雷神の系譜~鹿紫雲一の末裔に転生したので、原作の悲劇を打ち壊す~   作:メンチカツ

12 / 15
呪術師の会②

 俺と伏黒(ふしぐろ)(めぐみ)はまたもといた休憩室に戻ることになった。

 違いとして今度は加茂(かも)憲紀(のりとし)を連れていた。

 

 部屋には悟が皿に乗せていたケーキたちが消えていた。大方、五条家の人間が回収してお持ち帰りのために包んだのかもしれない。

 

「それにしても意外だったな。憲紀君が俺たちを知っているだなんて」

「謙遜も過ぎれば嫌味になるぞ。まだ子供のうちに雷神の再来などという大層な綽名は、伊達や酔狂では呼ばれないだろう。それに俺と大して変わらない年齢で既に多数の式神を使役する伏黒恵君、君も同じだ」

 

 俺と恵は先程と同じ席に着く、憲紀も着席した。この部屋に戻る途中で料理を取ってきたので、憲紀も皿にはから揚げや手まり寿司を乗せている。

 

「俺と同じ世代に君たちのような術師がいるのは、呪術界にとっては好ましいことなのだろうな……」

 

 賞賛しているようで、憲紀の言葉は額面通りに受け取れないように感じた。

 

「俺が言うのもアレだが、まだ焦るほどのことじゃないだろう」

 

 憲紀にはそう言ったものの、特に感銘を与えることはできなかった。

 

「えーと、それでなんでわざわざ呪霊や呪詛師を相手にして賞金を稼いでいるか、だっけ?」

「そうだ。鹿紫雲家ほどの家格ならば訓練場や設備が整っているだろう。鍛錬するならばそちらが良いのではないか」

 

 断定するようにも聞き取れる言い方だが、本人としては「何故?」と思い突き詰めているのだろう。

 

「理由は2つある。まず1つ。実戦経験を得ること。一族の稽古場で大人たちを相手に実力を磨くことはできる。だが、それでは潜伏する呪詛師の捜索、未知の呪霊の出没地域予測、イレギュラーな状況下への対応といった、実戦だからこその経験値が足りなくなる」

 

 本当はもっとペースを落として呪術高専に入学してからでも良いのだろうが、原作での悲劇を回避するためには強くなる必要がある。この世界、強くない術師は本当にマジで何もできないからな……。

 

 生き急いでいると思われるかもしれないが、呪術高専に入学する頃には一級相当の実力がないと羂索の計画を破綻させることはできないだろう。

 

「あとは賞金が欲しいというのも、勿論あるよ。これが2つめ。投資で増やしてうちの術師たちの装備を整える。麁正(あらまさ)たちの装備は抜本的に整えることに着手しているが、もっと効率的に呪霊を祓える優れた武具や、生存率を上げるための防具を揃えることはできる」

「……何故そこまでする? 君が改革を行うにしても、それは当主に就任するなり、仕事を引き継ぎ始めたときに着手しても良いのでは?」

「腕の立つ連中が飼い殺しにされ、命を乱費されるのは一族にとっての損失だ。……彼らに居場所を、役割を、そして誇りを与えたい。俺が大きくなってから頑張る!だとそれまでに多くの命が俺の手から零れ落ちてしまうだろう。だから今から頑張っているのさ」

 

 原作でも呪術師の人手不足は深刻だった。殉職率を減らして術師の人口を維持する。そして、今後も術師をうちに引き取るなり、呪術高専に所属してもらうなりして、人的資源を確保していきたい。そのための活動資金に充てるため賞金が欲しい。

 

「それに俺は直轄の部隊が欲しいから、そのための資金も貯めたいからね」

「……コレクションの呪具や呪物を買うためにも使っているんだろ?」

「まあね! それにそうやって買ったものはちゃんと役立てることもあるぜ!」

「……鹿紫雲。君は本当に11歳か? その物言い……とても同世代とは思えない」

「そうなんだよ。見た目は子供、頭脳は大人! なんだよ。……まあ、単に俺は自分の欲しいもののために、好き勝手させてもらっているだけだよ」

「変わっているな、君は……。ゆくゆくは呪術界を支える人間になるだろう君たちに共感(シンパシー)を感じていた。だが、今まで以上に君たちへ負けたくないと思ったよ」

「……なんで俺までライバル視されてるんだ?」

 

 恵が胡乱げに憲紀を見ていた。彼にしてみればいきなり流れ弾が飛んできた気分なのかもしれない。

 

「君もいずれは御三家の術師として力を発揮するだろう」

「俺は御三家とは関係ないですよ」

「まあ、メグミンならばこのまま大成すれば、禪院家当主も狙えるかもね!」

「…………」

「凄くイヤそう!!」

 あの海賊漫画を思い出すような、苦虫を噛み潰しているかのような表情の恵に俺が思わず突っ込む中、新たな声が届いてきた。

 

「あ、やっぱり龍蓮だ。───で、隣にいるお前が伏黒恵か?」

 

 声のほうを向けば、着物を着たショートカットの少女たちがいた。瓜二つの容貌の少女たち。違いがあるとすれば、気が強そうな表情の子と、もう一人は照れるようにこちらを窺ってくる子という、二人の態度の差だった。

 恵は怪訝そうな顔をし、憲紀はノックもなく不躾に部屋へ入ってきた相手が、禪院家の双子だと気づいて不快そうに眉を顰めていた。

「そうだけど……あんたたちは?」

「私は禪院(ぜんいん)真希(まき)。こっちは禪院(ぜんいん)真依(まい)。私の妹だ。……ほら、私を壁にして隠れるなよ」

「ちょっと、真希急に突っかからないでよ……。初めまして、伏黒君。禪院真依です」

 

 真依は真希の背中から顔を出し、恵へ向けてお仕着せの、だが御三家として最低限の礼儀に則った挨拶を口にする。それから、すぐにこちらを向いて表情を綻ばせた。

 

「……ひ、久しぶり……龍蓮くん」

「ああ、久しぶりだな、真依。また会えて嬉しいよ。真希も元気そうで良かった。挨拶もなしに恵に突っかかるのは相変わらずだな」

 禪院(ぜんいん)真希(まき)禪院(ぜんいん)真依(まい)

 彼女たちもまた原作の悲劇を回避したいキャラクターだ。

 恵は初対面だが、俺は5歳頃にあった呪術師の会合で姉妹には会っていた。あのときの会合場所は、社寺が近くにある屋敷だった。暇だったので神社をぶらついていたら、呪霊に怯えている少女を助けたのだが、その子がなんと真依だったのだ。その後、彼女の保護者を探して引き渡した。

 あとでそれを知って、どうやら原作の回想シーンであった姉妹の絆を感じさせる名場面に、自分が介入してしまったのだと気付いた。

 

 頭を抱えてしまったが、やり直しがきかないのでもう受け入れるしかない。せめて、あの姉妹との縁が出来たのだと前向きに考えることにした。

 

「それで今日はどうしたんだ?」

「当主様から、恵へ会いに行けって言われたんだよ」

「……なんだそれは?」

「ああ、なるほどね」

「そういうことか」

 

 恵は明晰な頭脳を持っているけど、この分野での考え方に慣れないのだろう。わからないみたいで、逆に察した俺と憲紀は得心がいって頷いた。

 

 要するに将来の布石として恵とこの姉妹を合わせているのか。政略結婚で恵を禪院へ迎えられたらいいなぁ……ということだろうか。

 

 そして恵にそれをこっそりと伝えると、

 

「…………」

「凄くイヤそう!!」

 

 再びあの海賊漫画を思い出すような、苦虫を噛み潰しているかのような表情の恵に俺が思わず突っ込む。

 

 とはいえ、このまま真希と真依を返すわけにはいかないので、彼女たちも部屋へ招き入れることにする。

 真希たちも直毘人に恵を口説き落とせというわけじゃないみたいなので、普通に食事しながらお喋りをすることになった。

 そうすると呪術が話題になることが増えてしまうのは、家業故だろう。

 

 憲紀と話していると彼の生得術式であり、加茂家の相伝が話題になった。

 改めて考えると、加茂家相伝の『赤血操術(せっけつそうじゅつ)』は実に完成度の高い術式だ。

 

 近距離・中距離・遠距離のすべてに対応した攻撃手段を備えているだけでなく、防御技まで完備している。この汎用性の高さはそれだけでも十分に有用だ。現代の五条悟が規格外すぎるせいで『無下限呪術』や、汎用性抜群な『十種影法術』と比べるとどうしても地味な印象を受けがちだが、御三家の一角を担う相伝術式として、それに相応しいだけの格は間違いなくある。

 

 ───しかしながら、この術式は人間が扱うとなると、あまりにも負担と制限が大きすぎる。

 最大のネックは、言うまでもなく失血死のリスクだ。体外に血液を出して操るにしても、人間が一回に失って耐えられる限界値は400ミリリットル程度がギリギリ。事前に血液パックに保存して持ち歩くという手段もあるが、それではどうしても携行性に難があるし、長期戦になればジリ貧になるのは目に見えている。

 

 もし、人間がその致命的な制限を超えて真に赤血操術を使いこなそうとするならば、必須となるのは反転術式だ。反転術式による治癒で、消費した血液をリアルタイムで無限に補充し続けるシステムを構築するしかない。

 

 だが、それも言うほど簡単ではない。

 反転術式はただでさえ呪力の消費が激しい。赤血操術自体の行使に加え、呪力で血液を生成する反転術式も稼働させるとなれば、並大抵の術師ではすぐに呪力が底をつき、継戦能力を失ってしまう。これを実戦で成立させるには、並の術師を超える呪力量と、ロスを極限まで減らす精緻な呪力効率の鍛錬が不可欠だ。理想形として目指すには、あまりにもハードルが高すぎる。

 

 とはいえ、血を弾丸や刃として撃ち出す攻撃特化の運用は燃費が悪いものの、赫鱗躍動による純粋な身体能力の底上げや、血液を付着させたものを操る、出血を瞬時に凝固させて止める止血能力など、自身の生存率を上げる術としてのポテンシャルは極めて高い。

 

 要は、扱い手のスペック次第でどこまでも化ける、極めて堅実で強い術式なのだ。

 

 俺と憲紀の会話が気になったのか、恵は憲紀に訊ねた。

 

 「加茂さんは反転術式を使えないんですか?」

 「残念だが私には使えない。あれは高度な技術故に習得が難しいからな」

 「……そうなんですね」

 

 恵は頷きつつも、自分の周囲が例外的であると気付いたようだ。

 

 俺(アウトプット可能)、俺の義姉でもある月乃(つきの)(アウトプット可)、そして五条悟(アウトプット可能)がいる。恵の周囲には反転術式、それも他人に施せるレベルの使い手が多くて、やや感覚が麻痺しているのかもしれない。

 

「憲紀は反転術式の習得以外には、身体を大きく鍛えることも必要だね」

「身体を、か?」

「そう。人間の血液の量はだいたい体重の十三分の一だからさ。筋肉と脂肪を増やして体重を重くするほど、体内で扱える限界の血液量そのものが増えるんだよ」

「なるほど……」

「それに喧嘩の強さはだいたい体重で決まる。つまり、もっと飯を食って大きくなれ!」

「そうだな、憲紀は白アスパラみたいに細すぎるからな」

「反転術式の習得に、身体作り……要求されるものが多くて大変ね」

 

 真希は俺の意見にガシガシと賛同し、真依はやや引き気味になっていた。本当は領域対策も学んでおくべきだと思っているんだけどね?

 

「……そういう観点で考えたことがなかったな」

 

 自分がより強くなる可能性を見出したのか、いたく感心したような憲紀は真剣に頷いていた。

 

 

 

 ……この数年後、呪術高専京都校にはハイセンスゴリラが2頭現れる事態になったのだが、俺は千里眼を持たないのでこの時は知る由もなかった。

 

 

 

 

 翌年、俺は特別一級術師となった。記録上、史上最年少の特別一級術師だ。そして初めて、特級呪霊の祓除を目的とした任務を請け負うことになった。




・加茂憲紀
赤血操術、反転術式、領域対策、黒閃経験、さらに肉体作りまで頑張ればもっと強くなるよ!……と、龍蓮から盛大な無茶ぶりをされた結果があれです。

・禪院真希、禪院真依
直毘人としては、龍蓮や恵と縁を作ることができれば儲けもの、と思って二人に会うよう仕掛けていました。これまで龍蓮と遭遇する機会が多かったのも、実は直毘人の仕込みです。本人たちは察していません。


次回更新は7月下旬予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。