へと動き出した。

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