雷神の系譜~鹿紫雲一の末裔に転生したので、原作の悲劇を打ち壊す~ 作:メンチカツ
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2015年、俺は中学に入学した。そして特別一級術師の称号を得た。現在の俺は史上最年少の特別一級術師様だ。
「
「こちらこそよろしくお願いします」
かなり年下の俺にも伊地知は丁寧に挨拶をしてきた。こうして原作キャラクターに会えるとやっぱりテンション上がるなぁ。
「それで、初めての仕事はどんなものですかね」
今回は鹿紫雲家の仕事ではなく、呪術高専からの依頼としての仕事だった。伊地知は深刻そうな表情だ。
「今回は特級案件と思われます……。確認されているだけで66名が死亡しております。犠牲者には術師も含まれます」
「なるほどね……」
初回の任務としては死ねという言外の意図を感じてしまう難易度。総監部に嫌われるようなことをした覚えがないのだが、これは羂索が回すように仕込んだ任務だろうか。
あるいは羂索の仕込みがなければ、これは原作にもあったかもしれないが五条悟が処理した案件なのかもしれない。
「これは相当な呪霊だな。特級と推量されるのも当然。
自然呪霊レベルほどではないならば、一級術師が二人もいれば特級呪霊を祓えるはずだ。例えば少年院の虫くんレベルならば一級術師の案件だ。七海や冥冥ならば
呪術御三家に勝るとも劣らない東の名家の次期当主。潰しやすいように出てきてくれたなら潰そう。そんな上層部───いや羂索の魂胆が見える。
「はい。なので……この先の状況は完全に把握できていません。どうか、ご無事で……それだけで結構ですので、お戻りください」」
「若様、どうかご武運を」
恐縮してばかりの伊地知と、俺を信じつつも不安もあるといった様子の月乃。俺の見送り方にも個性が出ているな。
俺は呪霊が出現した街に足を踏み入れる。寂れているが確かな人の営みがある街。感嘆混じりに舌打ちをひとつすると、拡張術式で幻獣琥珀を使用すれば磁場を利用してレーダーのよう広範囲を探査できる。
術式使用も研鑽を積めばこの程度ならば外見が変貌するほどに、身体を変化させる必要もない。原作の悲劇を壊すために俺は日進月歩している。
そして俺は鋭敏な感知能力で、街中に残る呪霊の残穢と未だ生き残る人間たちの気配を感じ取る。
磁場によるレーダーの範囲を広げようとした刹那───
俺は墓石が立ち並ぶ森林の中にいた。
「……」
俺は胡乱なものを見る眼で周囲の光景に視線を巡らせる。地表には日光がほとんど届かない。痩せた礫土と砕石が敷き詰められた地表。並び立つ墓石はどれも傾き、足元の荒い砂利と同化するように崩れかけている。
俺が立っていたのは街だった。この一瞬の変化は領域に入ったのだとすぐにわかった。そして分かったことがもう一つ。
この領域には見覚えがある! 原作に登場した領域だ。渋谷事変のときに羂索が使役していた呪霊の領域がここだ。
しかもこの領域には衰弱しているようだが、非術師もいることがわかった。人数は16人か……多いな。
「人質か……」
特級呪霊という脅威、領域内の人質。それらに対応出来るのか、そして俺自身の人間性はどのようなものか。それを見定めるために羂索が仕組んだのだろう。
レーダーで探査した限りでは、この領域の主以外の呪霊はいない。羂索が夏油の遺体を窃取する前だから呪霊を完全に支配できないので視界共有することはできないのだろう。式神や烏のような動物の気配もない。
この領域に存在するのは俺と呪霊と人質たちのみだ。
「ま、なるようになるか」
気配のもとへ向かえば予想通りの呪霊がいた。下顎に生えた一対の牙、振り乱した髪、膿疱が無数に現れた腕、足を持たず浮遊する人間よりも一回り大きな身体の呪霊。
───特定疾病呪霊『疱瘡婆』。
疱瘡婆のいる領域内の森や墓地には人質たちが倒れている。すぐには殺さないことは羂索の命令か。呪霊操術ではないので自由自在に支配することはできないが、呪霊と契約する過程で羂索は回数制限のような縛りをつけて、呪霊に対する絶対命令権を持っていたのだろう。
「さて……俺の前に立ちはだかったって事は、負けたいって事だよな? お前は!」
術式は把握している。領域展開の観測、そして自分の領域対策の練度がどのくらいか、試す試金石にさせてもらう。
一瞬の暗転。
「!」
視界が暗くなり空間が狭くなり、身動きが難しくなる。本来であれば慮外の事態なのだが俺には既知の事象。
俺は棺桶に閉じ込められた。これがこの疱瘡婆の領域に付与されている必中効果だ。
そして必中効果はまだ続く。棺桶の上空から大きな墓石が落下して埋葬される。
だが───
「甘ぇ!」
「!?」
落花の情による迸る紫電の呪力が棺桶を、墓石を破壊して埋葬される前に脱出する。疱瘡婆が驚くような声を上げる。
「ノロい!」
脱出したまま疱瘡婆に突撃するように振りかぶって肘落としをする。疱瘡婆は身を翻して避けたが、直撃はしないものの当たったことで俺の呪力で感電する。電気に似た性質を持つ呪力を帯びた攻撃だ。掠るだけでも
一瞬の暗転。
「あ?」
再び棺桶に閉じ込められる。疱瘡婆の必中必殺攻撃だ。落花の情による脱出が可能なのは証明済。ならば次は領域の押し合いだ。
「壱……弐……」
疱瘡婆のカウントが開始する。……だが、それも途中で止まった。俺の簡易領域によって必中効果が中和されたからだ。
「……っははははははは! コレが領域の押し合いの感覚か! 悟相手じゃ覚えられねぇからな、得難い経験だぞ、呪い!」
簡易領域と落雷と錯覚するほどの呪力で無傷のままで防ぐ。原作で冥冥が多少、身体にダメージがあったことを思えば、上々の出来だろう。
このレベルで完全に防がれたことが疱瘡婆は衝撃だったのだろう。俺から距離を取ろうと……いや、逃げようとしている。だが、当然逃がすわけがない。
五条悟との手合わせでは、まるで経験にならない差を埋めるには本当にちょうど良い相手だった。必中効果通れば死亡する。そのヒリついた感覚のおかげで感覚は研ぎ澄まされて、集中力がより高まる。俺のボルテージは上がり続ける。
「ボクシングは好きか!?」
俺の左ストレートを疱瘡婆が咄嗟に腕で顔を庇う。拳のインパクトの瞬間、空気が文字通り
バギィッ!!という轟音を立てて大気が爆ぜ、空間が歪み、黒い火花が迸り領域内部を奔る。
呪力の衝突がもたらす空間の歪み───黒閃。
黒い火花が防御のために差し出した疱瘡婆の左腕は付け根から跡形もなく吹き飛ばされる。呪力が呪霊の身体を奔り感電する。黒閃の呪力も電気の性質を持っている!
「■■■■ッ!?」
防御姿勢を取りながら身体を捩ったからか、疱瘡婆は拳の直撃を避けられた。一撃で祓われてもおかしくない
「どうした? 墓掘りはもう終わりか!? こっちは勉強させてもらったからな。あと一回くらい付き合ってやるぜ」
簡易領域から結界術の基礎を学び、疱瘡婆の領域を観測・解析した。さらに黒閃による覚醒状態に入ったことで、ついに領域展開の完成に至った。
戦意を失ったのか疱瘡婆は俺から距離を取ろうと遁走を始めた。
「やる気がないならもういいや」
黒閃の覚醒状態でテンションは上がっているが、羂索の存在を意識して領域展開を躊躇う。
だからこの疱瘡婆には別のプレゼントを贈ろう。人差し指で疱瘡婆を指し示す。そして呪詞を唱える。
「───"
指先から白い、量感に溢れた光の塊が疱瘡婆に襲い掛かってゆく。幻獣琥珀による荷電粒子砲の直撃を受けた特級呪霊は、瞬時に消滅した。あまりの高熱の呪力が、爆発を生じさせるいとまさえ与えなかった。蒸発したあとに、完全に近い虚無だけが残った。
領域は陽炎のように消え失せて、人質たちと一緒にもとの寂れた街に戻ってきた。
荷電粒子砲を撃って炭化した人差し指を反転術式で治しながら、連絡を取ると月乃たちがすぐにやって来た。人質たちの保護も始まった。
「お疲れでした、若様」
「ああ、特別一級術師としての初陣に特級呪霊を討伐。戦績として上々だね」
などと俺は月乃と会話して、伊地知も会話に加わる。しかし、話の最中に異変を感じ取る。
黒の奔流が地上に拡がる。それは波濤のように激しい動きとなっていく。地を走る小動物や野良猫を、地を這う虫を、呪霊の残穢にあてられて気絶していた鳥を、その黒い奔流は飲み込む。黒い奔流が通り過ぎれば、路傍に骨だけが残されていた。
人々の悲鳴が聞こえて来る。高専関係者も非術師も俺達のもとへ逃げてきているが、俺はそれよりも黒いそいつらに視線が向く。
「……きっしょ」
「ま、まさか……そんな……」
俺は純粋な嫌悪感を表情に滲ませて、月乃と伊地知は衝撃と恐怖の表情を浮かべている。
黒の奔流とはゴキブリの大群であり、抑制の利かない食欲に任せて得物を求めている。
「なんか前に、虫が大量に湧いて人を喰う映画あったよな。あれはスカラベだっけか」
逃げて来る補助監督を襲おうとするゴキブリたちに、電磁波を照射することで補助監督を庇う。呪力で強化されたゴキブリたちであるが、強度はゴキブリのそれである。一気にゴキブリたちが蒸発する。
「アアアアアアアアアアア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!!!!!!!!」
街中に叫び声が響く。耳障りな金切声。非術師の中には意識を失う者もいたし、補助監督たちも思わず耳を塞ぎ、蹲る。
「何故……何故……邪魔ヲスル」
「そんな、馬鹿な! 二体目の特級呪霊!?」
空から降りて来る声の主を伊地知たちも正体を看破したようだ。
それは高専でも登録されているゴキブリへの嫌悪や恐怖といった負の想念から特級の格を持つ呪霊。名を
無数のゴキブリを巨大な竜巻のように立ち昇らせ、そこ頂上に黒沐死が立ってこちらを見下ろす。
以前、呪術師の会合で手配書を見かけたが、黒沐死が祓われたという報告もなく目撃情報が途絶えていた。その黒沐死が疱瘡婆を祓ったあとに現れた。どうやら手配書にあった黒沐死は原作の仙台結界に現れた呪霊だったのか。
この状況も羂索の仕込みか。領域を相手にした戦い方を見たあとに、物量をどうするのか。仲間と人質たちを守りながらどう戦うかを見たいということかな。
「何故、我々ヲ殺す?」
黒沐死の手には肉切り包丁に似た刃物を持っている。
「私ハ鉄ノ味ガ好キダ」
「興味ないね。俺が存在を許すGは俺が使う増Gだけだ。それ以外は存在を否定する」
相手が使う増Gも許さん。
黒い大波が迫り、竜巻の上に立つ黒沐死が片手で印を結ぶ。
「“
黒沐死が呪詞を唱えると肉袋を持つ奇妙な虫が出現する。
「お前たち、俺の近くから離れるなよ」
「! ……はい」
刀を構えた月乃たちに俺は言う。追加で集まってきたゴキブリたちの大群が人質たちを襲うことをケアしつつ、黒沐死と戦うのは鬼難易度だ。本当は使いたくないが……背に腹は代えられない。
「とっておきをくれてやる」
俺は
両手を胸の前で交差させ結ぶのは降三世印。
三界の貪・瞋・痴の三毒を退け、あらゆる障壁や邪悪を打ち砕く降三世明王の印相。
「───領域展開」
それは、呪術戦の極致。
具現化された心象風景によって、現実を侵食し、覆す。
月乃や伊地知たち術師と人質たち、そして黒沐死とゴキブリたちは、距離と位置の意味を失い、世界そのものを塗り潰して呑み込んでいく。寂れた街から、ただの一瞬で変転したそこは、現実を侵食する幻影。
「
周囲は虚無の宇宙空間へと変貌する。超高温、捻じ曲がる超重力、そして漆黒の虚空を埋め尽くす渦巻き毒々しい虹色に輝く
「領域展開……!?」
「はぁ……はぁ……」
伊地知は驚愕しており、月乃の頬が、内部に太陽をもつかのように紅潮して息を荒くしている。
領域に取り込まれたことに伴って、そこに巻き込まれた者たちは領域の影響下に置かれた。
俺が守る対象と指定した者たちは俺の領域からの影響は一切受けない。しかし、敵対者である黒沐死とゴキブリたちは宇宙線と容赦なき宇宙嵐の直撃を受けて消滅した。
無慈悲に、不条理に。
抵抗する時間もなく、灰燼を遺さず宇宙空間の奈辺へ消えていった。
正しく、必中必殺。
これが俺の領域だ。疱瘡婆の領域を分析することで術式の対象の指定を覚えた。だからこそ俺以外のすべてをプラズマや宇宙線で殺傷することもせずに済んだのだった。
役目を終えた領域はすぐに解除される。すべては泡沫の夢であったかのように、景色は元の街の中に立ち戻っていく。
そこに一人佇み、俺は息を吐いた。
「ご馳走様でした、と!」
特級呪霊2体。いい経験値だった。
黒沐死は単為生殖を既に行っている可能性もあるので油断できないが、俺は充実感に浸っていた。
領域展開はさっそく悟相手に試したいなぁ!
■領域展開
掌印は降三世印。
宇宙空間のような領域には超重力場と宇宙線と超高熱のプラズマに晒されている。必中効果は宇宙嵐。
もしかして→ORT
危険極まりないこの領域を閉じない領域にすることを龍蓮は考え中。
■荷電粒子砲
幻獣琥珀で発現させた龍蓮の技。領域や極ノ番とは異なる大技が欲しい龍蓮が考えた結果作り出した。
もしかして→デスザウラー
次回更新は8月上旬予定