クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 アムネシアの少女 作:気まぐれキャンサー
「3度の出撃でこれほどの撃墜数とは。上々だな」
夜更けのアルゼナル。ジルの私室にジル、サリア、メイ、マギー、ジャスミン、バルカンの5人と1匹が集まっていた。第一中隊の戦闘報告書を読んだジルは御機嫌だった。
「今まで誰も動かせなかった機体をこうも簡単に動かしてしまうとはね」
「たぶん、ヴィルキスがアンジュを認めたんだと思う」
「じゃあ、あの子が・・・」
「フッ、なら始めるとしようか。【リベルタス】を」
リベルタス。自由の名が付くそれはジル達、一部のノーマ達しか知らない世界と社会に対する反攻作戦だ。ヴィルキスはその作戦の要となる。殆どの者が頷く中、サリアは若干不満そうだ。
「不満か、サリア?」
「・・・すぐに死ぬわ、アンジュ。フィオナも命令は聞くけど時折、無茶な行動に出る事があるし」
「仲間を危険に晒した者と救った者。中々、面白い組み合わせよね」
サリアは今日の戦闘を思い出す。
アンジュはヴィルキスを操り、次々とスクーナー級を落としていくが、彼女に恨みを持つロザリー、クリスの砲撃が何度か当たりそうになる。アンジュはそれを見事に回避するのだった。
一方、フィオナの方は2匹のスクーナー級に追いかけられていた。一見すれば、窮地に陥っている様に見えるがそうではなかった。目的のポイントに近づくと、
「ココ、ミランダ、今だよ!」
『はいっ!!』
2人に通信を入れたフィオナはアルテミスのスピードを上げて、スクーナー級を振り切る。スクーナー級は追いかけようとするが突然、ココとミランダが乗る2機のグレイブがアサルトライフルを構えて、立ちはだかった。と、同時にライフルを発砲。スクーナー級を撃ち落すのだった。
「お見事!上手く落とせたね」
「うん、お姉ちゃん。私、出来たよ!」
「フィオナ、ナイスパス!」
3人はそれぞれ健闘を讃えるのだった。フィオナはこうして2人にパラメイルの操縦法やドラゴンの撃墜をサポートしている。2人を強くする為でもあるが、隊長になったばかりのサリアの負担を少しでも減らそうという思いもある。
勿論、自分がドラゴンを狩るのも忘れない。フィオナは前線に戻ると、スクーナー級を次々と撃ち落していく。すると、
ドォーン!!
爆発音がしたほうを向くとヒルダがガレオン級の1匹に攻撃を加えていた。そして、トドメを刺そうと凍結バレットを装填した、その時だった。
ガァン!!
「うわああぁぁ!!」
アンジュのヴィルキスがヒルダの機体を突き飛ばすと凍結バレットを素早く装填。ガレオン級に撃ち込むのだった。ガレオン級は海に墜落し、氷原へと変わるのだった。
「はあ、はあ、はあ・・・」
アンジュは息を切らしながらソレを見届けるのだった。
(アンジュ、やっぱりチームワークを考えてないなぁ・・・)
フィオナは呆れつつ、残った最後のガレオン級の方へと向かう。攻撃をかわしつつ、凍結バレットを装填するとガレオン級に撃ち込み、これを倒すのだった。
「・・・私ならもっと上手くやれる。ヴィルキスを使いこなす事ができる。なのにどうして?」
「適材適所、だ。アンジュにはヴィルキスを動かす役割がある様にサリア、お前にはお前の役割がある。そういう事だ」
訴えるサリアをジルが宥める。
「でも、もしヴィルキスに何かあったりしたら!」
「その時はメイが直す。命に代えてでも。それが姉さんから受け継いだ私達、“甲冑師の一族”の使命だから!!」
メイが誇り高く答える。これには、サリアも何も言えなくなってしまった。
「お前にもリベルタスでは頑張ってもらう。だから、その時が来るまで力を身に付けておけ。いいな?」
「は、はい・・・」
「いい子だ。さあ、これから忙しくなるぞ。くれぐれもエマ監察官には悟られない様にな」
それからサリア、メイ、マギーの3人は廊下を確認する様にして部屋から出て行った。後に残ったのはジル、ジャスミン、バルカンだけだった。
「さて、ヴィルキスが蘇った事だし、後はアンジュとフィオナを懐柔しないとな」
「アンジュは兎も角、フィオナもリベルタスに引き込むのかい?」
「無論だ。奴の実力もアルテミスの性能も優れている。是非とも腕を奮ってもらわんとな。あの坊やには感謝しないとね。良い駒を見つけてくれたからな」
「駒、か。サリアの事といい、ひどい女だねえ、本当に」
「利用できるものなら何だって利用してやるさ。想いも命も全て。地獄にはとっくに落ちているからな」
咎めるジャスミンをジルは吸っていた煙草を義手で握り潰しながら答えるのだった。
その頃、フィオナは自分の部屋のベッドでうなされていた。
「はあ、はあ、はあ・・・いやあ!」
フィオナはベッドから飛び起きる。顔や身体には汗がびっしょりと流れていた。フィオナは悪夢を見ていた。自分が倒したドラゴン達が人間の姿へと変わって、襲い掛かる夢を。
(決意したのに・・・こんな夢を見続けたらまた、揺らぎそうだよ)
フィオナは目を片手で覆いながら首を振る。この悪夢を2.3日に1度は必ずといって良いほど見ていた。その都度、彼女は苦しんでいた。
(戦うしかないんだ。今はまだドラゴンは敵なんだから・・・)
フィオナは改めて決意すると再び眠りに付くのだった。
今日は週に1度の報酬支払日。アルゼナルの窓口には第一中隊の面々が報酬を受け取ろうと集まっている。
「撃破、スクーナー級3。ガレオン級へのアンカー撃ち込み。弾薬消費、燃料消費、装甲消費を差し引きまして、ロザリーさんは今週分、18万キャッシュとなります」
係りの女性がロザリーに報酬を支払う。その少なさにロザリーは不満そうだ。
「ちっ!こんだけかよ・・・」
「十分だって。私なんて1桁だもん・・・」
クリスの報酬はロザリーよりも更に少なかった。機体の性能やライダーの腕にも因るが砲兵は基本的には後方支援が主流である為、危険が少ない分、報酬も突撃兵と比べると少ない。加えて2人の実力はそれほど高くない為、尚更だった。
「ヒルダはどんだけ稼いだんだ?」
ロザリーが訊ねるとヒルダは2人に札束を見せ付ける。やはり第一中隊のエース級ライダーであるだけにその額は2人の報酬を大きく凌駕していた。
『おお~!!』
札束を見た2人は感嘆の声を漏らす。すると、
「アンジュさん、今週分は550万キャッシュとなります」
アンジュの前に札束が沢山差し出される。それを見たヒルダ達は顔を顰める。
「アンジュ、やる~」
「大活躍だったものね、アンジュちゃん」
ヴィヴィアンとエルシャはアンジュを褒めていた。ヴィヴィアンはともかく、エルシャの報酬はロザリー達と変わらないのだが、やっかんだりしないのは彼女の人柄故だろう。だが、アンジュは歯牙にも掛けず、必要な分だけ受け取ると残りは預金するのだった。次はフィオナの番だ。
「フィオナさん、今週分は500万キャッシュとなります」
アンジュよりはやや少ないものの、それでも他の者達よりも大分稼いでいた。
「ちっ、アイツもか!」
それを見たヒルダは忌々しそうに舌打ちをする。
「おお~!フィオナもグゥレイトォ!」
「流石ね、フィオナちゃん」
「お姉ちゃん、すごーい!」
「やったじゃん、フィオナ」
ヴィヴィアン、エルシャ、ココ、ミランダはフィオナを褒めていたが、フィオナの表情は少し曇っていた。
「どうしたのよ、フィオナ。大金が入ったってのに、浮かなそうな表情をして」
「え?あ、いや・・・」
アンジュに訊ねられて、フィオナは慌てて返事をする。
「もしかして、私より少なかったのが悔しいとか?だったら、他の奴に譲ったりしないで自分でドラゴンを全部落とせばいいじゃない」
「そんなんじゃないよ。ていうか、アンジュも命令を無視したり、他の人が狙っているドラゴンを横取りするのは止めた方がいいよ。独り占めしちゃったら、他の人の報酬が少なくなるしさ」
「私は貴方みたいに器用じゃないのよ」
それだけ言うとアンジュはさっさと行ってしまうのだった。フィオナは呆れるとアンジュ同様、必要な分だけを受け取って、残りは預金したのだった。その様子をヒルダ達は苦虫を噛み潰す様な表情で見ていた。
ロッカールームへとやってきたアンジュとフィオナは制服に着替える為に自分のロッカーを開けるのだが中の有様を見た途端、
「あっ!」
「・・・はぁ」
驚きの声とため息の2つがロッカールームに響く。無理はなかった。彼女達のロッカーには落書きがされており、中に掛けられていた制服は見るも無残に切り裂かれ、ボロボロになっていた。
「わ~、こりゃひどい」
ヴィヴィアンも驚きを隠せなかった。同じくロッカーの中を見たサリアは、
「また貴方達ね。施設の備品に悪戯をするのは規則違反よ!」
とロザリー達を咎めるが彼女達は知らん振りしていた。
「あたし達がやったって、証拠はあるのかな~?」
まるで開き直った様な物言いにココとミランダは文句を言おうとするが、
「ココ、ミランダ、いいよ。気にしないで」
フィオナに止められてしまう。
「どうしてよ!?こんなにひどい事されたのに!」
「そうですよ!ガツンと言った方がいいです!」
ミランダとココは抗議するがフィオナは首を振る。
「こういうのは下手に反応するとますます面白がるだけだよ。相手にしないのが1番なの」
フィオナは2人にそう言い聞かすのだった。すると、
バッ、ガサッ!
アンジュが乱暴に制服を取り出すと切り裂かれているにも関わらず、それを身に付ける。そしてナイフを手にするとロザリーに向かって切りつける。だが、ロザリーの肌には傷はついていなかった。代わりに彼女が着ていたライダースーツのバストとショーツの部分が静かに切れてずり落ちる。
「きゃーーー!!」
ロザリーは両方を手で押さえて悲鳴を上げる。すると、アンジュはナイフをロザリーの喉元に突きつけ、そして告げる。
「私とフィオナに下らない事するんじゃないわよ、このクソムシが!」
そう吐き捨てるとロッカールームを出て行くのだった。あまりの迫力にロザリーは腰を抜かすのだった。
「アンジュさん、着てっちゃいましたね、あの制服・・・」
「ねえ、フィオナ。まさか、アンタまでそれを着るつもりじゃあ・・・」
「流石に私にはそこまでの度胸はないよ」
フィオナは呆れながら答える。だが制服はこれしかなく、ここまでボロボロでは修繕してもどうにもならない。仕方ないとばかりにフィオナはキャッシュを取り出し、
「ミランダ、ちょっとジャスミン・モールまで行って新しい制服を買ってきてくれないかな」
「うん、わかった」
ミランダに渡すと、彼女は了承して制服を買いに出て行った。それからフィオナは別のロッカーから掃除用具を取り出す。
「お姉ちゃん、何してるの?」
「ロッカーに書かれている落書きを落とすんだよ。このままにはしておけないからね」
「そうなんだ。じゃあ、私も手伝う!」
「ありがとう、ココ。私は自分のロッカーをやるから、ココはアンジュのロッカーをお願い」
こうして、2人はロッカーの掃除に取り掛かるのだった。
『エマ、元気にやっているか?ノーマ共に何かひどい事されてはいないだろうな?』
「大丈夫だってば。心配性なのよパパは」
アルゼナルの食堂でエマは父親と通信をしていた。彼女の父親は威厳はあるのだが、少々子煩悩な所があり、月に1度はこうして連絡を入れてくるのだ。
『そうは言ってもな。やはり、私は心配でならんよ。お前がノーマ管理委員会に就職したはいいが、まさかアルゼナルの監察官に任命されるとは思ってもみなかったからな』
「安心して。仕事も覚えたし、ノーマも最初は怖かったけど今はもう大分慣れたわ。私が目を光らせている限り、ノーマ達の好きな様にはさせないわ」
『それならいいが。もし辛かったらすぐにでも帰ってきなさい。お前もいい歳なんだし、そろそろ結婚を考えてもいいんじゃないのか?相手なら私が良い人を見つけてやるから』
「もう!何を言ってるのよ、パパ。私は結婚なんて今の所は考えてません!」
父親の言葉にエマは少々、憤慨する。すると父親の顔が急に真剣そうな表情になる。
『まあ結婚はともかく、監察官である以上はくれぐれもノーマ共には気を許すんじゃないぞ。間違っても“あの男”の様には絶対になるな!』
それを聞いたエマは表情を曇らせる。
「・・・大丈夫よ。あの人みたいには絶対にならない!」
『それでいい。何しろあの男は監察官の身でありながら、ノーマ共に肩入れしたのだからな。その所為でノーマ管理委員会の権威は大きく失墜した。我々、人間にとっても最低の面汚しだ。くれぐれも奴の二の舞にだけはなるんじゃないぞ!」
「勿論よ。私は彼とは違うのだから」
それだけ言うとエマは通信を切った。通信を終えた彼女の顔は何処か物憂げだった。
(パパ、やっぱり彼の事を怒っているんだ。当然よね、ノーマに味方した挙句、“あんな事件”を起こしたんだもの。やっぱりわかりません。貴方はどうしてあんな事をしたんですか?先輩・・・)
エマは気分を紛らわそうと紅茶を口にする。が、ボロボロの制服を着たアンジュが歩いているを見て、飲んでいた紅茶を吹き出すのだった。