雷神の系譜~鹿紫雲一の末裔に転生したので、原作の悲劇を打ち壊す~ 作:生死郎
お節介
去年の11月、
「聞いてくれる? 一発で特級呪術師になれる才能の持ち主が現れました!」
そうか、そういえばこの時期だったか。
「名前は
俺みたいな原作には登場しないイレギュラーということも考えていたけど、やっぱり……乙骨だったか。
「それは面白いね。色々な術式をコピーさせて使わせてみたいな」
学生時代の悟が倒した雑魚呪詛師の分身術式とか面白そうだよね。たくさんの乙骨が攻めて来るとかガタキリバコンボかってくらい無法過ぎるよね。
俺も後で探ってみても足取りを掴めなかった。まあ、呪詛師だし今も生きているとは限らないか。既に魚の餌かどこかの山に埋められていても驚かない。
「そちらの様子も気になるけれど、家業やうちでスカウトした術師の面倒も見たいから乙骨と会うのはまたの機会にしよう」
俺は正統後継者として家の改革を進めている。当主からもかなりの権限を貰っているが、 全部俺の言う通り! ……なんてことは、当然無いわけで。精鋭部隊の小碓、下部組織の麁正、隠居中の老人たち、分家筋、傍流、鹿紫雲家傘下の家々、鹿紫雲家に所属する呪術師達……様々な人々が主張するので手綱を握ってまとめなければならない。準一級術師レベルの人材が充実しているのが鹿紫雲家の強みだが、それは見方を変えれば彼らの発言力が強いということだ。彼らの話を聞きつつ、改革を進めるというのも大変だ。救いがあるとすれば俺の家中での求心力は結構高いということか。
支持基盤には身内以外にも外部から集めた術師たちもいることでより盤石なものになっている。今までも非術師の家系に生まれた術師が呪詛師となる前にうちで保護して鍛えていたが、最近では表向きの活動に利用するボランティア団体を兄に作らせて、裏で行う非術師の家系に生まれた術師の保護が捗っている。
「乙骨か……。会える時を楽しみにしているよ」
乙骨が呪術高専に保護されたことで百鬼夜行も近づいて来た。ということは夏油が亡くなり、羂索に肉体を奪われる日が近づいてくることになる。これをどうするかは悩ましい。
羂索に潜伏されてしまい、原作の流れから完全に逸脱されてしまうよりも遺体を窃取させて引き摺り出したほうが、羂索の抹殺という目的を達成させやすい。
「そうか。また、今度頼みたいことがあるからその時はよろしくね」
などと言う話があった。そういえば悟の奴、11月に呪術高専で乙骨を保護したのに翌年4月まで呪術高専がどういう組織かとか、呪術や呪霊について乙骨へ何も話してなかったな。
悟が適当でいい加減なのは間違いないけれども、乙骨は乙骨で殻に閉じこもり過ぎだろう。
と、まあ、なぜそれを思い出したかと言えば、禪院真希のお見舞いに行ったときに病院の通路で乙骨と出会って挨拶をしたからだった。
消毒液の臭いが漂う空間で乙骨は長椅子に座っていた。呪霊の流血や土埃で制服は酷く汚れており、さらには胃酸のような臭気まで乙骨の身体中から漂っていた。小学校での仕事は原作通り進んだのだと思われる。
立ち話をするでもなく、少し言葉を交わして真希の病室に入った。呪術高専が用意したのは一人部屋でグレードも高そうだ。
真希は眠っていたわけではないようで、俺が入室したら起き上がって挨拶してきた。
「呪いを受けたと訊いたが既に除去できているようだね。心配していたが大丈夫そうだな」
「武器を落として呪霊に飲まれたんだ。大失態だ。笑えよ」
「別に笑わないよ。ただ、らしくないとは思った」
真希はギリッと奥歯を噛み締め、苛立ちと悔しさで顔を歪めた。
呪具がなければ、真希は呪霊を祓うことができない。
天与呪縛によるフィジカルギフテッドによって人並み以上の身体能力を持っているが、その身体能力を得る引き換えに呪力を持たないので真希は徒手空拳では呪霊を怯ませることが出来ても、呪霊を殺傷することができるダメージを与えることはできないのだ。
「呪詛師やチンピラであれば1ダースいようが、ぶん殴って全滅させてやれるってのによぉ!」
「凄いな、ドウェイン・ジョンソンだったらギリ言えそうな台詞」
「お前はわざわざ見舞いに来たのか? 律儀だな。……まあ、ありがとう」
最後に真希はぶっきらぼうにお礼を言った。お見舞いの品にはゼリーと退屈しのぎのため小説を渡した。前に俺が読んでいて真希が興味を持っていた作品だ。
「歩き続けないと殺されてしまう主人公たちの作品を入院中の真希に渡すのはどうかと思うけれどね」
「私が読みたいから別にいいんだよ」
入院も数日と長引くわけではないというので、文庫本一冊があれば無聊の慰めになるだろう。
「退院したら鍛え直しだ……呪具も身に着けられるものも用意する」
「気張っているな。今回の失態はよほど悔しいようだな」
「当然だ! あんな呪霊で死にかけるようじゃダメなんだよ」
「呪術高専で等級を上げて禪院家での発言力を得るためか?」
「ああ、そうさ! そうやって、あいつらを見返してやるんだよ」
「見返してやりたい。その思いも多少なりともあるだろうが、本当は真依の居場所を作りたいのだろう?」
「───ッ!」
真希の表情が強張る。
「何年の付き合いだと思っているんだ。禪院で過酷な扱いを受けているのかはわかる。禪院の親族たちを黙らせて、真依の居場所を作ろうとしているのだろう?」
本音を話すつもりがなかったのか、真希は諦めたように嘆息を
「そうだ。私は禪院家当主になる。そうでもしないと……私には真依の居場所を作ってやれない」
「真依はそれを望んでいるかわからないけどな。真希が一緒ならば彼女はそれで現実と折り合いをつけて生きようと思っていたのではないか」
真希と真依とはここ数年は何度も集まって勉強会と称して鍛錬をすることがあった。真依は鍛錬に参加するものの、彼女自身には呪術師になりたいという意欲が著しく欠いていた。
原作と同じく真依は呪術師となるべく努力することも、鍛錬や仕事で痛みや恐怖を味わうことも嫌がっている。
真依にとってそのような環境でも、呪術師として前線に出るよりも家中で適当に雑用をこなして、生きていればいいと思っていた。
勉強会にそれでも参加していたのは、真希がいたからだし一時でも禪院の家から出れる機会を欲しかったからだ。
「
「真依を守りたいのであれば俺のことも頼れよ。真希が禪院家当主よりも早くに、真依を守る方法が得られるかもしれない。例えば禪院家の影響を受けないような海外で暮らすことだってありじゃないか?」
「なんだ……それは」
俺の提案に瞠目する真希。彼女にとっては禪院家の中で居場所を作ることを考えていたので、日本から出るという発想がなかったようだ。
「タイやマレーシアならば、うちは昔からのツテがあるから、それを使えば住居もなんとかなるだろう。高跳びしたとしても、特級呪具を盗むみたいな家の面子を潰すようなことをしてなければ、禪院家もわざわざ真依を捕まえに捜索することもないんじゃないかな」
「そうか……海外へ逃げる、か。考えもしなかった……向こうで生活する金銭をどうにかすれば……それに海外ならば呪霊もいない」
真希は考え込んでいる。禪院家も政界や財界とも繋がりがある。台湾や中国ならば捜索も容易かもしれないが、さらに遠くとなると流石に捜索の精度も落ちるだろう。真希が口を割らなければ、真依の隠棲先を禪院家に特定されることはないだろう。
「ほらな、選択肢が増えた。真希にも、真依にも味方はいるんだ。もっと頼ってくれよ。まあ、あれだ。高跳び案については真依ともよく話し合えよ。なんだったらお前も一緒に海外へ連れってやるからさ」
「……よその家の事情に首を突っ込みやがって。お節介な奴だ」
「はははは、余計なお世話だったかなとは思っているし、正直そこはよくわかんねぇよ。だけどよ、少なくとも俺は何もできなくても、何もしなかったら後悔するのはわかっている」
真依を助ける案としてはもう一つ、うちに嫁ぐという方法もあったけれどもそれは俺だけでは実現できないので黙っている。
禪院真依の死。俺が壊したい悲劇には本格的に立ち向かう必要が出て来た。禪院家の存亡よりもこの姉妹が幸福であることが俺とって大切なことだった。
◇◆◇
乙骨が東京都立呪術高等専門学校に編入して三ヶ月が経過した。季節は既に夏、七月に呪術高専のグラウンドでは今年度に入学した一年生たちが組手をしていたが、今は小休止を取っていた。
「憂太~、知ってるか、今日はこの高専に一級最強が来るぜ。しかもそいつ、五条大好きっ子」
どう見ても巨大なパンダが流暢に人語を操り、乙骨へ話しかけてきた。
「あいつ、いきなり高専へ行くだなんて連絡しやがって、こっちにも準備ってもんがあるのによぉ……」
「いや、真希へ会いに行くわけじゃないから別によくないか……?」
「すじこ……」
当日に連絡を貰ったことに不満げな真希。そしてそんな真希に呆れるパンダと困惑する狗巻棘。乙骨は一度会っただけであることをパンダたちに話した。
「……えーと結局どんな人なの?」
「呪術師にしては珍しい真っ当な人格で善人だな」
胡乱げな乙骨にはパンダが答える。パンダも彼とは付き合いはそれなりに長いのである。
「呪術師の名家鹿紫雲の次期当主なのに真希とも普通に接していて長い付き合いでな。幼馴染みたいなもんだ。凄いよな」
「どういう意味だコラ」
「いやー、真希はシンプルに性格悪いのに流して友達しているしマジでまともだぜ?」
「……大統領を人質に取ったみてぇに強気だなぁ?」
メキメキィ……という破壊音が棒を握る真希の手元から響いた。乙骨は自然と真希との距離を取る。
「呪術に関してはバリバリの戦闘狂。強くなることに貪欲で闘争を嗜むって感じだな~」
「戦闘狂ってのはあの家の連中はほとんどがそれだろう」
「あ~因縁ある禪院家的にはそういう認識か」
「しゃけ」
「術式を使わずに俺や真希や棘全員を相手に勝てる術師。悟からも高専、御三家も含めて一級最強のお墨付きだ」
「えっと、それで五条先生大好きというのは?」
「いや、言葉の通りだ。悟のことが大好きなんだよあいつ……チッ」
「五条先生のファンってことか」
恐ろしい術師なのかなと不安に思っていたが、最後の情報でなんだか親近感が生まれつつある乙骨。
「なるほど……仲良くなれたら良いなぁ」
乙骨たちが話しているうちに、噂の主───鹿紫雲龍蓮がやって来た。
「どうも先輩方。乙骨さんも久しぶりですね。来年は後輩としてお世話になります」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「真希もすっかり回復してよかったよ」
「おい、なんで私だけ呼び捨てだ? 私も年上だぞ」
「なんかもう真希だし、いいかなって」
「軽視」
パンダはわざわざ龍蓮の横へ移動してあらためて紹介する。
「このお方が我々の後輩である鹿紫雲龍蓮一級術師だ! あ、特別一級術師だったけ?」
「今はまだね。来年入学してからは一級術師になる。で、卒業したらまた特別一級術師になる」
「あ~そういう事ね。政治的配慮ってやつ?」
「そうだよ」
龍蓮は、乙骨が改めて眺めていると、龍蓮は面白そうに笑みを浮かべていた。
「噂の乙骨さんは色々と口出ししたくなるが……それはまだ話すべきではないだろうな」
「へぇ、見ただけでもわかるもんなのか?」
真希は意外そうに言うが、元々簡単な説明は五条から受けていたと答える。
「それに見ただけでもわかることは色々とあるよ」
「そういうものなのか」
「家の都合もあった少なくとも今年はあんまり会うこともないでしょうけど。乙骨さん、頑張ってください。噂の里香ちゃんも出してやり合ってみたら楽しそうなんで楽しみです」
「えぇ……」
里香を顕現させることを恐れる乙骨は屈託のない笑顔で言う龍蓮に畏怖の眼差しを向けていた。
「とまあ、こんな感じで人当たりよくてめっちゃまともなのに呪術師らしくイカれた
「うわぁ……」
パンダに散々脅された乙骨は、グラウンドへやって来た五条に次の任務へ狗巻とともに向かうよう言われて、一年生たちの組手は終わることになった。
◇◆◇
俺は悟に連れられて高専内部を歩いていた。話題は乙骨のことだった。
「憂太はどうだった? 凄かったでしょう」
「ああ、里香だけでなく乙骨憂太も結構面白そうだ。そういえば彼らの調査は終わったんだっけ?」
「ん、そうだね。憂太のほうはすぐに終わったけれども、今は折本里香について深掘りしてもらっているところだ」
「そうか……所感だけれども、乙骨憂太についてより詳しく調べたほうがいいと思うよ」
「わかった、伊地知に言っておく」
あ、伊地知さんの仕事を増やしてしまった。申し訳ないけれど頑張って欲しい。忌庫の前を通り過ぎながら俺は伊地知さんへ罪悪感を抱えてしまった。
とある寺院に入ると薨星宮へ繋がる扉が現れる。
「さあ、ここから君だけだ。この先に、薨星宮に通じる昇降機があるんだ」
「あれ、悟は来ないのか」
「そうだよ。学長が不在だったし、今日の僕は道案内さ」
そう言って手を振る悟に見送られながら扉へ入り、呪術高専最深部へ向かった。
天元様と会うことこそが、今日呪術高専へやって来た理由だった。話を持って来た悟自身も驚いている様子だった。
地下通路を歩き続けた先に白亜の空間がある。そこへ忽然と現れた影法師。
そこに居たのは人型をしているが、人としての元の形状を逸脱した異形。髪はなく、耳もない円柱状の頭部に二対の眼、幅広の口があり、ゆったりとした衣を着る怪人。
「初めまして、よく来たね特異点」
天元その人が、そこに居た。
匿名を外して、活動報告にサブシナリオのアイディアを募集しております。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=347187&uid=283656
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次回更新は11月中旬更新予定。
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