周回する人生を愉しむ余裕なんて   作:大気圏突破

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やっぱフラグって折れないものだね

星野アクアの印象は?

 

・鳴嶋メルト

 

 同い年だけど俺たちよりキャリアが全然違ってるから見下していると思ってた。でもそんなことは無かった。どっしり構えていてボクシングやプロレスラーのチャンピオンみたいに挑戦をいつでも受け付けるような雰囲気だった。だからこそ自分の器の小ささを醜く感じてしまう

 

 

 

 

 少し時を戻そう!アクアに失望されてからの有馬は殆どメディア露出することは無かった。3月の特番『あの人気者は今?』というネット番組にチラッと登場しただけで学校と自宅を往復するだけの毎日だった。自身の人気に胡坐をかいてしまいスタッフに対してぞんざいな扱いをしたことで今では立場が逆転してしまい現場から悪印象を持たれている

 

 

「普通科にですか?」

 

 2年生になった彼女は始業式からしばらく経ったある日に職員室へ呼び出された

 

「今すぐって訳じゃないけど芸能科のルールをご存知よね?」

「…はい」

 

 陽東高校芸能科に在籍するには決まりごとがある。星野アクアや不知火フリルのように芸能活動を常時継続的に行っている者・寿みなみや星野ルビーのように仕事が単発でも芸能事務所に所属していること、親が歌舞伎役者や落語家など伝統芸能の出自であること…etc

 

 有馬かなは一般家庭の出身で事務所にも所属していないうえに芸能人としての活動もしていなかった。昔取った杵柄のおかげで入学から1年はやり過ごすことは出来たが断頭台の刃は首に接近している

 

「7月末まで決めてくれればいいわ…でも」

「分かりました」

 

 職員室から出て行った彼女は暗い顔で俯きながら深く重い溜息を吐いた。仕事の当てなんて全く無かった。少し前まではオーディションに参加することが出来たが今では書類選考で落ちてしまうこともザラにある。なにせ選考を担当しているのは自分がかつて無碍に扱ってしまった番組スタッフだから印象が悪く残っている

 

 

「(もう終わりなのかな?)」

 

 状況を打破する画期的なアイデアが思い浮かぶ訳でもなく有馬は帰宅の路につくのであった

 

 

 

 

「(あいつ良い体してるじゃん。こりゃモテるよね)」

 

 涙を流しパンツ1枚で正座するメルトの対面で半裸のアクアを画面越しで見ている有馬は改めて彼の成長を目の当たりにしていた。もし自分があのときに外道へ踏み入れなければ近くに彼がいて手を貸してくれていたんだと思ってた

 

 

「(諦めるな!か…)」

 

 机の上には普通科編入へのプリントがあり既に名前が記入され判子を押すのみである。結局あの日から何も仕事がなく自分の芸能史に見切りをつけようとしていた。しかし状況は1本の電話で覆される

 

 

『やぁ!かなちゃん元気してる?』

「鏑木さん?」

 

 顔馴染みのプロデューサーで自身がさっきまで見ていた番組の関係者からいきなり電話が掛かってきたのである。少なくとも世間話の為に掛けてきたという訳ではなさそうだ

 

『ちょっとウチの局まで来れる?』

「仕事の話なんですよね」

『それは君次第かな…悪い話じゃないと思うから』

 

 通話が切られ電子音だけが耳に伝わってくる。もしかしたら神が最後のチャンスを与えてくれたのかもしれない、編入用紙を丸めてゴミ箱に投げ込むと彼女はタクシーを呼んで局に向かった

 

 

 

「私が追加メンバーに?」

「そう!2週間後の収録からだ」

「だって…なんで私に?それに評価も高い番組なのに」

 

 有馬は理解できなかった。視聴率が低空飛行で上振れる見込みがないときは起爆剤として追加メンバーを入れて上昇を狙う。しかし現在放送中の【今ガチ】はSNSでも話題でネガティブな意見は見受けられない

 

「ちょっとこれを見てよ」

「これって…私の」

 

 ディスプレイに映し出されたのは視聴学室でアクアと初共演した映画を演者たちで視聴しているシーンだった。画面の隅で黒川あかねが質問に答える形で解説を入れている

 

 

「実は放送に乗せることは出来ないけど、屋上でこんなこともあったんだ」

 

 渡されたイヤホンを耳に挿入すると聞こえてきたのは、自身に対する心情を吐露しているアクアの告白だった。あの時に言われたことを再び耳にして気持ちが落ち込むと鏑木が停止ボタンを押す

 

 

「どうだろうアクア君を見返してみるのは?」

「だってアイツは私のことを…それに期待を裏切って」

「確かに君のやったことは外道だ!だがアクア君は見限っていないと思う」

「どうしてそんなことを?」

 

 頭に疑問符を浮かべる有馬に鏑木は悪い笑みを一瞬だけ浮かべながら彼女の目を見つめる

 

「実は番組が始まる前に彼と腹を割って話す機会があってね。かなちゃんのことを気にかけていたんだよ『有馬はチャンスがあれば蘇るって』」

「本当に?でも…そんなことここでは……」

「彼もツンデレみたいなところがあるし、多分言いにくかったんだろう」

「すいません1日だけ考えさせてください」

 

 結局ここでは話がまとまることはなかったが鏑木は有馬が首を縦に振るのを確信していた。もちろんアクアとの会話は嘘だ!彼の心の中に陳列されている辞書では『噓も方便』が記載されているページに折り目がついてキツイ色の蛍光ペンで何重にも線を引かれている

 

 

 

 

 

「女優の有馬かなです!よろしくお願いします」

 

 彼女は追加メンバーとして加入することになった。女性4で男性3という構図は確実に誰かが余ることになる。有馬の存在は穏やかな水面から荒れ狂う海のように環境をかき乱す要因になりえるだろう

 

「アクアッ!」

 

 黒板をバックに挨拶を終えた女優さんは彼の近くまで歩を進めると真正面に立って見下ろすような構図になる。そして彼女はいきなり深々と頭を下げた

 

 

「あの時はごめんなさい!役者としてあるまじき行為でした!」

「有馬…お前?」

「謝ったから許してほしいって訳じゃない、でもアクアが憧れた『有馬かな』の姿を……もう一度だけ1番近くで見てほしいの、この気持ちに嘘や偽りなんてないわ!」

 

 他の演者たちはアクアから裏口入学まがいの話を聞いているから有馬の言おうとしていることは分かるが、映像を見ている視聴者たちは完全に『ポカーン』としてしまう。厄介なのはこの場面で彼が彼女に対して肯定・否定の態度をとっても、世間に対する有馬の評価がマイナスならないことである

 

「口ではなんとでも言える。だったら俺に2回目の失望をさせないでくれ!」

 

 そう言ってアクアは教室から出て行ってしまった。閉められた扉を見つめる有馬に黒川とMEMちょが近づいてくる

 

「久しぶりだね」

「あかね…アクアのあれって」

「2人の話はここにいる皆が知っているよ!”顔を見せるな”って言ってたけど、少なくとも完全に有馬ちゃんのことを見限っていないと思う」

 

 

 立ち竦む彼女を座らせるとアクアを捜しに向かった鷲見ゆき以外の面々が、質問や出演の経緯を尋ね親睦を深めようとしている。今回のことを別室のモニターで見ていた鏑木はニヤニヤと笑いながら先の展開に期待しているのであった

 

 

 

「こんなところにいたんだね」

「屋上にいたと思ったろ?」

 

 校舎の裏庭にある池に鯉の餌を投げ込んでいるアクアの所へ彼女がやってきた。ベンチに座ると彼の足元にいた野良猫が膝の上に乗っかって毛繕いをしながらアクビをしている。全部投げ終えたアクアはポケットとアイテムボックスを連動させて猫の玩具と櫛を取り出す

 

「その制服って四次元ポケットでもついてるの?」

「チャオちゅ~るもあるな」

 

 ゆきの隣に座り封を切ったチャオちゅ~るを彼女の手の甲に塗ると猫は巧みな舌使いでくすぐるように舐めまわし悶えるような声をあげてしまう

 

 

「ねぇ有馬さんのことどう思う?」

「どうでもいい……って言いたいがアイツが本当に変わろうとする決心があれば”視て”いくさ、言葉じゃなくて態度で示してくれればいい」

「拒絶していたのに…心変わりでもしちゃったの?」

「変えてくれることを願っているのかもな」

 

 立ち上がってその場を去ろうとするアクアの足元に違う猫がすり寄ってきた。そして彼女の膝の上で寝ていた1匹が目を覚ますと2匹はじゃれ合うように抱きついて背中を砂で汚しながら親睦を深めていく

 

「どうやらこっちの方が先にカップル成立したみたいだね」

「何も考えずに野生のままに恋愛出来たら気楽だよ」

 

 

 1組のカップルが誕生し2匹は繫みの中へ姿を消していく、アクアはこの先に起きることに不安を抱えながら飛行機雲を眺めるのであった




この先の展開をどうしようか悩む(基本は勢いとフィーリングだから)

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