雷神の系譜~鹿紫雲一の末裔に転生したので、原作の悲劇を打ち壊す~   作:メンチカツ

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領域対策と不器用な向上心

 長老たちに呼び出されたのは、簡易領域落花の情を勝手に教えたことへの嫌味を言われるのだとばかり思っていた。

 だが、意外にも反応は真逆。提示されたのは、特別準一級や特別一級の術師たちにも学ぶ機会を作って欲しい、というものだった。

 

 本来、シン・陰流の簡易領域には故意に外部へ教えることを禁じる『門外不出』の縛りがある。他にも、当主の出動命令を断れなくすることで門下生を完全にコントロールする縛りもある。挙句の果てには門下生の寿命を当主に奪われる縛りまで存在している。

 

 しかし、俺がその『門外不出』の縛りに影響を受けないで教えられるからこそ、長老たちは目を付けたわけだ。高専の任務に縛られない鹿紫雲(うち)の実力者たちを、ノーリスクで強化できる絶好の機会だと判断したのだろう。

 

 御三家に並ぶ名家でありながら、無駄なプライドよりも実利を取り、進化することを止めないスタンス。それは純粋にいいことだと思う。

 

 元々、うちの一族にも御三家のように独自の領域対策がある。それはシン・陰流の簡易領域の原型となった彌虚葛籠(いやこつづら)だ。俺の前世の知識だと、うちの先祖にあたる鹿紫雲一や、レジィ・スター両面宿儺など、過去の術師しか使い手がいなかった技術。

 

 この世界でも彌虚葛籠はとっくに廃れているのだろうと思っていたが、まさか現代でも継承している者がいる術だとは思わなかった。ただ、彌虚葛籠は習得難易度が高い技術でもある。それに比べれば、シン・陰流の簡易領域や落花の情は、性能に対して習得のしやすさが段違いに良い。

 

 だからこそ、彌虚葛籠を会得できずに領域対策を持たないという弱点を抱えていた実行部隊の麁正(あらまさ)の構成員たちも、俺と俺が伝授した月乃俊将の指導によって技術を身につけることができたのだ。

 

 落花の情も御三家に伝わる領域対策の秘伝だ。領域自体に特殊な効果が付与されている場合は対応不可能だが、単純な物理攻撃を必中させてくる領域では有効となる。簡易領域と比べて限定的な用途だが、結界術ではないため、領域の押し合いになっても剥がされることがないというメリットがある。

 

 それに結界術への適性が乏しいと簡易領域の習得も難しいが、呪力操作の系統である落花の情であれば習得ができるという者もいる。

 

 そして今後は、その対象が特別一級や特別準一級の術師たちにまで広がるわけだ。鹿紫雲(うち)の戦力が底上げされるのは、俺にとっても悪い話ではない。

 

 ちなみに、うちでは術式を持っていて尚且つ、高専の資格条件における特別準一級と特別一級術師で構成された精鋭部隊を、小碓(をうす)と呼んでいる。禪院で言うところの『炳』に相当する部隊だな。

 

「だからさ、メグミンもちゃんと領域対策は覚える必要があるんだ」

「あぁ? それ、戦闘中()言う必要があるか?」

 

 そう言いながら、メグミン───ツンツンとした黒髪で、鋭い印象を与える端正な顔立ちの少年伏黒(ふしぐろ)(めぐみ)は、据わった目で俺を見つつ、バールを振り下ろして呪霊の頭蓋を砕いた。

 

 ドゴッとかガギィンとか鈍く重い衝撃音を響かせて、呪霊を攻撃するためにバールをぶん回す小学生。絵面がエグイな。

 

 俺達は今、鹿紫雲家の仕事で呪霊の修祓を行っている。恵は俺との五本先取勝負で負け続けてもう一年くらいになる。

 しかし、恵も心が折れたり諦めたりすることなく、俺から一矢報いるために率先して修行へ励むようになった。呪術を愛する探究心とか、戦闘大好きとかではなく、俺に負け続けるのが気に喰わないという、負けず嫌いがモチベーションとなっているように感じた。

 

 ただ、恵が負け続けていることを見かねた五条(ごじょう)(さとる)が、「恵にも成功体験は必要だよね」と言って俺と一緒に呪霊を祓うことを提案したのだ。

 

 そうして悟が呪術高専から持って来た案件や、俺が実家から巻き取ってきた案件を恵とともに対応することが、何度かあるようになった。流石にまだ低級の呪霊を祓うときにしか恵を参加はさせられないけれども、これは貴重な実戦経験だ。

 

 しかも仕事で得られる報酬の金額を知った恵はよりやる気になっていた。呪術高専、五条家から金銭的援助を受けている伏黒家だが、お金があって困ることはないからな。

 

 そして俺は恵とは友人関係でありながらも、悟と同じく彼に呪術について教えていた。特に十種影法術の使い方には悟も驚くような斬新な使い方を提案して、恵は会得するよう修行していた。

 

 まあ、恵に教えていたのは宿儺や乙骨憂花が使っていた方法をパクって教えているだけだけど。

 

「いや、ごめんね。急に思い出したからさ。それに、これくらいの呪霊に不意を突かれるほど、今のメグミンはヤワじゃないだろ? ほら、実際もう戦闘も終わっているじゃんか」

 

 恵が使い込んで呪具になりかけているバール。彼はそれをうまく御し、前とは随分と違う流れるような動きを見せていた。

 

 L字の釘抜き部分を呪霊の首や腕に引っかけて引き摺り倒し、足首を払って転倒させる。かと思えば、尖った先端で硬い甲皮すら粉砕して貫通させる。そんな風にバールを使いこなしつつ近接戦闘を行い、呼び出した式神と連携する立ち回りは、客観的に見てもかなり強いと言える。

 

 そのおかげで、弱くて群れるだけの呪霊との戦いは瞬く間に終わってしまうのだ。

 

 勿論、俺も心に余裕はあれど、油断はしていない。呪霊たちに不意を突かれるようなヘマはしない。

 

「はい、任務完了。よくやった」

「上司か?」

 

 無愛想に恵は言った。

 

 

 

「津美紀からの返信はしたか?」

「あー、まだ送ってなかったな」

 

 俺は恵と一緒に呪霊を祓ってから、コンビニで買ったパンやおにぎりを公園のベンチで座りながら食べつつ、スマホに伏黒(ふしぐろ)津美紀(つみき)からのメッセージが届いたことに気づいた。

 

 メッセージは俺と恵と津美紀が所属するグループに入っていたので、恵も読んでいないのだろうと察して呼びかけた。

 恵が億仇そうにスマホをポケットから取り出すのを見つつ、俺は津美紀へ無事に仕事が終わったことを連絡した。

 

 津美紀は今日、俺の義姉である鹿紫雲(かしも)月乃(つきの)と一緒に外出している。

 

「悪いな、龍蓮。月乃さんに津美紀の世話をさせて」

「いいさ。一人で心配しているより、いい気分転換になる」

 

 群れとはいえ数は一〇に満たないし、等級も四級と三級が混じった呪霊たちだ。俺は一人でも当然無事だが、恵だって俺と組まなくてもあれくらいであれば単独(ソロ)で祓えるだろう。

 

「いちいち仕事のたびにメッセージを送ってきやがって」

「そう言うな。津美紀も心配んだよ」

「心配しろ、だなんて言ってねぇ」

「心配はしたいからするものだ」

 

 呪術師は命がけの仕事だから、津美紀が心配するのも当然だと思う。恵も彼女の気持ちがわからないわけじゃないが、素直な態度にもできないのだろう。

 

 嘆息をつきながら恵は義姉へ、メッセージを返してスタンプも送った。

 

「なんか可愛いスタンプだな。買ったの?」

「……前に津美紀が送ってきたんだ」

 

 ぶすっとした表情でおにぎりを齧る恵は、さっさとスマホを仕舞った。

 

「最近、稼いだ金を貯めているみたいだけど、何か買うの?」

 

 呪霊を修祓して得た報酬をある程度、姉弟の生活費へ入れてあとは貯めていると訊いていたので、俺は気になった。

 

「呪具が欲しいから金が必要なんだ。龍蓮や五条さんの話を聞く限り、出来の良い呪具を買うにはまだ足りそうにないな」

「あ~そうだな、良いものは値が張るからな」

 

 俺が頷いていると、恵は自分の影からバールと鉈を引っ張り出した。……って、鉈も仕舞われていたのか! 凄い物騒!

 

 自身の影に器物を収納する──そんな影を媒介とする特性や、影の中に侵入するなどの応用を、最近の恵は自分で気づいて実践するようになっていた。

 

 ちなみに、これらは俺が教えた技術ではない。影の拡張性について恵は誰に教わるでもなく完全な自力で見つけ出し、形にして見せたのだから恐れ入る。

 

 原作で恵が自分の術式の特性に気づくのはずっと先なのだが、この年齢で、それも誰の力も借りずに気づけたのは、原作よりも術式に向き合い、習熟度を高めるのが速くなっている証拠だろう。

 

バール(これ)は手に馴染むし使いやすいけど、もっと強い武器が欲しい」

 

 恵の視線が俺の腕に嵌めてある腕輪(バングル)へ移る。

 

「龍蓮の神珍鉄(しんちんてつ)みたいに術式効果がある呪具を持ちたい」

 

 俺は腕輪(バングル)を掲げる。特級呪具神珍鉄(しんちんてつ)は所持者の意志で、棍の形態と腕輪(バングル)形態を瞬時に切り替えることができる。

 

「これは形態とか重量の変化はあるけど、戦闘向きの術式効果はないんだけどね。……メグミンの場合、戦闘向きよりもこういう実用系を狙うのもアリかもな」

 

 そう言って、俺は腰元に下げていたトレンド感のあるレザー巾着───満盈(まんえい)を指差した。

 高級ブランド品を思わせるしっとりとした質感だが、その正体は若い女性の膀胱を(なめ)した呪具だ。見た目を上回る収納力を持ち、どれだけ物を詰めても重さが一切影響しない。

 

「あると便利だぞ。ドラえもんの四次元ポケットみたいなものだから、これを持ち込めば金属探知機やX線にも引っかからないで、テロとかハイジャックとかできる」

 

 蛮族と呟いている恵に、巾着から拳銃をひとつ取り出して見せた。実弾もしっかり入っている。恵はドン引きしていた。

 

「なんで持っているんだよ!」

「前に呪詛師と組んでいたチンピラに絡まれたことがあったから、取り上げたんだよ」

 

 人がいない公園とはいえ、外で拳銃を見せるわけにもいかない。すぐに拳銃を仕舞う。

 

「あ、そうだ。武器ではないけどこの呪具をメグミンにあげるよ」

 

 そう言って手のひらに乗るようなサイズ感のいびつで、素朴な茶褐色の壺を恵に渡した。

 

「なんだこれは?」

 

 胡乱げに壺を眺めている恵。彼にバグダッド電池のような素焼きの壺の形をした、自身の呪力を長期間ストックできる呪具甕電(おうでん)の性能を説明した。

 

「これに仕事がないときとか寝る前とかに、呪力を込めてストックしていざという時に呪力を補充するといい」

 

 実家の忌庫から引っ張り出してきた神珍鉄や満盈のように、俺は実家の忌庫の呪具も色々と使うことができる権限を持っている。だが、それ以外にも甕電のように自分で購入した呪具も多く持っており、呪具や呪物を蒐集するのは今世での趣味とも言える。

 

「まあ、便利そうだし貰っておく。ありがとう」

「いいよ」

 

 恵は自分の影に甕電を沈めるように仕舞った。影への格納は重さを恵が引き受けるらしいが、バールや鉈と一緒に仕舞っても平気なのだろうか。

 

「さ、そろそろ帰るか。途中で津美紀や月乃におみやげを買って帰ろうぜ」

「そうだな。……龍蓮、津美紀が前に食べたがっていたドーナツってどこの店だっけ?」

「あれは確か……」

 

 俺と恵は、そんな年相応で平穏な悩みの答えを出すために、しばらく頭を突き合わせることになった。




満盈(まんえい)
外見:手のひらサイズ(10〜12cm四方)のシックなレザー巾着。高級ブランド品を思わせる極上のカーフレザーのような質感だが、その正体は若い女性の膀胱を(なめ)して呪術的な特殊加工を施した、呪術界らしいエグい作成経緯を持つ呪具。鹿紫雲家の忌庫に収蔵されていた。
効果:外見の容量を遥かに上回る物品を収納可能。さらに、どれだけ中に物を詰め込んでも収納物の総重量がゼロになる。金属探知機やX線も透過する特性がある。携行性に優れる実用系呪具。

甕電(おうでん)
外見:実在するオーパーツ「バグダッド電池」がモチーフ。手のひらに乗るサイズのいびつで素朴な茶褐色の土器。口はアスファルトのようなもので密閉され、そこから金属の棒(端子)が突き出している。
効果:術師自身の呪力を内部に長期間貯留(ストック)できる、呪術版バッテリー。


次回の更新は6月中旬予定

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  • 1話約1万文字以内に収めて月一更新
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