雷神の系譜~鹿紫雲一の末裔に転生したので、原作の悲劇を打ち壊す~ 作:メンチカツ
感想、評価、ここすきをいただければ幸いです!
2011年となり、俺――
『幻獣琥珀』を死亡せずに扱える拡張術式:
純粋に畏敬の念を抱く者もいれば、反抗こそしなくても内心で見下していた者は慄いていた。このまま術式を扱って鍛えていくことで、俺が次期当主になることへの反対派を黙らせるつもりだし、賛成派に鞍替えもさせていきたい。
早朝の第一演習場。
かつてここで捕獲した二級、準一級、一級といった呪霊たちを祓った超大型の演習場だ。人気な場所なので事前予約が必要なのだが、結構空いていることが多い早朝を狙って、俺はここを抑えていた。目的はもちろん、『幻獣琥珀』を使った検証のためだ。
昇り始めた太陽に照らされながら、俺はこれから行う鍛錬の目的を思い返す。
目的は『幻獣琥珀』を使って『投射呪法』を凌ぐ移動速度を得るため、その移動方法の研究をすることだ。
───『投射呪法』。
禪院家が誇る相伝術式の一つだが、そのシステムを分析すればするほど、完成度の高さに脱帽する。
あの術式の基本構造はこうだ。
術師は自らの視界を画角として捉え、脳内で事前に1秒間・24
文字にすればシンプルだが、要するに脳内で秒間24枚の完璧なアニメーションを描き、それを自らの身体に強制実行させるようなものだ。驚くべきは、動きの構築にさえ成功すれば、実際の肉体側のトレースは術式によって自動で行われるという点にある。
もちろん、この術式には明確な制約が存在する。過度に物理法則や軌道を無視した動きは作れない、という制約だ。
だが、裏を返せばどうだ?
"過度でなければ、物理法則など無視して構わない"ということだ。この"過度でなければ"という絶妙な匙加減が、この術式の優秀な性能を担保している。
たとえば、自分の肉体的な限界よりも1.1倍速い動きをイメージしてトレースすれば、術式が身体を動かしてくれる。これを1秒間に24回繰り返せば、複利で速度が向上する。
なるほど、24fpsというのは、単に瞬間移動もどきを実現するための数字じゃない。微細なバフを積み重ねるための回数なんだ。1コマでもイメージと現実の肉体にズレが生じれば、自分が1秒間フリーズするというリスクはあるけれど、成功すれば音速へ到達できる。
さらに興味深いのは、この術式の持つ特性だ。
重ねがけでどんどんスピードが上がっていくから、"過度に無視"の上限自体が上がっていく。これは実に面白い特性だ。スピードそのものが、制約の枠を強引に押し広げていく仕様なのだ。
"起こり得る"の積み重ねで"起こり得ない"を起こすと考えると、余りにも主人公みたいな能力じゃないか。
もし、俺が禪院家に転生していたら『投射呪法』が欲しかったものだ。
「投射呪法を超えるということですが、音速での移動は既に可能だったのではないですか?」
「あれは本当に一瞬だけなんだよね」
「ゴロゴロの実とかレッチリみたいなことを拡張術式で出来たらいいんだけどねぇ……。それだったら、実現できれば電気の速さで移動できるのに」
「ゴロゴロ……?」
「あ、ごめん。忘れてくれ」
胡乱げに首を傾げる月乃に手を振って答えた。この世界、デジモンはあるのにあの海賊漫画がないんだよね。
異世界転生してあの漫画の完結を見届けることが出来なかったのは、本当に残念でならない。
「一応危ないから、月乃は離れていてくれ」
「わかりました」
月乃が演習場の観客席に移動したことを見届けてから、俺は鍛錬を開始する。
「とりあえずやってみなきゃ分かるものも分からないってな……っ」
呪力を練り、術式を起動させる。
「───拡張術式:幻獣琥珀・恒河」
チリッ、と静電気のような痺れが全身へと迸る。次の瞬間、全身に走った痺れが眩い雷光へと転じた。バチバチと全身を覆う……いいや違う、これは俺の体表を覆っているのではない。俺という肉体、生得領域の内側から溢れ出しているのだ。
「……っ!!」
全身に力が漲る。身体が焼ける痛み、それをねじ伏せ、思わず大声をあげながら全力で走りたくなるような力強い呪力が俺の中で暴れ狂っている。
足を一歩踏み出すと同時に、体内に膨大な電流を走らせる。俺は踏み出し──────目の前に壁。
「おぶふぇぶぉ!!?」
「わ、若様ァァァァアアアア!!?」
俺は死んだ。
「……はっ!?」
と、思ったら死んでなかった。え、いったい何が起きた?なぜ俺は死んでないのに、死ぬほど体中が痛いんだ!?
演習場で寝転がっていると、観客席から飛び降りて来た半泣きの月乃に抱きかかえられた。
「若様!大丈夫ですか!?」
「ごめん月乃、状況説明を頼む」
「若様、いきなり凄い速度で壁に激突したのです!」
壁に……激突?そんな馬鹿な。俺が立っていた場所から壁まで30メートルはあったんだぞ?それも壁にぶつかっただけで死ぬわけ(死んでない)……
演習場の壁が派手に凹んでいる。血飛沫も付着していてかなりグロい。流血が花のスタンプみたいに広がっている。
グロ光景見て、何でこのような事が起きたかわかった。
「あー、そういうことか」
「若様……?それで、怪我は反転術式で完治されたみたいです」
「恒河は反転術式を並列駆動させているから、ちゃんと効果があったんだね」
痛みは緩和されないのでスゲー痛いけど、これくらいはなんてことない。それよりも検証が先だ。
「よし月乃、ちょっと今から自殺行為を繰り返す」
「えっ!?」
立ち上がり、驚く月乃をなんとか観客席へ戻す。
「レールガン方式は不味かったか」
俺が足を踏み出したとき、脚から強力な磁場と電流を発生させたのだ。そしてローレンツ力によって、自らを弾丸のように撃ち出したわけだ。
「俺そのものを弾丸とした生身のリニアモーターは面白いけど、音速を継続的に出すのには向いてないな」
いい技にはなりそうだが、今は当初の目的を優先しよう。
そこで俺は、身体の動作を極限までパワーアップさせて速度を上げる方向で考えることにした。
人間の筋肉は、脳からの微弱な生体電流によって収縮する。俺は呪力を巡らせて、この電流の電圧と電流密度を文字通り桁違いに跳ね上げる。
全身の筋繊維一本一本に、通常の数万倍の電気エネルギーをダイレクトに叩き込む。これにより筋肉の収縮速度と最大筋力を強制的に引き上げ、圧倒的な脚力を生み出すのだ。
脳内の電気信号の活性化による
だけど、身体操法を誤るとどうなるか。
それは、つまり───
「ぶげっ」
演習場の壁に衝突しかけたので、忍者よろしく壁を蹴って方向転換しようと試みた俺は、過剰なまでの超強化と加減のきかない動きで天井へ衝突。その反動か、キリモミ回転しながら顔面から地面に落ちた。反転術式で事なきを得たが、今のは危なかったぞ……。
呪力は丹田で作るが、反転術式は頭部で回すからな。頭が潰れて、反転の呪力を身体へ流せなくなったら終わってた。
「これはなんというか、ヤバいな」
「首がへし折れていたのに平気な顔して起き上がる若様もヤバいです……」
「首がもげたら流石に反転術式を身体に流せないから危なかった」
死滅回游編の黄櫨折も、呪霊の嘴に首を貫かれ、反転術式を首から下に送れなくなって死亡したからな。反転術式を使えても不死身じゃないのは注意が必要だ。
『幻獣琥珀』で身体が壊れる痛みと、事故ったときの痛みも、普通の人間ならそういうのを知覚する前に頭が真っ白になるんだけどな。尤も、今の俺となれば痛みを無視することができるようになっているので、頭が真っ白になることもなくなったけれど。
とはいえ、今の超強化では俺の動きが非常に大雑把かつ「全力」になってしまうことが分かった。動作も、ちょっと走ろうとしただけで壁に激突するし、ジャンプすれば天井に激突するし、バク転しようとしたら勢いが強すぎて二回転するほどの速度が出る。
「よーし、明日までに基礎的な動きができるようになるために練習だ!」
「その前に、若様」
「何?」
「今日は長老衆たちとの打ち合わせがあることを、忘れていませんか」
「あっ」
そうだった。五条悟に見せてもらった『簡易領域』や『落花の情』を再現して、一族の若手たち(俺より全員年上だけど)に教えていたことで、何か話があるとか言われていたのを忘れていた。
ガチで忘れてたわ。鍛錬を続けるにはとりあえず、色々な些末事を済ませないとな。
次回投稿は6月上旬予定です。
1話ごとの投稿を今後どうするべきかご意見をください
-
1話3000字ほど代で更新頻度を上げる
-
1話約1万文字以内に収めて月一更新