雷神の系譜~鹿紫雲一の末裔に転生したので、原作の悲劇を打ち壊す~ 作:メンチカツ
龍蓮個人が抱える戦力となる部下。何人くらいがいいだろうか。あんまり大人数でも扱いきれないし難しい……。
器としての適性も必要だが、
そうして選ばれた呪詛師は書類上では死亡してある。総監部には手続きをしても遺体を引き渡すことなく、
総監部に詮索されないための取引材料も用意してある。烏鷺に襲撃された時に殺した呪詛師が持っていたカンテラが呪具となっていた。どうもあの呪詛師は総監部と寿命の取引をしていたらしい。他人の命を啜ってでも長生きしたい老人たちを黙らせるために寿命は利用できそうだ。
呪詛師は
呪物を呪詛師に呑み込ませたら意外にもすぐに受肉が完了した。受肉しても器の人格が抵抗することもあるので、心を折ってから呪物を取り込ませたのが良かったのかもしれない。
「まさか、本当に私を受肉させるなんてね」
「色々と研究していたし、君の呪物に組み込まれた術を分析したら実現できたんだ」
羂索が呪物に仕込んだ術が破損も少なく解析できたのは、俺が器と呪物を綺麗に剥離できる技術を持っていたからだ。
元々は伏黒津美紀が万の器とされてしまった場合を想定して、彼女を殺したり深刻なダメージを与えたりすることなく呪物を摘出する方法を研究していたのだけれども、その過程で呪物も破損させずに器と剝離させる技術を確立した。呪物に宿る魂を殺さないで済んだのは副産物的成果だった。
烏鷺は自身の腕を軽く握りしめ、新しい肉体の感覚を確かめるように指先を広げた。空間を掴んで布のように引っ張る。
今の烏鷺は呪詛師が持っている生得術式も使用できる。ただ同時併用はできないだろう。宿儺ができないのだから、術式の同時使用は不可能なのかもしれない。
ただ羂索や乙骨が寄生する術式と呪霊操術や無下限呪術を同時に使っていたけれども脳の使い方によっては、烏鷺も同時に術式を使うことができるかもしれない。宿儺の場合は単純に研究する時間が少なかったのかもしれない。今後は烏鷺と協力して究明したいものだ。
「いいわね。身体の調子もいい、呪力操作にも支障がないわ」
烏鷺はご満悦だ。いい笑顔だった。器になった呪詛師よりもずっと良い。あいつの笑顔は見下し、冷笑とかばかりだったからなぁ。
その横顔に目を奪われ、龍蓮は思わず感嘆の息を漏らす。
青い瞳、彫りの深い端正な顔立ち、焦がした琥珀のようでどこか淡く柔軟な褐色の皮膚はキメ細かく絹のように滑らか。
胸や股間は術式で隠されているが、巨乳で大きな美尻と細いくびれがはっきりと見えるし、長い美脚がセクシーだ。170cmの長身ということもあるが本人の気質も反映されて、雰囲気はあの驕慢な呪詛師とはまったくの別人だ。
「
「ああ、よろしく頼む」
見た目だけではない、俺が知っている彼女とは別人のようだった。きっと羂索の手のひらの上ではなく、ようやく第二の生を得られたからだろう。
「君にはちゃんと戸籍も用意してあるよ」
そう言って俺は身分証を入れた封筒を渡す。烏鷺は受け取って中身を検めた。
「
「───」
反応が鈍いな? でも怒っていないようだし、気に入らないというわけじゃない……よね?
「まあ、あれだ。カバーストーリーもあとで共有しよう」
「……ええ、そうね」
呪術総監部や呪術師の名門では戸籍の乗っ取りをすることはあるが、今回俺がしたことはそれではなくて、鹿紫雲に所属する者が戸籍の電子化の波に乗じて『システムのエラー』として作り出した新しい戸籍である。
そういう戸籍を生きている状態で所有しているのだから、うちも大概悪い家だ。呪術師らしいとも言えるけど。
「じゃあ、ここを出て昼食を食べようか。亨子」
過去の術師の彼女に与えた戸籍の名前は
やっぱり彼女にはこの名前がふさわしいと思う。
◆◇◆
鹿紫雲が管理する鍛錬場で俺と
この施設は無人島にあるもので、式神や呪霊を使ったような遠見も防ぐよう情報隠蔽の設備も万全にしている。
普通に移動すれば10時間以上かかるところ悟の術式を使えば一瞬だ。俺も悟が描いた陣の力を使えば一瞬で転移できる。悟は月面でも活動できるので俺が適応できれば月面でバトれるんだけどなぁ。
「やっぱり歯応えのある相手がいると自分の力量も上がるってはっきり分かるんだね。鍛錬は欠かした事はないんだが……意識の差は侮れないな」
「そうかい。こっちは結界術の上達が芳しくないので羨ましい」
俺は以前、亨子と戦ったことで領域展開が相殺されたことで結界術がまだ拙いと痛感した。平安の猛者で仙台四天王である亨子の結界術は別に拙劣ではない、むしろ高いレベルだ。しかし、俺の将来的な仮想敵は両面宿儺と羂索だ。それを考えればまだまだ未熟と言わざるを得ない。
「せっかく悟にも教えてもらったのにな」
原作の五条悟よりも少し強いとこちらの悟。彼の目下最大の敵が
そんな悟を相手に今では領域展延を使って攻撃をかすらせたのは戦功としては少し褒めて欲しいくらいだ。
「結界術の指導ならば日下部さんだけど、龍蓮のレベルだと役者不足かもね~」
俺が必死になって食らいついてくるのが嬉しいのか、悟はニヤニヤ笑いが止まらない。
「……天元様から結界術を学べないかなぁ。特級術師かつ五条家当主としての権力で機会は作れない?」
「流石に僕でも難しいな。天元様って外界には滅多に干渉しないからね。頼んでも断られるんじゃないかな」
だろうね。羂索にも植物みたいな奴なんて形容されていたし、死滅回游みたいな大規模な呪術テロでも起きないと、天元様が動くことはないかもね。
「まあ、無限を破って蹴りをかすらせたんだ。約束を守ってもらおう。……楽しみだね」
以前に悟との賭けで自分が無限を突破して攻撃を当てることができれば一つ言うことを訊こうと言って来たことがあったのだ。
「賭けは期限を区切っていたけど結構早くにやり遂げてしまうとね。何をやらせれるのか」
恐い恐いと呟いているが、悟は随時と余裕そうだ。
「しかし君の領域は怖いね。単純な火力ならば僕が知る限りでは最高かも。結界の練度がより高次へ到れば、僕も死にかけるかもね。……いずれ俺がチャレンジャーになる日が来るかもね。わくわくするよ」
「おう、挑むのは楽しいぞ。俺は今も楽しいからな」
獰猛な笑みとともに、俺は開けっ広げに言った。
「至弱、未熟、大いに結構。いつか五条悟を凌駕すると大望を抱く。心が躍るぞ」
悟は屈託のない笑顔で、楽しみにしているよ、と言う。
「俺が凌駕したならば、さっさと追い抜いてくれよ? 五条悟!」
悟は何か調子良さそうだが、彼の親友のほうはどうなんだろうな? 入手できている情報の限り、原作と変わらないみたいだし、夏油はミミナナを保護しても術師の教育もままならない程に悪いままなんだろうな。
人知れず術師がその命をかけ呪霊と戦い、非術師は何も知らないまま平穏を享受していると憤るものの、人の世に呪いや自分たちの存在を知らしめることもしない。
非術師を猿と蔑み皆殺しを掲げるような過激な活動に巻き込んでいる割には、保護した術師には術師として生きていけるよう徹底的にしごいた訳でもなく、夏油が目指す世界ではクレープみたいな非術師の産む恩恵は受けられないことすら理解させてない。
大儀のためには何を犠牲にしてでも成就させる決意とミミナナを危険に晒したくないという思いの間で折り合いを付けきれず中途半端なままで、結果としては彼女たちを可愛がるものの置き去りにして先に逝ってしまった。
などと夏油についてつらつらと考えるけれども、彼に対して俺がやれることはない。せめて俺が転生したのがさしす世代だったら……何かやれることあっただろうか。
この施設はマジで無人島に作られたものなので、お店も何もない。なので俺は悟に力借りて本島へ戻って食事をすることにした。じゃんけんの結果、神奈川でまぐろ丼を食べることになった。
「……懐かしいな」
「ん? 来たことがあるの?」
胡乱げな悟の言葉を俺は適当に受け流す。まさか前世が神奈川県出身でこの土地にも来たことがあるとは、言ってもしょうがないことだ。
まぐろ丼を食べたあとは辺りに畑が目立つ街道を歩きながら雑談を続ける。もうそろそろ、悟も俺も次の予定がある。その僅かな時間潰しだ。
「話は変わるけれどもそっちの家の方はどうなの? 正統後継者だと色々と言われるんじゃないか?」
「妻を迎えた最初の夜に何もできないようでは話にならないと、親父に言われて家のメイドや分家の女性とか俺の気に入った者で稽古しなさいと……12歳のときに言われて以来稽古に励んでいるよ」
「……硝子と宜しくやるのはアリだったの?」
悟は気になっていたのか、友人に関して訊いて来る。
そこに関しては禪院のような他家の呪術師に手を出すことはNGであって、後ろ盾となる家門があるわけではない、硝子みたいな一般家庭出身ならばセーフらしい。
「悟自身は結婚を考えないのか? 五条家当主である以上はそういう話はずっとついて回るだろう」
俺に疑問を投げかけられた悟は、きまりが悪そうに頭を掻いた。
悟曰く、同じような話題は当主になってから、幾度となく親族がそれとなく口に乗せているという。そして、その都度その気は無いと告げても、さしたる効果が無かった。
悟も彼のもとに持ち込まれる婚姻相手の写真や家系図の山に、部下たちが苦慮しているのを知っているから素っ気なく結婚への関心を遠ざけていた。
「ガールズバーの女の子たちや地下アイドルのみんなにもモテモテだったじゃん」
鹿紫雲家の事業の中にガールズバーとかそういうのがあると知った悟が、物見遊山で俺に案内させたことがあったんだ。引力があるのかってくらい女の子たちが吸い寄せられていた。
「まあね! でも四割くらいは君のファンだったじゃん」
誰もいなかったら寂しかったから良かったよ。
「それに……うーん……僕の子供として生まれるのって不幸がほぼ約束されてないかな? 最強の次代だなんて勝手な期待を持たれそうじゃん。そういうので潰されるかもと思うとね」
悲しい自己認識だなぁ。でも未来予想図としてはあんまり間違ってはいなさそうなのが悲しい。
「ちゃんと子煩悩になってそういうことから、守りそうだけどね。だから心配ないと思うけれども」
原作でも色恋がなかった悟なので俺の勝手な想像だけど。
「俺は子供出来て全然問題ないね。うちは養育機関があるから心配しないで、むしろ作れみたいな無言の圧すらある」
だから月乃とも硝子とも対策はしてないんだよな。それでも『呪術廻戦』の0や本編が始まる頃になれば対策はしておくけれども。
月乃は戦力として、硝子はヒーラーとして、ね。まあ、俺が仮に亡くなることに備えて次代は用意したほうがいいのかな……? うーん?
「まあ、出来たら出来たでいーじゃんって感じだね」
「おやおや、軽いなぁ~コレはゆとり世代の発言ですねぇ」
「ゆとりはあんたもだろう」
前世の俺はゆとりが終わった後の生まれだぞ。
「御三家や鹿紫雲のような名門は人間のブリーティングみたいなことをしているし、術師の質と量の確保は出来ているからね」
古代から続く業界の体質改善は簡単じゃないからな。悟も代案を出せないから自嘲混じりの毒を吐いてしまう。
「五条家の力を増すために後宮を作って司馬炎みたいにたくさんの女性を囲ってしまえよ」
「なんでだよ!というか、そんな馬鹿げた人数を相手にできるか」
「はははは! そりゃそうだ。まあ、それでさ子供作りまくってしっかりまともな教育と鍛錬をさせて、次世代に繋げ。そうすれば爺ども追い落として総監部は五条家のものだ」
俺の提案にうへぇと奇妙な声を上げた悟は天を仰いだ。
「爺どもを秒で殺すほうが簡単だな」
「壊すのはいつでも簡単だからな」
悟ほどの傑物であえばひと撫でにより人は容易く壊れる。
「たまに思うよ。もしも傑がいたらなって」
「───彼はただ、間が悪かったのだろう。夏油自身の選択も、彼が陥ってしまった状況も、一時の狂おしい心の振り幅も。それらすべてが、ふいに噛み合ってしまったのだろう。それだけの話だ」
悟がこのように弱音を零すのは、正直以外だった。こうして話すことに何か意味があれば良いな。
◆◇◆
三月になってバレンタインデーのお返しとして、
キャンディーの意味を彼女が知っていたのはちょっと恥ずかしかった。
津美紀は非術師だが俺や恵も含めて術師たちとも面識がある。そして月乃とも交流を津美紀は持っていて彼女から話を訊いていたのだろうか、俺の家が色々と特殊なことも把握していて、受け入れていた。
いつの間に話が進んでいたんだろうか……?
三月下旬。八十八橋の肝試しに行くという話を津美紀から訊いて、俺はその予定日に津美紀と肝試しに行くと言っていたメンバー。さらに恵も一緒に連れて舞浜にある
みんなで楽しみつつ、恵や津美紀には八十八橋を注意するようそれとなく伝えて、友人たちが肝試しへ行かないよう牽制した。
原作知識を利用した危機回避は転生者の強みだからね。だから、これでひとつの悲劇を回避できるのではと思ったのは、俺の希望的観測に過ぎなかった。
四月。任務を終えた頃にスマホに着信があり、画面に表示されるのは恵の名前。嫌な予感がして胸騒ぎがする。
俺も恵も中学三年生になってすぐのこの時期に起きる事件。それが脳裏にちらつく。
折り返し電話すると恵の連絡内容は簡潔だった。『津美紀が呪われた』と。
病室に入ると、そこにはベッドの上で眠っている津美紀と悄然として椅子に座る恵。
「おう」
「……ああ。仕事中に悪かったな。だけどお前には知らせるべきだと思ってな」
「いいよ。連絡くれてありがとう」
憔悴した様子の恵。
どんなに言葉を費やしても今の恵には慰めにはならないだろう。
恵は不良で学区内の同じ不良たちを打ち負かしたり、半グレ集団を壊滅させたりとだいぶヤンチャしていたこともあって、津美紀とはよく衝突していた。しかし、その本心は昔から変わっていない。彼女の幸福を心から願っている、素直になれないだけで優しい弟だ。
そんな彼が大切な家族に不幸が降りかかり、憔悴しきったその様子には心が痛む。
「───」
津美紀は静かに眠っている。額にある呪印がなければ本当にただ寝ているだけのように見える。
八十八橋に近づかせなければ羂索に彼女を認知されないのではないかと考えていたが、原作通り羂索に津美紀は見つけられて器として利用されてしまった。
「恵、何があった?」
「わからない。学校帰りに友達とショッピングモールへ行ったとき、少しの間一人でいたときにこの状態になったらしい。誰が呪ったのか、それが呪詛師なのか呪霊なのか。原因が呪いであること以外は何も……わからない」
俺のほうでも調べてみて……舌打ちをした気分になる。呪物が埋め込まれたがわかっているのに、剥離させようにも津美紀の身体の深部に巣食う呪い。その深部に呪物があるようで俺の干渉を阻まれる。
「悟には話したか?」
「ああ、さっき来てくれたよ。六眼でも具体的に何をどうしているのかはわからないと言っていたよ」
「そうか……まあ、六眼も万能ってわけじゃないから仕方ない」
もしも六眼で呪いをより詳細に分析できるならば原作で既に呪物を込められたことはわかっていただろうから、恵の話にも驚きはなかった。
それでも六眼だからこそわかることもあるだろう。俺のほうでも悟に詳しく聞き出してみよう。
「善人は苦労しないで幸せになるべきだと俺は思っていたんだ。だけど考えが甘かった」
恵が静かに話し始める。呪いの坩堝へ入ったときに、呪いを跳ね返せる強さを持たなければならないと、彼は痛感しているようである。
「弱い奴はただ喰われるだけだ……。龍蓮、俺は呪術師になるぞ。そして、津美紀にかかった呪いを祓う」
「ああ、まだ津美紀を救える。やるぞ、恵。死ぬ気で強くなるつもりならば、俺もいくらでも手を貸すぜ」
この悲劇を必ずぶっ壊してやる。俺は新たに決意する。そのために長年に亘って準備してきたのだから。
立志編はこれにて完結。次からは原作時間軸、より正確に言えば呪術廻戦0の時間軸に突入します。
お気に入り登録、感想、高評価のほど宜しくお願い致します!
次回更新は11月上旬更新予定。
龍蓮の部下となるキャラクターは何人いると良い思いますか?
-
月乃と烏鷺に加えてあと1人
-
月乃と烏鷺だけで充分