ただのデュエル好きが遊戯王が大流行している世界に転生してただデュエルをするだけ 作:葛饅頭
どこかミスってそう……
この世界では大体の物事に遊戯王が絡んで来る。
世界的に大人気で誰もが知るコンテンツなのだから最大限活用すべきなのは理解できるのだが──
「俺のターン! モンスターを2体リリースして、『暗黒騎士ガイア』を召喚するぜ!」
「甘いぞ! トラップ発動、『サンダー・ブレイク』!」
「何ィ!?」
賑やかだなぁ。
店の中、そこら中で客同士がテーブルを挟んでデュエルをしているがここはカードショップでもデュエル専用店でもない。
「よっしゃ俺の勝ち! というわけでデュエルディナー、ゴチになりまーす!」
「チクショー!」
デュエルが終わった客のテーブルへホールスタッフが二人分の料理を運んでくる。
そう、ここは飲食店なのである。
店員と客、あるいは客同士でデュエルを行い、その勝敗によって一部の料理が割り引きされたりタダになったり相手に奢ることになったりする。そういうサービスはこの世界ではそう珍しくない。
俺もよく利用させてもらっている。自分で言うのもあれだが、俺はこの世界では結構デュエルが上手い方だという自負があるし、実際一般人相手なら勝率九割を超える。利用しない手はない。
負けたら負けたで楽しいデュエルができたからそれでいいのだ。この店の場合、デュエル後は二人が同じテーブルで食事をすることになるので、デュエル談義に花を咲かせるのもいいだろう。
そんなわけで対戦相手が現れるのを席に座って待っているのだが、中々現れない。
おかしい。この店はこの時間帯だと行列ができるくらいには人気があり、当然飯も美味い。なのに対戦相手が現れない。
他のテーブルでは次々とマッチングが成立しているのに、俺の正面の席には誰も案内されてこない。
色々と可能性を考えた結果、一つの結論に辿り着く。
「勝ちすぎたか……」
他の客に顔を覚えられてマッチングを避けられている。
そりゃそうだ。負けるとわかっている相手とデュエルしたい人はあまり多くないし、その結果いつもより高い金を払って食事をすることになると考えたらより一層俺とのデュエルは避けたいだろう。
これからはこの店でも変装必須かぁ……プロでもない一般人なのにねぇ。
有名になってちやほやされたい欲求がないわけではないのだが、不特定多数から意識されているというのはなんとなく息苦しいものがある。
もう暫く待って誰も来なかったらデュエル用じゃない席に移動しよう。
そう考えながらメニュー表を眺めているとホールスタッフに声をかけられた。
「お客様、大変長らくお待たせいたしました」
お、ようやくかと顔を上げると、ホールスタッフの背後に立っていた女性と思わしき人物が俺の正面の席に座る。
キャップを被り、サングラスに黒いマスクまで身につけたその格好は一歩間違えば不審者として通報されそうなレベルだが、今はデュエルの相手が見つかったことを喜ぶべきだろう。
「こんにちは」
「……こんにちは」
とりあえず挨拶から……あれ? この声……
「……
ピクリと目の前の人物の動きが止まり、暫くの沈黙の後、彼女は自らのサングラスとマスクをずらして俺に素顔を見せた。
「ご名答! 変装しててもバレちゃうもんだね」
やっぱり、幼馴染の『
「この距離なら流石にわかる。しかし驚いたな。プロデュエリストがこんなところに来るとは」
「久しぶりに故郷に帰ってきて散歩していたら、店の外からあんたがポツンと一人で座っているのが見えてね。ちょっと可哀想だなって思って」
「余計なお世話と言いたいところだが、相手が現れなくて本当に困っていたところだ。俺もお前みたいに変装しなくちゃいけないらしい」
「客同士じゃなくて、店員とデュエルする形式のお店にいけばいいんじゃないの?」
「申し訳なくなってくるんだよね。同じ相手に勝ちすぎると。特に従業員が少ない店だと高確率で同じ店員とデュエルすることになるし」
「あんた、そういうところ昔から変わってないね……」
こいつは幼稚園入学から高校卒業までずっと一緒だった友人なのだが、高校卒業後はプロデュエリストになるとか言ってその道に進むために努力を重ねていた。
そしてめでたくプロチームにスカウトされたようで、それから少しして『リアウィング』としてプロデビュー。それ以降はたまにテレビで見かける程度で直接会うことはなかった。
「ああでも、ここの近くに最近できた喫茶店があるんだが、そこの店長を毎回デュエルでボコボコにしていたらだんだん強くなってきて、今ではかなりいい勝負ができるくらい強くなったよあの店長」
「へー、後で行ってみようかな……あ、このメニューいいかも」
そう言って赤尾が指さしたのはこの店でも一番高価なデュエルステーキセットだ。
「あとコレとコレとコレとコレと……」
「お前普段仕事であんな腹を出す衣装着ているのにそんなに食って平気なのか?」
「私太らないから」
いろんな人を敵に回す発言は置いといて、合計金額がとんでもないことになっているんだが?
この店のルールではデュエルで負けた方が勝った方の料金の四分の一の金額を支払うことになっている。因みに勝った方は更に四分の一を店から割り引きしてもらえるので実質半額となる。
「一部とはいえ払うことになるかもしれない相手のことを少しは考えろよ……」
「おやおや? 負けるつもりで考えてるの? あんたももっと頼んだら?」
「そんなに胃袋に入らんわ」
どうなっているんだこいつの胃袋は。食ったものはどこへ消えているんだ。
カード以外の部分でもオカルトがそこそこある気がするぞこの世界。
「それに注文の合計金額が一万円以上ならあの中央のスタンディングデュエルスペースを利用可能なんだって。丁度空いているしあっちでデュエルした方が楽しそうじゃない」
そう言って赤尾が指差したのはこの店の中央に存在する、どの席からでも見えるように周囲より少し高くなっているデュエル用ステージ。
そこでデュエルを行えば店内の全ての客から注目を集めることになるのは間違いないし、店の外のディスプレイにもデュエルの様子が映し出されることになる。
「俺は必要以上に注目されたくないんだが……というかお前も目立たないように変装しているのに目立つようなことしちゃダメだろ」
「バレてもしらを切ればいいだけ。悪いことするわけじゃないんだし」
「お前SNSのフォロワーかなりいるだろ。変な疑惑持たれてこっちにまで飛び火したら俺程度一瞬で消し炭になるんだぞ」
「変な疑惑って、『リアウィング熱愛発覚!? お忍びデートか』みたいな?」
「わかっているのなら大人しくしてくれ……若いプロデュエリストには厄介なファンも多いんだぞ」
プロデュエリストにおいて特に重要なのはデュエルの腕。
ここで言うデュエルの腕とは勝つためのプレイングやドローの強さだけでなく、相手の全力を引き出し、時にはピンチを演じて、劇的な勝利、または敗北で見る人を楽しませる技術なども含む。
しかし客の前で顔を出して活動する以上、デュエルの腕だけでなくその容姿に惹かれる人も存在するわけで。
見目麗しいプロデュエリストはアイドルのように持て囃されることも珍しくなく、リアウィングもそういうプロデュエリストの一人だ。
主に使用するデッキが【
そいつらに変な疑いをかけられようものならガチ目に命が危ない。悪の組織の相手だけでも手一杯なんだぞこっちは。
「実は最近すっごく強いカードが手に入ってね。テーブルデュエルだとそのサイズに合わせてソリッドビジョンが小さくなっちゃうじゃない? とっても大きいモンスターだから大迫力のスタンディングデュエルでお披露目してびっくりさせたいなーって」
そう言って赤尾が取り出したのは一枚の黒いカード。エクシーズモンスターだ。
シンクロ召喚を行うことが多いフォーミュラアスリートだが、レベルを上手く調整してエクシーズ召喚もある程度可能ではある。
だがそのカードに記されている黒い星の数は驚異の12個。ランク12はごく一部の例外を除いたエクシーズモンスターの頂点であり、通常の手段でエクシーズ召喚するのはレベルを調整できるフォーミュラアスリートでも困難。
故にランク11以上のモンスターには大体の場合同じレベルのモンスターを複数体並べる方法とは別の比較的簡単な召喚方法が存在している。
「……こういう店でのデュエルは大抵の場合客の回転率を上げるためにスピードルールでのデュエルが強制される。この店もそうだが、一つだけ例外が存在する。それが中央のスタンディングデュエルスペース。そこでのデュエルはマスタールールも選択可能だ……そのカードはメインフェイズ2がないと出すのが非常に難しい。だから中央でデュエルがしたいんだろ?」
「……流石はカード博士。このカードのことまで知ってるなんて」
「『
それは前世の遊戯王OCGにおいてエクシーズ召喚に革命をもたらしたカード。
エクシーズモンスターが戦闘を行うだけで重ねてエクシーズ召喚が可能になるというランク12とは思えない緩さであらゆるデッキから飛び出し、そして全てを消し飛ばすパワーカード。
この世界の基準で考えるとあまりにも強すぎる。間違いなくオーバードだろう。
しかし赤尾がオーバードの悪影響を受けているのかどうかがわからない。昔からこんなテンションだったと思う。
今まで遭遇したオーバードに呑まれたデュエリストは全員明らかに何か様子がおかしかったのですぐ判別できたのだが……
万が一オーバードの悪影響を受けているのだとしたら早急に対処する必要がある。
オーバードに呑まれた人間は多くの場合、欲望のリミッターが外れてデュエルを己の欲望を満たすために行うようになる。
こいつがどんな欲望を抱えているのかは知らんが、場合によっては犯罪行為に手を染める可能性もあるのだ。その前に止めなければならない。
遊灯くんから教わった人をオーバードから解放する方法として一番確実なのはアンティルールでの勝負を挑み、お互いのオーバードを賭けたデュエルで勝利してオーバードを取り上げる方法。
しかしこの方法は負けてしまった場合、相手に新たなオーバードが渡って手が付けられなくなる危険性がある。あと単純に相手が賭けに乗ってくれない可能性もある。
「……それじゃあこのワインとモンブランも頼もうか。これで一万円は超えただろ」
「お、やる気になった?」
「見てみたいからなアーゼウス。勿論全力で召喚を止めに行くが」
なのでもう一つの方法を選ぶことにする。それは相手をボコボコにして一度心を折るというもの。
オーバードの強すぎる力に酔っている相手をボコボコにして心を折りつつ、そのカードの強い所と弱い所をそれぞれしっかりと理解させることで目を覚まさせるのだ。
オーバードは確かに強いが、それだけで勝てるカードではない。それを理解させて正しい使い手へと導き浄化する。
学生時代の赤尾に負けたことはあまりないが、今のこいつはプロデュエリストとしてプロ同士で鎬を削り合っている身。はたして上手くいくかどうか……
ホールスタッフを呼んで料理の注文とスタンディングデュエルスペースを使いたいことを伝えると、そのまま中央のステージの上へと案内される。
これからスタンディングデュエルが始まることがスタッフによってアナウンスされ、周囲の客の視線が集まる。
赤尾はマスクだけ外し、準備運動をしている。
スタンディングデュエルはそれなりに体力を使うし派手に吹っ飛ぶこともあるから、デュエルの前に準備運動をする人は珍しくない。
「楽しいデュエルにしよう!」
「さっさと終わらせよう」
デュエルディスクのマスターデュエルモードを起動。
デュエルの前に今回持ってきたデッキを確認しておく。たまに入れた覚えがないカードがデッキに紛れ込んでいるからな……押入れの奥の金庫の中に収納しているのにいつの間にか飛び出しているやつもいるから困る。
お互いにデュエルディスクを構え、対戦を申請、承認する。
デュエルディスクのディスプレイに表示されるデジタルのコイントスの結果は……俺が先攻だ。
先攻制圧できるほどの展開力がないこの世界の遊戯王では先攻が有利とは限らない。
先攻で攻撃力2000以上を立てるのが一般的には中々難しいこととされており、それに対して後攻は攻撃力2100の『サイバー・ドラゴン』で殴れたりするからだ。
まあ俺のデッキは罠多めだから普通に先攻の方が嬉しいけどね。
「「デュエル!」」
最初の手札は……まあまあかな。
「『クリバンデット』を召喚」
光の中から黄色いバンダナと眼帯が特徴的な一頭身の毛むくじゃらが現れる。そして直ぐに消えることになる。
「カードを3枚伏せてエンドフェイズへ。そしてエンドフェイズにクリバンデットの効果を発動。自分のデッキの上からカードを5枚めくり、その中から魔法・罠カードを1枚選んで手札に加える。残りは全て墓地に送る……俺は『波紋のバリア-ウェーブ・フォース』を手札に加える」
クリバンデットが俺のデッキの上から五枚のカードをささっと抜き取り、その内の一枚を俺の手札に加えると、残りのカードと一緒にクリバンデットは消滅した。
本来めくって墓地に送ったカードは公開情報だが、スタンディングデュエルでは物理的に距離が遠いのもあって非公開情報である。
かなりいいカードが落ちてくれた。クリバンデットはいつもいい仕事をしてくれる。
「出たなウェーブ・フォース……!」
赤尾は中学生の頃、そこそこの規模の大会の決勝戦で俺とぶつかった時、このウェーブ・フォースに引っかかって俺に敗北している。
必要以上にモンスターを攻撃表示にしてはいけない。いわゆるミラフォケアというやつを怠った結果である。
「俺はこれでターンエンド」
フィールドにモンスターはいなくなってしまったが、手札と墓地リソースは確保できた。
当たり前のように1ターンで8000ライフが消し飛ぶ前世のOCGとは異なり、この世界のデュエルでは1ターンで4000ライフを削り切ることさえかなり珍しいので壁が無くても基本的には耐えられる。
しかし相手のデッキはフォーミュラアスリート。上手く回れば攻撃力3000を超えるモンスターが並ぶテーマだ。
プロデュエリスト相手に手札事故は基本的に期待できない。丁寧に妨害していこう。
「私のターン! ドロー!」
この世界におけるデュエルの強さとは、デッキ構築やデュエルタクティクスだけでなく、引きの強さも含まれる。
こういう場面では大体伏せカードに対処できるカードを引かれる。
「私は『
大きな後輪を持つ未来的なデザインのバイクに跨った男が光の中から飛び出し、空中でポーズを決めてから着地する。
元々の攻撃力は0だが、レベルに応じた攻撃力上昇効果を持つのがフォーミュラアスリートの共通効果だ。
レベル1につき攻撃力が300アップ。こいつのレベルは4なので現在の攻撃力は1200となる。
「レースにはコースも必要だよね。フィールド魔法発動、『
ソリッドビジョンがステージの上から客席にまで伸びているコースを出現させ、その上にウィップクロッサーが飛び乗る。
「ウィップクロッサーの効果発動! 「F.A.」魔法・罠カードの効果が発動した場合、このカードのレベルを1つ上げる! どんどんギアを上げていくよー!」
【ウィップクロッサー:レベル4→5】
緩い条件でどんどんレベルが上がってゆく。フォーミュラアスリートを相手にするときは勢いに乗らせてはならない。だが焦ってもいけない。
「ここで『ダブル・サイクロン』を発動! 対象はサーキットGPとその伏せカード!」
やっぱり除去札を引いていたか。お互いの魔法・罠を一枚ずつ破壊する癖のあるカードだが、フォーミュラアスリートではそれがメリットになり得る。
「では破壊される前にチェーンして『ゴブリンのやりくり上手』を発動する」
「む、ハズレかー」
「さっきのクリバンデットの効果でゴブリンのやりくり上手が一枚墓地に落ちているから2枚ドロー。そして手札を一枚デッキの下へ戻す」
こういうコンボは前世ではなかなか決まらなかったが、こちらの世界では結構決まる。
調子がいい日は手札にやりくり上手が三枚、そして『非常食』も来る。これが運命力というものか。
二つの竜巻の片方がコースを吹き飛ばし、もう片方がやりくり上手を吹き飛ばす。
コースの上にいたウィップクロッサーは華麗にステージの上に着地した。
フィールド魔法を破壊する時の演出は非常に派手だな。フォーミュラアスリートが相手だとこれを頻繁に見ることになる。
「破壊されたサーキットGPの効果を発動! デッキから『
【ウィップクロッサー:レベル5→6】
わざわざ使いやすい『サイクロン』じゃなくてダブル・サイクロンを採用しているのはこれが狙いだ。
フォーミュラアスリートはフィールド魔法を破壊することでサーチが行えるのだ。
勿論サーチ効果の発動に反応してモンスターのレベルも上昇する。
フィールドで発動して、破壊して更に墓地で発動。こうしてレベルをどんどん上げていくのがフォーミュラアスリートだ。
「ハイパー・スタジアムを発動! 発動時の効果処理でデッキから『
【ウィップクロッサー:レベル6→7】
今度は景色が未来感溢れるスタジアムになる。店の客も巻き込んでフィールドが次々と貼り替わることになるので、他の客は食事にもデュエルにも全然集中できないだろう。
カーナビゲーターが手札に加わったならそろそろだな。無効を構えられる前に罠を使わせてもらう。
「手札のカーナビゲーターちゃんの効果発動! ウィップクロッサーのレベルを吸収してレベル3にして特殊召喚! そして特殊召喚成功時にも効果発動!」
【ウィップクロッサー:レベル7→4】
【カーナビゲーター:レベル1→3】
「それにチェーンして罠カード発動、『激流葬』だ」
「うげっ!? なら更にそれにチェーンして速攻魔法、『
傘を持ったホログラムの小さな女性が姿を現したその直後、突然の激流があらゆるものを押し流す。
ホログラムは掻き消え、バイクも流されてどこかへと消えていった。
お互いのモンスターを一掃してしまう強力なトラップだ。こうして相手にだけ大損害を与えると気分爽快である。
本当はもっと待ってから発動したいカードなのだが、フォーミュラアスリートには魔法・罠カードを止められるシンクロモンスターがいるので、そいつが出てくる直前に発動させてもらった。
「私のモンスターが……でも伏せカードは残り一枚! カーナビゲーターちゃんの効果でデッキから『
まだまだ動いてくる。残りの手札でどこまで動いてくるかだな。
「手札のオフロードGPを見せて、ライフを1000払ってハイパー・スタジアムの効果を発動! このターンもう一度フォーミュラアスリートを召喚できる! 出てきて『ハングオンマッハ』!」
タイヤが無く宙に浮いている青いボディのバイクに乗った男が光の中から猛スピードで飛び出し、スタジアムをぐるりと一周。観客に手を振るファンサービスも忘れない。
「スタジアムから飛び出すよ、オフロードGPを発動! メインフェイズの間、フォーミュラアスリートモンスターのレベルは2つ上がる。そして魔法発動でハングオンマッハは更に加速してレベル7に!」
【ハングオンマッハ:レベル4→6→7】
この瞬間、ハングオンマッハの永続効果が適用される。レベルが7以上の時、相手の墓地に送られるカードが全て除外されるようになるとんでもない効果だ。
しかもハングオンマッハは自分のレベルよりもレベル・ランクが低い相手モンスターが発動した効果を受けない耐性を持つ。
この時点で相当ヤバいが、赤尾の展開は止まらない。
「アーゼウスを使う前に終わっちゃうかもね。フィールドにレベル7以上のフォーミュラアスリートが存在する場合、このカードを特殊召喚できる!」
更に手札から現れたのは闇属性の黒いマシン。
初めからレベル7の特殊召喚モンスターが闇を切り裂き姿を現す。
「ゴー! 『
【ダークネスマスター:レベル7→9】
「それを通すわけにはいかない。チェーンして罠カード、『
「そっちも妨害だったかー……」
それを通すと一番厄介な『シティ
効果が無効になったダークネスマスターの攻撃力が0になる。
攻撃力が自身の効果に依存しているフォーミュラアスリートモンスターは効果を無効にされると致命的な隙を晒してしまうのだ。
「仕方ない、このまま突っ走るよ! バトル!」
【ハングオンマッハ:レベル7→5】
【ダークネスマスター:レベル9→7】
「バトルフェイズ開始時に墓地の『光の護封霊剣』を除外して効果を発動。このターン直接攻撃はできない」
「ありゃ」
三本の光の剣が俺の前に浮遊し、ハングオンマッハが急ブレーキをかける。
墓地で効果を発動できる罠カードはこの世界ではかなり珍しい。
前世のOCGだと当然のように墓地に行ってからも魔法・罠が仕事しまくっていたっけな……
「カードを一枚伏せてターンエンド。凌がれちゃった」
とんでもない手札だったな。下手したら1ターンでライフが消し飛んでいた。
手札もその分大量に消費しているが、フォーミュラアスリートのカードには墓地で発動できる効果を持っているものも多い。
「俺のターン、ドロー」
お、こいつが来たか。
「俺は手札の『天獄の王』の効果を発動。このカードを相手ターン終了時まで手札から公開し続ける」
「へー、見せるだけなんて珍しい効果だね」
前世のOCGでは罠デッキやリバースデッキでよく見かけた天獄の王だが、この世界のこいつはオーバードである。
故に非常に希少なカードであり、俺以外の使用者にはまだ出会えていない。
「『ゼンマイラビット』を召喚。カードを二枚伏せてターンエンド」
「むむむ、片方は忌まわしきウェーブ・フォース……多分こっち! 速攻魔法発動、『
シェイクダウンまで持っていたのか。しかし伏せカードを狙うのなら何も問題はない。
「ハングオンマッハを守備表示にして、そっちの伏せカードを破壊! ……あれ、破壊できない?」
「天獄の王の効果だ。このカード自身の効果でこのカードが公開されている間、フィールドの裏側表示カードは効果では破壊されない」
「ええー!? 先に言ってよー!」
【ハングオンマッハ:レベル5→6】
【ダークネスマスター:レベル7→8】
相手のカードの効果を確認できないスタンディングデュエルあるあるの一つ。破壊できないカードを破壊しようとしてカードを無駄にしてしまうやつだ。
こういうことがあるのでカードの情報は必要以上に出さない方がいい。
「厄介な……私のターン! ドロー!」
一見すると赤尾が手玉に取られているような試合展開だが、実際はそうではない。
こちらは攻撃力が不足しているのに対して向こうは展開力も攻撃力もどちらも優れている。このままではこちらのリソースが尽きて押し切られる。
「んー、先にドローしておこうかな。手札から速攻魔法、ピットストップを発動! ダークネスマスターのレベルを2つ下げて墓地のピットストップの数+1枚ドロー、2枚ドローだ!」
【ハングオンマッハ:レベル6→8→9】
【ダークネスマスター:レベル8→10→8→9】
うわ、引きが強い。
カードも強いし本人も強い。このターンを乗り越えられるか少し怪しくなってきた。
「このカードは……よし! オフロードGPを対象にダークネスマスターの効果を発動、レベルを3つ下げてオフロードGPを破壊! そしてオフロードGPの効果でハイパー・スタジアムを手札に!」
【ハングオンマッハ:レベル8→6→7】
【ダークネスマスター:レベル9→6→4→5】
先に墓地のピットストップやシェイクダウンの効果を使うと思ったのだが、赤尾はそれをせずに何かの準備を進めているようだ。
「どっちがウェーブ・フォースかわからないし、破壊もできない。そういう時はどうすればいいのか……答えは簡単! 攻撃の前に全部まとめて墓地に送ればいい!」
「何を……」
「速攻魔法発動、『エクシーズ・アライン』! 宣言するレベルは12!」
「!? まさか……!」
エクシーズ・アライン……確かモンスター2体のレベルを宣言したレベルにできる速攻魔法。
名前の通りエクシーズ召喚をサポートするカードだが、フォーミュラアスリートなら二体一気にレベル12にして攻撃力を3600に引き上げることも可能であり、相性の良いカードと言える。
だが赤尾の発言からしてこのレベル調整の目的は攻撃力上昇ではなく──
【ハングオンマッハ:レベル7→12】
【ダークネスマスター:レベル5→12】
「レベル12のハングオンマッハとダークネスマスターをオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」
ハングオンマッハとダークネスマスターが光の玉となって空中に出現した渦の中へと飛び込んでゆく。
「エクシーズ召喚! 神の名を冠し、神をも殺す最終兵器! 起動せよ、『
視界を真っ暗な宇宙と輝ける星々が埋め尽くす。
遠くから閃光と稲光を迸らせながら猛スピードで何かが接近して来る。
「……すげぇなソリッドビジョンって」
それは金属の体を持つ巨人。すなわち超巨大人形ロボット。
距離が近づくほどに徐々に明らかになるその巨大さと威圧感につい後退りしてしまう。
明らかに店に入りきるサイズではないが、そこはソリッドビジョンが背景を宇宙にすることで上手く誤魔化しているようだ。
突然宇宙空間に投げ出された周りの客ももう食事やデュエルどころではないようで、アーゼウスに圧倒されて声すら出せずにいる。
「メインフェイズ1に出してくるとはな……!」
「ビビるのはまだ早いよ! エクシーズ素材を2つ取り除いてアーゼウスの効果発動!」
2つのオーバーレイ・ユニットが肩の装置の中へと吸い込まれる。
パーツが変形し、掌と肩の砲門から紫色の稲妻が迸る。
「フィールドの他のカードを全て墓地に送る! 『
「チェーンしてゼンマイラビットの効果を発動! 更にチェーンして『針虫の巣窟』を発動!」
墓地に送られる前にゼンマイラビットを逃し、罠カードも発動してデッキの上からカードを5枚墓地へ送る。
落ちたカードは……よし、このターンさえ耐え凌げばなんとかなりそう。
アーゼウスから解き放たれた閃光が星々を薙ぎ払う。
ゼンマイラビットは姿を消し、それをギリギリで回避。俺のすぐ横を極太の熱線が通り過ぎた。怖……
罠カードが全て吹き飛ばされ、フィールドに残ったのはアーゼウスのみ。
このリセット能力こそアーゼウスの力。しかも今はまだメインフェイズ1。ここから展開してバトルフェイズに入られてしまう。
だがその前に、俺の手札から戦局を見守っていた王が動き出す。
「手札の天獄の王の効果を発動! この効果はセットされた魔法・罠カードが発動した場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する!」
ズシンズシンと大地を踏み鳴らす音と共に、俺の背後からアーゼウスにも劣らない巨躯を持つ巨人が姿を表す。
大きな翼を広げ、俺たち二人を挟んでアーゼウスと向かい合う天獄の王。奇しくも両者共に攻撃力・守備力3000である。
「このカードが手札で公開されている状態でこの効果を発動した場合、さらにデッキから魔法・罠カード1枚を自分フィールドにセットできる。『バージェストマ・マーレラ』をセットする」
「ただ見せてたわけじゃないってことね。墓地のピットストップを除外して効果発動! 墓地のフォーミュラアスリートモンスター1体を特殊召喚する! 再び発進、ダークネスマスター!」
宇宙空間を背景にダークネスマスターが再び姿を現す。
フォーミュラアスリートの魔法・罠には墓地で発動できる強力な効果が多い。
手札を使い切ってもフォーミュラアスリートは止まらない。
「フィールド魔法、ハイパー・スタジアムを発動! 発動時の効果処理で『
【ダークネスマスター:レベル7→8】
ドリフトしながら現れた俺が知る限り最後のフォーミュラアスリート下級モンスター。
一枚ずつの採用ならそろそろデッキのモンスターが尽きてくるはずだが、尽きたところで墓地から回収する手段はあるからな……
「墓地のシェイクダウンを除外して効果発動! ハイパー・スタジアムを破壊してデッキからフォーミュラアスリートモンスターを特殊召喚! いでよ、『
【ダークネスマスター:レベル8→9】
【ソニックマイスター:レベル4→5】
大きなタイヤのバギーカーがスタジアムの残骸を踏み越えて現れた。
俺の知る限りメインデッキに入る最後のフォーミュラアスリートモンスターだ。こいつは元々のレベルが6となっている。
「墓地のカーナビゲーターちゃんの効果発動! ダークネスマスターを対象にして、レベルを吸収して墓地から特殊召喚! 特殊召喚したカーナビゲーターちゃんの効果でデッキからサーキットGPを手札に!」
【ダークネスマスター:レベル9→7】
【カーナビゲーター:レベル1→2】
「サーキットGPを発動! そして直ぐにダークネスマスターで破壊! 破壊されたサーキットGPの効果でシティGPを手札に!」
【ダークネスマスター:レベル7→8→5→6】
【ソニックマイスター:レベル5→6→7】
【ターボチャージャー:レベル6→7→8】
レベルが変動しすぎて混乱してきた。昔から思っていたがよくあのデッキをミスせずに回せるな……
「レベル7、ソニックマイスターにレベル2、カーナビゲーターちゃんをチューニング!」
ソニックマイスターが七つの光の玉に、カーナビゲーターが二つの光の玉となって直線に並ぶ。合計レベルは9!
「シンクロ召喚! 希望を乗せて走れ! 『
大きなクレーンとアームを搭載した大型トレーラーが光の中から現れる。
流石にアーゼウスと比べたら小さいが、横に並んでいるダークネスマスターと比較すると車両としてはかなり巨大である。
「シティGPを発動! こうなればホームトランスポーターは簡単には止められないよ!」
【ダークネスマスター:レベル6→8→9】
【ターボチャージャー:レベル7→9→10】
【ホームトランスポーター:レベル9→11→12】
ホームトランスポーターはレベル11以上の時、戦闘・効果で破壊されなくなる耐性を得るモンスター。
そしてシティGPはメインフェイズ及びバトルフェイズの間、フォーミュラアスリートモンスターのレベルを2つ上げつつ対象耐性を与えるフィールド魔法。
この二枚が揃えばほぼ無敵と言っても過言ではない。除去手段が限られているこの世界だと本当に無敵に近いのだ。
「これで終わりじゃないよ! 手札からペンデュラムモンスターカード、『ライブラの魔法秤』をペンデュラムゾーンに発動! そしてレベル5を宣言してホームトランスポーターとダークネスマスターを対象にペンデュラム効果発動!」
フィールドに顔のついた金と青色の天秤が現れ、ゆらゆらと左右に揺れる。
片方の皿の上には十二個の星が、もう片方の皿の上には九個の星が乗っている。
「ターン終了時までダークネスマスターのレベルを5つ下げて、ホームトランスポーターのレベルを5つ上げる!」
【ダークネスマスター:レベル9→4】
【ホームトランスポーター:レベル12→17】
皿の上からもう片方の皿の上へと五個の星が移り、天秤が大きく傾く。
ホームトランスポーターの攻撃力が5000を超えた。前世でも5000超えなんてあんまり見た記憶がないぞ。
でもこれで全ての手札を使い切った。墓地にあるカードの効果は全て把握している。奇襲を恐れる必要はなくなった。
「レベル13以上のホームトランスポーターは1ターンに1度、墓地のフォーミュラアスリートモンスターを復活させることができる! カーナビゲーターちゃんを再起動!」
【カーナビゲーター:レベル1→3】
チューナーのカーナビゲーターが再び墓地から蘇る。
狙いは恐らくレベル7のシンクロ!
「レベル4、ダークネスマスターにレベル3、カーナビゲーターちゃんをチューニング!」
ダークネスマスターが四つの光の玉に、カーナビゲーターが三つの光の玉となってホームトランスポーターの後部ハッチへと吸い込まれてゆく。
フォーミュラアスリートのストーリー的にはソニックマイスターとチューニングしてほしいところだが、まあ仕方ないか。
「シンクロ召喚! 稲妻の如く走れ! 『
【ライトニングマスター:レベル7→9】
ハッチから光が溢れ、そこからソニックマイスターの面影が残るマシンが勢い良く飛び出した。
素材に縛りがなく、汎用的な効果を持つが故にフォーミュラアスリートというテーマを知らないデュエリストにも採用されることがある優秀なシンクロモンスターだ。
「とんでもない盤面になったな……」
「久々のあんたとのデュエルでみんな張り切ってるみたい」
「カードが張り切るとかあるんだ……」
言われてみれば張り切り過ぎて金庫に入れておいたのに自力で飛び出してデッキに潜り込んで来るカードとかあったわ。
カードが拗ねて引きが悪くなるのは経験したことがあるし、カードの張り切り具合が引きの良さに影響することもあるだろう。
シンプルに硬くて強いホームトランスポーター。
魔法・罠を妨害するライトニングマスター。
地味に厄介な攻撃・効果の誘導効果と戦闘時の効果発動封じ効果を持つターボチャージャー。
エクシーズ素材を使い切ったが高打点のアーゼウス。
普通なら絶望的な状況だが、とりあえずこのターンはなんとか出来る。こちらも墓地を有効活用させてもらうぞ。
「バトル! ホームトランスポーターで……」
「墓地の『超電磁タートル』を除外して効果を発動。バトルフェイズを終了させる」
「またー!?」
2ターン連続で攻撃できなかったらそう叫びたくなる気持ちもわかる。
俺のデッキは頻繁にフィールドがガラ空きになるのでこの手のカードは多めに搭載されている。
墓地は第二の手札なんて言葉があるが、それならばクリバンデットや針虫の巣窟はある意味最強の手札補充と言えるだろう。
こいつら前世のOCGで一時期制限カードになったこともあるからな。まあそれは【シャドール】というテーマがあってこその話だが。
「次のターンのドローに賭けるつもり?」
「ドローに賭けることになるかどうかはお前のプレイング次第だな」
「? 私はこれでターンエンド」
【ターボチャージャー:レベル10→8】
【ホームトランスポーター:レベル17→15→10】
【ライトニングマスター:レベル9→7】
さて、ああは言ったがそれはそれとして良いカードは引いておきたい。
「俺のターン、ドロー。スタンバイフェイズにゼンマイラビットが帰還する」
アーゼウスの砲撃から逃げ延びたゼンマイラビットが除外から帰ってきた。
心なしか目の前の光景に緊張しているように見える。
【ターボチャージャー:レベル8→10】
【ホームトランスポーター:レベル10→12】
【ライトニングマスター:レベル7→9】
「まずはこれだな、墓地の『ギャラクシー・サイクロン』を除外してシティGPを対象に効果発動。そのカードを破壊する」
「む……」
対象耐性を付与しているフィールド魔法を宇宙の星々を呑み込む巨大な渦が破壊しようと迫る。
ライトニングマスターで無効にすることができるが、俺のフィールドには前のターンにセットした罠がある。無効にできるのはどちらか一つだけだ。
「んー……通すよ」
都市が薙ぎ払われ、豪快に破壊される。
妨害効果を温存したか。
「破壊されたからシティGPの効果を発動! 『
【ターボチャージャー:レベル10→8→9】
【ホームトランスポーター:レベル12→10→11】
【ライトニングマスター:レベル9→7→8】
「これを通したか……では罠カード、バージェストマ・マーレラを発動。デッキから罠カード1枚を墓地へ送る」
「それも通すよ」
「では『トランザクション・ロールバック』を墓地へ送る」
古代の節足動物のようなモンスターが現れて、俺のデッキからカードを抜き取って一緒に消滅した。
「ライフを半分支払い、墓地のトランザクション・ロールバックを除外して効果発動。俺の墓地の『ブレイクスルー・スキル』の無効効果をコピーする。対象は……ホームトランスポーターでいいか」
「それはまずい! ライトニングマスターの効果を発動! レベルを2つ下げてその効果の発動を無効にする!」
【ライトニングマスター:レベル8→6】
フォーミュラアスリートモンスターの攻撃力は自身の効果に依存している。
それが無効になれば攻撃力0のモンスターが棒立ちしている状態になってしまう。
赤尾は既にハイパー・スタジアムのコストでライフを1000失っており、残りライフは3000。
攻撃力3000の天獄の王がいる状態で攻撃力0を晒せばどうなるか。答えはワンパンで即死だ。
「それじゃあ墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外して効果発動。ホームトランスポーターの効果をターン終了時まで無効にする」
「なっ!?」
「この罠カードは自分のターンなら墓地から除外しても効果を使える。覚えておくんだな」
ホームトランスポーターのエンジンが異音を発して停止し、アームが力なく垂れ下がる。
「シティGPがなくなったことで対象耐性を失い、ターボチャージャーのレベルが天獄の王を下回ったから攻撃誘導効果も効かない。ギャラクシー・サイクロンをスルーした時点で詰みだったんだよお前は」
「そんな……」
「ギャラクシー・サイクロンを止めていたらブレイクスルー・スキルは対象に取れないから使えなかった。その時は墓地のゴブリンのやりくり上手をコピーする予定だった。今俺の墓地にゴブリンのやりくり上手は三枚あるから四枚ドローできる」
「お前のプレイング次第っていうのはそういうことか……」
「結果論ではあるが、攻め急ぎ過ぎたな。バトルフェイズに入る。天獄の王でホームトランスポーターに攻撃」
天獄の王の巨大な掌が上空から迫り、ホームトランスポーターを鷲掴みにする。
軽々と大型トレーラーを持ち上げた王はそれを天高く掲げ、容易く握り潰した。
爆発と共に外れたタイヤが火を纏い、まるで流星のように降り注いで──
「ぎゃんっ!?」
そのうちの一つが赤尾の脳天に直撃。
ライフを3000失い、0となったことでデュエルが終了した。
「対あり。どれだけ頑張って展開して盤面を構築しても、ふとしたことで一瞬で崩れて終わってしまうことがある。それがデュエルというものだ」
「対戦ありがとう……強いデュエリストと沢山戦って強くなったと思ってたのに、またあんたに負けちゃったよ~……」
「強くなっているのは間違いないと思うぞ。フォーミュラアスリートってあそこまで展開できるものなんだな」
モンスターたちが消え、店内に広がっていた宇宙空間も元に戻る。
客の歓声と拍手が店内に響き渡っている……よく見たら店のシースルーウィンドウの外にも見物客が大勢いるし、店のホールどころかキッチンのスタッフまでデュエルを見にホールに集まっていた。仕事しろ。
項垂れていた赤尾だが、顔を左右に振って直ぐに笑顔を見せた。
「楽しかったよ! 私も墓地から奇襲ができるカードをデッキに入れてみようかな」
「それなら『名推理』も入れるといいかもしれないな……ずっとステージに立ったまま会話するのもあれだな。席に戻ろう」
直ぐステージから降りて席に戻る。
赤尾はいつものノリなのか客に手を振ってからゆっくりと席に戻って来た。
「ふう、沢山動いたからもうお腹ペコペコだよ~」
「料理の提供まで少し時間がかかるってさ。ワインだけ来ているが飲むか?」
「飲む!」
流石に圧勝とはいかなかったが、アーゼウスを出させた上で勝利することができた。
後はアーゼウスの使い方をレクチャーして、できれば後で遊灯くんと会わせてオーバードの影響を受けていないか確認してもらおう。
……
…………
………………
「~つまりアーゼウスはエクシーズ素材を使い切れば基本ただの壁でしかなくて……」
「ふむふむ」
……
…………
………………
「~だからこうして間に別のエクシーズモンスターを挟んで素材数を増やせばアーゼウスの効果を二回使えるように……」
「そんなテクニックが……」
……
…………
………………
「~ダイレクトアタックしやすいエクシーズモンスターか、戦闘破壊されないエクシーズモンスターを利用することで……話聞いてるか?」
「ん~? 聞いてる聞いてる~……えへへへへ……」
「……もしかして酒に弱いのかお前?」
「いやいや~全然酔ってないよまだまだ飲めるって~……グビグビ」
「ああもうダメだこれ。おい待てグラサンを外そうとするな」
……
…………
………………
「あ、師匠! ……って、引きずられてる!?」
「おお、遊灯くんと
「ええ……」
「うわ、酒くせぇ!?」
店を変えて飲み直そうと言ってとてつもない怪力で俺のことを引きずってゆく赤尾。
デュエルマッスルとでも言うべきか、その細い体のどこにこれだけの筋力が宿っているのだろうか。
そして引きずられている最中、偶然遊灯くんとその友人である九朗くんと遭遇したので助けを求める。
「ん~? 師匠? 君、この人の弟子なの?」
「あ、はい……あの、さっきの師匠とのデュエル見てました! それで思ったんですけど……もしかして、リアウィングですか?」
「!?」
「あ、バレちゃった? ちょっと派手にやり過ぎちゃったかな~?」
そう言ってサングラスとマスクを外してにへらと笑う赤尾。
「あっさり認めてんじゃないよおバカ!」
「すげー、本物のリアウィングだ……!」
「俺、リアウィングさんの大ファンなんです! サインください!」
「いいよ~、うまく書けるかわかんないけど」
こうして二人のデュエルディスクには線がへにゃへにゃのリアウィングのサインが施されることとなった。
その隙に離脱した俺は自宅に逃げ帰り、めちゃくちゃ疲れていたのでそのまま眠りに就いた。
後で遊灯くんに確認してみたが、赤尾はデュエル中はオーバードの影響を僅かに受けていたが、俺とのデュエルの後、その影響から完全に解放されていたらしい。
なんだかんだで目的は達成したし、これにて一件落着ということで……
『○○の××で凄いデュエルをしている人を見た!【動画】』
『F.A.モンスター使ってるし、もしかしてサングラスの人リアウィングだったりする?』
『○○ってリアウィングの出身地じゃね?』
『女の人がリアウィングだとしたらそれに勝ったおっさんは何者なんだよwww』
……暫くSNSは見ない方がいいかな。うん……
もっとデュエルを長引かせる予定でしたが、文字数が二万字を超えそうになったのでサクッと終わらせました。これでも短くなっています。
デュエルを真面目に書くととんでもない文字数になってしまって書くのが大変かつ読みづらくなってしまうので、ダイジェスト気味にした方がいいのかもしれない。
主人公の手札不足解消のために最初はモルガナイトを使わせる予定でしたが、二回攻撃と戦闘ダメージ二倍がライフ4000だと強すぎる問題に直面したので今回はモルガナイト無しになりました。
代わりに墓地肥やしをさせてみたら今度は墓地から無限に壁とカードが生えて来る人になっちゃいました。墓地効果持ちの魔法・罠って革命だったんだなって書いてて思いました。
次の話はまだ考えていません。丁度良い感じの強さのデッキを誰か教えてください。
『マスタールールとスピードルール』
この世界のマスタールールはライフポイントが4000であること以外殆ど現在のOCGやマスターデュエルと一緒のルール。
この世界では最も一般的なルールであり、特筆すべきところはない。シンプルイズベスト。
この世界のスピードルールはLP4000、メインデッキの枚数は20~30枚、エクストラデッキの枚数は10枚まで、初期手札は4枚、メインフェイズ2なし、メインモンスターゾーン&魔法・罠ゾーンが3つずつとなっている。
名前の通りちょっとした時間で遊べる、素早く終わらせられるルールとして広まりつつある(ぶっちゃけライフポイントに差が無いのでそこまで変わらない)
エクストラモンスターゾーンの位置の関係上、リンクマーカーが何もない虚空を指してしまったり、ペンデュラムゾーンにペンデュラムカードを置くと魔法・罠ゾーンがものすごく狭くなったりするので注意が必要。
最大の特徴はスキルの存在であり、デュエル中に一度、特別な効果を使用できる。(スキルによっては複数回発動するものがあったり、デュエルが始まる前から適用されるものもある)
公式から販売されているスキルカードを購入したり、特定の条件をデュエルで満たしたりすることでスキルがアンロックされる。
スピードルールで遊び続けると、プレイヤーの癖やプレイングをデュエルディスクのAIが読み取り、そのプレイヤーだけのオリジナルスキルを生み出すという噂がある。
スキルの存在もあって独特な魅力があり、スピードデュエル専門のデュエリストも少なくない。
「なんか使ったことないのにペンデュラム関係のスキルばっかり生えてくるんだが?」
以下、今後一切活用されることのない裏設定です。
『負けたら奢りの真剣勝負!? 師匠VSリアウィング』
遊戯王ULT第○話。
遊灯が九朗に呼び出されて向かった先で見たものは、なんと師匠と変装しているリアウィングのデュエルだった。
師匠とプロデュエリスト、尊敬する二人がぶつかり合う。はたしてどちらが勝利するのか?
お互いに次々と墓地から効果を発動するデュエルに視聴者が墓地とは一体何なのかと困惑することになる回。
『リアウィング』
本名は『赤尾 燈』。
初登場前から度々名前と顔だけ出ていた女。
話題沸騰中のプロデュエリスト。攻めっ気が強く、度々攻撃反応罠に引っ掛かったり過剰な盤面を作って逆にピンチに陥ることもあるが、なんだかんだで最後には勝つ確かな実力の持ち主。
なんとかして幼馴染をプロの世界に引き込もうとしている。
ウジャト編では遊灯と関わることがあまり無かったので出番も少なかったが、全国編にて行方不明になった幼馴染を探すために遊灯に協力する。
自分に勝てなければ師匠にも勝てないと遊灯に数々の試練を与えつつも、いなくなった師匠の代わりに遊灯を導く第二の師匠として活躍する。
試練を乗り越え、精霊界へ向かう遊灯にアーゼウスを託した。
使用デッキは【
レベル12を超えるカードの使い手であり、登場人物から度々驚かれている。レベルが20を超えたことも。
後に配信された遊戯王のソシャゲでは専用のレベル変動スキルを携えて実装されたが、ハングオンマッハのレベルを上げるのがシンプルに強すぎて後にスキルが弱体化された。
『謎のおじさん』
リアウィングの幼馴染。
プロデュエリストにも劣らない実力を持つ一般社会人。
ドローで手札を増やすよりもランダム墓地肥やしで墓地リソースを蓄える方がなんか上手くいくらしい。
当時の視聴者からネタ扱いされていた針虫の巣窟を逆転のキーカードへのアクセス手段として度々活用している。
後に配信された遊戯王のソシャゲでは専用のランダム墓地肥やしスキルを携えて実装されたが、相性が良いカードが増えすぎて後にスキルが弱体化された。
『???』
師匠が押入れの奥に封印しているカードたち。
気が付いたら増えたり脱走したりしている。全然封印できていない。
アニメ本編にて度々師匠の手札に入っているのが確認されている。
テキストの文字が小さすぎて中々解読が進まなかったが、最終的に判明した全文にはライフが4000しかないアニメ世界ではあまりにも強すぎる効果がぎっちりと詰まっていた。
あまりにもシンプルすぎるデザインに加えてデュエルで一度も使用されることがなかったのでスタッフの遊び心だと思われていたが、劇場版遊戯王にて【
デッキ破壊VSバーンの地獄過ぎるデュエルは映画公開当時大きな話題となった。
◇「罪を検知……糾罪を開始します」