私、あなたに恋をした。   作:高田竹高

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 やっぱり年度末は忙しいですね、皆さんお疲れさまです。


□□ツミエの姉という人

 

 私は姉の事を尊敬していた。

 

 数年前、お転婆お嬢様だった姉は完璧なトリニティ淑女になった。あの時の衝撃はたぶん、オタマジャクシがカエルになるまでを毎日観察したときの衝撃と同じくらいだったと思う。少しずつ少しずつ、自分のなりたい姿へ変わっていった姉に、私は心からの憧憬を感じた。

 

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 それからずっと、姉は完璧なトリニティ淑女で、ティーパーティーのホストになってからは全トリニティ生徒の憧れと言っても過言じゃないような人だった。実際姉のお茶会への憧れを口にする人は少なくなかったし、姉に紹介して欲しいと頼まれた事もあった。つまり、姉はそれだけの影響力と魅力を持った人物だったのだ。

 

 もちろん私も憧れていた。ずっと、在るべき自分であり続ける姉のようになりたかった。それは、セイア様が襲われてからも変わらない思いだった。

 

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 セイア様が襲われてから姉は変わった。外面は変わらず今までの完璧淑女だったけど、ずっと追い詰められていた。

 

 その頃、私はずっと姉の側に居た。サクラコ様から護衛として派遣された私は、毎日何も出来ない自分を悔やんでいた。姉がいつか完全に壊れるとを確信しながら、何をすれば良いのか分からなかった。ただ、時折書類をめくる手を止めて泣き出す姉の事を、抱きしめて慰めた、それだけで救える程簡単じゃない事は分かっていた。

 

 姉からは日に日に、何かが無くなっていった。余裕、安らぎ、そんな感じのいろいろが無くなって、ある日、姉が泣かなくなった。いよいよ限界かもしれないと思った、思うだけで、何も出来なかった。

 

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 結局、私が姉の側にいる意味はなかった。セーフハウスでの護衛には失敗したし、エデン条約の調印式でも姉に庇われた。ひどく傷ついた姉の心身も、先生や親友達のおかげで良く回復してきていると、サクラコ様はおっしゃっていた。

 

 私は安心した、もう大丈夫だと思った。姉にとって私は必要でないと思えた。だから、何も言わずにレッドウィンターに転校した。だけど、それはきっと間違いだったんだ。

 

 立ちくらみがした。フラっとしてから踏みとどまって姉の方を見たが、よく見えなかった。姉はまだ、疑心暗鬼な頃の姉だった。

 

「お姉さま、貴女はなにか、勘違いをしています。」

「言い訳を聞くつもりはありません!あなたがシスターフッドを後ろ盾にトリニティのトップに立ち、トリニティ総合学園をレッドウィンター連邦学園の一部にする腹づもりなのは分かっています!!」

 

 姉は、私が裏切り者だと盲信していた。実際、私は裏切り者のようなものだった。追い詰められていた姉を置いて、別の学園に逃げたのだ。

 

 視界が戻って、姉の目が見えた。まっすぐ私の方を向いた瞳は、悲しみを訴えていた。たぶん私も同じ目をしているから、姉の事を見ていられなかった。下唇を噛んで、目を細めて、俯きながら手で顔を覆った。憧れていた頃から変わった姉の姿が痛ましくて、胸が苦しくなった。だけど、私は姉をここまで痛めつけた一因だ、だから、せめて言うべき事がある。

 

「・・・ごめんなさい、お姉さま。私、ずっと逃げていました。自分のやるべき事から逃げて、気を楽にしようとしていたのです」

 

 せめて、姉に謝らないとすまなかった。私は、調印式の時からずっと姉に会っていなかった。自分の無力では姉を癒やす事はできない、いや、もしできなかったらどうしようという恐れが、姉のもとへ行くべき私の足を重くした。本当は、姉の側にいるべきだった。無力でも無意味でも、それが私のやるべき事だった。

 

「いいんですよ、ツミエ。やるべき事なら、これからやればいいんです。まだ、遅くありませんから。」

 

 いつの間にか、姉の声がすぐ側から聞こえるようになっていた。顔の手を離すと、滲んだ視界に手が差し伸べられているのが映った。その手をとって、顔を上げる。微笑を浮かべる姉の顔がそこにあった。先ほど見た痛ましさもどこかへ行って、久しぶりに見る安らかな表情になっていた。

 

「お姉さま、私、話したい事が、たくさんあるのです。」

「ええ、ゆっくり聞かせてください。ですが今日はもう遅い時間ですから、留置所で寝てください。ほら、いきますよ。」

 

 姉に手を引かれるのは何年ぶりか、なんだか童心にかえった気分だった。昔はお転婆だったけど、その頃からもう、姉は私の憧れで・・・留置所?・・・そうだ、レッドウィンターうんぬんの誤解を解かないと牢獄行きじゃないの!

 

「お姉さま!誤解です!私はレッドウィンターの手先じゃありません!」

「何が誤解ですか!先ほど認めたでしょう、潔く付いてきなさい!」

「待って!聞いて!ねえミカさん助けて!」

「ミカさん!ツミエを連れて行ってください!ミカさん!?」

 

 姉とお茶会をする為には、もっと時間が必要そうだった。それがどのくらいかは分からないけど、今日はレッドウィンターに戻れない、それだけは確かだった。夜空の星の間を、幾筋も雲が走っていた。

 




 ちなみに、この小説を思いついた段階では3話で終わると思ってました。
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