私、あなたに恋をした。   作:高田竹高

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 何故か前話と比べて文字数が跳ね上がってしまいました、不思議です。


□□ツミエの尊敬する人

 

「ありがとう!シスターのお姉ちゃん。」

「どういたしまして、クリスマスを楽しんでね。」

 

 今日は長い一日だった。

当然1日の長さはいつもと変わらず24時間だ。だけど今日はクリスマス、昔の私にとって重要な日で、今の私には普通の1日。そうなるはずだった。

 だけど前の上司にチャリティーイベントを手伝って欲しいと頼まれ、後ろめたくもいろいろ放り捨てて出ていった学園の敷地をもう一度踏むことになった。常に誰かに見られているように感じて、絶対に気の所為とはいえ実に居心地の悪い時間だった。

 でもそんな時間ももうおしまい、この後は元上司と話すだけ、そうしたら、この学園にさよならだ。

 

「お疲れ様でした、ツミエ。本当に助かりましたよ。」

「ありがとうございますサクラコ様!また皆さんと共に働けて、私も嬉しく思います!」

 

 この方が私の元上司、歌住サクラコ様。少し威圧感が会って人を消すことに慣れていそうな人だけど、敬虔で真剣な、シスターの鑑のような人だ。

 

「ツミエ、少しお話ししたい事がありますから、離れの礼拝堂に来てくださいませんか?人払いはすませておりますよ。」

「礼拝堂・・・はい!行きましょう!しかし、何のお話しですか?」

 

 正直な話、礼拝堂には余り行きたくない。

自分は裏切り者だ。信心を捨てた人間が礼拝堂の中に入るなんて、いかがなものだろう。

 

「秘密です。すみません、秘匿性の事を考えると、そこ以外では難しいのです。」

「いえ、大丈夫です!はい!行きましょう、サクラコ様!大丈夫ですから!」

 

 そんな気持ちがサクラコ様に伝わってしまった気がして、必死にごまかす。

 サクラコ様は優しい人だ。とても優しい人だ。だから私は、サクラコ様からの愛を無碍にしたくない。できれば、その愛を返したかった。トリニティに来たのも、そのためだった。

 

──────────────────────

 

 2人以外誰も居ない礼拝堂は、恐ろしいほど神秘的だった。差し込んだ月明かりがサクラコ様を背中から照らした。私は、神聖な場所に居た。

 

「こちらですよ、ツミエさん」

 

 礼拝堂の扉を閉めて振り返ると、サクラコ様が懺悔室の前で手招きをしていた。

 

「では、入ってください。」

「・・・・・・はい。」

 

 懺悔室に入るよう促されて、逡巡してしまった。自分が懺悔すべき事は幾つもあった。数秒してから意を決して懺悔室に入ると、懺悔室の向こう側に人が入る音が聞こえた。

 

「ツミエ、いますか?」

「はい!」

「あなたの近況について、教えていただけますか?」

「もちろんです!」

 

 転校前、私は何度もサクラコ様に相談をしていた。モモトークの交換もしてたけど、転校後は連絡していなかったし・・・もしかしたら、心配されていたのかもしれない。

 

「ツミエ、レッドウィンターでは元気にやれていますか?」

「はい、トリニティとは違う事ばかりですが楽しくやってます。でもあまりお茶会を開けないのが辛いです。」

「そうでしたか、では私の話が終わったら、お茶会にしましょう。」

「はい!」

 

 私はお茶会が好きだ。姉が紅茶好きな事もあって、いつもお茶会を楽しみにしていた。

 

「お姉さまもお呼びしましょうか?」

「え!?いえ!できればやめていただきたいです!忙しいでしょうし!」

「ですが、貴女のためなら時間を空けてくれますよ。久しぶりでしょう?」

「サクラコ様!勘弁してください!」

 

 姉は、私の今会いたくない人物ランキング1位だ。姉に一切の非はない。ただ、何も言わず飛び出した私には、姉に会わせる顔がない。

 

「ふふふ、ごめんなさい、ツミエ。しかしあまり言うものではありませんよ、貴女が居なくなって、お姉さまは悲しんでおられました。」

「・・・、姉は、元気にしていますか?」

「内心はわかりませんが、以前にも増して仕事をする時間が増えましたね。」

「・・・・・・」

 

 頭を抱える、そんな権利なんて無いのに。姉は無茶ができる人だ。肉体的にも精神的にも、ストッパーを無視する事ができてしまう人だ。壊れるまで、いや、全壊するまで止まらないかもしれない。

 私達は特別仲のいい姉妹でもなかった。それでも月に一度はお茶会に招待されたし、同じ色の血が流れている姉妹だ。遅すぎるけど、家を飛び出した理由を説明して、謝りたいと思った。謝ってどうにかなる問題でもないけど・・・

 

「・・・やっぱり、呼んでいただけませんか?」

「ええ、かまいませんよ。どうせなら私抜きで、久しぶりに姉妹で水入らずの時間を過ごすのはいかがでしょうか。」

「・・・ごめんなさい、ありがとうございます。サクラコ様。」

「ふふふ、かまいませんよ。」

 

 サクラコ様はきっと、姉に相談を受けたんだろう。姉は心配だったんだ。私が今元気にしているか、知りたかったんだ。それでサクラコ様に私を呼ばせて、お茶会の機会を設けようとしたのだろう。

 

「話はこれで終いでしょうか?」

「?いえ、これからですよ。少し長く話しすぎましたかね、お茶会の為にも早く終わらせましょうか。」

 

 ・・・どうやら、さっきの提案はサクラコ様の善意100%でできていたらしい。心配していて欲しかったけど・・・まあ、姉の心労になってないならそれでいいか。

 

「ツミエ、最近好きな人と上手く行っていますか?」

「それは・・・」

 

 上手く行っている、間違いなく。それでも、はい!と即答するには足りない所があった。

 

「・・・辛い事を、聞いてしまいましたか?」

「いえ!順風満帆です。好きな人と一緒に働けて、最近はプライベートでも会えるんです。でも、その・・・足りない、って思うんです。あの人に近づけば近づくほど、そう思うんです。」

 

 わがままな話だ。でも、真実だった。

手を組む。肘を脚に乗せて俯く。視界に映る足下は暗くて、あの人の顔が浮かんできた。怒ってる顔、凛々しい横顔、笑ってる顔、何でもない顔。いろんな顔が思い浮かんだ。

 

「同じ仕事をしていても、同じ食卓を囲んでいてもずっと、むしろ同じ時間をすごせばすごす程、私とあの人の気持ちが同じじゃない事が気になるんです。私が、『好き』とか、『かわいい』とか、『側に居たい』とか思ったとき、その気持ちが私からの一方通行な事が怖いんです。あの人は私を捨てても平気なのに、私は、捨てられたら辛いんです。」

 

 私は、臆病者だ。あの人はどうなったって離れないという確信が無いと、怖くてたまらない。あの人に愛して欲しいって気持ちも、私がずっと彼女を愛せるなら、要らないんだ、本当は・・・

 

「・・・よく、話してくださいましたね。」

 

 サクラコ様の声が、俯いた頭の上から雪のように降りてきた。

 

「・・・貴女は、とても勇気のある人だと思いますよ。今内心を話してくれたこともそうですし、勇気がなければ転校なんてできませんからね。」

 

 サクラコ様に相談すると、気が少し楽になる。本当に、すごい人だ。自分の思いを伝えて、大丈夫だって思える。

 

「しかしそれでも勇気が足りない、というなら考えがあります。」

「!その考えとはなんでしょうか?」

「数日だけ、滞在期間を延ばしてみませんか?」

「?予定の上では可能ですが、一体どうしてそんな事を?」

「少しだけ、心配してもらいましょう。押して駄目なら引いて見ろ。と、後輩におすすめされた漫画に描いてありました。」

 

 組んだ手を解いて頭を抱える。もしかしたら、いや確実に、サクラコ様は純真過ぎる。

 

「・・・サクラコ様、それはだいたい大変な事になる作戦ですよ。」

「そうでしょうか?」

「場合によりますけど、他の人に言ったり実際にしたりはしないでください、そのまま距離ができてしまったら辛いですから。」

 

 さすがに諌める。他の人に同じ助言をしたり、何よりご自身で実行したら大変だ。もし両想いじゃなかったら、それか、相手が繊細だったら。引いた距離がずっと縮まらない、それは、考えただけで寂しい事だった。

 

「・・・そう言えばツミエ、チャリティーイベントの際に初めて見る生徒の方はいませんでしたか?」

「初めて見る生徒、ですか・・・・・・」

 

 今日1日を思い返す。とはいえトリニティはマンモス校だ、見たことのない生徒の方が多いだろう。しかしよくよく考えてみると、明らかに知らない生徒がたくさんいた気がする。シスターフッドの中にも、新顔が何人か見えた。

 

「居ます、たくさん居ました。」

「ええ、そうでしょう。実は最近、アリウスからの転入を受け入れているんです。」

「!?・・・本当、ですか?」

 

 サクラコ様が嘘をつくとは思えないけど、それでも信じ難かった。サクラコ様の一任でできる事じゃない。たくさんの人が、アリウスの生徒の為に動いた、という事のはずだ

 

「それは・・・よかったです。本当によかったです。ありがとうございます。」

 

 自分は何もしなかった、目の前にいた彼女達から逃げた、最低な事だった。だから本当によかった。最低だけど、自分のせいで最悪な事にならなくてよかったって、思った。

 

「私にできることはありませんか!」

「・・・今、アリウスには何もかも不足しています。何でも助かりますよ。」

「私、働き口の紹介が出来ます!アリウスの皆さんに、労働の素晴らしさと団結精神と給料を」

「緊急事態!緊急事態です!」

 

 私の話は、元同僚の報告で止められた。礼拝堂の入り口から聞こえた声は荒い息づかいが混ざり、彼女の叫ぶような声と相まって事態の深刻さを予想させた。

 

「ごめんなさい、ツミエ。お茶会は開けないかもしれません。」

「私も手伝います!お茶会、絶対やりましょう!」

 

 懺悔室から出て、前かがみに息を切らしている元同僚に問いかける。

 

「大丈夫?急いでくれてありがとう、何が起きたの?」

「・・・□□さん・・・貴女のお姉さまが、ミカ様を連れてここに襲撃をかけて来ました。ここの人払いを任されていたシスターはもう、ほとんど壊滅状態です。応援を呼びましたが、それまで持つかはわかりません。」

「そうでしたか、シスター■■。よく報告に来てくださいました。ゆっくり休んでください。」

「はい・・・サクラコ様、あなたに・・・主の・・・御心、の・・・」

 

 報告に来たシスターは、そのまま倒れてしまった。

 

「サクラコ様、私は姉の所に行きます。貴女はどうかこの人を連れてここから離れてください。」

「私も、誤解を解く必要があります。」

「危険すぎます!分かってください、サクラコ様。私はもう行きます、どうかご無事で!」

 

 サクラコ様を置いて、礼拝堂の扉から外に出る。冷たい夜風が吹いて、火薬の臭いがした。戦闘は礼拝堂の目と鼻の先で起きていて、姉もそこに居た。

 

「お姉さま!ナギサお姉さま!どういうつもりですか!」

 

 まず姉とミカさんの動きが止まった。それからシスターフッド側の動きも止まって、戦闘が終了した。

 あまりにもあっさり戦闘が終わったから、姉が私の目の前に来て椅子に座るまで放心してしまった。

 

「・・・とぼけても無駄ですよツミエ!私をティーパーティーから引きずり落とし、シスターフッドとレッドウィンターを後ろ盾にして新たなティーパーティーを構成し、トリニティ総合学園をレッドウィンター連邦学園の一部にする腹づもりなのは分かっています!!今なら許しますから、今すぐ非を認め、おとなしく投降しなさい!」

 

 ああ、姉はこんな人だったなあ・・・いやここまでひどくはなかったよ、壊れちゃった。ごめんね、不孝な妹で。

 

 




 宗教っぽい言い回し、分からぬ。難しぬ。
あとオリ主のフルネームは「桐藤ツミエ」です。これで□□の出番も終わりになります。まあ桐藤の出番もないと思いますが
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