禪院直哉 再誕録   作:ナムルパス

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第7話 ディレクターズ・カット、あるいは神話のパロディ

五条悟が封印された直後の地下ホーム。羂索が獄門疆を手に立ち去ろうとする中、残された特級呪霊たちは歓喜と、そして目の前に立つ「禪院直哉」への剥き出しの殺意に溢れていた。

特に漏瑚は、その単眼を激しく見開き、頭の火山から煙を噴き上げている。

「……禪院の小僧。五条がいなくなった今、貴様のその傲慢な面を焼き尽くしてくれよう。人間風情が、世界の監督を気取るなど片腹痛いわ!」

漏瑚が動く。それは、火山の噴火のごとき暴力的な初速。周囲の酸素を一瞬で焼き尽くし、高熱の業火が俺を包囲しようとする。

だが、俺はポケットに手を突っ込んだまま、退屈そうに首を鳴らした。

「……漏瑚。お前の動き、熱いだけで『キレ』がないねん。……1秒を24枚で描くなら、お前の作画は全部『中割』が手抜きや。……僕が本物の『速度の演出』を教えたるわ」

俺は指先をパチンと鳴らす。

「――『投射呪法・バーストレート(120fps)』」

俺の姿が、漏瑚の視界から「消失」した。

漏瑚の業火が俺のいた場所を焼き尽くすが、そこには既に俺の残影すら残っていない。

「……どこを見ている? ……あぁ、お前のフレームレートじゃ、僕の残像を追うのが精一杯か」

俺は漏瑚の真上に浮遊していた。

空中で静止しているのではない。1/120秒ごとに微細な「微振動(シェイク)」を繰り返すことで、空気の壁を足場として固定(フリーズ)させているのだ。

「――『模倣(トレース):瞬獄殺・零(ゼロ)』」

俺は漏瑚の頭上の火山に手を添えた。

一瞬。漏瑚が反応するよりも早い「0.01秒」の間に、俺は彼の肉体に数千枚の『打撃の静止画』を叩き込む。

それは格闘ゲームにおける「ヒットストップ」の理屈だ。攻撃が当たる瞬間のフレームを強制的に引き延ばし、ダメージの計算を無限ループさせる。

「……ぎ、が、あああああああ!?」

漏瑚の頑強な肉体が、内側から激しく振動し、ひび割れていく。

火山の煙は黒く淀み、炎は俺の「フレーム」に閉じ込められて凍りついた。

「……つまらんな。……特級と言えど、所詮は『自然の擬人化』。……プログラムされた自然現象に、僕の『創作(嘘)』が負けるわけないやん」

俺は漏瑚をゴミのように蹴り飛ばし、渋谷の地上へと向かう階段を歩き出した。

背後で、真人が「へぇ、面白いね君」と薄笑いを浮かべていたが、今は無視だ。あいつはもっと「美味しいシーン」で使う必要がある。

 

 

地上に出ると、渋谷は地獄絵図と化していた。

無数の改造人間が暴れ、非術師たちの悲鳴がBGMのように鳴り響く。

だが、俺の視線は一直線に、ある一点を捉えていた。

虎杖悠仁。

彼は、己の内側に宿る「呪いの王」の気配に怯えながらも、必死に戦っている。

そして、その周囲には、漏瑚たちが仕掛けた「宿儺を強制的に目覚めさせる」ための指が、すでに数本投じられようとしていた。

「……さぁ、お待たせしました。……ここからが、本日のメインイベント。……『特撮:呪いの王・顕現編』や」

俺はスクランブル交差点の中央、最も目立つ位置に降り立った。

そこには、宿儺の指を虎杖に飲ませようとする漏瑚の姿があった。彼は地下でのダメージを負いつつも、執念で「宿儺の復活」という脚本を完遂しようとしている。

「……おい、目玉お化け。……指を飲ませるなら、もっと『映える』角度でやらなあかんやろ。……カメラ回ってんで?」

俺の乱入に、虎杖が顔を上げる。

「……お前、禪院の……! ここで何してんだよ!」

「……何って、演出の修正(リテイク)や。……虎杖君。君の中にいる『彼』。……そろそろ出てきてもらわんと、視聴率(物語の緊張感)が持たへんのよ」

俺はあえて、漏瑚の行動を止めなかった。

むしろ、俺は自分の呪力を使い、虎杖の周囲の空間を「暗転(ブラックアウト)」させた。

スポットライトが虎杖だけに当たる。

他の雑音をすべてカットし、世界中が彼の「変身」に注目するような、完璧な舞台装置。

「……さぁ、飲め。……そして、僕に見せてや。……この世界の『バグの王』が、どれだけスタイリッシュな作画を見せるのかを!」

 

虎杖が指を飲み込み、その身体が激しく痙攣する。

呪力が、渋谷の街を物理的に押し潰すほどの質量となって溢れ出した。

顔に浮かび上がる黒い紋様。開かれる四つの目。

両面宿儺。

彼が目覚めた瞬間、渋谷の空気が一変した。

絶対的な死の気配。立っているだけで魂が削り取られるような、圧倒的な「格」の違い。

宿儺は、ゆっくりと自分の手を見つめ、それから不快そうに周囲を見渡した。

「……光が、煩わしいな」

「……あは、最高や! その一言、台本通りやんけ!」

俺は宿儺の目の前で、パンパンと手を叩いて笑った。

宿儺の冷徹な視線が俺を貫く。普通なら、この視線だけで肉体が四散するだろう。

だが、俺は「真希との縛り」で得た莫大な呪力を全身に纏い、その圧力を「相殺(キャンセリング)」していた。

「……小僧。貴様、死にたいのか。……俺の前に立って笑うとは、不遜を通り越して退屈だ」

「……退屈? 失礼な。……宿儺さん。あんたのその『解(カイ)』とかいう技。……あれ、物理的な斬撃やと思ってるやろ? ……でも僕から見れば、あれは『映像の切り貼り(カット)』なんよ」

俺は宿儺に向かって、人差し指と中指を突き出した。

「カメラのフレームを切り抜くように、相手を断裂させる。……あは、センスええわ。……でも、僕の編集(ハック)の方が、もっと速いで?」

宿儺の眉が動く。

「……ほう。……口の減らぬガキだ。……ならば、その『編集』とやら、俺の断ち割る速度とどちらが速いか、試してみるか?」

宿儺が指を動かそうとする。

その一瞬。俺は、これまでに収集してきたアニメ・特撮の「必殺技のバンクシーン」を、自分の脳内で同時再生した。

「――『領域展開:万象極彩・映写回廊』」

俺は宿儺の足元を中心に、巨大な領域……ではなく、俺独自の「撮影空間」を展開した。

地面がフィルムのストリップになり、空には無数のレンズが並ぶ。

宿儺の繰り出す「目に見えない斬撃」を、俺はすべて「映像のレイヤー」として視覚化し、それを1/1000秒単位で「レイヤー非表示」にすることで無効化していく。

「……あはは! 見ろよ宿儺! あんたの技、全部『背景』扱いにして消してやったわ!」

 

 

宿儺と俺の「編集権」の奪い合いが激化する中、物陰からその様子を観察していた羂索が、感嘆の声を漏らした。

「……素晴らしい。……宿儺の斬撃を『演出ミス』として処理するとは。……禪院直哉、君は私の想像を遥かに超える、最悪のクリエイターだ」

「……羂索。……お前も、いつまでも『撮影助手』のツラしてんと、さっさと舞台上がれや。……このシーン、宿儺と僕のダブル主演だけじゃ、尺が余るねん」

俺は宿儺の攻撃を捌きながら、羂索にも呪力を飛ばす。

渋谷という劇場。

最強の呪霊、最強の呪いの王、そして最強の「ハッカー(俺)」。

「……さぁ、始めようか。……誰も見たことがない、1万fpsの世界をな。……この『渋谷事変』、俺が責任を持って、歴史に残る『超大作(大惨事)』に仕上げたるわ!」

俺の瞳は、もはや人間のそれではなく、レンズのように無機質に、そして熱狂的に輝いていた。

この後、さらに現れるだろう伏黒恵、そして覚醒する真希。

すべてのキャストが揃うまで、俺はこの「フレーム」を支配し続ける。

 

 

 

 

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