周回する人生を愉しむ余裕なんて   作:大気圏突破

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刺されるのって痛い

「(肝が据わっているな)」

 

 成長したアクアは母親を売り出す為に事務所の意向で子役デビューさせられてしまった。超絶嫌な顔を披露して拒否の態度を示していたが社長の強い要望で強制されられた。なお仕返しに社長の壱護が大事にしていた大吟醸の中身を賞味期限の切れた安酒と入れ替え、特別サービスとして週1回のペースで胃袋に直接コーラックを5錠転移させた

 

 

 映画の撮影は無事に終わったがアクアにとって嬉しいことがあった。撮影前に自分たちに食って掛かってきた子役の有馬かなに出会えたことだ!五月蠅くしていたルビーに100%の非があり謝罪するが母親のアイについても貶してきた

 

「お兄ちゃん」

「事実だ!受け入れるしかない」

「あら素直ね、いい心がけよ」

 

 

 彼は有馬から放たれる魂の輝きに見とれていた。体の真ん中に太い軸が1本しっかり通っている姿は彼女の自信を表している。今まで侮蔑や恐怖の視線を受け続けたアクアにとって彼女のように恐れず堂々と胸を張る者は久しく見ていなかった

 

 惚れた訳ではないが心がときめく感じだった。有馬かなは自分に知らないものを見せてくれるはずだ!この世界のことをもっと教えてほしいと思うレベルで焦がれている

 

 

「どうしたの急にやる気になって?」

 

 旦那がコーラックの影響を受けてトイレと婚姻関係を結ぶほど離れられない日々になっていたので、副社長のミヤコが代理を務めている

 

 

「演じる楽しみが見つかった」

「嘘おっしゃい、有馬さんでしょ?あの子を見る時の視線が違うわよ」

 

 アクアを膝の上に乗せたミヤコは背中から抱きしめて温もりと匂いを堪能していた。こうやって抱きしめている時が1番癒されるのを感じる。夫婦の間に子供がいない彼女にとってアクアのことを実の息子のように思ってしまう

 

 

「(多幸感(エフフォーリアァァァァァ!))」

 

 どこかのアナウンサーの叫び声のように癒しの魔法を発動させた。回復魔法という訳ではないがストレスを軽減するもので就寝中使えば熟睡出来て朝もスッキリと目覚める

 

 

「バレてたんだ」

「あの子は人気者だからいつ共演できるか分からないわ」

「そう」

「恋でもしちゃった?」

 

 少しおちょくるように尋ねるとイラッとしたアクアは彼女の胸を強く鷲掴みフロントホックのブラを外してしまった。人生経験は苺プロの中で1番抱負なのでお茶の子さいさいなのだ

 

 

「ミヤコさん体に合っていないサイズは止めた方がいいよ」

 

 そう言って消えるように部屋から出て行ってしまった。なおアクアの忠告を受けた彼女は後日アイと一緒にランジェリーショップで購入したが紙袋に入ったままで未だに封を切る予定は無い

 

 

 

「ねぇアクア?」

「なに母さん」

 

 流れるように月日が過ぎ去りB小町は東京ドームライブを成功させた。1話でナイフを刺され倒れたアイはルビーの尽力により遅刻せずに会場入りしたが終始引きつった笑顔だったが駆け付けたファンたちに気付かれることはなかった。しかしトップアイドルを年単位で維持することは難しくグループのCD売り上げは右肩下がりである

 

 

「ライブのときなんだけど」

「熱があったから事務所で寝てた」

「そうじゃなくて、私のお腹にナイフが―――」

「疲れていたせいで夢と現実があやふやになっていたんじゃないの?だって刺し傷も無かったんでしょ?刺されたら普通は死ぬよ」

 

 ワンダースワンの液晶画面から視線を向けずに答えていると、力ずくで取り上げられてしまった

 

 

「ねぇ何か隠してない?変よあれから」

「別に母さんに変って言われるのが最悪だね」

 

 ポケットからアドバンスSPを取り出してテイルズオブザワールドなりきりダンジョン3を起動させるが、これも奪われてしまったのでキーホルダー型のテトリスを胸ポケットから出した

 

 

「ふざけないで!」

「いつも至って真面目だよ俺は」

「じゃあなんで目を合わさないの?」

 

 実のところアクアは2人を亡き者にしてからアイと距離を取っている。最低限の親子の会話はしているが踏み入った話し合いはしていない、一家が揃う晩御飯を食べ終わったら自分で片付けて飲み物を持って部屋に籠ってしまう

 

 

「じゃあ聞くけど母さんは全てをさらけ出してる?」

 

 少し魔力を放出させて威圧するように母の目を見つめていた。殺意は込めずチンピラが逃げ出す程度の圧をアイに浴びせ続ける

 

「別にアクアには関係ないでしょ」

「そう?例えば俺たちのことを誰かに話してないよね?」

「…それは……当たり前でしょ!」

「なんで言い淀んだの?」

 

 真実を話してくれれば問題無かった。虚偽であることは百も承知だ!両手両足の指を使っても数え切れない嘘をつかれてきた別に今更ダメージなんてないが産みの親が語ってくれないことに悲しい気持ちになってしまう

 

 

「もういいよ!本音を語ってくれそうじゃないし」

 

 テトリスの電源を切るとアクアは話を切り上げて部屋から出て行く、追い掛けようとするが足が動いてくれなかった。椅子に深く座り込むと涙を零し息子に対して本当のことを言えなかった自身を責めるのであった

 

 

 

 

 出て行ったアクアは適当に外をぶらついていた。事務所に行っても良かったが仕事の話を振られるのは割とウザい、有馬かなはピーマン体操で歌手デビューし歌番組でも引っ張りだこであるが初めて出会った頃のような輝きは鈍っているように見えた

 

 

「手が届くのに手を伸ばさなかったら一生後悔する。それが嫌だから私は手を伸ばす!」

 

 公園の近くを通ると自分と同じくらいの女の子が片手に本を持って大きな声で言葉を発していた。周囲には人がいないのでアクアは台詞の練習だと理解する

 

 

「もっと感情を込めないと」

「どんな感情を込めるつもりだ?」

 

 

 突然後ろから声を掛けられ振り返った少女はビックリした。映画やテレビに出ている有名な子役がそこにいたのだから

 

 

「ありがとうございます」

「気にするな小銭が余っていただけだ!」

 

 ベンチに座り自販機で購入した飲み物を手渡すと互いの手が触れ合ってしまい不知火フリルと名乗った少女は可愛い声を出すがアクアは気にもしなかった

 

 

「あのっ!私の演技ってどうでしたか?」

「俺に聞いてどうする」

「だって星野君はいっぱいテレビに出てるし、私よりぜんぜん凄くて」

 

 顔を赤らめ少しモジモジしながら尋ねてくる

 

「棒読みよりはマシなレベルだな、感情を込める=大声を出すという訳じゃない」

「そうですか…劇団の先生にも同じことを言われて」

「感情の込め方が分からないのか?」

 

 アクアの問い掛けにフリルは頷いた。大人でも生成AIより酷い演技をするのに小学生に感情を込めろと言っても難しいものだ!喜怒哀楽は経験で培われる。10年も生きていない女の子に求めることではない

 

 

「感情の出し方を教えてやるよ」

「本当ですか!」

 

 普段ならスルーしても良かったが僅かながらフリルに興味を持ったのと暇を潰す目的もあった。彼女をベンチから立たせると指を鳴らし人払いと結界を作り出した

 

 

「なにをするんですか?」

「こうする」

 

”グサッ!”

 

 フリルの質問にアクアはニッコリと笑いながらナイフを2本取り出して自身の腹と首に突き刺して引き抜き出血させると口から大量吐血し倒れてしまった

 

「…ふぇ……え?」

 

 その光景を至近距離で見た瞬間に彼女は膝から崩れ落ちて放心してしまった。目の前で同い年の有名人が自分でナイフを刺してしまうなんて誰が予想する?近づいて揺さぶってみても呻き声をあげるだけだ!このままでは死んでしまう

 

 

「誰か―――助けてください!!!」

 

 大声で叫ぶが近くには人どころか鳩や鴉も存在していない、涙を零しながら喉が枯れるように大声をあげ続けるが何も起きない

 

 

「……うっ……ぐぅ」

 

 足元にはアクアから流れ落ちた血がドンドン広がり自身の靴を赤く染めていく、何かを喋ろうとするが首からの出血で声を上手く出すことが出来ない、フリルは持っていたハンカチで血を止めようするが白いハンカチは一瞬にして変色してしまう

 

 

「どう……したら、ねぇなんで?」

 

 感情演技を教えてもらうはずだったのに何で彼は血だらけになって倒れているの?私が相談しなければこんなことにはならなかったのでは?

 

 涙を流し尋ねるがアクアは自分を見つめながら口をゆっくり動かしている。微かに小さい声が聞こえるので耳を近づけると

 

 

「これが感情の込め方だ!」

「え!」

 

 足を高く上げて反動をつけながら起き上がった。呆けた声を発したフリルはアクアを見つめるがナイフで刺された痕はなく服も血で染まっていなかった

 

「ぇええ!……どうし?なにが起きて?」

「騙されてくれて面白かったよ、魔法が使えるの」

 

 空中で胡坐をかいた状態でフリルの周囲をグルグル回っている。脳が理解を拒んでいた!偶然出会った同い年の子役が魔法を使える?自身の舌を軽く噛んでみると痛みが伝わってきた。夢をみている訳じゃなさそうだ

 

 

「痛いのは慣れているが刺されるのは嫌だね」

「えっと…その」

「目の前で人が死にそうになって助けを呼んでも誰も来ない、なぁどんな気分だった?」

 

 問い掛けられた質問にフリルは言葉に詰まってしまう。今まで経験したことのない出来事に答えが見つからない

 

「難しく考えるな!わざわざ文章化にこだわる必要はない、出来なければ自分だけで納得してしまえばいい」

「怖った!目の前で誰かが死んじゃうのって」

「演技をしようとすると頭で考えてしまう。”こんな感じかな?””こうすればいいかな?”って喜怒哀楽を作り上げる。じゃあリアルで同じことが起きたら考えて感情を作るか?」

 

 下から彼女を見つめ顔を近づける

 

「違う」

「ロボットじゃないんだ!泣いて叫んで笑って楽しめ、感情ってシンプルなんだよ」

 

 答えを見つけだしたことを確認したアクアはその場から去ろうとするが服を引っ張られてしまう

 

「あのお願いが」

「他の魔法を見せてくれは無しだ!今日はもう疲れたアイスでも食って寝たいんだ」

「ごめんなさい」

「俺好みの女になったらいつでも見せてやる」

 

 そう言って彼は去っていった。不知火フリルは今日の出来事を振り返り全てを自身の血肉にさせて舞台に立った。後の天才女優のデビューに魔法使いが関わっていたことは彼女しか知らない

 




有馬ちゃんとフリルちゃんの登場回です。なお完全にアイと壁を作っているので親子仲は悪いです

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