禪院直哉 再誕録   作:ナムルパス

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第4話 フレームの独裁者、あるいは万象を写す鏡

「……違う。これやない。もっと『重み』が要るんや」

禪院家の広大な演習場。俺は、自身の掌の上で渦巻く呪力の塊を凝視していた。

現在、俺が取り組んでいるのは、移動速度の向上ではない。**「術式の対象を、自分以外に拡張する」**という試みだ。

投射呪法の基本ルールは、「触れたものに秒間24コマを強制する」こと。

だが、俺はその解釈をさらに一歩進めた。

「触れる」という行為を、物理的な接触ではなく、**「俺の呪力が届く範囲(レイヤー)」**として定義し直したのだ。

俺は指先をパチンと鳴らす。

「――『模倣(トレース):星葬(スターダスト)』」

俺の周囲に、無数の小さな呪力の結晶が浮かび上がる。

これは某対戦格闘ゲームの美形騎士が使う、美しくも残酷な弾幕技の模倣だ。

一つ一つの結晶に、俺は異なる「24コマの軌道」をプログラムした。

あるものは放物線を描き、あるものはジグザグに、あるものは一瞬静止してから音速で射出される。

普通、これほど複雑な多重制御を脳で行えば、術師の脳は焼き切れる。

だが、俺には現代人の「マルチタスク」の感覚と、真希への縛りで得た「膨大な計算資源(呪力)」がある。

「……あは、最高や。これこそが『パーティクル・エフェクト』やな」

俺が手を振るうと、無数の結晶が意思を持ったかのように演習場の的を粉砕していく。

それはもはや呪術ではない。俺がこの空間に書き込んだ「演出(エフェクト)」が、物理的な破壊を伴って再生されているだけだ。

 

 

ある日、俺は調査任務の名目で、呪術高専が管理する「重要拠点」の一つを訪れていた。

そこで俺は、もう一人の「最強の一角」に出会うことになる。

夏油傑。

呪霊操術の使い手であり、五条悟の唯一の親友。

彼は、任務帰りだったのか、少し疲れた様子で森の入り口に立っていた。

その瞳には、原作でも描かれた「非術師(猿)への嫌悪」の片鱗が、毒のように混ざり始めているのが見えた。

「……君が、噂の禪院直哉くんかい? 悟から聞いてるよ。随分と『行儀の悪い』神童がいるってね」

夏油は穏やかな笑みを浮かべているが、その足元から這い出る呪霊たちの気配は、俺を品定めするように蠢いている。

「……五条君、余計なこと言いすぎやねん。……夏油君やったっけ? 君の術式、興味あるわ。……『呪霊を取り込んで使役する』。……それって、要するに『外部アセットの読み込み』やろ?」

「……アセット? 何だい、それは」

「あぁ、気にせんでええよ。……でも、君のやり方は非効率やな。……わざわざマズい雑巾みたいな味の呪霊を飲み込まんでも、その『動き(データ)』だけパクればええやん」

俺は夏油の目の前で、一瞬で「消えた」。

夏油が反応するよりも早く、俺は彼の背後に立ち、その肩をポンと叩く。

「――『領域展延・オーバーサンプリング』」

夏油が召喚しようとした呪霊が、俺が触れた瞬間に「コマ送り」の状態になり、霧散した。

「……っ!? 私の術式を……今の短時間で中和したのか!?」

「中和? そんなチャチなもんやない。……君の術式の『読み込み(ロード)』を、僕のフレームレートで強制的に中断させたんや。……夏油君。君は『猿(非術師)』を嫌ってるみたいやけど、僕から見れば君も、あの五条悟すらも、まだ『旧世代のハード』に縛られてる低解像度な存在やねん」

俺は夏油を冷笑する。

原作の夏油は、非術師を「猿」と呼んだ。

だが、俺にとっての彼は、**「高性能だが、OSが古いスマホ」**のようなものだ。

「……君、本当に不愉快だね。……悟が気に入るわけだ」

「最高の誉め言葉や。……ま、せいぜい頑張りぃや。君が絶望して、その術式が最高に『歪んだ演出』を見せる時、僕がそれを美味しくパクらせてもらうから」

俺は夏油を置き去りにして歩き出す。

背後で夏油が放つ、冷たく、それでいて激しい殺気を感じながらも、俺の足取りは軽かった。

 

 

季節は巡り、俺の肉体と術式は、ついに「臨界点」に達しようとしていた。

俺は自室の広間に座り、何百回目かの深呼吸を行う。

目指すのは、術式の究極形。

単なる移動や攻撃の強化ではない。**「世界のフレームレートそのものを、俺が定義する」**という領域。

「……『1秒は24コマ』。……これは不変のルールやない。……俺がそう『指定』すれば、それは1コマにも、1000コマにもなるはずや」

俺は呪力を全開放した。

真希という「呪い」から供給される莫大なエネルギーが、俺の経絡を焼き切りそうな勢いで駆け巡る。

視界が真っ白になる。

いや、違う。真っ白な「キャンバス」になったのだ。

「――『極の番:投影地獄(プロジェクション・ヘル)』」

その瞬間、俺の周囲数キロメートルが、異様な空間に変貌した。

空はフィルムのネガのような色に変色し、あらゆる物質の輪郭が、デジタルノイズのように激しく震え始める。

近くにいた門下生の術師が、悲鳴を上げようとした。

だが、その叫び声は「音」にならない。

彼の動きは、俺が指定した「秒間1コマ(1fps)」という極低フレームレートに固定され、カク、カク、と静止画を繋げたような無様なスライドショーへと成り果てた。

逆に、俺は。

俺一人だけが、この「地獄」の中で、**「秒間60フレーム、いや、120フレーム」**という超高解像度の挙動を許されている。

「……あは、あはははは! 見ろよ、これが俺のスタジオや! ここでは俺の許可なく動くことは許されへん。……重力も、慣性も、時間の流れすら、俺が書き込んだ『スクリプト』に従うだけや!」

俺は一歩踏み出す。

一歩。たった一歩の間に、俺は120回の攻撃動作を完了させる。

周囲の石碑、立ち木、そして空間そのものが、俺の「超多重露光」のような攻撃に耐えきれず、粉微塵に分解されていく。

「……これが……俺の、極致……」

俺は荒い息を吐きながら、展開した空間を解除した。

全身の毛穴から血が吹き出し、意識が遠のく。

だが、口角は吊り上がったままだった。

 

 

数日後。俺はボロボロになった肉体を反転術式(親父に頼んで手配させた、金で動く術師によるものだ)で癒しながら、鏡を見ていた。

鏡の中に映る自分は、ますます「人」から遠ざかっているように見えた。

その瞳の奥には、もはやこの世界の住人が持つはずのない、デジタルな冷徹さが宿っている。

「……さて。……極の番も形になったし。……そろそろ、あの『渋谷』の脚本も、僕なりに修正(リテイク)していかなあかんな」

俺はクローゼットから、特注の、しかし見覚えのある「禪院直哉」の衣装を取り出す。

この世界の結末を知っているからこそ、俺はもっとも「美しく」「残酷な」結末を用意する。

「……五条悟。……宿儺。……そして、僕の最高の獲物、真希」

俺は指先で、鏡の中の自分の顔をなぞる。

「……期待しとけ。……僕が見せる『最終回』は、世界中の誰も見たことがないような、圧倒的な解像度で撮ってやるから」

最速のクズは、ついに「世界の監督」としての第一歩を踏み出した。

その背後には、彼が切り裂いた無数のフレームの残像が、死体の山のように積み重なっていた。




王庫の気分転換で書いてるので、更新はランダムです
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