雷神の系譜~鹿紫雲一の末裔に転生したので、原作の悲劇を打ち壊す~   作:メンチカツ

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筆が乗ったので結構早めに書けました。感想、評価いただけるとモチベーションがさらに上がります!


人の心とかないんか?

 トラックに轢かれた覚えもないのに、俺は異世界に転生した。

 

 かつての自分の最期の記憶に覚えがないのでもしかすると、自分でも死んだことを気づかずに亡くなったのかもしれない。

 

 転生先がかつての自分が愛読していた呪術廻戦の世界であることは、生まれたときに気づいた通りだったことは理解できた。

 なにせ父親が呪霊を祓ったり、呪詛師を討伐したりするし、家中からは禪院がどうのこうのという悪口雑言が聞こえてくるのだ。日本、地球上という点は同じでもどう考えても、元の世界と同じではない。

 

 幸いなことに俺の転生先は呪術師の家系だった。それも没落した廃業寸前とか、両親が実質的初代の家とかではなく、御三家に数えられないがそれでも日本有数の呪術の名家。

 戦国時代の術師鹿紫雲(かしも)(はじめ)を始祖とする400年の歴史を持つ呪術師の名家。原作だと鹿紫雲は過去の術師の名前じゃなかったと思うが、とりあえず鹿紫雲という名前で伝わっていた。鹿紫雲(かしも)家の次期当主見込の十男龍蓮(りゅうれん)。それが新しい世界での俺のポジションであった。

 

 せっかく得たポジションは、なんとしても守りたいもの。しかも十男という兄弟の末弟であっても次期当主の座はほぼ確定している身分なのだ。呪術師は過酷な仕事だが権威を持っているのは何かと役に立つだろう。

 

 呪術師に対する負の信頼からすると、家督争いとして兄弟同士で殺し合いは平然と行われそうである。しかも、親類でも状況次第では次期当主の座を狙える可能性もまだあるらしいので、仮想敵はたくさんいる。

 

 なので俺は早いうちから手を打つことにした。

 

 前世と違ってこの世界には呪術という力が存在している。それに鹿紫家は禪院(ぜんいん)家のように呪術師としての実力が高くなければ人権はないし、尊厳も守れないような家なんだ。呪術師たるもの強くなければならないのだ。

 

 そんなお家事情を5歳くらいのある日に知った俺は、呪力を鍛えるためのトレーニングを自発的に始めた。

 

 これによって俺の呪力量は異常なまでに膨れ上がったらしく、両親は大喜びで俺の将来に太鼓判を押してくれた。

 

 機嫌を良くした両親は教育に熱心になり、俺もそれに応え続けた。しかも好きな作品に登場する呪術師となったこともモチベーションが常に高くなる理由となった。おかげでどんどん実力はついていった。これはもう間違いなく次期当主である。

 

 

 

 

 現在、俺は7歳。一つだけ大きな悩みがあった。それは自分の生得術式だ。

 

 俺の術式は幻獣琥珀。そう、鹿紫雲一が持つ術式だ。一度使えば死が免れない術式なので、俺は術式なしで呪いを祓えるほどの実力をつけなければならない。戦闘力については原作の鹿紫雲と同じく、俺の呪力が電気とほぼ同等の性質を持っているのでそれを活かすためのトレーニングも欠かしていない。

 

 悩みは術式の解釈を広げることで、幻獣琥珀の力を少しでも引き出せないか、というのが目下の悩みである。せっかく呪術廻戦の世界で呪術師になったのだ。領域展開は使ってみたい。それなのに術式を使えないので、心象風景を具現化して術式を付与した異空間を作り出すことができないのだ。

 

 諦めて呪力操作の鍛錬を続けて結界術を勉強したり、反転術式を勉強したりしたほうがいいのだろうか。

 

 そんなことを考えながら、俺は屋敷の中にある森、そこにある四阿(あずまや)で古文書を読みながら呪力操作の鍛錬をしていた。

 

 流石は日本有数の名家である鹿紫雲家には呪術関係の書物がたくさん収蔵している鹿紫雲文庫という施設を所有していて、俺が読んでいるのも術師たちにとって貴重な指南書である。

 

 思惟の海に沈んでいた俺は引き出したのは、草木を分けて歩く音だった。人数はかなり多い……人数は11人か? 多いな。

 

 見たところ宗家の人間は2人。というか、俺の兄貴たち長兄と次兄じゃないか。2人とは歳がかなり離れている。長兄赳雄(たけお)が27歳、次兄祐吉(ゆうきち)が26歳だったはず。彼らとは母親が違う。それは術師が欲しい、より優れた術師が欲しいという呪術の名門としての事情があった。そのため父親は8人の妻がいて彼女たちに子を産ませていたのだ。

 

 兄たちの他9人は鹿紫雲家の分家筋で宗家に連なる血ではなく、力はない。発言権もない術師たち。

 彼らの立ち位置としては戦闘員ポジ。禪院の躯倶留隊みたいな人らだ。そんな術師たちが手に呪具である刀を抜き身で持っている。

 

 俺は書物を閉じると四阿を出て兄たちを迎える。

 

「こんにちは。俺に会いに来るなんて珍しいな兄さんたち」

「……生意気な孺子(こぞう)め」

「白々しいことを言うな」

 

 兄たちは露骨なまでに敵意を剥き出しにしている。赳雄は浅黒い精悍な顔つきの、背の高い男なので、剣呑に双眸を光らせれば凄味が出て来る。分家の人間には彼を恐れる者も多いが彼に取り入れろうとする者もいる。呪具を持って俺を取り囲む男たちは赳雄のシンパたなのだろう。

 

「なんだよ、あんたら俺のこと嫌いなの? 俺はお前らのこと嫌いだけど」

 

 俺の兄たちはほとんどが術式を持っていない。俺を除けば術式を持っているのは眼前の長兄だけ。

 

 ただそれは相伝の術式ではない。しかも、宗家にとっては価値の低い術式で、現当主からの扱いも良くない。

 対して俺はと言えば実質使用不可とはいえ、相伝の術式それも始祖と同じ術式を持って生まれたということで扱いは良い。

 他の兄たちも術式を持たないことで冷遇され、さらに自分たちを差し置いて優遇される()が気に喰わない。

 そして自分を軽んじる状況もあって兄たちが俺に嫉視反感を抱いていたことはわかっていた。

 

 そして俺も兄弟といっても自分を嫌い、憎む相手を愛するほど慈愛に満ちたメンタリティーは持っていない。

 

「俺たちはお前を殺しに来た」

「おいおい……人の心とかないんか?」

 

 赳雄の言葉にはやはりそうか、としか思えなかった。どう考えてもマリカで遊ぶお誘いの雰囲気じゃなかったからな。

 

「俺を殺して次期当主になりたいってことか? 祐吉兄さんはナンバー2ってことで利益を得るという計画なのかな?」

「そういうことだ。まったく、歳に似合わず気味の悪い奴だ」

 

 佑吉の感想には、そりゃあ見た目と年齢が合っていないからなと胸中で呟く。

 

 正直、赳雄はここまで極端な行動を起こすとは思わなかった。見た目や言動こそ強気だけれども卑屈で陰険な性格で、自分から家督争いのために実弟を殺そうと思うのは意外だった。

 

 もしかするとこの前、結婚して妻が出来たことに起因しているのか?

 

 赳雄の妻───俺にとっての義姉は先代当主の玄孫の一人だとかいう、女子高生だった。27歳で女子高生の婚約者がいるとは随分と羨ましい御身分だと思ったものだ。

 

 義姉が美人だったから尚更そう思った。

 

 まあ、そうは言ったところで女子高生を結婚させてしまう大人たちには呆れてしまうけどさ。婚約報告の様子からして、彼女の意志での結婚ではないことはわかっていたからね。

 

 赳雄が妻を迎えて、自分が家督を継いで将来的に生まれる自分の子供に鹿紫雲家の財や権威を継承させたい、そんな望みを持ったのかもしれない。

 

 特別一級呪術師の赳雄(たけお)、特別準一級呪術師の祐吉(ゆうきち)。それと術式を持たない実働部隊で取り込みとは殺意の高い追い込み方た。

 

「これ以上は言葉も不要だな」

 

 赳雄の十指、その指先からまるで蚕かが糸を吐くように伸びる呪力の糸。それが分家筋の男たちに繋がる。すると彼らは迅速な動きで俺めがけて殺到する。

 

 呪力で身体強化した俺は走り出し、ナイフを振り上げる男めがけて跳躍からの膝蹴りを相手の頭部にめり込ませる。膝蹴りとともに呪力が伝播して男は感電して転倒する。

 呪力が電気に似た性質を持っているため、呪力をまとうことで常に帯電している。このまま攻撃すれば相手は防御不能となる。

 

「!?」

 

 転倒した男のこめかみをサッカーボールのように蹴り上げると、吹っ飛んだ身体と衝突した2人が転倒する。

 

 辛うじて避けた男が持つ刀を振り上げるが、俺は拾い上げたナイフをそいつの胸元めがけて投擲する。俺の呪力を帯びたナイフは紙を裂くように胸部に刺さり、相手は感電する。男が倒れ込む前に絶命していた。

 

 赳雄(たけお)の術式は呪力の糸を介して他人を操ることで、バフをかけるもののようだが……正直どれだけ強くなったかわからんな。

 

「お前らどけ! 俺達でやる!」

 

 タングステン製のハルバートを佑吉が持って一気呵成に攻めたてる。斬撃を避けて死体からナイフを引き抜き、ハルバートの刃と一合、二合、三合と打ち合う。

 佑吉は呪力による肉体強化だけでなく、赳雄(たけお)の糸で操られることでより強化して、より動きのキレを増しているようだ。

 ナイフでハルバートの攻撃を薙ぎ、俺は距離を詰めて拳打で佑吉へ数発打ち込む。存外に持ち越えた佑吉が距離を取る。俺も攻撃で牽制されて追撃のために距離を詰めることはできなかった。

 

 赳雄(たけお)の術式で人を操るにしても対象となる者の強さによっては、脅威となるか否かは分かれるようだ。準一級術師を人形とするならば戦闘能力は上がるらしい。

 

「だが、弱いな」

 

 俺の呪力によって空気が急激な熱膨張と収縮を繰り返すことで振動する。パチパチッと音が鳴る。

 

 パリッと音とともに、呪力が眩い稲妻として佑吉めがけて奔る。

 

 俺は電気と同質の自分の呪力を電荷分離した。先程の打撃とともに佑吉にプラス電荷を移動させていたので、俺自身に蓄えたマイナス電荷を佑吉へ誘導する。

 

「!」

 

 佑吉は発声する時間もなく上半身が爆ぜて血しぶきと肉片を飛び散らせた。

 

 領域展開をするまでもなく必中の大気を切り裂く稲妻だ。佑吉には避けるすべはない。

 

 周囲には異臭が漂い、地面に転がりながら悶絶していた刺客の男たちは身体を血脂に塗れて仰天する。

 驚愕しているのは赳雄も同じだ。戦いの最中だと言うのに行動が止まっている。

 

 帯電させる? いや、そんな時間は要らない。

 

 10メートルを瞬く間に距離を詰めて拳を握り、赳雄を自分の間合いに収める。

 

 自分だけが緩慢な時流に乗っているように感じる。長兄の動きは遅すぎた。今ならば次に自分が何を為せるのか、確信ができた。

 

 腰の回転と右足から左足の体重移動を連動させる。右足を蹴り出し、脇を締めて真っ直ぐな軌道を描き、赳雄への最短距離で拳を突き出す。

 

 ノーモーションで打つ打撃。

 

 ───黒閃!!!

 

 打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した瞬間に空間は歪み。呪力は黒く閃き、迸る。

 

 長兄が飛んでいき、木々をへし折り地面を転がり即死したのだが……俺の意識からは彼は除外されていた。

 

 鹿紫雲龍蓮のポテンシャルがより高次へ到り、呪力の核心へ到達したという充実感が俺の中で満たされていた。

 

 

 

 

 僅か7歳にして黒閃を経験して、一級術師含めた多くの術師を殺した俺は実力至上主義の鹿紫雲家でも異端となった。




今はショタですが龍蓮の見た目は鹿紫雲一となる予定です。

伏黒津美紀の救済&ヒロイン化についてご意見をお聞かせください。

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