クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 アムネシアの少女 作:気まぐれキャンサー
ではどうぞ。
翌日、ジャスミン・モールにヴィヴィアンが買い物に来ていた。
「おお~、新しいのが入荷してるじゃん!」
新商品コーナーに展示されているパラメイル武装を見て、嬉しそうに声を上げる。
「ねえ、おばちゃ~ん!これ欲しいんだけど、いくらなの?」
「誰がおばちゃんだ!お姉さんって呼べって言ってるだろ!超硬クロム製ブーメランブレードか。1800万キャッシュだよ」
あまりの高額さにジャスミン・モールにいたノーマ達がざわめく。
「喜んで~」
しかしヴィヴィアンは戸惑う所か笑顔で返事をすると背負っていたサックをジャスミンに差し出す。中にはキャッシュがぎっしり詰まっていた。
「毎度あり」
ジャスミンはそれを全て受け取るのだった。すると、
「あの武装の値段の高さにも驚いたけど、それを一括で購入するヴィヴィアンもすごいね」
「あ、フィオナ。やっほ~」
フィオナが買い物カゴを持ってやってきた。
「フィオナも買い物に来てたんだ。ねえねえ、何を買ったの?」
ヴィヴィアンが買い物カゴを見てみるとそこにはティーセットと茶葉の缶、クッキーの箱が入っていた。
「おや、ティータイムでもするのかい?」
「はい。エルシャから美味しい紅茶の入れ方を教わったので実践してみようかと」
フィオナはそう言うとジャスミンにキャッシュを支払う。と、
「グルルルル!」
バルカンが唸り声を上げる。3人が顔を向けるとボロボロの制服を着たアンジュがやってきた。
「わおっ、セクシー」
「随分と涼しそうだねぇ」
「あはは・・・」
ヴィヴィアンとジャスミンは茶化し、フィオナは苦笑する。しかしアンジュは気にする事無く、
「制服ください」
そう言うとキャッシュをジャスミンに投げ渡すとジャスミンは制服をアンジュに渡す。アンジュは更衣室で着替える。
「いったい、何をすりゃああなるんだろうね?」
「降りかかる火の粉を払ったから、かと。ははは」
ジャスミンとフィオナが話をしているとアンジュが着替えを終えて更衣室から出てきた。
「ねえねえ、アンジュとフィオナもさ。何か武器を買ったら?」
「2人とも、稼いでるんだろ?あれなんてどうだい、おすすめだよ」
ジャスミンが指をさした方向にはパラメイルの武装が展示されていたがそれを見たフィオナは目を丸くする。
「あの。あれってパラメイルの操縦桿、ですか?なんか妙に長い様な・・・」
そこには普通のパラメイルのよりもかなり長い操縦桿があった。それだけでなく、斧付きの鉄球にドリルの様な武器、果てにはビカビカと光るパーツまであった。
「あれはね、伝説の【ドラゴン千体殺し(サウザンド・ドラゴンキラー)のJ 】が使っていた由緒正しい武装さね。どうだい、なかなか格好良いだろう?」
「わぁ~、なんかちょーかっこいい!」
ヴィヴィアンは目を輝かせていた。フィオナはあれを全て装備したアルテミスの姿を思い浮かべてみる。そこには余りにも奇天烈な姿をしたアルテミスがあり、フィオナは首を振る。
「ちなみに聞きますけど、あれっていくらするんですか?」
「全部で5000万キャッシュだよ」
「高っ!買えませんよ、とても!!」
「一括で払えないなら分割払いも受け付けるよ。金利は取るがね。何ならバラ売りしてもいいよ」
「いえ、本当に結構です。今の装備で十分ですから」
勧めてくるジャスミンをフィオナはやんわりと断る。一方、アンジュはというと、
「くだらない」
一瞥すると興味なさそうにしていた。しかし、それをジャスミンは聞き逃さなかった。
「くだらない?そう馬鹿にするもんじゃないよ。パラメイルはノーマの棺桶。自分の死に場所だからこそ自分の好みにする事が許されてるのさ。強力な武器に分厚い装甲。派手なデコレーション。ノーマに許された数少ない自由さ」
ジャスミンはそうアンジュを諭す。
(棺桶、か。間違いではないかもしれないけど何か悲しいかな。死ぬ事が初めから決まっているみたいで。私はパラメイルは“ノーマが未来(あした)へ羽ばたく為の翼”だと思いたいな)
ジャスミンの話を聞いてたフィオナは心の中でそう思うのだった。すると、
「ねえねえ、フィオナ。本当に買わないの?武器とか今のままで大丈夫なの?」
ヴィヴィアンがフィオナの腕にくっつきながら尋ねてきた。
「大丈夫、問題ないよ。初めて使う物より慣れた物を使う方がずっといいと思うし。それにアルテミスにもそれなりにお金は掛けているよ。装甲を強化したり、バーニアの噴射力を向上させたりしてね」
「へぇ~、そうなんだ。あたし、全然気がつかなかったよ。あ、なんならデコレーションなんてどうかな?あたしのオススメは・・・」
フィオナとヴィヴィアンが楽しそうに話をしていると、
ガバッ!
「きゃっ!あれ、どうしたのアンジュ?」
アンジュがヴィヴィアンを引き剥がす。
「距離が近すぎよ。あんまりフィオナに馴れ馴れしくしないで」
アンジュは機嫌悪そうに答える。フィオナとヴィヴィアンは首を傾げる。
「アンジュ、どうしたの?なんか不機嫌そうだけど・・・」
「べっ、別に不機嫌なんかじゃないわよ!ただ、あなた達を見ていたら何か胸の中がもやもやしたから・・・って、何を言わせるのよ!!」
アンジュが顔を赤くして怒鳴る。フィオナとヴィヴィアンはきょとんとしていたがジャスミンは怪しい笑みを浮かべるとアンジュに近づき、
「もし、御所望なら勝負下着とよく効く媚薬を特別価格で売ってあげるよ」
そっとアンジュに耳打ちする。するとアンジュの顔は真っ赤になる。
「い、い、いらないわよ!!じゃあ、私はこれで。さよなら!!」
アンジュは怒鳴ると逃げる様にジャスミン・モールから去っていった。
「アンジュ、どうしたんだろ?顔が赤くなったと思ったら怒鳴ったりしたりして」
「まあ、年頃の娘の悩みさね。それにしてもフィオナ、アンタもなかなか隅に置けないねえ」
「? 私、何か置きましたか?」
「はあ。アンタ、意外と鈍いんだねえ・・・」
的外れな事を言うフィオナにジャスミンはやれやれと呆れるのだった。
「ガス抜きだと思って見逃してきたけど、少しばかり目に余るわね」
教習室でサリアがロザリーとクリスを咎めていた。原因はアンジュとフィオナに対する嫌がらせだった。最初こそ見逃していたサリアだったが他の隊から苦情が来た為、2人を説教する事にしたのだ。3人以外にもアンジュ、フィオナ、ヒルダを除いた第一中隊の面々がいた。
「アンタ達は何とも思わないのかよ!?隊長、お姉様をあんな目に遭わせた奴がのうのうとしている事にさ!!」
ロザリーが吠える。ゾーラを慕っていた彼女やクリスにとってはゾーラを意識不明に陥らせたアンジュとそんな彼女を味方するフィオナの存在は許せなかった。
「ココ、ミランダ!お前達だってさ、あの痛姫の所為で散々な目に遭ったんだろ!?」
ロザリーはココとミランダに賛同を求めようとしたが2人は否定する。
「あの時の事は私にも責任はあったし、アンジュさんだけを責める事はできないよ」
「気持ちは分かるけどさ、いつまでも過去の事にこだわるのはどうかと思うよ」
「2人の言う通りよロザリーちゃん。アンジュちゃんは戦場に戻ってドラゴンを倒した。贖罪は十分に果たしたわ。それにフィオナちゃんが上手くフォローしたからこそ、隊長さんもココちゃんも助かったのよ」
エルシャにも窘められてロザリーは何も言えなくなってしまう。
「それにクリスちゃん。あなただってフィオナちゃんには命を救われた筈でしょう?」
「そ、それは・・・」
エルシャの指摘にクリスは俯く。すると、
「だから全部、水に流せっての?アンタ達みたいな優等生ならともかく、あたし等凡人には無理だねそんなの」
ヒルダが文句を言いながら教習室に入ってきた。嫌がらせには参加していなかった彼女だが、アンジュとフィオナに対する気持ちはロザリー、クリスと同じだった。
「ったく、司令も一体どういうつもりなんだか。痛姫にはポンコツ機を与えただけでお咎めなし、ルーキーには反省文だけでチャラ。そんなんで納得しろと言う方が無理じゃないの?」
ヒルダは2人に下った処分が軽いものだった事が余りにも忌々しかった。そしてヒルダの矛先はサリアに向く。
「ああ、もしかしたら司令も気に入ったのかもね。あの女達が。まっ、そう考えりゃ優遇されてるのも頷けるわよね。あの司令を篭絡するなんて大したもんだよ、本当にさ。皇女殿下と記憶喪失はあっちの方も優秀って事かしらね?サリアも気を付けるんだね。あいつ等に無理矢理部屋に連れ込まれて、ベッドで3P・・・」
「っ! 上官侮辱罪よ!!」
ヒルダの暴言に激怒したサリアがナイフを抜き、彼女に向ける。
「だったら何!?」
ヒルダも拳銃を取り出し、サリアに向ける。一触即発の雰囲気に周囲の者達は思わず息を呑む。
「これ以上、アンジュとフィオナに手を出す事は許さないわよ」
「虫ケラみたいに見下されたり、手柄を持っていかれたりしてるのにまだ庇う気なの?」
緊迫とした空気が2人の間に漂う。すると、
「2人共、そこまでだよ」
凛とした声が響く。声がした方に顔を向けるとそこにはフィオナがいた。
「とりあえず、その手に持っている物騒な物を仕舞ってくれないかな?」
「アンタ、私に命令する気?」
ヒルダがフィオナを睨みつけるが、
「じゃあ、逆に聞くけど2人はソレを使って何をするつもりなの?」
有無を言わせない程のフィオナの冷たい声が部屋に響き渡る。
「ちっ!わかったよ・・・」
迫力に気圧されて、ヒルダは拳銃をしまう。サリアもナイフをしまうが、彼女の顔には冷や汗が流れていた。
「ヒルダ、それにロザリーとクリスもさ。アンジュはともかく、私に不満があるなら嫌がらせしたり、みんなに当たったりしないで私に直接言ったらどうかな?その方が互いにすっきりすると思うよ」
フィオナはヒルダ達を咎める。ロザリーとクリスは言い返せずに俯くがヒルダは動じない。
「はっ!随分と言ってくれるじゃないか、記憶喪失の分際で!」
今度はフィオナとヒルダが睨み合い、再び一触即発の状態となる。やがて、ヒルダが口を開く。
「覚えておきなルーキー。アンタと痛姫が調子に乗ってられるのも今の内さ。精々、手痛いしっぺ返しを喰らわない様に気を付けるんだね。行くよ、ロザリー、クリス」
そう言うとヒルダは出て行き、ロザリーとクリスも彼女の後について行った。
「お、お姉ちゃん、大丈夫?」
ココが心配そうにフィオナに近寄る。フィオナはココに顔を向けるとすぐに笑顔になると彼女の頭を撫でる。
「大丈夫だよ。まあ、少しだけ緊張したかな?」
フィオナはココを安心させるとサリアの方に顔を向ける。
「ごめん、サリア。私とアンジュの所為で面倒な事になってしまったみたいで・・・」
「あなたが謝る事はないわ。隊を纏めるのが隊長である私の仕事だから」
「うん、それは分かってる。でも、自分に降り掛かる火の粉は自分で払いたいからさ。ヒルダ達の事はこっちで何とかする。みんなに迷惑は掛けない。だから、安心して」
フィオナはそう言うと部屋から出て行った。
(自分でなんとかする、ね。勝手な行動ばかりとるアンジュも問題だけど、どんな事も1人で何とかしようとするフィオナも大概よね。はあ、なんでこの隊はこんなにクセのある子ばっかりなのかしら・・・)
色んな意味で曲者揃いの第一中隊を纏めなければならないと思うと、ため息を付かずにはいられないサリアだった。
その日の夜、アンジュとフィオナは食堂で夕食を摂ろうとしていた。
「前々から思うんだけどフィオナ。此処の食事、何とかならないの?もう少し味を向上できないのかしら」
「まあ、こればっかりはどうしようもないと思うよ。何事も慣れが大事だよ。いっその事、ギリギリまで断食して極限まで空腹にしてみたらどうかな?そしたら不味い料理でも最高の御馳走に感じるんじゃないかな。空腹は最高の調味料って言うしね」
「そこまでして自分を誤魔化したくないわよ」
そんな雑談を交わしながら2人は食事を口に運ぶ。ちなみに今日のメニューはカレーだ。すると、
「あれ?ねえ、フィオナ。これ・・・」
「うん。なんか、いつものカレーより美味しい・・・」
いつもと違うカレーの味に2人は目を見開く。いつものカレーはレトルトの様な味気のない物だが今日のカレーはスパイスが効いており、とても美味しかったのだ。
「どうだ!美味いだろぉ!」
ヴィヴィアンがカレーを持って、2人と同じ席に着くと美味しそうにカレーを口に運ぶ。
「ねえ、ヴィヴィアン。なんか今日のカレー、いつもと違って美味しいんだけど?」
「今日の御飯当番はエルシャだからね。ラッキーさんだよ。エルシャのカレーはうまカレー♪、ってね」
調理場の方を見てみるとそこにはコック姿のエルシャが立っており、こちらに気付くと彼女は手を振っていた。
「へぇー、エルシャが料理上手なのは知ってたけど調理場に立つ事があるんだ」
「うん。それにエルシャは野菜畑も持っていて、そこの野菜もすっごく美味しいんだ。あー、あと、第三中隊のターニャも料理上手だよ」
フィオナとヴィヴィアンは楽しく会話していたが、アンジュは黙々とカレーを食べていた。
「あ、そうだ。2人共、ここでクイズだ。これは一体、なんでしょう?」
ヴィヴィアンは2人にある物を見せる。それはマスコットだった。舌を出したツギハギの熊の変わったマスコットだ。
「えっと、クマさんのマスコット?」
「う~ん、残念!惜しいよフィオナ。これはペロリーナって言ってね。昔、外の世界で流行ったゆるキャラっていう奴なんだけど人気が無くなって、在庫だらけだったのをジャスミンが買い取ったんだ。あたしのお気に入りだよ。んでもって、これはオソロ~♪」
ヴィヴィアンはそう言うとマスコットをフィオナに渡す。
「あたしとアンジュとフィオナがフォワードを組んだら、今よりもっとすごい連携が出来ると思うんだよね。だから、これはその証」
ヴィヴィアンはアンジュにマスコットを差し出す。
「別に私はいらな・・・」
アンジュは断ろうとした。が、
「へぇ~。ペロリーナっていうんだ。ちょっと変だけど可愛いね。ありがとう、ヴィヴィアン。アルテミスに付けるよ」
「ホント?やった~。これであたしとフィオナはお揃いだね♪」
フィオナが気に入っているのを見たアンジュは、
「まあ、くれるって言うなら貰ってあげるわよ?」
そう言いながら手を差し出す。ヴィヴィアンは嬉しそうな顔をした。
「お~、じゃあこれであたし達3人お揃いだね。って、あ!」
ポチャ
ヴィヴィアンは手を滑らしてしまい、マスコットをカレーに落としてしまう。
「あー!アンジュ、ごめーん!」
ヴィヴィアンは慌てて拾い上げると、紙ナプキンでカレーを拭き取る。幸い、染みにはならなかったが臭いは残ってしまった。
「……」
マスコットを受け取ったアンジュは何ともいえない表情をしていた。
「ねえ、アンジュ?なんなら、私のと替えてあげてもいいよ」
「いいわよ別に。臭いなんてすぐに慣れるわ。それに受け取るのを断ったらフィオナとヴィヴィアン、2人だけのお揃いになっちゃうし」
「ん?アンジュ、何か言った?」
「な、何でもないわよ!!」
そんな、騒がしくもどこか微笑ましいやり取りをエルシャは笑顔を浮かべながら見ているのだった。