雷神の系譜~鹿紫雲一の末裔に転生したので、原作の悲劇を打ち壊す~ 作:メンチカツ
秩父の山中で俺は青年が対峙する。
「雷神の系譜、この眼で確かめさせてもらうよ」
サングラスを外して
「ああ、見せてやるよ。術式解放───」
俺は
脈拍が跳ねあがる。
俺の術式幻獣琥珀は電気と同じ特性を持つ呪力から変換できるあらゆる現象を実現するために肉体を作り変える。その術式を解放すれば、劇的な変化が起きる。
身体のうちに新星が生まれ、爆発し、銀河になった。そう錯覚するほどの内部変革。
本来あまりにも強力過ぎる力は人の域を超え、その代償に術式終了後に肉体が崩壊する諸刃の剣である術式。
しかし術式は、解釈によって姿を変える。
俺はこの自滅するというのは、絶命の縛りではなく肉体が術式効果による変容に耐え切れずに崩壊する結果であることを知っている。死を回避することができる術式であるとして、術式を再定義する。
電気と同じ特性を持つ呪力から変換できるあらゆる現象を実現するために”肉体のすべて”を作り変える幻獣琥珀を、俺は肉体を部分的に作り替わるように再解釈した。そして術式で肉体が崩壊する前に反転術式を使って肉体を癒し、復元することで自滅を免れる。
これが幻獣琥珀の拡張術式
だからこの術式を使えばこういうこともできる。脳内の電気信号の活性化させて
その瞬間、俺の身体は音を追い越した。
「!?」
さしもの五条悟も瞠目した。自身の周囲を超高速で移動する俺の動きは、六眼であっても動体視力や呪力感知でも追い切れないのだろう。光の粒子を軌跡に残して俺は走る。
「術式順転:蒼」
悟は手をかざせば青く輝く呪力で地面ごと球状の空間が一点に引き寄せ圧砕する。しかし、俺は悟の術式を完全に躱す。
雷ごとき速さで、俺は悟の目の前に踏み込み、腹部を突き、膝裏に蹴りを加え、首に腕を回そうとするが悟は腕を払ってから足を横から回して俺の頭部を蹴りつける。
二人の距離は一気に離れる。だが、これも想定通りだ。俺は身体を───口を攻撃のために最適化する。
息を吸い、次の攻撃へしかける。悟へ向けて口を大きく開けた。
「あっ!」
物質の固有振動数に最適化、同調する音波によって大地は、大爆発を起こしたように轟音を立てて悟が立つ周辺で土煙が立ち昇る。その身体、衣服にも土埃すら付着していない。
「大きな声だな。これが幻獣琥珀による攻撃か」
「
「それでも情報は少ないから、貴重な経験なんだろう!」
肉体の変換が徐々に進み、静脈と動脈が活性化する。右腕と右手の神経は次々と散裂し、脊髄が加熱する。構わずに右腕を異形へと変化させる。
獣のごとき鋭利な爪の生えた五指を持つ右腕を振るい、当たれば生物どころか呪霊すらも蒸発させる電磁波を照射する。
「おおっ、スッゲー!」
笑いながら悟は倒立するように電磁波を避けて、そのまま片足回し蹴りに繋げることで追撃に音波を放つ前に俺は顔を蹴られて首が明後日の方角を向いて声は狙いを外す。
くそ、
「
悟に言われて俺は思わず笑ってしまった。
「冗談!」
原作で鹿紫雲一が宿儺に使っていた技は全部使えるのはわかった。もっとやれることを確かめたい!
俺の呪力の特性を利用して磁力を発生させて周囲の砂鉄を搔き集めて俺を守る黒い大蛇のようにうねらせる。呪力で強化した砂鉄を流動させて悟めがけて殺到させる。砂鉄の質量と速度によって、鑢がけするような打撃の濁流で木々や岩は削り、抉られる。
「なるほど、器用だな」
そう呟いた悟が迫りくる黒い怒濤を雲散霧消させる。膨大な量の砂鉄を呪力で強化させて循環、凝固させてもいとも簡単にぶっ壊すな!
「これで終わりだと、思うじゃん?」
大気に舞う砂鉄をかき集め、圧縮して巨大な手裏剣を8つ形成すると俺の周囲を浮遊させる。幻獣琥珀で磁力の性質を持った呪力で回転させて悟めがけて投擲させる。しかし、悟はそれを容易く破壊して見せる。
呪力操作により電荷を発生させる。高出力指向性放出を
パリィィッ
大気が悲鳴をあげた、耳をつんざくような雷鳴。雷神の槍。それに対するは、反転する無限の力。彼我の距離を無限に遠ざけ永遠に分かつ『斥力』。悟の呪力によって空間が赤く染まる。
「術式反転『赫』」
"無限"が起こす事象。それは爆発を思わせる、大地そのものの隆起だった。俺が放ったのが電撃の槍ならば、悟が成すのは大地の津波だ。あえて向けさきを俺ではなく下方へ向けることで生じた土砂の津波───高さ50メートル、7000トンに相当する質量が、俺を飲み込まんと押し寄せる。負けるかよ! 雷撃は俺の呪力だ。さらに注ぎ込み出力を上げる。
莫大な質量を突き破り、雷撃の槍が悟めがけて殺到する。
バチバチッ!!
だが、絶縁体を破壊する二〇〇万ボルトを超える雷霆すら
「ははははっ、眩しーいっ!」
「やっぱり、その術式は足切り性能が高いなぁ」
元通りに戻った身体で俺は呻くしかない。分かってはいたがここまで無傷なのは悔しいな。
「分かっていただろう? 君が持つカードでは僕を倒せないよ。……今はね」
一瞬で距離を詰めた悟の顔面を目掛けた突きを咄嗟に防ぐと、腹部に激痛が走り、反射的に屈んだところを首相撲にされて膝蹴りを顔面に受けて逃げように襟首を掴まれたままなので、それも叶わず。気が付けば地面へ投げつけられていた。
「
「……そりゃあ、どうも」
手合わせの後、俺たちは遅い昼食を食べることにした。かつ丼を食べながら先程の手合わせの話題を離す。悟と並んで座っているが、彼はかけ直したサングラスが曇るのも構わない様子。
「負のエネルギーで術式を使いながら、正のエネルギーを使って反転術式を使う。同時に操作するなんて芸当を、その年齢でやってのけるとはこの先が楽しみだねぇ」
あっさりと拡張術式のネタバレしていた。それはそうか。
「理屈の上ではやれると分かっていたけど、悟が実際に使ったことでコツを掴めたんだ」
「ははは、見ただけでやれるようになったって、無茶苦茶言っている自覚ある?」
「ああ、
「
「俊長爺ちゃんのこと知っているんだ?」
「まあね。随分昔に呪術師の会合で会ったことがあるよ。何というか、全然枯れてない爺さんだよね」
思い出したように悟が笑うところを見るに、悪感情は抱いて無さそうだ。悟に身内が老害認定されてないようで安心。
「同じ術式を持つ者同士ならば相談相手としては適任だね」
第二次世界大戦に従軍していた頃には当主に就任していて戦中、戦後復興期と五条悟誕生以前で呪霊の質や量が向上していた時期に当主として活動していて、高度経済成長期終わり頃に曾祖父の
代替わりしてからは総監部の上層部へ入ることもなく、今は別邸に暮らしている。なので俺は別邸へ通って俊長と会話しつつ幻獣琥珀を研究していた。
「俊長爺ちゃんとの鍛錬は有意義だったよ」
幻獣琥珀には相伝術式として困った点があった。
例えば投射呪法などは、親が子にコツを教えたり、手本を見せたりすることで洗練されていく。しかし、幻獣琥珀は発動イコール死。
幻獣琥珀の場合は使用すると最後には死亡するため実際に使用した例が少なく、数少ないノウハウも死にゆく者のダイイングメッセージや、傍で見守っていた観測者の記録に頼るものばかりだ。
術師は一生に一度のぶっつけ本番で幻獣琥珀を使用しなければならない。練習ができないため、練度が上がるはずもなく、家系全体の習熟度は極めて低いまま停滞していた。
さらに言うと術師が持つ電気への理解度の問題がある。電気が文明として技術的な基礎が確立されたのは19世紀後半から実用化が始まり、一般家庭の生活インフラとして普及したのは20世紀に入ってからだ。だから時代ごとの科学知識で術式の自由度が変わってしまう。江戸時代から残る教えに従うよりも現代の知識をアップデートしたほうが、術式の自由度は高くなる。
うーん、考えるだけで相伝術式ながら家中で軽視する意見が出て来てしまうのも納得できてしまう。
結局、大昔からの残る知識よりも、俊長と対話するほうが余程得られるものがあったな。
「爺ちゃんには俺の拡張術式には喜んでもらえて良かったぜ」
「そりゃあ、死亡しないで術式を使えるのは初めてだろうからね」
「それに禪院の
「……あの
「まだまだ甘いね、悟。
うへぇと奇妙な呻き声をあげる悟。
「しっかし龍蓮の拡張術式は呪力の消費が尋常じゃないな」
「呪力の消費が甚大なのも恒河の弱点だなぁ。膨大な呪力量、反転術式、負のエネルギーと正のエネルギーを同時に扱える呪力操作、これらが出来て初めて成立する。……俺が言うのもあれだが難易度が高いな」
「究極のマルチタスクが成立条件だからかなり難易度が高いねー」
術式による変化と崩壊の速度を、反転術式による再生で調整し続けなければならない。これを実現するためには超精密なエネルギー制御が必要となるのだから、マルチタスクと言われても仕方ない。
「だけど歴史に残る偉業だ。君の代で幻獣琥珀が洗練されることになると思うと……楽しみだ」
悟の笑みは先程のような好戦的な笑みよりも、純粋に成長を喜び期待する柔和な笑みだった。
「俺の課題はマニュアルもねえ術式の式の構築、運用について残すことだな。後は領域展開。これを会得してもまだまだやるべきことは終わらない」
「領域展開が通過点扱いか。他に何を目指しているの?」
「まずは領域展延。これを使えるようになればお前の無限を攻略する手札を増やせるしな」
「ははっ、こだわるねぇ」
「そして閉じない領域に発展させる」
「……閉じない、領域?」
胡乱げな目線を向ける悟。俺が原作知識を披露すると悟はあっけにとられていた。やっぱりこの
宿儺が閉じない領域でも驚かれたし、神業と言われていたからね。天元様ですら想定できないことが普通なレベルで閉じない領域というものは、呪術の常識を逸脱した技術なのだ。
絵が上手いと言われていたから北斎やゴッホみたいな技量を想像していたら空に絵を描きだした、くらい常識を超えた事態なのだろう。
「子供の発想というのは侮れないな。でも、実現できるならば領域の押し合いが起きても相手に勝つことができるね」
悟は俺の言葉を否定することなく、興味深げに言う。
「笑わないでくれてありがとう。領域展開はまだ勉強中だけど、悟に領域を見せてもらえたから心象風景を体外で作り出すことは感覚的には理解できたから」
「もう感覚的に理解できちゃうんだ」
引き気味に言われてもなぁ。マジで原作知識だけでなく実際に見た感覚や、実家の鹿紫雲文庫にある呪術としてれっきとして存在する知識をもとにすればマジで領域展開ができそうな気がするんだよな。
「いやほんと領域展開を実際に見ることができるのは良い経験になった。お礼に反転アウトプット教えようか?」
「まじ?どうやって?」
「月乃の術式で呪力操作やセンスを共有させることで、経験値の引継ぎをさせる。思考に体が間に合わないで、継承した経験に肉体が追い付かないこともあるので細かい調整が必要になるから互いに縛り結ばないといけないけどな」
「反則めいてて笑う」
本当に爆笑する悟。彼は月乃とも面識があるので彼女の術式もちゃんと把握している。表向きは失せもの探しを得手とする術式と言わせているが、悟は月乃の本当の術式が生物や呪霊の記憶、石や建造物や呪具などの無生物が持つ記録を読むことができる
ちなみにこの方法は既に実現できることは証明されている。月乃はこの方法で俺の経験値を引き継ぐことで反転術式とそのアウトプット、簡易領域、
五条悟なので経験を共有してやり方を教えればすぐに出来るようになるだろう。これで術式なしの格闘戦で呪霊は簡単に祓うことで鏖殺することができる。
……もしかすると
◇◆◇
見た目は全然違うのだが悟にどこか似ている。それが少年への恵の所感だった。
自分と同じ歳だそうだが、身体つきや雰囲気は自分や級友のような小学生とは違った。
「
「
龍蓮が用意した修練場で、恵は龍蓮によって転がされていた。5本先取の術式を使った練習試合で恵は惨敗したのだ。
姉の
「恵も龍蓮も凄いわ! 現実でこんなことができるだなんて知らなかった」
初めて見た世界に彼女はただただ驚いていた。そして悟は龍蓮に練習試合の手応えを訊いていた。
「どうよ。ウチの恵は」
「1級にはなれるだろうな。1級最上位、特級未満または特級を目指してほしいならば難しいだろうが」
「ほほう、それはどうして?」
「本人のやる気の問題。俺や悟たちみたいに強くなることに執着はなく、戦いにも意欲的ではないな。モチベーションがないんだよね。才能は凄いけどあとは普通」
(知った風な口を言いやがる)
転がされて倒れながら龍蓮の言葉を訊いている恵の胸には彼の言葉へ強く反発する声が起こっていた。
「才能はあるがメンタルが呪術師には然程向いてない。必要に駆られて強さを求めるモチベーションが上がれば、化けるかもな」
「今のままならば術師としてそこそこの力量で満足する、よなぁ。初期配布のような式神の玉犬でも、二級呪霊程度ならば歯牙にもかけないし」
龍蓮の言っていることは悟も既に分かっていたことだった。
「まあ、俺がいるんだ。後進育成は焦るなよ」
「……ありがとう。お前はいい子だね」
恵にとって自分と同じ呪術師の少年。鹿紫雲龍蓮。
姉や学校の同級生たちとも違う、異能を持ち、呪霊が見える。同じ世界を見ることができる少年。
勘が良く、空気も読めるタイプでもあるのだろう。強さは恵では全然追いつけないほど高いのに人として見習いところがある。
龍蓮の事は認めているけれども、負けっぱなしは面白くなかった。
「……五条先生、俺にもっと呪力操作を教えてくれ」
「お、珍しいね。自分から言ってくるなんてさ!」
悟は嬉しそうに笑う。そういえば自分から頼むことはあまりなかったな、と恵は思った。
「やっぱり同じ歳の友達がいるとやる気が出るようだね。友達は大切にしろ」
悟の言葉は不思議といつもより静かな声音だった。恵は何か答える前に、龍蓮の声が聞こえてきた。龍蓮は津美紀にスマートフォンを見せている。
「津美紀、俺はもっと津美紀と仲良くなりたいから連絡先教えて」
「え!」
驚き、照れながらも連絡先の交換をする津美紀の表情を見てしまった恵は、
「……え?」
それしか言葉が出なかった。
幻獣琥珀が相伝術式だったら、生きたまま使うならばと考えてこじつけた捏造設定。月乃の術式による記憶の共有による学習も無限の剣製の憑依経験をモチーフにした捏造設定。
次回更新は出来ればもっと早くに投稿したいと思いますが、5月下旬を予定しています。