ご褒美、なんて素晴らしい響き…。
途中、慣れない疲労に思わず地面に手を付けそうになる優希と、見てられないとばかりに「今回だけだぞ」と、自身の肩を優希に貸した清治の二人は、やっとのことで七番組の所有するガレージへと戻って来た。先に帰って来ていた日万凛が水分補給をしている途中、戻って来る二人に気付いた。
「ちょっと、あれぐらいでグロッキーなの?清治さんに肩まで貸してもらって」
「だ、大丈夫ですよ。ぜんぜん、余裕余裕…」
男の意地を見せようと、ヤロウだってタフなんですよ。と腕をブンブン振りながら元気アピールをする優希。
明らかに強がっているにしか見えない。仮面を外した清治はそんな無理する彼に呆れた視線を向ける。
「強がるな、優希後輩。どう見ても明らかに生まれたての子鹿みたいに足が震えてたじゃないか――
「本人が大丈夫って言ってるじゃないですか清治さん。…じゃあ、掃除とゴミ捨てやっておきなさいよ」
「へうっ」
――ダメだ、こりゃ……」
空のペットボトルを渡された優希は、やってしまったとばかりに顔を青褪めた。その様子に清治も額に手を当ててしまう。
日万凛が去った後、優希は車の洗車をし、ブラシで床を磨く。清治は一生懸命に床を磨く彼を憐れな視線で見ていた。
「くそーーっ、これじゃいつまでも小間使い君じゃないか!兄貴も見てないで手伝ってくれませんか?」
「……なんでも甘えられるとは思わない方がいいぞ。魔防隊は上下関係にうるさいからな。次いでに言えば男の意地を使う場所を誤ったな、優希後輩。今のお前の立場はこの組で一番下、下っ端が雑事をするのは珍しい事じゃないぞ」
別に優希を手伝ってる所を日万凛や京香に見つかってクドクドと言われるのが嫌…、なんて言える訳が筈もない。
「それはそうですけど…。ふぅ、……さすが俺、って達成感を味わってる場合じゃない!!(俺……、本当に必要とされてるのかな……)」
一人コントをしながら、シュン…と表情を曇らせる優希。そんな彼を、清治は何処か試している様に見ていた。
「(戦闘以外雑事ばかりで、自分の必要性に疑問を感じてるな。無理もない。京香の能力を使わない限り、お前はただの人間の男でしかないからのだからな。……かといって、このままにしておくのも酷か)――よし。優希後輩、中庭に行くぞ」
「えっ、今ですか?」
清治からのいきなりの提案に、優希は驚いた。そうだと彼は頷く。
「ちょっとした気分転換だ。いつまでもそんな辛気くさい顔をしてるんじゃない。それに、普段彼女達がどのような鍛錬をしているのかを見れるチャンスだぞ」
「兄貴……、じゃあちょっとだけ…」
兄貴分の心遣いに感謝し、彼に連れられて中庭へと向かう。もうすぐ中庭に差し掛かろうとした所で、清治に静かに…とジェスチャーをされ、チョイチョイと指を指し、その先にいたのは――京香と日万凛だった。
「今回の戦闘、武器の切り替えが遅かったぞ日万凛。お前ならまだ0.2秒は縮められる。やってみせろ」
「はい!!」
京香の教えを元に、日万凛は素早く『
鍛錬中の二人の姿、日万凛を呆然と見る優希に、清治も彼女達を見ながら優しい顔で言った。
「別に優希後輩が必要とされていない訳じゃない。お前が家事や雑事に集中してくれるお蔭で、その分彼女達は自分の鍛錬に集中することが出来る。言葉にしていないだけで、優希後輩にちゃんと感謝している筈だ。京香も、日万凛も、朱々も、寧も、勿論俺もな♪」
サムズアップしてこちらに笑顔をくれる兄貴分。その姿に、優希は少し悩みが軽くなったような気がした。
「兄貴…。そう、ですね…(俺に家事をやらせて、遊んでるってわけではないんだな)」
二人が鍛錬する二人を見ている間に――地響きが、それもかなり大きめの地響きが、寮全体を震えさせた。
「な、何だ!?兄貴!これは一体?」
「……」
「あ、兄貴?」
いきなりの地響きに動揺する優希、それとは逆に、いつの間にか冷静に寮の結界外を見つめる清治。彼の目線の先にあったのは――七番組寮を取り囲む大量の醜鬼達だった。
「うおぉ……」
その数に戦慄し、寧が前に説明したことが脳裏を過ぎった。
(この間といい、まじでいっぱい出過ぎだろ!管理人が逃げ出して定着しないわけだ…)
(防衛戦の次は、殲滅戦か。立て続けに連戦とは、優希後輩の力、まだ見足りないと思っていたが、さて――)
「優希!清治!」
「わかってるよ、京香」
所変わり、既に戦闘準備を完了した巨大化した朱々と肩に乗る日万凛は、寮の周りを取り囲む醜鬼の大群を見て、一方は興奮、もう一方は驚愕していた。
「うわ、凄い数…」
「あはは、盛り上がってきたねー」
呑気に笑う朱々とは別に、日万凛はこの状況をどう打破するかを思考を巡らせていた。
(朱々の巨大化は長くもたない。自分も攻撃できる方向には限度がある。結界があるとはいえ、寮やばいかも……)
そんな二人の目の前に瞬間的に現れたのは――再び『
「こりゃまた多いな。京香、今度は俺が一番槍をもらうぜ?」
「…いいだろう。優希にお前の実力を見せてやるといい」
「そのつもりだ。……優希後輩」
「は、はい!」
醜鬼から目を離さず、背中越しに語る清治。優希から見たそれは、まるでこれから自分の戦い方を教える師のような背中だった。
「何故、俺が魔防隊で副組長クラスになれたのか。その理由をお前に見せてやる、いいな…?」
「…はい!」
その返事に満足したのか、清治は鞘から刀身を抜き放つ。
深く、深く、限界まで息を吸い込み、身体全体の筋肉を膨張させる。まずは足へと筋力を集中させ、一方向の醜鬼達の真上に跳び上がり、着地と共に次々と醜鬼の首を撥ねていく。その中から斬り伏せた醜鬼の一部を
イメージするのは、――如何なるものを押し流す大波。
「全集中……我流の呼吸――肆の型」
大津波
ザッバァァァ!!!!!
優希が見た光景は、まるで醜鬼達が津波に押し流す様に放った斬撃により、その大半が斬り伏せられていく様子だった。
たった一太刀、その威力、その技術。さらに醜鬼を取り込むことによって己の身体能力を底上げする。その実力は紛うことなき、魔防隊の組長たちにも引けを取らない。
それが二番組副組長――『鬼喰い』の鱗滝清治。
「す、すげぇ……!兄貴ってこんなに強いんですか!?」
「当たり前だ。アイツは素直に受け取らないが、仮にも副組長の座に就いているのは、紛う事無く己の力で上り詰めた物だ。さて――」
意識を切り替え、京香は全員に号令を発した。
「役割分担だ!四方向のうち、清治が一方向を受け持った!お前達でもう一方向!残りの二方向は――私と優希でやる!」
優希と京香が、醜鬼達へと突っ込んでゆく。
「いけ優希!」
「おぉぉおおお!!!!!」
ギャオオオオ!!!!!
優希が蹴散らし、京香が斬り払う。醜鬼達の間を縦横無尽に駆け抜けながら醜鬼の大群を圧倒する二人。その様子に、日万凛は驚愕し、朱々も楽しげな反応だった。
(こ…、ここまで強さだったの。和倉優希)
日万凛は、優希の強さの評価を改めた。
(組長が、奴隷にするはずだわ)
程なくして、取り囲んでいた全ての醜鬼達を討伐し終えた…。
受け持った方向の醜鬼達を討伐し終えた清治は、現在優希と京香が受け持った方向を駆けていた。
その目的は勿論――能力の代償をこの目で見る事。
(まだ時間はそんなに経っていない……、ならば褒美を与える時間もまだ終わっていない筈……!そもそもに――)
頭なでなでと飴。そんなことで終わる筈ないと思ったのは、飴を見つめた優希の表情だ。彼自身の反応からして、最初の褒美はもっと凄いものだったに違いない。あの時は数匹醜鬼を倒しただけ。ならば、大量に倒した今回なら、その内容も跳ね上がるに違いないと思ったからだ。
そんな清治の前に、見覚えのある影――優希と京香だ。
(さて、今回の褒美は――――ッ!?)
清治の視線の先にあったのは――
「っ!んむむ〜〜っ!」
「!むむむっ!!?」
――物凄いディープキスをこれでもかとする優希と京香の姿だった。
(……は?)
弟分と親しい組長の大胆すぎるキスシーン。これには清治も思わず硬直してしまう。
――しかも、これで終わりではない。
「あ、兄貴!?」
「せ、清治ッ!?何故ここに!?」
「えっ?あ、いや…、なかなか二人が戻ってくるのが遅くて何してるかな〜?って思って探してた…って、京香!?お前、ここで何服を脱ぎだしてんの!?」
「これが
二人も清治の姿に驚愕するが、能力の代償は継続中。口を離したと思えば、今度は京香の身体が勝手に服を脱ぎ始める。
帽子、制服、――そして、中シャツまで。
京香は下着姿となり、優希の頭を自分の胸へと抱き込んだ――。
優希の顔はそれはもう、ここに楽園はあったかのような夢心地の顔そのもの。
その光景に、清治は内心でこう思った――。
(御馳走さまですッ!!!!)
――尚、褒美が終わった後、京香に真っ先に目潰しを食らった模様。
二日で一話投稿するも、結構しんどいですね……。