一番長く書けたかも…。
優希と京香、女性と一本角が激突している最中。清治も七番組が戦っている現場へと到着した。途中、重いものが互いにぶつかる重低音を耳にし、場所も特定できた。
得物である刀を手に、運転席からすぐ様飛び降り、敵から姿を見られない様、体勢を低くして状況を確認し始める。
――七番組側。優希に京香、ダメージで立ち上がることも困難そうな朱々、気絶して倒れていると思われる日万凛。
――対峙しているのは、巨大な醜鬼に何処か普通の人間ではなさそうな姿の女性。そして――
――彼女を背に乗せる特殊醜鬼と思われる一本角。
「あれが…、一本角…!」
一本角の事は京香からよく聞かされていた。その時の彼女の眼は殺意と憎しみの炎が宿り、口元は激情を抑えているかのように下唇を噛んでいた。
その姿は、まるで過去の自分を見ているかのように。
――その仇敵が彼女の目の前にいる。
「京香…」
変な胸騒ぎと自分も味わった感覚。それに導かれるように行き着いた場所が、彼女の求めていた仇敵。彼がよく知っている部下思いの優しい女性が、怒りで周りの状況が見えなくなっている。彼女は冷静ではなくなっていた。
そしてその怒りと殺意の結末を――彼はよく知っていた。
「……」
その経験を彼女に味合わせまいと、彼は両者がぶつかり合いを止めたタイミングで清治は彼女らに歩み寄っていく。
「これはまた興味深い話をしているな。この魔都に弟が来ているとは…」
「「!」」
「…?(男の魔防隊…?初めて見たんだけど…)」
両者の視線が、突如として現れた男の姿に向けられる。
「清治…!貴様何故ここに…!」
「何故も何も、嫌な感じの胸騒ぎがして急いで駆けつけようと思った矢先に来てみたら…」
彼の視線が、こちらを不思議そうに見る女性と乗せている一本角を捉える。
「お前から聞いた一本角…。あれで間違いないんだな?」
彼からの問いに、そうだと京香は答えた。
「忘れるものか…!あれは間違いなく一本角だ…!」
憎しみが込められた京香からの肯定。その返事に、彼は「そうか…」と溜め息混じりに女性へと目を向けた。
「お前さん…、自分の弟を知らないとか言っていたな?その弟さんの事だが詳しく聞かせてもらおうか?」
「あら?魔防隊の中には少しは話が通じる人もいたのね?」
「ッ…清治…!何を呑気な事を言っている!」
清治からの提案に意外とばかりに目を丸くする女性に対し、剣を持つ手が震えながらに強く握り締め、京香は納得がいかないとばかりに清治を睨む。
「私の仇が…一本角が…!目の前にしてこの手で討てる好機…!お前は私に逃せというのか!!ふざ――「逃す逃さない以前に、
真剣な視線の清治からの間違いなく敗北するという決定的な肯定に、困惑する京香。それでも彼からの口撃は止まらない。
「冷静さを欠いたお前が仇を討つ?笑わせるな。怒りで状況が判断出来ず、怒りに呑まれ憎しみだけで行動し、挙句の果てには自分の部下を失うのか?仮に一本角達に勝てたとして、その余波で日万凛や朱々を巻き込み、故郷の悲劇の二の舞にするつもりか?」
「……ッ」
(兄貴、京香さんをなんて冷たい目で見るんだ…)
いつもの朗らかな良い笑顔の顔から似つかない程、正反対に鋭い視線で冷たく現実を見ろと彼女に問う清治。
その問いから京香から湧き出していた怒りと憎しみが少し収まっていく。どうやら少し頭を冷やしたらしい。その間に彼の目線は、再び女性と向き合った。
「…申し訳ない、時間を取ったな。それでアンタの弟さんの特徴、教えてもらえるか?」
「へぇ…。アンタ中々やるわね?…いいわ、教えてあげる」
彼女の口から語られるのは、特徴とは名ばかりの弟自慢。
「私の弟はねぇ。小さい頃からお姉ちゃんっ子でよく後をついてきてたわ。でも、そんな弟をビシッとしつけるのもこれまた楽しい日々だったのよ!」
((あ、コレ長いやつだ…))
空気的に察した男二人は黙って聞き進めていく。
どれくらい時間が経っただろうか…。
(いつまでブツブツと言ってるんだ?弟がどうとか…)
(弟、ねぇ…)
女性が意気揚々と話を進めていくのを前に、優希は少々困惑気味の視線を女性に送るが、清治の視線は何故か隣にいる優希の方へと向けられている。
「顔も最高の美男子だけど、家事もどんどん上手くなっていってね。飴と鞭で鍛えていった甲斐があったわ。本当にどこに出しても恥ずかしくない自慢の弟な――」
(家事が上手い…、飴と鞭…。…もしかして、この女…)
少しだけのヒントの欠片から少しずつ確信に近づく清治。それを知らずに弟自慢の口を加速させる
『ウオオオオオオ!!!!』
――空気を読まぬ巨大醜鬼の咆哮によって、強制的に終わりを告げた。
「「「「……」」」」
巨大醜鬼の咆哮に空気中がビリビリと震え、弟自慢が中途半端に途切れたが、――それ以上の圧力が女性から放たれる。
「今、私が――」
「弟について喋ってるでしょ!!」
彼女の髪が異様に伸び、巨大醜鬼へとまるで獲物を仕留める為に巻き付く蛇の様に醜鬼の全身をメキメキと嫌な音を出しながら締め付けながら―
ボキッッ!!
――一瞬にして、全身を圧縮されてしまった。
「「……!」」
「…」
優希と京香はその光景に呆然とし、清治も顔の表情を険しいものを浮かべる。
「おやつよ」
先程まで圧倒的な存在感だった巨大醜鬼が女性によって一瞬にして一つの肉塊へと変わり、女性は肉塊を一本角の前に差し出し、一本角は大きな口で咀嚼しながら飲み込んだ。
(仲間じゃなかったのか!?…いや、仲間だからこそ食って強化か!?)
(チッ…!巨大醜鬼を先に倒すべきだった…!事を穏便に済ませる筈が裏目に出たか!)
「…そうか」
「?京香…?」
清治からの制止で一旦落ち着いたかの様に殺意が薄れた彼女だったが、今の光景を見たことで薄まっていた殺意が再び京香の心の中で激しく燃え始めた。
「…お前が総大将か!!」
「京香!?待てッ!!(アイツの悪い癖が出ちまった!もう少し彼女の情報が欲しかったが…!)」
もはや清治の制止も聞かず我慢の限界に達した京香は、目の前の敵に容赦なく剣一閃で斬り払う。女性も硬質化し束ねた髪を鈍器のように扱い京香の攻撃を弾き返した。
「半分正解だけど…、貴方、魔都について全然分かってないのね」
「この呪いで満ちた世界を…!」
お返しとばかりに、髪を何本かの束にし今度は鋭い鎌のように斬撃の嵐を京香達に浴びせ続ける。素早い斬撃によって、今度は京香達が防御に専念するので手一杯の状態になってしまう。
その後ろから、清治が攻撃に夢中な彼女の後ろから斬りかかる。
「シィッ!」
「おっとっと…!危ない危ない♪」
清治の横薙ぎの一閃を一本角の背の上でクルリと一回転して回避する女性。それも余裕とばかりにケラケラと愉快に笑っていた。その後も連携して攻撃を当てようとするも避けられ、防御されてしまった。
「…清治!合わせろ!」
「!それしかねぇか!」
今度は二人がかりで斬りかかろうするも、女性はカパッと大きく口を開ける。その様子に京香は日万凛を襲ったエネルギー波の事が過ぎり、清治に即座に警戒を出した。
「ッ!?清治!エネルギー波が来るぞ!」
「ハァ!?そんなのアリかよ!」
堪らず回避に徹する清治。京香自身も優希の背から回避しようと高く跳躍する。彼女が口から開け放ったのは――
ポウッ…!
――ただの力無い空砲だった。
「…!」
二人が自身の策にうまくハマったとばかりに、ニッ…!と笑う女性。
「そっちも良い醜鬼を連れているから――」
そう、彼女狙いは最初から京香と清治ではなく――
(しまった…フェイントか!アイツの狙いは俺や京香じゃなく……
「分断させてもらったわ!」
――京香が使役している優希だった。
「優希後輩!避けッ――!」
「もう遅いわ!」
何本もの髪の束が孤立した優希へと襲い掛かる。隙をつかれ動けない優希。女性も獲ったと不敵に笑いながらその髪で優希に一撃を――
「えっ……!?」
「へっ……?」
――
その彼女の変わり様から見て取れたのは――、
「醜鬼じゃない…、え……?」
両者の間の空気が止まった。
優希を見て動揺し、攻撃の手を止める女性。一方の優希も女性が何故攻撃を止めたのか、何が起きているのか理解出来ていなかった。
「…ッ!」
隙ありと京香は女性に逆袈裟斬りを放つも、女性は紙一重の顎スレスレで回避した。
「そんな事が…!」
彼女の中の動揺が何かの確信へと変わり、直ぐに一本角の背を叩き指示を出す。その指示を理解し一本角が行ったのは――戦場からの離脱。
京香達に背を向けその場から高く跳躍して、戦線離脱を始めた。
――その姿に、彼女が黙って見ていられる筈がない。
「貴様らぁ!!背を向けるのか!!」
京香の慟哭に、彼女は振り返らない。
それでも追い付こうと京香も駆ける。
「いいだろう…!逃げる村人を後ろから襲った報いだ!」
あの一本角は、自分の大切な人達の逃げる背中を無惨に殺してまわったのだ。許せる訳がない。逃がせる訳がない。
「同じ目に遭わせてやる…!!――優希!!」
その優希は、――自分達の後ろの何かを気にしているように、その場から動かない。その姿に京香はより苛立つ。
「何をしている優希!追う――「いい加減にしろ!この馬鹿野郎!」――ぐあっ!!」
京香の激昂するその姿に、もう見ていられないとばかりに清治は彼女の頬を殴る。地面に倒れ込もうとする彼女の襟元を即座に掴み怒鳴った。
「時と状況を考えろこのバカ!!テメェは仇の為に仲間を見殺しにする気か!何の為に七番組組長にまでなったんだ!故郷の人達の仇だ?醜鬼根絶だ?仲間も守れねぇ奴に仇なんか討ち取れるかよ!!」
「…ッ」
激怒する清治の姿が、京香の怒りを上回り打ち消す。仲間の行いを正すその姿は紛れも無く魔防隊副組長としての姿。彼の上司である
彼女が少し落ち着いたのを見たのか、彼も徐々に落ち着き始める。
「仇が憎いのは分かる。逃がしたくないのも分かる。俺がそうだった。だからこそお前に止まって欲しかった」
「……」
「前の俺は一人だったから良かった。…でも、今のお前は組長だろうが…!大切な部下がいるんだろうが…!この馬鹿野郎め…」
「…すまない」
「謝るのは醜鬼を殲滅してからにしろ。今も優希後輩が醜鬼から朱々を助け出した所だ。早く命令を出せ」
「…ああ、わかっている」
近くに転がっている剣を拾い、気絶している日万凛を肩に担ぎながら京香は優希と清治に指示を出す。
「優希!清治!」
「!」
「……」
「朱々と日万凛の安全を確保した後!残った醜鬼を殲滅するぞ!」
「!はいっ!!」
「……了解した(やっといつも通りに戻ったか…馬鹿野郎め)」
それぞれの役目を果たす為、直ぐに行動を始めた。
京香は先程の自分の失態を恥じた。
(何をしているんだ……私は…)
怒り狂い、周りの状況を無視して――
(怒りに我を忘れて――)
親友である彼に殴られて怒鳴られるまで何をしていた?
――もし怒りに身を任せていたら…。
(大切な部下を失うところだった…!)
――その京香の顔は怒り狂う鬼ではなく、いつもの凛々しい七番組組長の顔に戻っていた。