ただのデュエル好きが遊戯王が大流行している世界に転生してただデュエルをするだけ   作:葛饅頭

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PCを新しくしました。
その際初期設定やデータ移行に時間がかかり、投稿が遅れそうだったので今回は短い話にする予定でした。

なんか2万字になっちゃいました。


ライフ4000の世界で900バーンはダメに決まってんだろ

「ログイン完了っと」

 

 真っ暗だった視界が色を取り戻し、目に飛び込んでくるのは思い描いたような未来都市。車がタイヤを使わずに浮遊して走り、立ち並ぶ高層ビルはやたらと曲線が多い。

 そこらを歩いている人たちは顔や背丈は違えどその多くが同じような服を着ていたり、または統一感がまるでないコーディネートをしていたりと現実離れした光景が広がっている。

 

 現実離れした光景なのは当然で、ここは電脳空間の中である。

 

 ソリッドビジョンを見ればわかる通り、この世界の科学技術は非常に進歩している。車はまだタイヤで地面を走っているが。

 前世では夢の技術だったものがこの世界では広く普及しており、ソリッドビジョンのようなAR技術だけでなくVR技術もフルダイブという人類の夢の一つが既に実現しており、結構な値段はするものの、フルダイブVR機器は誰でも購入可能な身近なものとなっている。

 

 とはいえこの世界においてフルダイブは比較的新しい技術であり、ハードがあっても対応するソフトがかなり少ない。開発がすごく大変らしい。

 そこは未来に期待するとして、今俺がダイブしているのは『ラー・コーポレーション』が開発、運営している現在この世界で最も人気のあるソーシャルVRプラットフォーム、『デュエルリンク・バース』である。

 

 アバターを作って世界中の人と仮想空間内でコミュニケーションができるという非常にシンプルなものだが、名前にデュエルなんて入れているだけあり、デュエルでのコミュニケーションに特化した機能を備えている。

 デュエルディスクと連携して現実のデッキをこの世界に持ち込み、現実と同じようにデュエルを楽しむことが可能となっており、同じ目的を持つ人同士での素早いマッチングをサポートする機能や、近い実力を持つ人同士でデュエルできるようにするためのレートも備わっていたりと、快適なデュエルをサポートしてくれる。

 

 バイクに乗ってデュエルとか触れることができるモンスターに乗ってデュエルとか、フルダイブだからこそ可能な特殊ルールのデュエルも充実しており、世界中の幅広い層から支持を集めている。

 ……なんでバイクに乗ってデュエルするのがそんなに人気があるのだろうか? そもそもデュエルしながらバイクに乗る意味とは……?

 

 それとこちらの世界では最近発表されたばかりの新種族、サイバース族のモンスターやそれに関係するカードがこの仮想空間内のどこかに出現するというサプライズイベントが話題になっており、入手したそのカードの情報を運営に送ることでリアルの方でもそのカードが届いて、誰よりも早くそのカードをデュエルで使えるようになるキャンペーンも実施されている。

 サイバース族との出会いを求めるデュエリストによって現在デュエルリンク・バースは過去最高の盛り上がりを見せている。『I:Pマスカレーナ』とか探したら見つからないかな。

 

「ログインボーナスでガチャ回そ」

 

 俺のアバターはほとんど初ログイン時点のそれから変えておらず、どこかで見たことがあったような気がする赤いジャケットとゴーグル付きの赤い帽子を身に着けている。

 周囲を見渡せば同じような格好の人がそこそこいる。ゲーム内のミッションを進めることで色違いバージョンも入手可能なこの衣装だが、大抵の人はすぐにガチャやショップで入手できる別の衣装に着替えてしまうので、この衣装のままでいる人は大体の場合初心者かファッションに興味がない人かこのファッションをめちゃくちゃ気に入っている人ということになる。

 

「……お、SR……おじゃまイエローキャップ……?」

 

 被ってみた。

 メニュー画面から自分のアバターを確認してみると、真っ黄色の帽子の上から二つの目玉が飛び出していて、俺の動きに合わせてびよんびよんしていた。

 すぐに脱いで元の帽子に戻した。

 

 俺がほぼ初期アバターのままでいるのには別の理由がある。

 

 他人を視界の中心に収めて意識を集中させたり特定の操作をすることでその人のプロフィールを表示することが可能なのだが、この時ランクやレートまで表示される。

 俺はこのデュエルリンク・バースにおける最高ランクであるマスターランクにおり、レートも高い。ちょっと注意を向けられただけで簡単にランカーだとバレてしまうのだ。

 

 遊戯王があらゆる物事の中心となっているこの世界において、デュエルが上手いというのはそれだけで非常に注目を集める。

 プロデュエリストではないが非常に有名なデュエリストを指す言葉として『カリスマデュエリスト』なんて言葉があり、デュエルリンク・バースのマスターランクのデュエリストもカリスマデュエリストとして祭り上げられているのをよく見かける。

 

 承認欲求がないわけではないのだが、目立ちすぎるのは好きではない。なので目立たないようにありふれた格好として初期アバターを使い続けているのだ。

 名前も定期的に変更しており、あまり印象に残らないものすごく適当な名前を使っている。

 

 デュエルをする時も注目されづらい場所をフィールドに選んでいる。

 この未来都市サーバーだとビルの屋上のフィールドが物理的に下からは見えず、観客の数が制限されるのでよく利用している。

 

「んー、どうしようかな……」

 

 空中に出現させたメニュー画面から自分のデッキを確認する。

 スピードデュエル用のデッキにセットされている十種類の角張ったモンスターと、それをサポートする魔法・罠カードを眺めてため息をつく。

 

 いつもはデュエルを楽しむためにこの仮想空間にログインしているわけだが、今日は違う。

 今からしようとしていることはお互いに楽しむためのデュエルではない。ただの蹂躙だ。

 

 こいつらライフ4000のデュエルが基本の世界にいてはいけない性能をしていると思うのだがちゃんと正規のカードらしい。

 デュエルディスクもエラーを吐いたりせずにこいつらを受け入れている。工場で作られていない謎の原理で増えたカードであってもデュエルディスクはそれを正規のカードとして認識する。認識しちゃダメだろ。

 

 こいつらとの出会いは半年ほど前、明らかに様子がおかしい推定オーバードに呑まれた男とのデュエルだった。

 裏側守備表示で次々とモンスターが並んでゆく光景に戦慄したのを覚えている。

 幸いその時はまだカードが揃っていなかったようで、『ティンダングル』モンスターが並べられていただけだったので持久戦の末なんとか押し切れたのだが、そのデュエルが終了するのと同時に俺のデッキにそのカードが潜り込んできた。

 

 オーバードはどれも高いカードパワーを持っているものだが、その中でもこいつらは前世で言うところの第13期のカードであり、こいつらをフル活用すれば間違いなくプロデュエリストが相手でも蹂躙できる規格外のパワーを持っている。

 しかも効果ダメージを与えるテキストを持っており、ライフ8000のOCGを基準としてもかなり高いその火力はこの世界では強火が過ぎる。こちらが支払うライフコストも実質倍の重さではあるものの、それ以上にバーンダメージ実質二倍が強すぎる。

 

 この世界でこいつらを使ってデュエルしても自分も相手も面白くない。なので使うことなく押し入れの奥にしまっていたのだが、こいつら勝手にデッキに潜り込んできやがる。

 金庫に入れても脱出するし、使っていなくても勝手に仲間が増えてゆく。今ではモンスター十種と魔法四種にまで増殖している。ここからまだ増えるかもしれない。

 

 遊灯くん曰く今まで見てきたオーバードの中でも圧倒的な力を持っているとのこと。実際こいつらをデッキに入れているとそれだけでなんかこう、心が呑みこまれそうな感じがしてくる。他のオーバードは何枚もデッキに入れていても大丈夫なのに……

 一度試しにこいつらを入れたデッキで遊灯くんとデュエルしてみたところ、あまりにも一方的な展開に遊灯くんの心が折れかけたし、俺の精神が蝕まれてゆくような、自分が自分でなくなっていくような感覚がしたので即金庫に封印した。

 

 しかしそのまま放置していたら最悪の場合俺の家から脱走して他の人のデッキに潜り込む可能性がある。こいつらがフルに揃った状態で暴れられたらもう止める手段がない。

 そうならないようにガス抜きにたまにデュエルで使ってやらないといけない。その舞台として俺が選んだのがこのデュエルリンク・バースというわけだ。

 

 一般人相手にこいつらを使うのは刺激が強すぎる。デュエルがトラウマになりかねない。

 プロ級の実力の持ち主相手が望ましいが、そんな実力者をリアルで見つけてデュエルを挑むのは大変な作業だ。

 

 そのあたりこのデュエルリンク・バースはマッチング待機状態で待っているだけで自動的に対戦相手が見つかる。

 俺のレートなら相手も相応の実力者となるのでこいつらをぶつけても大丈夫だろう。多分……

 

 メニューからランクマッチを選択し、ルールはスピードデュエルに。デュエルフィールドはビルの屋上を指定しておく。

 相手が指定したフィールドになる可能性もあるが、まあその時はその時だ。

 

 お、さっそくマッチングしたぞ。相手は……『PLASM@配信中』?

 

 浮遊感と共に視界が切り替わり、先ほどまで見上げていたビルの屋上に着地する。

 どこまでも続いているように見える仮初の青空の下、フィールドの反対側に出現した対戦相手の女性アバターの人と顔を合わせる。

 んー? あの顔、どこかで見たことがあったような気がするぞ……?

 

「ハローハロー! 動画配信者として活動してる『PLASM(プラズム)』でーす! えー、『遠藤サイクロン』さん? 対戦よろし……ん?」

 

 やけにテンションが高い人が来たな……そして思い出した。そんな名前の動画配信者がSNSでバズっているのを見たことがある。半分炎上していたような気もする。

 これ配信されているのか? まあ直接顔を出しているわけじゃないし、またアバターと名前を変えればいいだけだから別に構わないが……

 

「……あー! やっぱり! 君、ここ最近話題になっている頻繁に名前と顔を変えている謎多き幻のカリスマデュエリストでしょ!? ラッキー! これはバズる大チャンス!」

 

「なんだ謎多き幻のなんたらって……」

 

「どんな姿になっても僕の目はごまかせないよ! 世間から注目されているカリスマデュエリストはほとんど把握しているからね」

 

 プラズムと名乗った彼女は配信のコメントに対応しているのか空中に出現している半透明のウィンドウに時々目を向けて何か喋っている。

 あのコメントの流れる速度からして結構沢山の人が配信を見ていそうだな……

 

「遠藤サイクロンさんは凄いレアカードを何枚も持っているという噂を耳にしてるんだけど、それは本当?」

 

「本当かどうかはデュエルで確かめればいいんじゃないですかね」

 

「否定はしないと。そこでなんだけど……」

 

 そう言ってプラズムはデュエルディスクから一枚のカードを引き抜く。

 距離が遠くて見づらいが、それは青い枠に赤い矢印が描かれているカード。リンクモンスターだとわかる。

 

「アンティルールでデュエルしない? これめちゃくちゃ盛り上がるんだよねー」

 

 アンティルール、即ちカードを賭けたデュエルが申し込まれたとウィンドウに表示される。

 賭けとは言ってもここは仮想空間であり、実物のカードをやり取りするわけではない。

 

 しかしこの世界ではカードの中にチップでも入っているのか知らないが、カードにその所有者が登録される仕組みになっている。

 カード一枚が十万円を超えることが珍しくない世界なのでカードの紛失や盗難対策にこういうのも必要なのだろう。

 

 なおパックを開けてレアカードが出た瞬間を狙う窃盗も存在するので注意が必要だ。

 遊灯くんもその手口でいじめっ子のクラスメイトにカードを奪われたことがあり、偶然俺がその現場を目撃してカードを取り返したのがきっかけで遊灯くんとデュエルをする仲になったのだ。

 

 話を戻して、デュエルリンク・バース内であってもアンティルールで敗北すれば賭けていたカードの所有権が相手に移ってしまい、リアルの方でもデュエルディスクがそのカードを読み込んでくれなくなる。

 勝利してカードを得た側はこの仮想空間内でそのカードを自由に使えるようになるが、リアルの方では当然実物のカードが無いのでデュエルで使用することはできない。

 また、敗北した側は勝利した側にリベンジする権利が与えられる。このリベンジは連続では行えないが、何度も拒むこともできない。リベンジに成功するか、リベンジに長期間応えない、又は拒み続けるとカードの所有権が戻る仕組みになっている。

 

 なんか色々と法律とかトラブルとか気になるルールだが、この世界はカードゲームに関しては変に甘いところがあったりするし気にしないでおこう。

 そんなことより気になるのがプラズムが賭けたカード。ウィンドウに表示されたそれは確かにリンクモンスターであり、リンクマーカーの数は二つ。そしてイラストには体が赤い稲妻でできている女性的な外見のモンスターが描かれていた。

 

「『スプライト・エルフ』……!」

 

 少なくとも前世の俺が死んだ時点でOCGでは禁止カードに指定されていた圧倒的パワーカード。

 その出しやすさに対して相手ターンにも使えてしまう蘇生効果に優秀な味方への対象耐性付与効果で暴れに暴れた過去を持つ。

 

 間違いなくオーバードの一枚だろう。それを賭けるとは……それだけデュエルに自信があるということか、或いはオーバードに既に吞まれていて絶対に負けるはずがないという全能感に支配されている状態か。

 もしもオーバードに呑まれているのであれば試してみたいことがある。

 

「……では、俺はこのカードを賭けます」

 

 今デッキに入れているカードではないが、登録はしてあるカードの中からレベル2のオーバードを探し出して賭けに出す。

 

「何このカード!? かわいー!」

 

「見た目は緩いけど効果はガチのカードですよ。『メルフィー』と名がつくカードを持っていないのならそれもセットで賭けます」

 

 俺が賭けに出したのは『メルフィー・ワラビィ』。召喚権を使わずに自力で場に出れて二枚に増える。シンプルなパワーカードである。

 エルフと釣り合っているかはわからないが、少なくとも相性は悪くない。

 

「メルフィーは持ってるけど効果の方は……強っ!? うんうん、これならオッケーオッケー。まあ僕が負けるなんてありえないから仮に『レオ・ウィザード』だったとしても構わないんだけど、それだと盛り上がりに欠けるからね」

 

 お互いに承認したことでアンティールールが成立する。

 その瞬間、お互いのデュエルディスクが力強く虹色の光を放つ。

 

「おおっ!? 何この光!?」

 

「仮想空間でもこうなるんだな……オーバード同士を賭けたデュエルはカードに宿る精霊の力が活性化する、それがデュエルディスクのあれこれに影響を与えてこうなるそうですよ」

 

「おーばーど? うわわ!?」

 

 更に光が強くなると周囲の空間にノイズが走り始め、真っ暗な穴が次々と開き始める。

 青かった空は様々な色が混じり合い混沌と化し、太陽がノイズに覆われ周囲が暗くなる。

 

「これは何!?」

 

「何これ知らない……怖……」

 

「知らないんかい!?」

 

 俺だって初めて見るわこんなの。仮想空間でオーバードの力を解放するとバグってこうなるのか……これバグがずっと残ってこの世界が壊れたりしない?

 

「多分精霊の力が仮想空間に干渉してどうのこうの……まあ、今更デュエルを中断することはできないようですし、さっさと始めちゃいましょう」

 

「な、なんかよくわからんが、取れ高なのは間違いなし!」

 

 お互いのデュエルディスクからカードプレートが生成される。

 向こうは色々とスキンを変更しているのか、デュエルディスクがやたらと派手だし謎のエフェクトが沢山出ている。ノイズが走っているのはスキンの演出なのかオーバードの影響なのか。

 

 コイントスの結果は……後攻か。相手がどんな盤面を作ってくるかだな。

 

「デュエル開始時に俺のスキル『新たなる悪徳と糾罪』が発動します。自分フィールドにペンデュラムゾーンが追加されます」

 

 俺のカードプレートの両端に追加でペンデュラムモンスターカードを置く専用の場所が出現する。

 ペンデュラムは魔法・罠ゾーンを圧迫する。特にスピードデュエルでは魔法・罠ゾーンが三つしか存在しないので、ペンデュラム召喚を主軸にするデッキはペンデュラムゾーンを追加するスキルを使わなければかなり動きづらくなる。

 

 【マジェスペクター】のような妨害を魔法・罠に頼るペンデュラムデッキや、魔法・罠ゾーンにカードが置きっぱなしになる装備魔法・永続魔法・永続罠などを使用するペンデュラムデッキは珍しくない。

 そういったデッキならペンデュラムゾーンを追加するスキルは必須になるだろう。

 

「ペンデュラムゾーンを追加するということはペンデュラムデッキか。初めて聞く名前のスキルだし、噂の専用スキルってやつかな? 他にも効果がありそうだね」

 

 ペンデュラムデッキなんて使ったことがないのにいつの間にか生えていたスキルだ。絶対にこいつらが何か悪さしている。

 

 向こうはデュエル開始時のスキルの発動は無し。デュエル中に発動するスキルをセットしているようだ。

 

 お互いにデッキからカードを四枚引く。デュエルディスクが優秀なのでマスターデュエルの癖でうっかり五枚引いてしまうような事故は起こらない。

 手札は……うん、張り切っているな。普通長いこと放置していたデッキは拗ねて引きが悪くなるものだが、こいつらは違うらしい。

 

「「デュエル!」」

 

 さて、相手は何デッキだ? エルフが入っているならレベル2を使いそうだが。

 

「僕のターン! 永続魔法、『Live☆Twin(ライブツイン) トラブルサン』を発動! このカードの発動時にデッキから『ライブツイン』モンスター1体を手札に加えることができる。『Live☆Twin(ライブツイン) リィラ』を手札に加えるよ!」

 

「サイバースか。珍しい」

 

「お、このカードを知ってるんだ? じゃあこれから何が起こるのかも知ってるよね? フィールド魔法発動、『Live☆Twin(ライブツイン) チャンネル』!」

 

 フィールドのあちこちにウィンドウが出現していくつもの動画のサムネイルが表示され、デフォルメされた赤と青の二人組の少女のイラストでフィールドが埋め尽くされる。

 

 【イビルツイン】は何度か前世で使ったことがあるデッキだが、このフィールド魔法は使ったことがない。

 なんかすごく微妙な効果をしていたのは覚えている。

 

「これで舞台は整った! リィラを召喚して効果発動、このカードが召喚・特殊召喚した場合に自分フィールドに他のモンスターが存在しなければ、手札・デッキから『キスキル』モンスター1体を特殊召喚できる! 出てこい『Live☆Twin(ライブツイン) キスキル』!」

 

 最初にフィールドに現れたデフォルメされたような頭身の低い青髪の少女リィラが、同じくデフォルメされたような容姿の赤髪の少女キスキルを連れてくる。

 

「更に手札の『Live☆Twin(ライブツイン) キスキル・フロスト』を特殊召喚! このカードは自分フィールドに『リィラ』モンスターが存在する場合に手札から特殊召喚できる」

 

 キスキルの隣にクリスマスと雪だるまをイメージしたコスチュームのもう一体のキスキルが現れる。

 もう一体のキスキルの登場に二人がコミカルなリアクションを見せる。

 

「さあさあやろうか! 開け僕のサーキット! アローヘッド確認。召喚条件はレベル2・ランク2・リンク2のモンスターを含むモンスター2体。僕はリィラとキスキル・フロストの2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!」

 

 空中に現れた外周に八つの矢印を持つ回路へ、リィラとキスキル・フロストが赤い光となって飛び込む。

 

「リンク召喚! 現れろリンク2、『スプライト・エルフ』!」

 

 回路の中から赤い稲妻と共に飛び出した小型の宇宙ステーションを思わせるパーツが次々と連結。

 赤い稲妻も一か所に集まって人の形となって白いコートを羽織り、その上からバックパックのように小型の宇宙ステーションを背負う。

 

 オーバードがフィールドに現れたことで更に精霊の力が強まったのか、空間に走るノイズが激しくなる。

 それだけでなく、プラズムから何か良からぬ禍々しさのあるオーラが漏れ出しているのが確認できる。

 

 あのオーラはオーバードに呑まれた人間の証。様々な条件が揃い、精霊の力がとても強くなると誰でも肉眼で認識可能になるらしい。

 

「カードの精霊の力に溺れている……仮想空間のデュエルでも救えるのかなあれ……」

 

「スプライト・エルフの効果発動! 自分の墓地のレベル2モンスター1体を対象にして、そのモンスターを特殊召喚できる! リィラ復活!」

 

 再びフィールドに現れるリィラ。

 効果を無効にすることなく相手ターンにも使える蘇生効果はやはり強力だ。

 

「まだまだ行くよ! 再び開け僕のサーキット! アローヘッド確認。召喚条件は『キスキル』モンスターを含むモンスター2体。僕はキスキルとリィラの2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!」

 

 再びリンク召喚が行われる。

 いつも思うんだけど召喚口上を毎回言うの大変そうだな。

 

「リンク召喚! 現れろリンク2、『Evil★Twin(イビルツイン) キスキル』!」

 

 悪魔の翼を広げ、ビルの壁を蹴って跳ね回るのは赤髪の裏社会のエージェント。

 フィールドに降り立ったキスキルの姿は先ほどまでのデフォルメされた姿とは異なり、普通の人間の頭身になっている。

 

 種族もサイバース族から悪魔族となっており、こちらが本来の姿ということらしい。あまり詳しい設定知らんけど。

 

「キスキルの効果発動! 自分フィールドに『リィラ』モンスターが存在していない場合、自分の墓地から『リィラ』モンスター1体を特殊召喚できる! 再びリィラ復活!」

 

 何度も墓地から引っ張り出されるリィラ。

 サメのぬいぐるみを抱きかかえている小さなリィラがフィールドに再び現れ、そしてキスキルと共にすぐにその姿を消す。

 

「リンク召喚は止まらない! 何度でも開け僕のサーキット! アローヘッド確認。召喚条件は『リィラ』モンスターを含むモンスター2体。僕はキスキルとリィラの2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!」

 

 これ少なくともあと一回はやるよな。毎回あんな大声を出していたら息切れしそうだ。

 ここは仮想空間だからそういうのは気にしなくてもいいんだろうけど。

 

「リンク召喚! 現れろリンク2、『Evil★Twin(イビルツイン) リィラ』!」

 

 続いて現れたのは暗い青髪のエージェント。こちらはリィラの本来の姿。

 リンク2のキスキルを素材に使用したがこちらもリンク2である。

 

「リィラの効果発動! 自分フィールドに『キスキル』モンスターが存在していない場合、自分の墓地から『キスキル』モンスター1体を特殊召喚できる! 仕事の時間だキスキル!」

 

 墓地から復活したのはイビルツインの方のキスキル。こうして二体のモンスターから特殊召喚を繰り返してリンク値を増やしていくのがイビルツインというデッキだ。

 

「蘇生したキスキルの効果発動! このカードが特殊召喚した場合、自分フィールドに『リィラ』モンスターが存在していれば1枚ドローできる!」

 

 開始時の手札が少ないスピードデュエルだとこのキスキルのドロー効果はかなり強力だな。

 この効果は当然相手ターンにも発動可能であり、往復で二枚ドローを狙うことができる。

 

「ふふん、僕の連続リンク召喚に驚いて声も出ないようだね? ならこいつを見て絶望するがいい!」

 

 再び空中に出現した回路にキスキルとリィラがそれぞれ二つの赤い光となって飛び込んでゆく。

 

「開け僕のサーキット! アローヘッド確認。召喚条件はリンクモンスターを含むモンスター2体以上。僕はキスキルとリィラの2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!」

 

 お、この召喚条件は……

 

「リンク召喚! 現れろリンク4、『破械雙王神(はかいそうおうしん)ライゴウ』!」

 

 どしんと大きな着地音と共にいくつもの鎖に繋がれた暗い毛並みの巨大なイヌ科らしき生物が現れる。沢山角が生えているけれどおそらく犬。

 別のテーマのモンスターだが召喚条件が緩めであり、悪魔族でイビルツインでも出せるので前世のOCGで一時期【イビルツイン】で使われていたことがあったモンスターだ。

 

 『トラブル・サニー』が出てこなかったが、温存しているのかそもそも持っていないのかはわからない。

 同じくイビルツインから出せる『トロイメア・グリフォン』が出てきていたらこのデッキだと少しきつかったのでライゴウで助かった。

 

「カードを1枚伏せてエンドフェイズへ。エンドフェイズにライブツインチャンネルの効果を発動、墓地のライブツインキスキルをデッキに戻すよ」

 

 そんな効果あったな……全てのモンスターがピン挿しだとすると結構重要な効果だなそれ。

 

「僕はこれでターンエンド。攻撃力3000のこいつを止められるかな?」

 

「俺のターン、ドロー」

 

 少しだけ手が震える。俺はただ楽しくデュエルがしたいだけなのに、なんでこんなリスクを背負ってデュエルをしなきゃいけないんだろうか……

 

「フィールド魔法、『糾罪都市ーエニアポリス』を発動します」

 

 本来は周囲の景色がカードに描かれている通りの未来都市になるフィールド魔法だが、この場所が既に未来都市のビルの上という特殊なフィールドであるためか、ビルの屋上全体にミニチュアの都市が出現する。ビルの上にビルが建つというダイナミック違法建築にはならなかった。

 あ、ミニチュアのビルの壁面にライブツインの広告が。相手のフィールド魔法と合体している……

 

「魔法カード、『糾罪巧(エニアクラフト)始導(リリース)』を発動。デッキから『糾罪巧』ペンデュラムモンスター1体を自分のペンデュラムゾーンに置きます。『糾罪巧β’(エニアクラフトデフテロ)-「alazoneIA(アラゾニア)」』をペンデュラムゾーンへ」

 

 ペンデュラムゾーンにカードが置かれた直後、上空に出現したのは巨大で細長い黄色の八面体。

 周囲にも複数の物体を浮遊させており、更にその上空には巨大な魔法陣のようにも見える光輪が浮かび上がっている。

 

 かなりの大きさであり、何もせず浮遊しているだけなのに凄まじい威圧感だ。プラズムも呆気にとられて上を向いたまま固まっている。

 

「ペンデュラムゾーンのアラゾニアの効果を900ライフポイントを払って発動。デッキから『糾罪巧』カードを3枚相手に見せ、相手はその中からランダムに1枚を選ぶ。その1枚を自分の手札に加え、残りをデッキに戻します」

 

「え、あ、じゃあこれで……」

 

【遠藤サイクロン:LP4000→3100】

 

 距離が離れているスタンディングデュエルなので相手は何を見せられたのかわからないまま、デュエルディスクに表示された三枚の裏側表示のカードの内一枚をタップして選択。それが俺の手札に加わる。

 

 ランダムサーチに見えて同じカードを三枚採用しておけば確定サーチになるタイプのやつだが、こいつら一枚ずつしか存在していないのでここは不安定となっている。

 まあこの世界だと運命力である程度補えるし、何が来ても強いからそこまで気にする必要はないが。

 

「『糾罪巧ϝ’(エニアクラフトエクト)-「tromarIA(トロマリア)」』をペンデュラムゾーンに発動します。そしてライフを900払って効果発動」

 

【遠藤サイクロン:LP3100→2200】

 

 今度は上空に青い八面体が出現する。

 これもかなり巨大で、二体の間に挟まれているとそのまま押し潰されてしまうのではないかと余計な心配をしてしまう。

 

 その気になればもっとサーチできるが、トラブルサンがある状態でこれ以上ライフを支払うのは少し怖いのでここまでにしておく。

 ギリギリまで削ったところで『リィラップ』とか使われても困るしな。

 

「手札の『糾罪巧(エニアクラフト)Archaη.TAIL(アークテイル)』を相手に見せて効果を発動。手札からモンスター1体を裏側守備表示で特殊召喚します」

 

「む、見せるだけで特殊召喚?」

 

 フィールドに裏側でカードが置かれる。

 この効果を発動するターン、自分は裏側守備表示でしかモンスターを特殊召喚できなくなるというとんでもない縛りが課せられるが、この効果は何度でも発動可能である。

 

「ようやくモンスターを出したね! ここでスプライト・エルフの蘇生効果を発動! この効果は相手のメインフェイズにも発動できる。そしてこの蘇生効果は相手のフィールドにモンスターが存在する場合、レベル2の代わりにランク2かリンク2を蘇生することもできるのだ! イビルツインキスキルを復活! そしてキスキルの蘇生効果も相手ターンに使うことができる!」

 

 光の中からキスキルが飛び出し、そこから続いてリィラも飛び出してキスキルが空中でキャッチ。空中でポーズを決めて、二人揃ってフィールドに着地する。

 

「リィラの効果発動! このカードが特殊召喚した場合、自分フィールドに『キスキル』モンスターが存在していればフィールドのカード1枚を破壊できる! あの黄色いやつをぶっ壊して!」

 

 プラズムの指示を受けたリィラがビルの上を次々と飛び移ってアラゾニアに迫る──

 

「──対象に取ったな?」

 

「!?」

 

 俺のフィールドの裏側守備表示のモンスターが表となり、その姿を現す。

 その瞬間、これまでの二体とはレベルが違う、大気を揺るがすような重圧が解き放たれる。

 

「自分フィールドのカードを対象とする効果を相手が発動した時、コストでこのカード、『糾罪巧(エニアクラフト)Astaγ.PIXIEA(アスタピクシア)』リバースして効果発動。その効果を無効にします。その後、相手の手札をランダムに1枚裏側で除外できます」

 

「裏側で効果を発動……!?」

 

 俺の背後に出現した白い八面体が赤い光を放ち、大きな音を立てて展開を始める。

 折り畳まれていた無数の尻尾が開き、無機質な八面体から狐のように見える姿へと変形。その直後、全身の砲門から赤い熱線が一斉に放たれ、周囲のビルや地面を次々と薙ぎ払ってゆく。

 

「モンスターがリバースする度にアラゾニアとトロマリアに糾罪カウンターを1つずつ置きます」

 

 二体の周囲に複数浮かんでいる八面体がそれぞれ一つずつ光を放つ。ああやって罪をカウントしているらしい。

 

「て、手札の『エフェクト・ヴェーラー』の効果を発動! そのモンスターの効果を無効に──っ!?」

 

 その瞬間、プラズムの手札を赤い熱線が焼き切る。

 

「アスタピクシアの永続効果。リバースしたこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手はフィールド・墓地のカードを効果の対象にできません」

 

「ええーっ!?」

 

 この効果は表になった瞬間から適用されるので、対象を取る効果では止めることができない。

 そしてこの効果は自分だけでなく相手のフィールド・墓地にも効果が及ぶ。

 

 展開する上で自分のカードを対象に効果を発動することは珍しくない。

 故にアスタピクシアは一度リバースすれば立っているだけでかなり厄介な妨害となる。

 

 リィラは間一髪で熱線を避け、倒壊するビルの瓦礫から瓦礫へと飛び移ってフィールドに舞い戻る。

 次々とビルが倒壊したり空が裂けたりしているんだけれども、これそういう演出だよね? 本当にデータを破壊しているわけじゃないよね?

 

「再び手札の『糾罪巧(エニアクラフト)Archaη.TAIL(アークテイル)』を相手に見せて効果を発動。手札からモンスター1体を裏側守備表示で特殊召喚します」

 

「その効果何度でも使えるの!? あ、ライブツイントラブルサンの永続効果! 自分フィールドに『イビルツイン』モンスターが存在する状態で相手がモンスターを召喚・特殊召喚する度に、自分は200回復して、相手は200ダメージを受ける!」

 

「いてっ」

 

【PLASM:LP4000→4200】

 

【遠藤サイクロン:LP2200→2000】

 

 一回分の回復とダメージは小さいが、回数に制限がない割と侮れない永続効果だ。

 前世の遊戯王だと気が付いたらこれだけで4000近いライフの差ができていることも珍しくなかった。

 

「もう一度発動、裏側守備表示で特殊召喚します。カードを1枚伏せてエンドフェイズへ」

 

【PLASM:LP4200→4400】

 

【遠藤サイクロン:LP2000→1800】

 

 さて、問題のバーン効果の時間だ。

 

「エンドフェイズにエニアポリスの効果発動。自分フィールドの糾罪カウンターを全て取り除き、相手はその数×900のダメージを受けます」

 

「カウンターの数は2つだから、1800ダメージ……!? 一回リバースされるだけでそんなにダメージ受けるの!?」

 

 それぞれの八面体から一発ずつ熱線が放たれ、極太の光がプラズムを呑みこむ。

 

「ぐわあああああああッ!!?」

 

【PLASM:LP4400→2600】

 

 かなり痛そうな悲鳴を上げながら吹っ飛んでいくプラズム。

 今のダメージの影響か全身にノイズが走っている。

 

 ライフポイント4000の世界でこのバーンダメージはやっぱり凶悪すぎるな……絶対に相手したくない。

 

「な、なに、コレ……痛い……!?」

 

「仮想空間なのにそれほどの痛みが? これもオーバードの影響か……」

 

 リアルでのオーバード同士を賭けたデュエルは物理的ダメージが発生する危険なものだったが、仮想空間内でもこうなるのか……これリアルの方の肉体もボロボロになっていたりはしないよな?

 

「負ける、もんか……! ライブツインチャンネルの効果を……あ、これ対象を取る効果だ……ライゴウの効果……も対象を取る効果……」

 

「俺はこれでターンエンド」

 

 全員裏側守備表示で展開しているので出したターンには基本的には殴れない。

 殴らなくても効果でライフをガンガン削れるが、戦闘でモンスターを除去できないのはちょっと困る。

 

「僕のターン、ドロー……! これなら……!」

 

「メインフェイズに入る前に罠カードを発動、『魔砲戦機ダルマ・カルマ』。フィールドのモンスターを全て裏側守備表示にします」

 

 フィールドの中央に武装した巨大なだるまが出現する。

 アスタピクシアは裏返ったカードの下へと隠れるが、プラズムのリンクモンスターたちはそのままフィールドに立ってだるまを見上げている。

 

「おやおやぁ? もしかして、リンクモンスターは表示形式を変更できないことを知らな──」

 

 その言葉を言い終わる前にだるまが回転を始め、全方位を光線で薙ぎ払う。

 裏側で伏せられているカードにはその光線は当たらないが、フィールドに立っていたリンクモンスターたちは纏めて薙ぎ払われた。

 

「そして裏側にならなかったモンスターが存在する場合、それを墓地に送らなくてはなりません」

 

「なんじゃそりゃーーー!!?」

 

 自分のモンスターを壊滅させられたプラズムが叫ぶ。

 

 見た目は物騒だが、だるまさんがころんだをモチーフにしたカードである。

 裏側にならなかったカードは鬼が振り向いても止まらなかったと看做され、脱落となるのだ。

 

「ぐっ、予定変更! ここで僕のスキル、『推参、サニー団!』を発動する! 自分の手札・フィールド・墓地から『イビルツイン』モンスター2体をデッキ・エクストラデッキに戻すことで、エクストラデッキに『Evil★Twin’s (イビルツインズ) トラブル・サニー』を1枚追加する!」

 

 プラズムは墓地のイビルツインリィラと手札のカード1枚をデッキに戻した。

 どうやら『Evil★Twins (イビルツインズ) キスキル・リィラ』を引いていたようだ。ダルマ・カルマでリンクモンスターを除去していなかったら俺は自分フィールドのカードを五枚も墓地に送ることになっていたな。

 

「そしてこの効果で手札からデッキに戻した場合、その枚数分までデッキから『ライブツイン』カードを手札に加えることができる! ライブツインキスキルを手札に!」

 

 初動を確保したか。墓地に送ったイビルツインもエクストラデッキに戻されたし、再展開されそうだな。

 デュエル中にデッキ外からカードを追加するスキルが存在するという噂は聞いていたが、それでトラブル・サニーを追加するとは。なかなか面白いスキルだ。

 

「キスキルを召喚して効果発動、このカードが召喚・特殊召喚した場合に自分フィールドに他のモンスターが存在しなければ、手札・デッキから『リィラ』モンスター1体を特殊召喚できる! 『Live☆Twin(ライブツイン) リィラ・トリート』を特殊召喚!」

 

 キスキルに続いてハロウィンをイメージしたコスチュームのリィラが現れる。アバターを変更しただけだと思うのだが、種族がアンデットになっている。

 因みにキスキル・フロストは水族だし、今回出てきていない『リィラ・スウィート』は魔法使い族だ。

 

「ここで俺のスキル、『新たなる悪徳と糾罪』のもう一つの効果を発動します。この効果は相手がスキルを発動したデュエル中に1度だけ、相手ターンにのみ発動可能です。自分フィールドの裏側守備表示モンスターを全て表側守備表示にし、自分はこの効果で表側表示になった『糾罪巧』モンスターの数×900ライフポイント回復します。そしてこのターン中、『糾罪巧』モンスターは戦闘では破壊されません」

 

【遠藤サイクロン:LP1800→4500】

 

 上空に出現した三つの八面体がそれぞれ展開を始める。

 三つとも姿を変えながら重力に引かれるように落下し、それぞれが別々のビルの上に着地。そのあまりの質量にビルがひび割れる。

 

 狐型の『Astaγ.PIXIEA(アスタピクシア)』。

 

 蠍型の『Archaη.TAIL(アークテイル)』。

 

 蜘蛛型の『Atilε.SPIA(アティルスパイア)』。

 

 やはりデカいモンスターは迫力があって良いものだ。

 でもこれ以上その巨体で派手に暴れるのは止めてほしい……

 

「相手のスキルに反応するスキル……!?」

 

「この効果を発動するターン、自分は『糾罪巧』モンスター以外のフィールドのモンスターの効果を発動できません。そしてモンスターがリバースしたので糾罪カウンターを1つずつ置きます」

 

 このスキルでリバースさせるとこいつらの②のモンスター効果が使えないのだが、③の永続効果は適用される。

 今回はアークテイルの永続効果に用がある。

 

「一度に複数体リバースしてもカウンターは一つしか乗らないのか。それはそうとあのフィールド魔法をなんとかしないと……開け僕のサーキット!」

 

 プラズムがキスキルとリィラ・トリートをリンク素材にリンク召喚を行う。

 

「リンク召喚! 再び現れろリンク2、イビルツインリィラ──がはッ!?」

 

 リィラがフィールドに現れたのと同時に鋭い閃光がプラズムを穿つ。

 

「アークテイルの永続効果。リバースしたこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、モンスターが相手の墓地に送られる度に相手は900ダメージを受けます」

 

「は……?」

 

【PLASM:LP2600→1700】

 

 これが意味することは何か? プラズムはあと二回自分のモンスターを墓地に送るとデュエルに敗北するということだ。

 ここから連続でリンク召喚を行えばプラズムのライフは一瞬で尽きる。何もしなくてもエンドフェイズになれば焼き払われる。

 

 予め考えていた展開ルートの先が断崖絶壁になっていることに気がついて、硬直したまま動かなくなったプラズムにデュエルディスクがタイムアウトが近づいていることを知らせる。

 

「……そうだ、まだ終わっちゃいない……キスキルの効果でドローすれば、きっと逆転できる……! リィラ!」

 

 リィラによって光の中から引き上げられたキスキル。

 キスキルのその手にはリボンで飾り立てられた白く光る一枚のカードが握られており、それをプラズムへと投げ渡した。

 

「来てくれ、逆転のカード……ッ!!」

 

 プラズムがキャッチしたカードのリボンが解け、光が霧散する。

 彼女が引き当てたカードは──

 

 

 

 

 

「──『エネミーコントローラー』……」

 

「アスタピクシアの永続効果で対象に取れないので発動できませんね」

 

「チクショーーーーーッ!!!」

 

 プラズムは空へ向けて大声で叫ぶ。

 リィラはずっこけ、キスキルは少し気まずそうに目を逸らしている。こっちの姿でもコミカルなリアクションをするんだな。

 

 この世界のデュエリストはここぞという時には引きがかなり強くなるので、今ので大逆転も普通にありえた。心臓に悪い……

 

 プラズムは自分の墓地やエクストラデッキを必死になって確認しているが、この状況を打破できるカードを見つけられずに時間が過ぎてゆく。

 あの伏せカードも対象を取る効果か、あるいは攻撃反応罠のようなこちらに刺さらないものなのだろう。

 

「あっあっあっ、時間が……ホアーッ!!?」

 

 無情にもデュエルディスクがタイムアウトを知らせる。

 強制的にフェイズが移行し、エンドフェイズにこちらに優先権が移る。

 

「エンドフェイズにエニアポリスの効果発動。自分フィールドの糾罪カウンターを全て取り除き、相手はその数×900のダメージを受けます」

 

 最後だからおまけと言わんばかりにアラゾニアとトロマリアが展開を開始する。

 大きな音と共に変形する二体をプラズムは茫然としながら見上げている。

 

 アラゾニアは獅子型の『Aizaβ.LEON(アイザレオン)』へ、トロマリアは鯨型の『Atoriϝ.MAR(アトリマール)』へ変形し、遥か高所からプラズムを見下ろす。

 

「あ、ああ……あ……」

 

 五体のエニアクラフトモンスターたちがそれぞれエネルギーをチャージする。

 時間と共にノイズがより激しくなり、あらゆる表示がバグり始める。物理演算がバグっているのか演出なのかもうわからないが、崩れたビルの瓦礫が宙に浮かび上がってゆく。

 

「……チャ……」

 

「ちゃ?」

 

 そして全員のチャージが完了し、一瞬の間を置いて眩い色とりどりの閃光が一気に解き放たれた──

 

「チャンネル登録よろしくお願いしまア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛……」

 

【PLASM:LP1700→0】

 

 光の奔流に呑み込まれ、プラズムの姿が見えなくなる。

 足元のビルの一部ごと遠くへ吹っ飛ばされたようで、遠ざかっていく彼女の悲鳴が微かに聞こえた。

 

「えー、対戦ありがとうございました……おっと」

 

 遠くからヒラヒラと飛んできた一枚のカードをキャッチする。

 今回のデュエルで賭けられていたスプライト・エルフだ。

 

「使うかはちょっとわからんが、貰っておこう」

 

 仮想空間内のアンティルールでオーバードの所有権を奪ったらどうなるのか確かめたかったのだが、彼女はどこまで吹っ飛んでいったのだろうか。どこにも姿が見当たらない。

 オーバードから解放できたとしても、リベンジを挑まれて負けたりして向こうに所有権が戻った場合、またオーバードに呑まれてしまう可能性が高い。一度話し合う必要があるのだが……

 

 デュエルが終了し、フィールドのカードが消滅してゆく。

 これで全て元通りに……なっていないな、うん。あちこちバグりっぱなしだし、壊れたオブジェクトもそのままだ。

 

 エニアクラフトのモンスターどもも消滅していないんだが、これどうすればいいんだ?

 

「ログアウト……いや、これか?」

 

 『糾罪巧(エニアクラフト)再巧(リセット)』をカードプレートに置いてみると、カードが眩く光り出す。

 

 デジタルを思わせる幾何学的な形の光が壊れたオブジェクトや穴の空いた空間を包み込み、元通りにしてゆく。

 散乱した瓦礫も浮かび上がり、次々と元の場所へと戻ってひび一つなく修復される。

 

 エニアクラフトのモンスターどもは上空へと浮かび上がり、ゆっくりと折り畳まれる。

 全員八面体に変形し終わると、そのまま光と共に姿を消した。

 

 ノイズが除去され、太陽が顔を出し、空は元の青さを取り戻す。

 たった一枚のカードによって、まるで何事もなかったかのように未来都市は復活を果たした。

 

 あーよかった……精神的にめちゃくちゃ疲れたし、今日はもうログアウトしてしまおう。

 

 

 

 

 

 

 ログアウトしてリアルで目を覚ましたら、なぜか机の上にスプライト・エルフが置いてあってめちゃくちゃ怖かった。どこからどうやって入ってきたんだよお前……

 

 オーバードはどいつもこいつも当たり前のようにカード単体で飛ぶ。プラズムの所から自力で飛んできたのだろうか? これ下手したら住所特定されない?

 

「えー、プラズム……こいつか?」

 

 SNSや動画投稿サイトで検索してみると、かなり有名な人だったようですぐに本人のアカウントが見つかった。

 マスクで口元を覆っているが、顔を出して配信しているようだ。デュエルリンク・バースでのプラズムのアバターとほとんど同じ顔の女性がサムネイルの投稿が並んでいる。

 

 まだ配信中だったので覗いてみたが、どうやら最後にぶっ飛ばされた時の衝撃で気絶したのか、システムによって強制ログアウトさせられたようだ。

 暫く真っ黒な画面が続いた後、現実のカメラの映像に切り替わる。

 

『えー、いきなりなんですが、まず謝罪させてください……』

 

 配信中に突然謝罪を始めるプラズム。

 どうやらオーバードに呑まれている間に配信で過激な言動を繰り返していたらしく、オーバードから解放されて正気に戻ったことで多方面に迷惑をかけてしまっていたことに気づいたようだ。

 

 数千、数万人が見ている配信で、謎のオカルトパワーのせいで本人の本来の意思に反して炎上しかねない言動をしてしまったと考えるとかなりかわいそうな境遇なのだが、残念ながら一般の視聴者には強いカードを手に入れて調子に乗っていたようにしか見えない。

 コメント欄が大荒れしているが、これは時間が解決してくれるのを待つしかないだろう。

 

「一体誰がオーバードなんて危険物をパックに入れて流しているんだか……」

 

 

 

 

 

 

 夜遅く、高級スーツに身を包んだ男が一人、彼以外に誰もいないオフィスでパソコンのディスプレイを見つめていた。

 そこに映っている映像はデュエルリンク・バースの未来都市サーバーにて発生した一連の不具合の一部始終を録画したものだ。

 

 とあるプレイヤー同士がデュエルを始めたのとほぼ同時に数々の致命的な不具合が発生し、そしてデュエルが終了してすぐにそれらの不具合が全て修復されたという部下からの信じ難い報告を受けた彼は自分の目で真実を確かめることにした。

 

 そして彼は驚愕する。ほとんど初期アバターのプレイヤーが使用しているそのカードは、かつて彼が自分のために作った世界に一枚だけのカードなのだから。

 

「エニアクラフト……まさか奴の手に渡っているとは……」

 

 絶対的な力を求めて会社の設備を密かに利用して生み出したそのカードは、作られた瞬間から既に並外れた精霊の力を宿していた。

 手にしただけで彼の手に火傷を引き起こし、とても扱えるものではないと判断した彼はそれをアジトの金庫に封印。

 しかしある時彼の手下の一人によってそのカードは盗み出され、行方不明となっていた。

 

 会社のサーバーから秘密裏に情報を抜き取り、遠藤サイクロンなるプレイヤーの個人情報を得た彼は、彼が設立した秘密組織の活動を頻繁に妨害しているデュエリストの中の一人と遠藤サイクロンが同一人物であることを特定した。

 

「奴は推定『決闘霊眼(デュエル・クレアボヤンス)』の持ち主。恐らくその力でエニアクラフトを解析し、制御しているのだろう……本格的な対策が必要だな。闇雲に構成員を送り込んだところで奴にオーバードを奪われるだけだ」

 

 彼は遊戯王カードやその関連アイテムを製造・流通させている日本有数の大企業、『ラー・コーポレーション』の副社長であるのと同時に、遊戯王カードの兵器利用を企み暗躍する秘密結社、『ウジャト』のボスでもあった。

 

 副社長としての立場を悪用し、強大な精霊の力が宿るオーバードを作り出して全国各地に広めて、デュエリストにオーバードを使わせることでカードに宿る精霊の力をより強く育てさせる。

 精霊の力が兵器利用可能なレベルにまで増幅したことを確認出来たら、ウジャトの構成員がそれを刈り取りに向かう。日本全国を巻き込んだその作戦は概ね順調に進んでいた。

 しかし一部地域で構成員を撃退し、ウジャトが刈り取るよりも早くオーバードを回収して回っているデュエリストの存在が確認されていた。

 

 放置していれば作戦の障害となるが、下手に手を出したら逆にオーバードを奪われかねない。

 ウジャトにとって非常に厄介な存在だが、そのデュエリストたちが所有するオーバードをまとめて奪うことができれば計画は大きく進展すると推定されており、対策が進められていた。

 

 しかし遠藤サイクロンの中身である男は度々異なるデッキを用いるため専用の対策が機能しづらく、さらにウジャトの構成員しか知り得ない筈のものも含めてあらゆるカードの知識を所有しており、初見殺しが通用しない。

 そのため精霊界を観測できる決闘霊眼の持ち主であると推定されており、元々ウジャトがかなり警戒しているデュエリストの一人だった。

 

 そして今回の件でエニアクラフトの所有が発覚。しかも枚数が大幅に増えており、その力は製造当時よりも更に高まっている。

 ウジャトにとって最大の障害となることは明白。確実に対処するために全国各地から高い実力を持つ構成員と強力なオーバードを選出し、その男が住む地域へと集結させるべく彼は動き出していた。

 

「奴は幾度となく我々の崇高なる計画の邪魔をした。それ相応の罰を与えなければならない……捕縛してその眼を利用させてもらうとしようか」

 

 

 

 

 

 

「へっくし! あー、目が痒い……花粉症かな……」

 

 暫くはデュエルリンク・バースに籠ろうかな。こういう時でも快適にデュエルできるのはやはり素晴らしい。

 

 折角エルフを手に入れたわけだし、【メルフィー】で遊んでみようかな。

 純メルフィーだとエルフの出番はあまり多くはなさそうだが、こっちの世界だとエクストラデッキに入れるカードが希少で基本的に枠が空いているからな。

 

 ああそれと、プラズムに会えたらオーバードについて話しておかないと。

 名前とアバターの顔も変えないと。次はどんな名前にしようかな……




因みにプラズムのフィールドにセットしてあったカードは『弩弓部隊』。キスキルを発射してリィラで蘇生して1ドローする予定でした。
本当は『L(リル)マジマージ』を活躍させたかったのですが、書いている途中でメインモンスターゾーンに空きがないことに気が付いて書き直すことになりました。

スキルを考えるにあたって久々にデュエルリンクスについて調べてみたのですが、今のデュエルリンクスってとんでもないインフレしているんですね……攻撃力1700の通常モンスターがURだった最初期の環境しか知らなかったので驚きました。


以下、今後一切活用されることのない裏設定です。


『デュエルリンク・バース』
ラー・コーポレーション開発の遊戯王に特化したソーシャルVRプラットフォーム。
フルダイブVRならではのデュエルも楽しめる。

新種族のサイバース族モンスターと出会えるサプライズイベントが大きな話題となっているが、その真相はラー・コーポレーションがデュエルAIの開発のために集めていたプレイヤーやカードなどのデュエルデータを通じて精霊の力がデュエルリンク・バースに流れ込んでしまい、サーバー内で新たなカードが次々と誕生。
その研究を進めているうちに退屈していたカードたちが勝手にプレイヤーの前へと飛び出してしまい、それをサプライズということにして誤魔化したのが始まり。


決闘霊眼(デュエル・クレアボヤンス)
この世界の人間が稀に所持している特別な眼。
簡単に言えば見えないものが見える眼。霊的なものを見たり、感情を読んだりすることができる。
人によって見えやすいものが異なる。

オーバードの開発にも関わっており、この眼の持ち主の中でも特に優れた素質を持つ者を装置に繋いでむりやりその力を引き出して精霊界を観測させて、発見した強大な力を持つ精霊の能力や特徴をまとめ、それらを遊戯王的な解釈をしてテキストに記してカードにすればオーバードが完成する。


PLASM(プラズム)
有名配信者にして優れたデュエルの腕前の持ち主でもあるカリスマデュエリスト。
よく調子に乗って痛い目を見るが、デュエルリンク・バースにのめり込んで日々かなりの回数デュエルを繰り返していることもあって実力は本物。

プロデュエリストに憧れがあり、度々プロともコラボ配信を行っている。
リアウィングとのコラボ配信は同時接続数五十万人を達成したらしい。

全国編にてデータの世界のオーバードの噂を聞きつけてデュエルリンク・バースにログインした遊灯たちと遭遇。
スプライト・エルフを見て『師匠が使っていたカード』と発言した遊灯に目を付け、デュエルを通して遊灯の師匠が最近デュエルリンク・バースにログインしていない名前がコロコロ変わるフレンドと同一人物であることを知る。
かつて助けられた恩を返すため、そしてまだ果たせていないリベンジを果たすために遊灯に協力する。

使用デッキは【スプライト】+【イビルツイン】。
エルフが番組放送中にカード化して番組放送中に禁止にぶち込まれたことで伝説となった。


『ラー・コーポレーションの副社長』
スーツ姿でいつも白手袋をつけている男。
度々出てきては意味深なことを言っているので視聴者からずっとこいつが黒幕だろと言われ続けていた。
そして実際に黒幕であり、ウジャトのボスでもある。

やたらと遊灯の師匠を警戒していたが、なぜそこまで警戒していたのかはアニメでは深く語られなかった。
劇場版の公開記念に遊戯王のソシャゲにて公開されたストーリーでようやく理由が明かされた。


『遠藤サイクロン』
アバターの顔と名前をコロコロ変えている謎多きカリスマデュエリスト。
他にも確認できている範囲で『ゴーズケア太郎』、『沼地のHERO』という名前を使用している。

度々襲撃してくる不審者にその眼がどうのこうの言われているが、本人はそれが何のことだかさっぱりわかっていない。


糾罪巧(エニアクラフト)
元々ウジャトのボスが自分で使用するために作り出したカード。しかし全く制御できず、最終的にこいつに上書き洗脳されたウジャトの構成員が盗み出したことで行方不明になってしまった。
下手すればこいつらがラスボスになっていた。

人類糾罪に向けて動き出してすぐのタイミングで遊灯の師匠と遭遇し、人類糾罪計画は早々に破綻。
今は彼のカードとして金庫に保管されている。

力に溺れず度々デュエルで使ってくれる彼のことを結構気に入っており、全国編で彼が行方不明になっている間は大人しく留守番していた。
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