星野アクアと絡んでみてどうですか?
・黒川あかね
オファーをいただいた時は不安に押し潰されそうな感覚で”結果を残して名前を売らなきゃ”って肩に力が入っていました。多分その空気を察してくれたからアクア君が声を掛けてくれたんだと思います。クラスメイトや劇団の人達も「あかねの良さを引き出してくれる」「いっそのこと唇を奪っちゃえ」って、でも女装した姿が私より女の子っぽいのは反則です
「おお!アクアよ、しんでしまうとなにごとだ!」
「勝手に殺すなフリル」
「休み時間にそんなことしてるとボッチみたいよ……ごめんなさい本当のことだったわ」
「お前も同類だろ」
「アクアと違ってザギンでスーシーを食べる友達ならいるわよ」
「年齢詐称はMEMちょだけでいい」
机の上で突っ伏しているアクアの横で某ドラクエ風の台詞を口にする彼女が茶々を入れてきた。入学式から今日に至るまで人気者の2人による掛け合いはクラスの風物詩となり今年のM-1のダークホースとして注目される予定は今のところのスケジュール帳には書かれていない
「有馬さんの加入がそんなに嫌だったの?」
「そっちは別に問題無い、孤立すると思っていたが輪の中にすんなり入れたし」
「じゃあ何よ?」
対面に座る彼女は伏し目がちなアクアの顔を望み込むと辟易したような顔で
「周りがギャーギャーうるさい!」
「どういう意味?」
首を傾げるフリルにアクアはスマホでAmazonアプリを立ち上げて画面を見せつける。そこにはデビュー作の『それが始まり』の商品ページであり星の数は3.7と表記されていた
「まさか売れちゃった?」
「フリマサイトも品切れ状態だよ、あんな素人演技が注目されるってドMじゃねぇぞ」
更に追い打ちかけるように映画の監督を務めた五反田からの電話で「いっそのこと有馬と付き合ってしまえ!」と深夜2時に大声で着信してきた。流石にムカついたので彼の家に魔力獣を飛ばし寝ている間にパソコンのコンセントを抜いて痛風と尿路結石になる呪いを掛けておいた
「それでアクアはどう立ち回るの?有馬さんは黒川さんとセットでついてくるわよ」
「ハッピーセットの玩具みたいに言うな」
「私は今でも貰うわ」
「聞いてねぇ」
終わりのない掛け合いは担任がやってくるまで続き、貴重な時間を潰されたアクアは授業中に就寝するのでった
「ストーカー?」
「…うん、少し前からSNSの個人アカウントに粘着してくる人がいて」
収録が終わり夕暮れが差し込んでくる教室内で鷲見ゆきが、スマホの画面に表示された文面を他の演者たちに見せる。女性陣は顔を俯かせノブユキとメルトは眉間に皺を寄せて怒りの表情を浮かべていた。その内容は筆舌に尽くしがたいもので卑猥な言葉や望遠で撮影された写真も添付されている
「警察には?」
「家族と事務所の人たちと行ったけど」
端的に言えば取り合ってくれなかった。”まだ被害を受けていませんよね?・芸能人だからしょうがない”という言葉で帰されてしまった。一応テンプレートで巡回を強化すると口にしたが神奈川県警並みに不祥事を毎年計上しているので口先だけだろう
「あかねの父親って確か」
「うん…警察関係者、ごめんなさい身内が」
「別にあかねが謝ることじゃないだろ」
番組で注目が集まれば必然的に狙われる可能性が高くなる。ましてや非力な女の子なら被害に遭う確率は一気に跳ね上がるのだ!
「それで今日なんだけど、両親が多忙でマネージャーも先輩の方を担当してて」
「じゃあ俺が一緒に」
「いや普通にスタッフに頼め!それぐらいの融通は利かせてくれるだろ!」
漢気を見せたノブユキだが勇敢と蛮勇は似て非なるもの、狙われる追われる立場になると常に周囲を警戒しなければならない、格闘技すら習っていない素人が女性を護りながらエスコートは簡単に出来ることではないのだ
「私とアクたんと有馬ちゃんは1人暮らしだから気をつけないと」
「タクシー運転手が原因で自宅バレもあるからな」
これは某お笑い芸人がラジオで語っていたことだが、身バレ防止の為に変装していたときにタクシーに乗り込んだら本人の目の前で
『このマンションに芸人の◯◯が住んでいるんですよ』
後部座席に当人が座っているのに気付かずにプライベートな情報を暴露してしまい芸人は引っ越しを余儀なくされた
「俺たちは被害に遭うことは無いよな!」
「電車に乗ってる時に尻と股間を握られたことがある」
メルトの告白に肩を組んでいたノブユキはバツの悪い表情を作り頭を下げる
結局ゆきは番組スタッフが送ることになり、MEMちょはタクシーでノブユキは親が迎えに来た
「かなちゃん一緒に帰ろう!」
「えっ?」
「お母さんが送ってくれるって」
「でも迷惑じゃ……」
「お姉さんの言うことは聞かないと駄目でしょ」
「いや…同じ年でしょ!」
有馬のツッコミも虚しく彼女に手を取られ強引に教室の外に出て行くのであった。そして残された2人は……
「それで…なんだよ相談って?」
「まずは謝りたくて」
飲食店の個室に通され対面に座るメルトは深々と頭を下げた。アクアは徒歩で帰ろうとしたが彼に呼び止められてしまい理由を尋ねると”話したいことがある”と言ってきたので、昨年に有馬と食事した店に足を踏み入れた
「俺を利用したことか?」
「やっぱり筋を通して謝らないと」
「別に気にしちゃいない!それに俺も楽しかった」
「……でも」
更に頭を下げようとしているメルトを制して彼は、グラスの中に瓶に入った烏龍茶を注いで状況を断ち切るようにした。
「別に不正をした訳じゃないだろ?正面からぶつかって砕けた」
「ってか、役者も出来て運動も出来るなんて完璧超人?」
「昔から鍛えているんだよ」
「今からでもオリンピック目指しましょう。金メダルでオセロが出来ますって」
「アホッ!裏返しても金だろ」
運ばれた料理を取り分けならが互いのプライベートについて深く語り合う。アクアにとってメルトのような馬鹿っぽい奴は嫌いではなく、正しい道を示せば化ける存在だと思っている
「実は1年の時に先輩に襲われてそのまま卒業しました」
「15か16で童貞卒業って少し早いな」
「いえ、中学1年です!」
彼のカミングアウトにアクアは持っていた箸を床下に落としてしまうのであった
「だからストーカーの話が出たときも俺が襲われるかもって」
「電車でやられたんだっけ?」
「前後左右を黒ギャルに囲まれて全身を揉みくちゃにされて」
「なら大声を出せば―――」
その言葉にメルトは顔を俯かせてしまった。最初は声を張り上げようとしたがサンドイッチされるように前後を挟まれてしまい押し付けられる胸は柔らかく、ネイルだらけの指先で男のシンボルを強弱をつけて握られると口から言葉を発することは出来なかった
「女性恐怖症になったのか?」
「それは大丈夫です!割とMなので」
「お前大物になるよ!俺が保障する」
「そんなに褒められると照れちゃいますよ」
その後も2人の語り合いは続き、番組内で深めることが出来なかった親交を重ねながらメルトの母親が迎えにくるまで楽しい時間を満喫するのであった
「それで強引に連れてきた目的は?」
「かなちゃんと腹を割って話したくて」
ハンドルを握る黒川母はラジオのボリュームを下げて2人が会話をしやすいように配慮をする
「単刀直入に聞くけどアクア君のこと好きでしょ?」
車内の女子会は場所を首都高に移してゴングが鳴らされるのであった